データ・ロスト 〜未来宇宙戦争転生記

鷹来しぎ

文字の大きさ
上 下
45 / 66
第十一章 惑星マルス・上

第十一章 惑星マルス・上(4)お前さん、素質があるな

しおりを挟む
 タケシマ老人の道場で訓練をしたあと、ぼくたち三人とタケシマ老人は屋台村で食事を取ることにした。もちろん、二足歩行するキツネのブニも一緒だ。

 それぞれに異なる屋台で食事を買うと、同じテーブルを囲んで食べ始める。

「どうじゃな、訓練をやってみて」

 タケシマ老人がスズランにきいた。スズランはというと、当初の生意気な感じが減っていて、タケシマ老人を師匠と考え始めているようだった。

「あまり、変化はない……かな。そんなものだろうと思うけど、なんというか、なにか落ち着いた感覚があるんだ」

「ほう」

「足がつかないと思っていた海で、急に底に足がついて立てたような気分なんだ。伝えにくいんだけど……」

「ふむ。なかなか面白い体験をしたようじゃの」

「じゃあさ」と言うのはブニだ。「ザンにあいにいかない?」

「ザン?」

 聞いたことがない名前だ。

「ザンはニューマ・コアのつかいてなんだ。タケちゃんとおなじくらいつよいんだよ」

「ザンは――本名はザネリウスというんじゃが、相当に強いニューマ・コアの使い手でのう。あれはわしと知り合う前に、相当の修羅場を抜けてきたんじゃと思う」

 タケシマ老人はブニの説明の足りないところを補った。

「そのザネリウスという人に会えば、あたしのニューマ・コアがもっと強くなるのか?」

「ううむ。さすがにあやつは人に教えるほうの訓練はしておらんからのう」

「じゃあ、別にいいかな……」

 スズランの気持ちが下降していく。ブニは負けじと次のセールスポイントを話す。

「まってまって、ザンはマルス・レコードのかずすくないエンジニアなんだよ。マルス・レコードのことにはだれよりもくわしいよ」

「マルス・レコードか……」

 スズランは腕を組んで考える。ぼくもそこには興味を惹かれた。

 ギデス大煌王国が支配下に置こうとしているのは、この惑星マルスというよりは、マルス・レコードのはずだ。レクトリヴ能力者の能力を発現させる源、マルス・レコード。

「スズラン、行ってみてもいいんじゃないかな。ギデスが何をしようとしているのか、わかるかもしれない」

「……あたしも同じことを思ってた。ブニ、あとで案内してくれないか」

「あうー」とブニは気の抜けた声を漏らす。「でもね、ザンってちょっとかわりものなんだ。みんなだいじょうぶかなあ」

「ブニ、あたしたちをザネリウスに会わせたいのか、そうじゃないのか、どっちなんだ」

「ザンにはあわせたいけどねえ。かわってるんだよねえ。でも、みんなもかわってるから、だいじょうぶかなあ」

 大丈夫だろうか。キツネのブニの意図が激しくふらついている。

「まあ確かに、少しばかり、気難しいやつじゃよ。悪いやつではないがの」

 タケシマ老人はそう表現する。
 
 変な人だという話ばかりが出るが、実際、どんなものだろう。マルス・レコードに関する情報が得られればいいんだけど。

 ◇◇◇

 ぼくたちが食事をとっていると、男たちがカイの後ろを通り過ぎていこうとした。だが、挙動の粗暴な男たちは、カイの椅子を蹴り飛ばす。

 カイはすぐにバランスを取り直し、転ぶことを未然に防ぐ。そして、椅子から立ち上がる。

「おっと」

「あー? 場所取ってんじゃねえや、お前。邪魔くせーんだよ」

 男たちはそう言って、ゲラゲラ笑った。

 そこで、スズランがすっと立って、粗暴な男たちを叱りつける。

「待て、お前たち、誤って人を蹴ったときはどうするんだ? どうやって謝るのかくらいはわかるよな?」

「何言ってやがるんだ、この売女。そんな格好のやつがなんでこんなところにいる? 屋台村で客引きでも始めたのか?」

 灰色のローブを羽織っているものの、たしかに、スズランの私服は派手だ。襟口の広いシャツに革のジャケット。ショートパンツに柄模様のニーソックス。メイクも派手で口紅は紫だ。だからといって、“そういうもの”として扱われるのは不当だ。

「お前たち……っ!」

 頭にきたぼくも椅子から立ち上がった。それを見て、粗暴な男たちはなお一層ゲラゲラと笑う。

「俺たちゃ、フォシン集落を仕切ってるギャングだぜ? それをガキと小娘とジジイと動物の集まりで喧嘩売ってんの?」

「お? ブルッてんのか?」

「土下座しろや土下座ァー」

 ゲラゲラ。

 まったく話にならない。相手はこちらを完全に見下してきているし、自分たちの力を過大に評価している。これじゃあ話し合いが成立しない。

 溜息をつきながら、カイはスズランに言う。

「スズラン中尉、こいつらダメっす。身の程を全然理解してないっす」

「あー? んだとコラー!」

 ギャングのひとりがぼくたちのテーブルを蹴り、ひっくり返す。盛大に飛び散り、中身をぶちまける食器。

 テーブルはタケシマ老人が座っているあたりに吹っ飛んだけれど、彼はそれをさっと避けて、ものが当たらない位置に退避していた。さすが、武道の達人の身のこなしだ。

「あーたべものがー」

 ブニのノンビリとした声がした。

 テーブルや食器類が床を打つ音で、周辺のお客さんたちが騒ぎ始めた。ギャングがぼくたちに因縁を付け始めたところで、緊迫感のある空気が流れてはいたが、それが発火点を超えた感じだ。

 次いで、ギャングのうちのひとりが、一番近いところにいるカイに殴りかかろうとする。だけど、それを別のひとりが止める。

「待て」

「なんだよ。邪魔すんのかテメエ」

「いま、こいつ、“中尉”とか言ったな。ギデス兵か? いや、ギデス兵なら軍服を着ずにコソコソしてるわけがねえ。統合宇宙軍か?」

 ちゃんと聞き取った者もいたのだ。感心できる。

 スズランが答える。

「統合宇宙軍、だったらどうするんだ?」

「テメエが統合宇宙軍の軍人なんて笑わせる。だが、統合宇宙軍のせいで、このマルスにギデス軍が来て、俺らのシマが荒らされたんだ。許せるわけがねえ」

「で、あたしたちが統合宇宙軍の軍人だとしたら、お前たちは統合宇宙軍相手に弓を引くことになるぞ。ずいぶん剛気だな」

「ぬかせ! 統合宇宙軍がギデスに負けて滅んだことは知ってんだよ!」

 ギャングたちがブラスターガンを抜く。完全にやる気だ。だが、やる気はだとはっきりするのは、わかりやすくていい。

 まず、ぼくがギャング全員の手元の空間を押さえ、そして、衝撃波でブラスターガンを叩き落とす。ひとりでに銃が地面に落ちてしまったので、ギャングたちは一様に動揺する。

 カイが衝撃波をまとった蹴りを浴びせて、ギャングのひとりを打ち倒す。ぼくも続いて、別のギャングを衝撃波で吹き飛ばす。

 タケシマ老人に襲いかかるギャングもいた。懐から刃物を取り出し、彼を刺そうとする。けれど、そのギャングはそうする前に床に倒れた。キツネのブニが放った投げナイフが命中したのだ。

「ブニ……! 戦えるのか!」

「ぼくはね、なげナイフのたつじんなんだよ」

「さあ、スズラン、試験といこう。ニューマ・コアに集中して、敵を撃退するんじゃ。ほれ、ちょうどいいのが来たぞい」

 スズランが見ると、ギャングの最後のひとりがつかみかかってくるところだった。

 彼女はギャングの手をかわし、そして、その腕をつかむ。当然、ギャングはそれを振りほどこうとする。けれど、不思議なことに、ギャングの抵抗は全く通じない。

 彼女が腕を振るままに、ギャングが体勢を崩され、そのままあっけなく空中に振り回される。圧倒的な光景だった。彼女は自分の倍ほども重そうな男を、重さなんてないかのように取り扱っていた。

 地面で強く背中を打ったギャングは、すぐさま立ちあがろうとした。必死の形相だった。

 首もとに伸びてくる手を、スズランはまたも難なく回避し、そして、ギャングを蹴り上げた。彼女はというと、ギャングなどいないかのように、くるり、とバク転をしてみせたのだった。

 ギャングは再び地面に落ちて、今度は伸びてしまった。

「うむ。なかなかの出来じゃな」

 タケシマ老人はスズランの動きを見て、拍手した。

「爺さん、これって……」

 スズランは自分のやったことに驚いているようだった。集中しているときは自然に技を繰り出したようだけど、我に返ってみると、やはり自分が一番ビックリしているらしい。

「お前さん、素質があるな」

 タケシマ老人は楽しそうに笑っている。いい弟子を見つけた師匠というのは、こんな感じだろうか。

 これで、スズランが新たな力を手に入れたということがはっきりした。まだまだ発展途上だし、戦うとなればブラスターガンのほうが便利なことも多いだろうけど。

「では、行こうか。“テラのかけら”へ」

 ◇◇◇
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

宇宙打撃空母クリシュナ ――異次元星域の傭兵軍師――

黒鯛の刺身♪
SF
 半機械化生命体であるバイオロイド戦闘員のカーヴは、科学の進んだ未来にて作られる。  彼の乗る亜光速戦闘機は撃墜され、とある惑星に不時着。  救助を待つために深い眠りにつく。  しかし、カーヴが目覚めた世界は、地球がある宇宙とは整合性の取れない別次元の宇宙だった。  カーヴを助けた少女の名はセーラ。  戦い慣れたカーヴは日雇いの軍師として彼女に雇われる。  カーヴは少女を助け、侵略国家であるマーダ連邦との戦いに身を投じていく。 ――時に宇宙暦880年  銀河は再び熱い戦いの幕を開けた。 ◆DATE 艦名◇クリシュナ 兵装◇艦首固定式25cmビーム砲32門。    砲塔型36cm連装レールガン3基。    収納型兵装ハードポイント4基。    電磁カタパルト2基。 搭載◇亜光速戦闘機12機(内、補用4機)    高機動戦車4台他 全長◇300m 全幅◇76m (以上、10話時点) 表紙画像の原作はこたかん様です。

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

「磨爪師」~爪紅~

大和撫子
歴史・時代
 平安の御代、特殊な家系に生まれた鳳仙花は幼い頃に父親を亡くし、母親に女手一つで育てられた。母親の仕事は、宮中の女房たちに爪のお手入れをすること。やんごとなき者達の爪のお手入れは、優雅で豊かな象徴であると同時に魔除けの意味も兼ねていた。  鳳仙花が八歳の頃から、母親に爪磨術について学び始める。この先、後ろ盾がなくても生きていけるように。  鳳仙花が十二歳となり、裳着の儀式を目前に母親は倒れてしまい……。親の後を継いで藤原定子、そして藤原彰子の専属磨爪師になっていく。   長徳の政変の真相とは? 枕草子の秘めたる夢とは? 道長が栄華を極められたのは何故か? 藤原伊周、隆家、定子や彰子、清少納言、彼らの真の姿とは? そして凄まじい欲望が渦巻く宮中で、鳳仙花は……? 彼女の恋の行方は? 磨爪術の技を武器に藤原定子・彰子に仕え平安貴族社会をひっそりと、されど強かに逞しく生き抜いた平安時代のネイリストの女の物語。  第弐部が5月31日に完結しました。第参部は8月31日よりゆっくりじっくりのペースで進めて参ります。    ※当時女子は平均的に見て十二歳から十六歳くらいで裳着の儀式が行われ、結婚の平均年齢もそのくらいだったようです。平均寿命も三十歳前後と言われています。  ※当時の美形の基準が現代とものと著しく異なる為、作中では分かり易く現代の美形に描いています。  ※また、男性の名は女性と同じように通常は通り名、または役職名で呼ばれ本名では呼ばれませんが、物語の便宜上本名で描く場合が多々ございます。  ※物語の便宜上、表現や登場人物の台詞は当時の雰囲気を残しつつ分かり易く現代よりになっております。  ※磨爪師の資料があまり残って居ない為、判明している部分と筆者がネイリストだった頃の知識を織り交ぜ、創作しております。  ※作中の月日は旧暦です。現代より一、二か月ほどズレがございます。   ※作中の年齢は数え歳となっております。  ※「中関白家」とは後世でつけられたものですが、お話の便宜上使用させて頂いております。  以上、どうぞ予めご了承下さいませ。

鉄錆の女王機兵

荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。 荒廃した世界。 暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。 恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。 ミュータントに攫われた少女は 闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ 絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。 奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。 死に場所を求めた男によって助け出されたが 美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。 慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。 その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは 戦車と一体化し、戦い続ける宿命。 愛だけが、か細い未来を照らし出す。

処理中です...