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第十一章 惑星マルス・上
第十一章 惑星マルス・上(2)惑星テラの仙人
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ぼくたちが到着した都市は、やっぱり、都市としては死んでしまっていた。それも、何千年も前に。
行けども行けども、人の気配はない。建物も至る所が崩れていて、人が住めるような雰囲気ではなかったし、中には倒壊して道を塞いでしまっているようなところもあった。
「こりゃーハズレかな」
バイクに乗ったカイがそう言う。そうかもしれない、とぼくも思った。統合宇宙政体に棄てられた人々だって、この街にそのまま住むのは不可能だろう。
「なにか見えてきたぞ……。あれは、広場か?」
バギーを運転するスズランの視線の先に、たしかに開けた場所があった。中央には噴水の塔がある。もちろん、いまでは水を噴いたりはしていないけれど。
噴水の前に、人だかりがあった。ようやく、住民を見つけられたと思ったものの、何か様子が変だ。
筋骨隆々とした革ジャケットの男たちが、ひとりの老人を取り囲んでいる。――いや、取り囲んで、胸ぐらを掴んでいる。穏やかじゃない。
「老人が……、絡まれてる?」
ぼくは目を細めて遠くを見る。やっぱり、老人がガラの悪い男たちに囲まれ、なにか因縁を付けられているようだ。
広場に到着してバギーとバイクを停めると、柄の悪い男たちはいっせいにこちらを見た。
「なんだぁ~テメエらは!」
老人の胸ぐらを掴んでいる革ジャケットの男が、ぼくたちに向かって威嚇する。驚いて威嚇したくなる気持ちはわかる。こんな現場にノコノコやってきたのだから。
ぼくは声を張り上げる。
「お爺さんを囲んで何をやってるんだ? 見たところ、いい雰囲気じゃないようだけど」
「ああ~っ? 外野は黙ってろや。俺ら、このジジイのせいで、どれだけ苦労したと思ってやがる」
「苦労?」
「俺たちはフォシン集落からぶったくろうとしてんのによ、このジジイが何度も何度も邪魔をしやがって――」
ようするに、このガラの悪い男たちは、見た目通りのならず者で、このお爺さんは彼らから集落を守ったということか。
「そういうことなら見過ごせない。略奪を働けなかった理由を、お爺さんのせいにするなんて」
「うるせえ! 小娘が、黙ってろ! ――なっ?」
ならず者たちが驚きの声をあげる。
カイがならず者たちに高速で接近して、うちひとりを衝撃波をまとわせた蹴りでなぎ倒したからだった。
「テメエらあ! お年寄りは大事にしろっつんだ!」
カイが雄叫びを上げる。突っ走りすぎだ。
「カ、カイ……」
「まあ、この状況だとそれが手っ取り早いかな。ユウキ、防御頼む」
スズランは動揺せずに、上着の内側からさっとブラスターガンを取り出す。相手の男たちもブラスターガンやら棍棒やらを持っているので、彼女はきっちり守らなきゃいけない。
カイがふたりめを殴り倒す。その間に、ぼくは別のひとりの周辺の空間を掌握し、衝撃波を与えて吹き飛ばした。スズランはブラスターガンでならず者の脚を射抜く。
「こ、このっ……! 動くな!」
老人を掴んでいるならず者が、老人の喉元にブラスターガンを突きつける。
さすがに危険な状態だ。ぼくとスズランは前進をやめ、カイも距離を取って警戒する。ならず者が引き金を引くだけで、この老人の命は奪われるだろう。この状態で救い出すのは困難だ。
「お、お前っ……!」
「それ以上近づくなっ! このジジイがどうなってもいいのか?」
なんとかして、あのお爺さんを助けないと……。ぼくは考えを巡らせたけれど、お爺さん本人が全く動じていないことに気がついた。
「ふう、仕方ないのう」
お爺さんは自分に銃を突きつけているならず者の手を掴むと、ひょいと捻りながら振り下ろす。それだけで、ならず者は突きつけた腕を軸に回転し、腰から地面に落下した。
あまりのできごとに、ぼくたちは息を呑む。
お爺さんの攻撃はまだ終わっていない。もう一度腕を振り上げると、ならず者が空に打ち出される。これが腕力なら、ものすごい筋力の持ち主だ。
武術の構えをとりながら、お爺さんは空中を舞うならず者に手のひらを向ける。すると、そこから撃ち出されるエネルギーの奔流。光の筋がならず者を撃墜した。
構えを解くお爺さんのところへ、ぼくたちは駆けつけた。すると、お爺さんはぼくたちに深々とお辞儀をする。
「危ないところ、助けてもらってしまったわい。若い衆よ」
はっきり言って、このお爺さんには助けなんて要らなかったということがわかる。
「すごいな! 爺さん。あんた何者だ?」
やや興奮気味のスズランがそう尋ねる。お爺さんは笑っていた。
そこへ、一匹の小動物が駆けてくる。それはキツネのようだったが、変に落ち着いた顔つきをした生き物だった。極めつけに変なのは、二本足で歩いていることだ。
「タケちゃんはね。つよいんだよ。せんにんなんだよ」
「こいつは?」
「これはキツネのブニ。それから、わしはタケシマ。惑星テラの武術家で武仙と呼ばれておる」
「惑星テラだって?」
カイが素っ頓狂な声をあげた。それも無理からぬことだ。
「そんな馬鹿な。惑星テラは惑星マルス入植前に人類が破壊してしまった星じゃないか。惑星マルスを棄てたのだって数千年前の話だぞ」
スズランがそう言った。もし彼女が言うとおりなら、タケシマ老人は五千年以上生きているということになる。そんなことがありえるだろうか。
「だからあ。タケちゃんはせんにんなんだって」
キツネのブニが舌足らずにそう言った。せんにん――仙人か。惑星テラで不老不死の仙人になったとしたら、その後何千年にもわたって生きることが出来るのだろうか。
タケシマ老人はやさしく笑う。
「ははは。老人の戯言と思って聞いてくれれば。わしらはおぬしらが来るのを待っておったんじゃ。ほれ、フォシン集落に案内しよう」
「待っていた、って……?」
「ついて来なされ」
タケシマ老人はビル群のほうへ向かって歩いて行く。行く先のどこかに、最寄りの集落への入口があるのだろう。
「あやしーな、あの爺さん」
立ち止まったまま、カイはそう評した。ぼくも同意見だ。
けれど、スズランは走ってタケシマ老人の後を追いかけていった。
「爺さん、あれ教えてくれよ! 爺さんが投げ飛ばして、手からビーム出したやつ!」
「ほっほ、よかろうよ」
どうやら、スズランはタケシマ老人について行く気のようだ。彼女が行く気なら行かないという選択肢はない。ぼくとカイも、彼女のあとをついて行くことにした。
◇◇◇
行けども行けども、人の気配はない。建物も至る所が崩れていて、人が住めるような雰囲気ではなかったし、中には倒壊して道を塞いでしまっているようなところもあった。
「こりゃーハズレかな」
バイクに乗ったカイがそう言う。そうかもしれない、とぼくも思った。統合宇宙政体に棄てられた人々だって、この街にそのまま住むのは不可能だろう。
「なにか見えてきたぞ……。あれは、広場か?」
バギーを運転するスズランの視線の先に、たしかに開けた場所があった。中央には噴水の塔がある。もちろん、いまでは水を噴いたりはしていないけれど。
噴水の前に、人だかりがあった。ようやく、住民を見つけられたと思ったものの、何か様子が変だ。
筋骨隆々とした革ジャケットの男たちが、ひとりの老人を取り囲んでいる。――いや、取り囲んで、胸ぐらを掴んでいる。穏やかじゃない。
「老人が……、絡まれてる?」
ぼくは目を細めて遠くを見る。やっぱり、老人がガラの悪い男たちに囲まれ、なにか因縁を付けられているようだ。
広場に到着してバギーとバイクを停めると、柄の悪い男たちはいっせいにこちらを見た。
「なんだぁ~テメエらは!」
老人の胸ぐらを掴んでいる革ジャケットの男が、ぼくたちに向かって威嚇する。驚いて威嚇したくなる気持ちはわかる。こんな現場にノコノコやってきたのだから。
ぼくは声を張り上げる。
「お爺さんを囲んで何をやってるんだ? 見たところ、いい雰囲気じゃないようだけど」
「ああ~っ? 外野は黙ってろや。俺ら、このジジイのせいで、どれだけ苦労したと思ってやがる」
「苦労?」
「俺たちはフォシン集落からぶったくろうとしてんのによ、このジジイが何度も何度も邪魔をしやがって――」
ようするに、このガラの悪い男たちは、見た目通りのならず者で、このお爺さんは彼らから集落を守ったということか。
「そういうことなら見過ごせない。略奪を働けなかった理由を、お爺さんのせいにするなんて」
「うるせえ! 小娘が、黙ってろ! ――なっ?」
ならず者たちが驚きの声をあげる。
カイがならず者たちに高速で接近して、うちひとりを衝撃波をまとわせた蹴りでなぎ倒したからだった。
「テメエらあ! お年寄りは大事にしろっつんだ!」
カイが雄叫びを上げる。突っ走りすぎだ。
「カ、カイ……」
「まあ、この状況だとそれが手っ取り早いかな。ユウキ、防御頼む」
スズランは動揺せずに、上着の内側からさっとブラスターガンを取り出す。相手の男たちもブラスターガンやら棍棒やらを持っているので、彼女はきっちり守らなきゃいけない。
カイがふたりめを殴り倒す。その間に、ぼくは別のひとりの周辺の空間を掌握し、衝撃波を与えて吹き飛ばした。スズランはブラスターガンでならず者の脚を射抜く。
「こ、このっ……! 動くな!」
老人を掴んでいるならず者が、老人の喉元にブラスターガンを突きつける。
さすがに危険な状態だ。ぼくとスズランは前進をやめ、カイも距離を取って警戒する。ならず者が引き金を引くだけで、この老人の命は奪われるだろう。この状態で救い出すのは困難だ。
「お、お前っ……!」
「それ以上近づくなっ! このジジイがどうなってもいいのか?」
なんとかして、あのお爺さんを助けないと……。ぼくは考えを巡らせたけれど、お爺さん本人が全く動じていないことに気がついた。
「ふう、仕方ないのう」
お爺さんは自分に銃を突きつけているならず者の手を掴むと、ひょいと捻りながら振り下ろす。それだけで、ならず者は突きつけた腕を軸に回転し、腰から地面に落下した。
あまりのできごとに、ぼくたちは息を呑む。
お爺さんの攻撃はまだ終わっていない。もう一度腕を振り上げると、ならず者が空に打ち出される。これが腕力なら、ものすごい筋力の持ち主だ。
武術の構えをとりながら、お爺さんは空中を舞うならず者に手のひらを向ける。すると、そこから撃ち出されるエネルギーの奔流。光の筋がならず者を撃墜した。
構えを解くお爺さんのところへ、ぼくたちは駆けつけた。すると、お爺さんはぼくたちに深々とお辞儀をする。
「危ないところ、助けてもらってしまったわい。若い衆よ」
はっきり言って、このお爺さんには助けなんて要らなかったということがわかる。
「すごいな! 爺さん。あんた何者だ?」
やや興奮気味のスズランがそう尋ねる。お爺さんは笑っていた。
そこへ、一匹の小動物が駆けてくる。それはキツネのようだったが、変に落ち着いた顔つきをした生き物だった。極めつけに変なのは、二本足で歩いていることだ。
「タケちゃんはね。つよいんだよ。せんにんなんだよ」
「こいつは?」
「これはキツネのブニ。それから、わしはタケシマ。惑星テラの武術家で武仙と呼ばれておる」
「惑星テラだって?」
カイが素っ頓狂な声をあげた。それも無理からぬことだ。
「そんな馬鹿な。惑星テラは惑星マルス入植前に人類が破壊してしまった星じゃないか。惑星マルスを棄てたのだって数千年前の話だぞ」
スズランがそう言った。もし彼女が言うとおりなら、タケシマ老人は五千年以上生きているということになる。そんなことがありえるだろうか。
「だからあ。タケちゃんはせんにんなんだって」
キツネのブニが舌足らずにそう言った。せんにん――仙人か。惑星テラで不老不死の仙人になったとしたら、その後何千年にもわたって生きることが出来るのだろうか。
タケシマ老人はやさしく笑う。
「ははは。老人の戯言と思って聞いてくれれば。わしらはおぬしらが来るのを待っておったんじゃ。ほれ、フォシン集落に案内しよう」
「待っていた、って……?」
「ついて来なされ」
タケシマ老人はビル群のほうへ向かって歩いて行く。行く先のどこかに、最寄りの集落への入口があるのだろう。
「あやしーな、あの爺さん」
立ち止まったまま、カイはそう評した。ぼくも同意見だ。
けれど、スズランは走ってタケシマ老人の後を追いかけていった。
「爺さん、あれ教えてくれよ! 爺さんが投げ飛ばして、手からビーム出したやつ!」
「ほっほ、よかろうよ」
どうやら、スズランはタケシマ老人について行く気のようだ。彼女が行く気なら行かないという選択肢はない。ぼくとカイも、彼女のあとをついて行くことにした。
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