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5話 魔法使いジョアンナ
しおりを挟む「……。アシェル、なんであなたも来たの?」
「姉上が心配で。あの辺りあんまり人も住んでなくて物騒だそうですし」
レイラはアシェルと二人、馬車でサルサウ村への魔法使いのもとへと向かう。もう夜も更けているので、男性であるアシェルが居てくれるほうが安心と言えば安心、とレイラは思った。
「……姉上はさ、アイザック殿のことどこを好きになったか分からないけど好きなんでしょう」
「……そうよ。いつから好きかは分からないけど、多分出会った時から……一目惚れというやつなのかしら」
アシェルが先刻の話を掘り返してくる。
レイラはアイザックのことを思い出すと泣きそうになるからやめてほしいと感じたが、それもあと少し、サルサウ村に行けば解決できる。
「……。それはすこしおかしいと思うんだ。姉上が婚約したばかりのころ、姉上はアイザック殿のことを嫌がっていた。婚約を破棄したい、と何度も俺に言っていました」
「え……?」
アシェルが奇妙なことを言いだした。
(私がアイザック様との婚約を嫌がっていた……?)
そんなこと、レイラは全く記憶にない。
「でも、ある日なぜかいきなり、アイザック殿のことを好きになったみたいで、その変わりように俺はびっくりしました。何か好きになるような切っ掛けがあったのか聞いたけど姉上は教えてくれなかった」
「……そうだったかしら……」
そんな会話をしている内に、サルサウ村に着いた。森の前で馬車を止めると、アシェルにエスコートされながら森の中に入る。しばらく歩くと、噂通りの場所に魔法使いジョアンナのものらしき家がポツンと建っていた。
扉を叩きながら「すみません」と声をかける。
しばらく経つと、ギイイと軋んだ音を立てて、扉が開かれた。
「はいはい、どちら様……」
出てきたのは、黒髪を後ろに束ねた妙齢の美しい女性であった。女性はレイラの顔を見ると、少し眉を顰めた。
「夜分遅くすみません、魔法使いのジョアンナ殿にお願いがあり、訪問させていただきました。失礼ですが、ジョアンナ殿でお間違いないですか」
アシェルがそう聞くと、その女性は肯定した。家の中に通され、部屋の中央にあるテーブルの脇の椅子に座るよう促された。ジョアンナはレイラ達の向かいの椅子に座ると、煙草に火をつけ一服した後、口を開いた。
「どんな魔法が欲しいの? どうやら貴族様っぽいけど……。結構うちはいい値段とるよ」
「いくらでも構いません。……人の心を操る魔法は作れるでしょうか?」
レイラは緊張しながらジョアンナに問う。
「ああ、惚れ薬とか? 最近そういう依頼多いんだよね」
「いえ、違います……。逆に恋心をなくす薬、というものは作れますか?」
「恋心をなくす……?」
ジョアンナは意外だったのか目をぱちくりとさせた。
「難しいでしょうか?」
「いや……、確か数年前にも似たような依頼を受けた記憶がある。できるよ」
「本当ですか!」
レイラは喜びを隠せない。これで、レイラのアイザックへの叶わぬ恋に焦がれ苦しむ日々も終わるのだ。
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