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第九章 戦勝記念パーティー
第九章 戦勝記念パーティー(1)全員飛び越えてやる
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「スズラン少尉の中尉への、ユウキ准尉の少尉への昇進を認める」
「「はっ!」」
ぼくとスズランは大統領執務室に呼ばれて、大統領から上位階級への任命を受けていた。
今回の昇進の理由は、惑星ザイアスでの戦いの功績だ。ザイアスはギデス大煌王国の一部分でしかないとはいえ、天幻要塞といわれた天幻部隊の本拠地を擁する一大拠点だった。これを落としたということは、疑いようのない大戦果といえる。
ぼくたちは胸に新しい階級章を付ける。
「まさかお前たちが――とくにスズランが、ここまで戦果を揚げるとは思っていなかったというのが正直なところだ。コルベット艦二隻撃破、要塞の破壊、敵中将の確保と期待を上回る働きぶりだ」
「はっ、ありがとうございます」
父親である大統領の言葉に、あくまでもフォーマルに受け答えをするスズラン。
「それで……、お前たちも戦勝記念パーティーに行くのだな?」
「はい。もちろんです。特務機関シータは統合宇宙軍では新しい組織のため、末席のほうではありますが。大統領閣下も参加のご予定で?」
「いや……。私は各星系首脳部とのリモート会談があり、今回は見送った。戦勝記念とはいえ、まだ肝心のギデス本星・惑星オルガルムが残っているからな。私が参加するのはオルガルムを落とした後でいい」
「そうですか。ですが、問題はないでしょう。オルガルムもすぐに落ちますから」
「そうだな……。ではまた後ほど、統合宇宙軍は最終作戦に向けて招集されるだろう。そのときまで充分に休むように」
「はっ。お心遣い、感謝いたします」
スズランが敬礼するので、ぼくも合わせて敬礼する。スズランと大統領は親子のはずだけれど、親子の会話にはまったく聞こえない。
◇◇◇
政府機能ステーション・ビシュバリク、第五十七ブロック、統合宇宙政体連邦会議場――通称・花の宮殿。
この花の宮殿で、対ギデス大煌王国戦争の当座の勝利を祝うパーティーが開かれていた。
特務機関シータ所属員で招待されたのは、ゴールデン司令、ランナ博士、リッジバック、ネージュ、カイ、スズラン、ぼく、そしてほか数人の上級研究員だけだった。
ぼくたち以外の参加者は、統合宇宙軍の各方面軍から数十名単位で来ていて、合計では数百人といったところだった。誰も彼も階級章が華やかで、特に偉い人ばかりが呼ばれている会といった風情だ。
「えー、この度の戦争も残すところ、惑星オルガルムといくつかの重要度の低い星系のみとなりましたが、敵本丸のオルガルムについても、目下ヘルガ中将旗下艦隊が攻略中でありますから――」
一番前の壇上で演説をぶっているのは、ハービナム大将という人だった。惑星ザイアス攻略戦に赴く前のブリーフィングで見かけたので、おぼえている顔だった。
それにしても、実際に重要度の高いブリーフィングでは佐官クラスに話をさせ、勝った後になってから偉そうに演台に上っているありさまは、まあ、調子のいいことだとは思う。
ちなみに、特務機関シータはスズランの言うとおり末席で、演説台から見て、会場の一番遠いところに専用のテーブルが置かれている。
特務機関シータは結構戦果を揚げていると思うのだけど、そこはコネと肩書きの影響力が強い大組織だから、あまり扱いが良くなくても驚くにはあたらない。
ネージュもリッジバックも、いまでは特務機関シータの軍服を着ている。ぼくたちと同じ、紺色がベースの、青で襟などの縁取りがされている制服だ。
大将のありがたい演説が終わると、ビュッフェの料理を皿に載せて、参加者同士で交流を深める時間になった。
こういうときに、普段関係のない組織の人と関わりを深めるのがいいのだろうけど、ぼくはあんまりそんな気もわかず、特務機関シータの参加者とばかり話をした。
◇◇◇
ぼくは特務機関シータのテーブルのそばにひとりでいたネージュに話しかける。
「ネージュ、あらためて、特務機関シータに来てくれて嬉しいよ」
「歓迎に感謝するよ、ユウキ。といっても、この組織の司令が私の祖父だというのは、なんだか変な気がするな」
「まあ、そうだよね。きみには昔の記憶がないという話だったし……」
「ああ。私には、あの人が私の祖父だという記憶がない。それに、よしんば祖父だったとして、祖父の指揮下に入るというのも妙な気がするんだ」
「それもそうだね」
「司令の視線が上司のそれではなくて、なんだか、妙に含みのある感じでやりづらい」
「ああー……」
すごく思い当たる。ゴールデン司令はネージュのことを五年ぶりに再開した最愛の孫娘だと思っているし、隙あらば可愛がりたい感じだ。なのに、ネージュにその記憶がなくて戸惑っている感がある。
その感じが、特務機関シータの他の構成員が近くにいるときでも醸し出されているので、それが大問題だと思うけれども。
「といっても……。変な話だが、私には、あの人を知っているような気がするんだ。おぼろけになってしまった、あまり実感のない遠い記憶の中で……」
「それならよかったよ。それなら、そのうち司令ともうまく付き合えるようになると思うから」
それを聞いて、ネージュは微笑む。
「そうだな。……遅くなったが、あらためて、ここでよろしく頼む」
「こちらこそ」
ぼくとネージュは握手をした。
そこへやって来たのは、皿に肉を満載したカイだった。彼はぼくたちのところに近づくと、話しかけてきた。
「おうおう、なんだおふたりさん、仲いいじゃん。なに? 付き合ってんの?」
「カイ……」
いつも通りだけど、調子がいいもんだ。
それからカイは、ネージュに話しかけた。
「お嬢さん、ギデスの天幻部隊から移ってきた人だよね? 俺はカイ一等曹長。新入りなら俺の隊に入るってこともあると思うけど、名前は?」
見事な上から目線。
カイが握手をしようと手を伸ばしたので、ネージュは社交辞令としてそれを取る。
「私はネージュ中尉。配属はリリウム・ツー。中尉といってもあくまでもみなしの階級だから、スズラン中尉の指揮下に入ることになった。よろしく」
「ちゅ、中尉……! 上官どのでありましたか! これは失礼いたしました!」
カイは慌てふためき、恐縮して手を引く。そして敬礼。
ネージュの階級はギデス天幻部隊にいたときのものをそのまま継承している。統合宇宙軍内で出世するには相応の功績が必要になるし、一階級上げるのに何年もかかることがあるが、別の組織の階級は割とそのまま受け入れてしまう。思考停止的ではある。
「カイ一等曹長……だったか。ユウキ少尉とも仲がいいようだな。どういった関係だろうか?」
「はっ! ユウキとは……いや、ユウキ少尉とは学校の同窓でありまして、軍でも懇意にさせて頂いております! はいっ!」
「それはいい。古い付き合いなのだな。それが同じ組織にいるとは、お前たちは幸運だな」
「はっ! まったくもって! なんでユウキばかり出世するのかとは思っておりますが! ははは!」
本音がダダ漏れだぞ、カイ。
「出世か、それはいい」
途中から話を聞いていたのだろう、スズランがぼくたちの集まっているところへやって来る。
カイはまたもや驚く。発言をとがめられるのではないかと思ったのだろう。
「スズラン中尉!」
「でも、この会場を見渡してみろ。ほとんど全員が高級将校だ。あたしたちクラスの人間が今回呼ばれたのは特例中の特例だ。……出世するんなら、この人たちが上の階級に詰まっているわけだ」
「げえーっ……。そう思って見ると、マジ多いっすね」
「ずいぶん骨が折れそうだろ」
「俺には無理っすね」
カイは諦めるのがえらく早い。一方、スズランは骨が折れるとは言ったが、諦める気は毛頭なさそうなのが彼女らしい。
スズランはぼくのそばへと近寄ってくると、ぼくにだけ聞こえる声で言う。
「いまにこいつら全員飛び越えてやるからな。みんなのワンダーランドをあたしがつくるんだ」
彼女の野心はとどまるところを知らないし、おまけにその目標の大きさに戸惑うことさえもなさそうだ。なんて器の大きさだ。
ふと、出会ったときに彼女が泣いていたことを思い出した。
あのときの彼女は、航宙艦で誤ってぼくをひき殺してしまい、奇跡的に生き返ったぼくのために、なんでもすると言っていた。
今となっては、彼女がそんなもったいない生き方をしないでよかったと思うばかりだ。
◇◇◇
「「はっ!」」
ぼくとスズランは大統領執務室に呼ばれて、大統領から上位階級への任命を受けていた。
今回の昇進の理由は、惑星ザイアスでの戦いの功績だ。ザイアスはギデス大煌王国の一部分でしかないとはいえ、天幻要塞といわれた天幻部隊の本拠地を擁する一大拠点だった。これを落としたということは、疑いようのない大戦果といえる。
ぼくたちは胸に新しい階級章を付ける。
「まさかお前たちが――とくにスズランが、ここまで戦果を揚げるとは思っていなかったというのが正直なところだ。コルベット艦二隻撃破、要塞の破壊、敵中将の確保と期待を上回る働きぶりだ」
「はっ、ありがとうございます」
父親である大統領の言葉に、あくまでもフォーマルに受け答えをするスズラン。
「それで……、お前たちも戦勝記念パーティーに行くのだな?」
「はい。もちろんです。特務機関シータは統合宇宙軍では新しい組織のため、末席のほうではありますが。大統領閣下も参加のご予定で?」
「いや……。私は各星系首脳部とのリモート会談があり、今回は見送った。戦勝記念とはいえ、まだ肝心のギデス本星・惑星オルガルムが残っているからな。私が参加するのはオルガルムを落とした後でいい」
「そうですか。ですが、問題はないでしょう。オルガルムもすぐに落ちますから」
「そうだな……。ではまた後ほど、統合宇宙軍は最終作戦に向けて招集されるだろう。そのときまで充分に休むように」
「はっ。お心遣い、感謝いたします」
スズランが敬礼するので、ぼくも合わせて敬礼する。スズランと大統領は親子のはずだけれど、親子の会話にはまったく聞こえない。
◇◇◇
政府機能ステーション・ビシュバリク、第五十七ブロック、統合宇宙政体連邦会議場――通称・花の宮殿。
この花の宮殿で、対ギデス大煌王国戦争の当座の勝利を祝うパーティーが開かれていた。
特務機関シータ所属員で招待されたのは、ゴールデン司令、ランナ博士、リッジバック、ネージュ、カイ、スズラン、ぼく、そしてほか数人の上級研究員だけだった。
ぼくたち以外の参加者は、統合宇宙軍の各方面軍から数十名単位で来ていて、合計では数百人といったところだった。誰も彼も階級章が華やかで、特に偉い人ばかりが呼ばれている会といった風情だ。
「えー、この度の戦争も残すところ、惑星オルガルムといくつかの重要度の低い星系のみとなりましたが、敵本丸のオルガルムについても、目下ヘルガ中将旗下艦隊が攻略中でありますから――」
一番前の壇上で演説をぶっているのは、ハービナム大将という人だった。惑星ザイアス攻略戦に赴く前のブリーフィングで見かけたので、おぼえている顔だった。
それにしても、実際に重要度の高いブリーフィングでは佐官クラスに話をさせ、勝った後になってから偉そうに演台に上っているありさまは、まあ、調子のいいことだとは思う。
ちなみに、特務機関シータはスズランの言うとおり末席で、演説台から見て、会場の一番遠いところに専用のテーブルが置かれている。
特務機関シータは結構戦果を揚げていると思うのだけど、そこはコネと肩書きの影響力が強い大組織だから、あまり扱いが良くなくても驚くにはあたらない。
ネージュもリッジバックも、いまでは特務機関シータの軍服を着ている。ぼくたちと同じ、紺色がベースの、青で襟などの縁取りがされている制服だ。
大将のありがたい演説が終わると、ビュッフェの料理を皿に載せて、参加者同士で交流を深める時間になった。
こういうときに、普段関係のない組織の人と関わりを深めるのがいいのだろうけど、ぼくはあんまりそんな気もわかず、特務機関シータの参加者とばかり話をした。
◇◇◇
ぼくは特務機関シータのテーブルのそばにひとりでいたネージュに話しかける。
「ネージュ、あらためて、特務機関シータに来てくれて嬉しいよ」
「歓迎に感謝するよ、ユウキ。といっても、この組織の司令が私の祖父だというのは、なんだか変な気がするな」
「まあ、そうだよね。きみには昔の記憶がないという話だったし……」
「ああ。私には、あの人が私の祖父だという記憶がない。それに、よしんば祖父だったとして、祖父の指揮下に入るというのも妙な気がするんだ」
「それもそうだね」
「司令の視線が上司のそれではなくて、なんだか、妙に含みのある感じでやりづらい」
「ああー……」
すごく思い当たる。ゴールデン司令はネージュのことを五年ぶりに再開した最愛の孫娘だと思っているし、隙あらば可愛がりたい感じだ。なのに、ネージュにその記憶がなくて戸惑っている感がある。
その感じが、特務機関シータの他の構成員が近くにいるときでも醸し出されているので、それが大問題だと思うけれども。
「といっても……。変な話だが、私には、あの人を知っているような気がするんだ。おぼろけになってしまった、あまり実感のない遠い記憶の中で……」
「それならよかったよ。それなら、そのうち司令ともうまく付き合えるようになると思うから」
それを聞いて、ネージュは微笑む。
「そうだな。……遅くなったが、あらためて、ここでよろしく頼む」
「こちらこそ」
ぼくとネージュは握手をした。
そこへやって来たのは、皿に肉を満載したカイだった。彼はぼくたちのところに近づくと、話しかけてきた。
「おうおう、なんだおふたりさん、仲いいじゃん。なに? 付き合ってんの?」
「カイ……」
いつも通りだけど、調子がいいもんだ。
それからカイは、ネージュに話しかけた。
「お嬢さん、ギデスの天幻部隊から移ってきた人だよね? 俺はカイ一等曹長。新入りなら俺の隊に入るってこともあると思うけど、名前は?」
見事な上から目線。
カイが握手をしようと手を伸ばしたので、ネージュは社交辞令としてそれを取る。
「私はネージュ中尉。配属はリリウム・ツー。中尉といってもあくまでもみなしの階級だから、スズラン中尉の指揮下に入ることになった。よろしく」
「ちゅ、中尉……! 上官どのでありましたか! これは失礼いたしました!」
カイは慌てふためき、恐縮して手を引く。そして敬礼。
ネージュの階級はギデス天幻部隊にいたときのものをそのまま継承している。統合宇宙軍内で出世するには相応の功績が必要になるし、一階級上げるのに何年もかかることがあるが、別の組織の階級は割とそのまま受け入れてしまう。思考停止的ではある。
「カイ一等曹長……だったか。ユウキ少尉とも仲がいいようだな。どういった関係だろうか?」
「はっ! ユウキとは……いや、ユウキ少尉とは学校の同窓でありまして、軍でも懇意にさせて頂いております! はいっ!」
「それはいい。古い付き合いなのだな。それが同じ組織にいるとは、お前たちは幸運だな」
「はっ! まったくもって! なんでユウキばかり出世するのかとは思っておりますが! ははは!」
本音がダダ漏れだぞ、カイ。
「出世か、それはいい」
途中から話を聞いていたのだろう、スズランがぼくたちの集まっているところへやって来る。
カイはまたもや驚く。発言をとがめられるのではないかと思ったのだろう。
「スズラン中尉!」
「でも、この会場を見渡してみろ。ほとんど全員が高級将校だ。あたしたちクラスの人間が今回呼ばれたのは特例中の特例だ。……出世するんなら、この人たちが上の階級に詰まっているわけだ」
「げえーっ……。そう思って見ると、マジ多いっすね」
「ずいぶん骨が折れそうだろ」
「俺には無理っすね」
カイは諦めるのがえらく早い。一方、スズランは骨が折れるとは言ったが、諦める気は毛頭なさそうなのが彼女らしい。
スズランはぼくのそばへと近寄ってくると、ぼくにだけ聞こえる声で言う。
「いまにこいつら全員飛び越えてやるからな。みんなのワンダーランドをあたしがつくるんだ」
彼女の野心はとどまるところを知らないし、おまけにその目標の大きさに戸惑うことさえもなさそうだ。なんて器の大きさだ。
ふと、出会ったときに彼女が泣いていたことを思い出した。
あのときの彼女は、航宙艦で誤ってぼくをひき殺してしまい、奇跡的に生き返ったぼくのために、なんでもすると言っていた。
今となっては、彼女がそんなもったいない生き方をしないでよかったと思うばかりだ。
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