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第十章 セクター・デルタ

第十章 セクター・デルタ(3)ギデス大煌王国の頂点①

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 ぼくたちは宇宙要塞バル=ベリトに乗り込んだ。案の定、警備は厳重で、三股に分かれた廊下の先から、次々と戦闘用ドローンやライフルを持った兵士たち、そして天幻部隊兵士たちが駆けつけてくる。

 ここでの勝利条件は、この要塞のあるじであるバトラ大将を撃破すること。そして、超兵器『漆黒の法』の発生機関を破壊することだ。

 このふたつを達成できれば、死に体になっている統合宇宙政体でも勝ち目が出てくるだろう。

 敵の軍勢を受け持つのはカイ隊とジロン隊だ。彼らが正面切って敵とぶつかり合っている間に、ぼくとスズランは右翼棟から上の階層を目指し、ネージュとリッジバックは左翼棟から下の階層を目指す。

 ぼくたちとは逆方向へ走るネージュとリッジバックに、そして、その場で敵を足止めしてくれるカイとジロンに、ぼくたちは目配せした。この困難な状況に立ち向かう誰もが、気迫に満ちあふれている。

 ◇◇◇

 宇宙要塞バル=ベリトの右翼棟の廊下を、ぼくとスズランは駆ける。

 廊下の向こうから現れるドローンや兵士たちは、こちらを見るなりブラスターで撃ってくるが、ぼくはスズランの前を走り、敵のうった弾をシールドで弾く。

 相手が天幻部隊兵士でなければ、スズランのブラスターガンの攻撃も通る。彼女はぼくの背後から敵を撃ち、次々に倒していく。残った敵だけを、ぼくがレクトリヴの衝撃波で打ち倒す。

 途中、大きな扉があったのでそこへ入ると、中は広い部屋になっていた。部屋の中心には巨大なクリスタルが浮かんでいて、その周辺にいくつもの光の輪が回っていた。

「これは……、動力炉(リアクター)だな」

「リアクター?」

「ああ。大方これが、バル=ベリトの動力源になっているんだろう。破壊していこう。リアクターがこれだけということはないと思うが、いくらか出力を下げることはできるだろう」

「わかった」

 ぼくがそう言って、真空の刃でリアクターを切り刻もうとしたところ、リアクターの陰からヘリコプターのような巨大なドローンが飛び出してきた。

 巨大ドローンは、ぼくたちに向けて容赦なくブラスターマシンガンを連射し、挙げ句、ミサイルまで撃ってくる。

「スズラン!」

「おう!」

 スズランはぼくの背に隠れ、ぼくはシールドを展開する。それよりもミサイルだ。ぼくは超知覚の手で飛来する複数のミサイルを掴むと、ひとつひとつ的確に斬って爆破していった。

 マシンガンの雨の中、ぼくは巨大ドローンに向けて突進した。――けれど、そんな中、スズランは横に飛んで、ぼくのシールドの外へ出てしまった。

 なんて危ないことをするんだろう。

 巨大ドローンの撃つマシンガンの弾痕が、スズランの後を追いかけていく。彼女は銃を持っていないほうの手だけを地面について側転すると、そのままの勢いで側宙し、ドローンに向かって撃つ。

 ドローンの攻撃がスズランに迫りつつあるのを見て、ぼくはそいつの横っ面を衝撃波でぶっ叩いた。すると、ドローン本体とともに銃口が回転し、ドローンはあらぬ方向に銃を乱射する。

 ぼくは、ドローンがコントロールを失っている間に接近し、巨大な真空の刃でそいつを切り裂いた。真っ二つになったドローンは動かなくなり、そのまま床に落下した。

 これで邪魔はなくなった。

 ようやく落ち着いた状態になって、ぼくはリアクター・コアを真空の刃で上下に引き裂く。ぼんやりと光っていたリアクター・コアは光を失い、崩壊して床に転がった。

「よし、これでひと仕事終わりだ」

 少し離れたところにいたスズランが、ぼくの近くへ戻ってきた。

「うん。先に進もう」

 ぼくたちは再び廊下へ出て、さらに先へと進んだ。

 目指すは、最上層。

 ◇◇◇

 兵士やドローンを倒しながら最上層へ到着すると、ぼくたちは重々しい扉を発見した。

 ここが司令塔の最奥だろう。

 扉を開くと、そこは広い部屋だった。部屋の壁はスクリーンで覆われていて、外の星々の海が、そして戦況が映し出されている。

 やはりここは、司令室だ。

 部屋の中心には赤黒く輝く球体があり、異様な雰囲気を放っている。そして、その前に、ひとりの壮年男性が立っている。彼は口ひげとあごひげをたくわており、こちらを見る鋭い目のまわりには、大きな切り傷があった。

 バトラ大将だ。彼は軍服の上にマントを羽織り、右手と左手は機械化してあり、まがまがしいばかりの武装――巨大な剣や銃口など――が装着されていた。

「よくぞここまで来たな。統合宇宙政体の尖兵が」

 低く響く声。やはり、大将には、ほかの将軍たちと比べても桁外れの風格がある。

「あたしは、統合宇宙政体大統領の娘、スズラン。ここでお前を葬り去る!」

 スズランの宣言を聞いて、バトラ大将は肩を上下して笑い始める。

「ははは! これは面白い! ここまで食い込んできた統合宇宙政体の要の一手が、よもや大統領の娘だとはな! よほどの人不足とみえる!」

「なんだと!」

 と、スズランは言ったが、実のところ、統合宇宙軍がふがいないばかりに独断専行してきたのは他ならぬぼくたちだ。実際は、人不足というよりは指揮官不足なのだけれど。彼女もそれはよく解っているので、それ以上には反論しなかった。

「ならば……、ここで嬲り殺しがいもあるというものだ! あの男はこの『漆黒の法』であっさりと消えてしまったからな! 貴様の息の根を止め、統合宇宙政体の最期を見届けてやろう!」

 バトラ大将は「この漆黒の法」と言った。ということは、大将の背後にある赤黒く輝く巨大な球体が、漆黒の法の発生機関ということで間違いないのだろう。

「あたしと統合宇宙政体を結びつけるな! あたしはギデスを倒すが、統合宇宙政体も倒す! あたしの国をつくるんだ!」

「戯れ言を。……小娘、貴様はこのフラウロス・ブレードで切り刻んでやろう」

 バトラ大将が右手を前に出すと、肩に装着されていたブレードがロボットアームで動き出し、やつの手のひらで握れる場所に移動してきた。大将がその剣を握ると、刀身に赤黒いエネルギーの塊が吹き出し、光り始める。

「フラウロス・ブレード!? まさかそれも、確率干渉兵器か!」

「ご名答。フラウロスは貴様らが盗み出した兵器だからよく知っているだろう。このブレードは触れたものの存在確率をゼロにし、なんであろうと切断する」

 バトラ大将はそう言いながら、フラウロス・ブレードを八の字に振り回した。

「防御は無理ということか」

「その通り。折角の宿敵、統合宇宙政体の最後を飾る戦いだ。致命傷にならないところから切り刻んで……、楽しませてもらうぞ!」

 つまるところ、今回の戦いでは、防御よりも回避が優先というわけだ。フラウロス・ブレードは凶悪な兵器だ、油断はできない。

 ――とはいえ、フラウロス・ブレードのことを先に言ってくれたのはありがたい話だ。知らなければ、うっかり飛び込んで、ぼくもスズランもあっさり斬られて終わっていたかもしれない。そこは、バトラ大将の慢心に助けられた格好になる。
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