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第九章 戦勝記念パーティー
第九章 戦勝記念パーティー(4)共闘、呼吸を合わせて
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「ユウキ、同時攻撃で押し切るぞ。できるか?」
リッジバックがそう、ぼくにきいた。たしかに、この厄介な敵を撃退するには、ふたりのレクトリヴ能力者による飽和攻撃がベストだろう。ぼくはうなずく。
呼吸を合わせて、ぼくとリッジバックはヴァルクライのほうへと飛びかかった。
まず、ぼくの爆縮する衝撃波でヴァルクライの動きを一瞬止める。そこへ、リッジバックの炎の嵐を浴びせ、やつの身体を火焔の中で巻き上げたところで、ぼくが真空の刃で斬りかかる。
「避けろ!!」
リッジバックが叫ぶ。炎の嵐の中に巻き込まれているヴァルクライが、こちらに向かって、あのブラックホールのような攻撃を繰り出してきたのだ。
攻撃はリッジバックの左腕を巻き込む。左腕が消滅したが、そこはサイボーグ。リッジバックは意にも介さない。
ぼくはといえば、横様に飛び退くことで、なんとか巻き込まれるのを回避した。
炎の嵐が止むと、ヴァルクライの姿が見えた。まだ床の上に立っているが、大きな切り傷を受け、所々焦げているような様子だ。無傷とはいえない。
こうしている間にも、スズランはヴァルクライに向かってブラスターガンを打ち続けている。これが効いている様子は一向にないけれども。
ヴァルクライは、斬りつけたぼくでもなく、炎で焼いたリッジバックでもなく、スズランのほうを見ていた。
やつにとって一番興味があるのは、スズランなのだろうか。
「一番弱い毛虫! 潰れて消えろ!」
ヴァルクライはスズランのいるほうへ手を突き出し、彼女の目の前に小さなブラックホールをつくりだした。
危険を察して、ぼくはスズランのほうへと跳んだ。
あのブラックホールがレクトリヴ能力の産物であるなら、同じレクトリヴ能力で消すことも可能なはずだ。そして、レクトリヴ能力で干渉するなら、距離は近ければ近いほどいい。
スズランの近くまで来ると、ぼくも空間上のその小さな穴に吸い込まれていくのを感じた。だけど、これに負けるわけにはいかない。
全神経を、ブラックホールの中心が存在する、その一点に向ける。ぼくはレクトリヴ知覚の手でそこを押さえようとしたけれど、次々に新しい手を伸ばしても、伸ばしても、穴の中へ吸い込まれる。
ここで屈したらすべてが終わりだ。スズランは救えない。いや、ぼくだって巻き込まれて一巻の終わりだ。
「これか……っ!!」
自分の知覚が更に発達するのを感じる。脳に新しい回路が引かれるような、火傷をしたような痛みが走った。だけど、目を瞑っている時間さえない。
ぼくは、レクトリヴ知覚の手で、ブラックホールの中心点をつまむことに成功した。
「この……っ!」
超知覚の指先で、ぼくはブラックホールの中心点を握りつぶした。
ヴァルクライも、自分のつくったブラックホールが消え去ったことには気づいたようだ。
「貴様っ! なんだそれは?」
ヴァルクライが怒鳴る。そりゃあ怒鳴りもするだろう。必殺の攻撃を無効化したのだから。
「貴様らはそうやって互いに守りあっているのか? 畜生! ちくしょう! 見せつけやがってええええええっ!」
……違った。
ヴァルクライは、ブラックホール攻撃が消されたことよりも、ぼくとスズランがお互いを守りあっていることのほうが気に障るらしい。なんだそれは。
『ヴァルクライ、そろそろ退くぞォ! じき、ここも“漆黒の法”で沈めるからなァ!』
壇上からニウス博士がそう言うと、彼は演壇を降りて裏口から出て行こうとする。
「ちょっとくらい遅らせろォ! 俺が一番許せねえのはイチャついてるやつらを見ることで、一番好きなのはイチャついてるやつらを殺すことだ!」
“イチャついてる”ってなんだ。ヴァルクライにとっては、身体を張って守り合うことが、イチャついてることになるのか。
「嫌なら置いていく。漆黒の法に呑まれたいノカ」
「……くそっ! だが、俺はこの緑の女がほしい! こいつだけは持って帰りたい!」
ここへきて、まだスズランに執着している。圧倒的な強さを誇り、人間を虫けら扱いする強化天幻兵士――ヴァルクライにとって、レクトリヴ能力者でもないのにしぶとく前線に残っている彼女は、そこまで興味深いのだろうか。
「どんな執着もお前の勝手だがなァ。すぐに来ないと間に合わんぞ」
「ちくしょうがアアアアアアアアアアアアッ!!」
ヴァルクライはこれまでのどれよりも強力なブラックホールをつくりだす。
スズランを持って帰れないのなら、ここで殺してしまおうと考えたのか。――いや、そんな高度なことは、まったく考えていないかもだ。ただ葛藤に耐えきれなくなって、怒りに我を忘れただけかもしれない。
規模が大きいので取り乱しそうだったけれど、さっきと同じことをすればいい。超知覚でブラックホールの核を握りつぶすんだ。
幸い、この強力な技を繰り出す際に、ヴァルクライの注意力も失われたらしい。リッジバックが背後からヴァルクライに火柱を浴びせると、やつはその火炎に焼かれていた。
ぼくはレクトリヴ知覚の手を伸ばす。あまりにも強力な反発。そうかと思えば、手はあっさりとブラックホールの穴に落ちていく。
わずかな時間の間の無数の試行の末、ぼくの知覚の手がコアを掴んだ。けれども、今回のコアはさっきのと比べるとずいぶん固い。
でも、やりきらなければ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ブラックホール・コアが歪曲し、光を放つ。コアの中のエネルギーが漏れ出そうとしている。だけど、達成目標はそうじゃない。ぼくは、コアから何かが漏れ出すことは許さずに、握りつぶさなきゃならない。
無数の手の感覚。いくつもの手のひらが、あらゆる方向からブラックホールの核を押しつぶす。光が漏れ出そうとするたびに、ぼくは手の数を増やし、そこを押さえる。
加熱する脳。
励起する神経。
目覚めた知覚が、宇宙の裏側まで見通せるような気がしたとき、ぼくの意識は暗転した。
◇◇◇
リッジバックがそう、ぼくにきいた。たしかに、この厄介な敵を撃退するには、ふたりのレクトリヴ能力者による飽和攻撃がベストだろう。ぼくはうなずく。
呼吸を合わせて、ぼくとリッジバックはヴァルクライのほうへと飛びかかった。
まず、ぼくの爆縮する衝撃波でヴァルクライの動きを一瞬止める。そこへ、リッジバックの炎の嵐を浴びせ、やつの身体を火焔の中で巻き上げたところで、ぼくが真空の刃で斬りかかる。
「避けろ!!」
リッジバックが叫ぶ。炎の嵐の中に巻き込まれているヴァルクライが、こちらに向かって、あのブラックホールのような攻撃を繰り出してきたのだ。
攻撃はリッジバックの左腕を巻き込む。左腕が消滅したが、そこはサイボーグ。リッジバックは意にも介さない。
ぼくはといえば、横様に飛び退くことで、なんとか巻き込まれるのを回避した。
炎の嵐が止むと、ヴァルクライの姿が見えた。まだ床の上に立っているが、大きな切り傷を受け、所々焦げているような様子だ。無傷とはいえない。
こうしている間にも、スズランはヴァルクライに向かってブラスターガンを打ち続けている。これが効いている様子は一向にないけれども。
ヴァルクライは、斬りつけたぼくでもなく、炎で焼いたリッジバックでもなく、スズランのほうを見ていた。
やつにとって一番興味があるのは、スズランなのだろうか。
「一番弱い毛虫! 潰れて消えろ!」
ヴァルクライはスズランのいるほうへ手を突き出し、彼女の目の前に小さなブラックホールをつくりだした。
危険を察して、ぼくはスズランのほうへと跳んだ。
あのブラックホールがレクトリヴ能力の産物であるなら、同じレクトリヴ能力で消すことも可能なはずだ。そして、レクトリヴ能力で干渉するなら、距離は近ければ近いほどいい。
スズランの近くまで来ると、ぼくも空間上のその小さな穴に吸い込まれていくのを感じた。だけど、これに負けるわけにはいかない。
全神経を、ブラックホールの中心が存在する、その一点に向ける。ぼくはレクトリヴ知覚の手でそこを押さえようとしたけれど、次々に新しい手を伸ばしても、伸ばしても、穴の中へ吸い込まれる。
ここで屈したらすべてが終わりだ。スズランは救えない。いや、ぼくだって巻き込まれて一巻の終わりだ。
「これか……っ!!」
自分の知覚が更に発達するのを感じる。脳に新しい回路が引かれるような、火傷をしたような痛みが走った。だけど、目を瞑っている時間さえない。
ぼくは、レクトリヴ知覚の手で、ブラックホールの中心点をつまむことに成功した。
「この……っ!」
超知覚の指先で、ぼくはブラックホールの中心点を握りつぶした。
ヴァルクライも、自分のつくったブラックホールが消え去ったことには気づいたようだ。
「貴様っ! なんだそれは?」
ヴァルクライが怒鳴る。そりゃあ怒鳴りもするだろう。必殺の攻撃を無効化したのだから。
「貴様らはそうやって互いに守りあっているのか? 畜生! ちくしょう! 見せつけやがってええええええっ!」
……違った。
ヴァルクライは、ブラックホール攻撃が消されたことよりも、ぼくとスズランがお互いを守りあっていることのほうが気に障るらしい。なんだそれは。
『ヴァルクライ、そろそろ退くぞォ! じき、ここも“漆黒の法”で沈めるからなァ!』
壇上からニウス博士がそう言うと、彼は演壇を降りて裏口から出て行こうとする。
「ちょっとくらい遅らせろォ! 俺が一番許せねえのはイチャついてるやつらを見ることで、一番好きなのはイチャついてるやつらを殺すことだ!」
“イチャついてる”ってなんだ。ヴァルクライにとっては、身体を張って守り合うことが、イチャついてることになるのか。
「嫌なら置いていく。漆黒の法に呑まれたいノカ」
「……くそっ! だが、俺はこの緑の女がほしい! こいつだけは持って帰りたい!」
ここへきて、まだスズランに執着している。圧倒的な強さを誇り、人間を虫けら扱いする強化天幻兵士――ヴァルクライにとって、レクトリヴ能力者でもないのにしぶとく前線に残っている彼女は、そこまで興味深いのだろうか。
「どんな執着もお前の勝手だがなァ。すぐに来ないと間に合わんぞ」
「ちくしょうがアアアアアアアアアアアアッ!!」
ヴァルクライはこれまでのどれよりも強力なブラックホールをつくりだす。
スズランを持って帰れないのなら、ここで殺してしまおうと考えたのか。――いや、そんな高度なことは、まったく考えていないかもだ。ただ葛藤に耐えきれなくなって、怒りに我を忘れただけかもしれない。
規模が大きいので取り乱しそうだったけれど、さっきと同じことをすればいい。超知覚でブラックホールの核を握りつぶすんだ。
幸い、この強力な技を繰り出す際に、ヴァルクライの注意力も失われたらしい。リッジバックが背後からヴァルクライに火柱を浴びせると、やつはその火炎に焼かれていた。
ぼくはレクトリヴ知覚の手を伸ばす。あまりにも強力な反発。そうかと思えば、手はあっさりとブラックホールの穴に落ちていく。
わずかな時間の間の無数の試行の末、ぼくの知覚の手がコアを掴んだ。けれども、今回のコアはさっきのと比べるとずいぶん固い。
でも、やりきらなければ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ブラックホール・コアが歪曲し、光を放つ。コアの中のエネルギーが漏れ出そうとしている。だけど、達成目標はそうじゃない。ぼくは、コアから何かが漏れ出すことは許さずに、握りつぶさなきゃならない。
無数の手の感覚。いくつもの手のひらが、あらゆる方向からブラックホールの核を押しつぶす。光が漏れ出そうとするたびに、ぼくは手の数を増やし、そこを押さえる。
加熱する脳。
励起する神経。
目覚めた知覚が、宇宙の裏側まで見通せるような気がしたとき、ぼくの意識は暗転した。
◇◇◇
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