上 下
1 / 9

1話 今日も今日とて愛しの婚約者様に袖にされる

しおりを挟む


 レイラ・クラーク侯爵令嬢は、今日も今日とて愛しの婚約者様にそでにされている。

「アイザック様、おはようございます。本日のランチ、よければご一緒に……」

 朝、登校時の学園内で、アイザックを見かけたレイラは、嬉しくて声をかけた。
 クレメント公爵家の嫡男であるアイザックは、金髪のいかにも王子様然とした美しい青年であり、この学園の生徒会長として男女問わず生徒達から人気があった。
 そんな彼の婚約者になれた自分はとても幸運である、とレイラは日頃常々思っている。

 レイラの目はアイザックの姿ばかり捉えていたので、その隣にいる女子の存在に気付けなかった。

「レイラ様、ごめんなさい……。今日、アイザック様は私と生徒会のお仕事で忙しいので難しそうです……」

 その女子は申し訳なさそうな声を発すると、アイザックの腕にそっと自分の腕を回した。
 彼女は生徒会庶務のリリー・ガルシア男爵令嬢で、最近アイザックが懇意にしている女性だ、とレイラは知っていた。
 リリーは、小さな身長の女性らしい体つきで、ふわふわした肩までの長さの茶色の髪を持ち、とても可愛らしい容姿をしている。
 対してレイラは、背がすらりと高く、女性らしいというよりは華奢な体型で、背中まで伸ばしている銀髪を持つ美少女であった。
 
「そういうわけだ。レイラ、今日は君と一緒に昼食を食べることはできない」

 アイザックは、婚約者のレイラの前で腕にまとわりつくリリーを振りほどきもせず、冷静に言った。

「……分かりました、生徒会のお仕事頑張ってくださいませ。……明日はどうでしょうか?」

「明日の予定は明日にしかわからない。また声をかけてくれ。……行こう、リリー」

「はーい」

 そう言って、アイザックはリリーを腕にぶらさげながらレイラの前から去っていく。

(……明日の予定は明日にしか分からない? 何それどういう理屈? ていうか生徒会って、あなた達ろくに活動してないって私知ってるんですけど! よく生徒会室で活動そっちのけで人目も憚らずアイザック様とリリー様がイチャイチャして困ってるって書記であるクラスメイトがぼやいてるの聞いてるんだから! なんなのリリー様のさっきの勝ち誇ったような顔! いやそれより……アイザック様の私を見る冷たい目。まるで婚約者である私のことなんて何も眼中にないみたいだわ……)

 レイラはアイザックの去っていく後ろ姿を見つめる。

「はあ……好き……」

「何でですか」

 レイラがため息と共に呟くと、一連のやりとりを見ていたらしい彼女の義弟であるアシェルが、後ろから静かにツッコミを入れた。


 アシェルは、レイラが十二歳のときに跡取りとしてクラーク侯爵家に引き取られてきた、血の繋がらない一歳下の義理の弟である。子供のころから美しい黒い髪の整った涼しげな顔立ちで、それは彼が十六歳になり、レイラより背が頭一つ分伸びた今も変わらない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
幼馴染の少女に失恋したばかりのケインと「学園卒業まで婚約していることは秘密にする」という条件で婚約したリンジー。当初は互いに恋愛感情はなかったが、一年の交際を経て二人の距離は縮まりつつあった。 予定より早いけど婚約を公表しようと言い出したケインに、失恋の傷はすっかり癒えたのだと嬉しくなったリンジーだったが、その矢先、彼の初恋の相手である幼馴染ミーナがケインの前に現れる。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】引き立て役に転生した私は、見下してくるご主人様に中指をおったてる

夏芽空
恋愛
どこにいでもいるOLだった私は、魔法学園に通う女子生徒――ルーナに異世界転生してしまった。 彼女は、臆病で控えめ。そして、とある女子生徒の引き立て役をしていた。 「あほくさ」 ルーナはその立場を受け入れていたようだが、私は違う。引き立て役なんて、まっぴらごめんだ。 だから私は、とある女子生徒(ご主人様)に中指をおったてることにした。 これはそう、私なりの宣戦布告だ。 しかしながら、その現場を一人の男子生徒――キールに見られてしまう。 どんな反応をするかと思いきや、彼は私のことを、面白い、と言ってつきまとってくるようになった。変な人だ。 「はぁ……面倒くさいわね」 初めはわずらわしく感じていた私だけど、だんだんと気持ちは変わっていき……

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

処理中です...