30 / 66
第八章 天幻要塞・下
第八章 天幻要塞・下(3)失われた記憶、残された記録
しおりを挟む
「う、裏切るのか、ネージュ中尉!」
ラーム中将の声がこだまする。中将の両足が凍り始め、彼はその場から動けなくなる。ネージュのレクトリヴ能力だ。
「私には、あなたが裏切ったように聞こえました」
「たわけ! 頭目が生きている限り負けはないのだ! つまり、私さえ生きていれば、この戦い、負けることはないのだ! それがなぜわからん?」
ネージュは深い溜息を吐く。銃口の先は、ずっとラーム中将の額を捉えている。
「ひとつきかせてください。中将、あなたは“ギデスによる宇宙平和”についてどうお考えですか?」
「なに? なんだ、こんなときに」
「ギデス大煌王の目指す宇宙平和のありかたです。中将はどう考えているのですか?」
「ギデス大煌王国はなるべくして宇宙を支配するのだ! 優れたもの、強いものが支配する権利を持っているのは当然のことだろう?」
「では、そこで生まれる不幸な者たちはどうするのです?」
「そんな連中、クズだからクズに相応しい人生があるだけだ! ギデス大煌王国には何も関係がない! そんなことより私を早く安全に本国へ移送しろ! 褒美は取らせる。だから……」
「それでは、私はあなたとともに歩むことはできません。残念ながら」
「や、やめろ……!」
引き金を引き絞る代わりに、ネージュはラーム中将を全身氷付けにした。彼は死んではいないだろうが、喋らなくなってしまった。
「ネージュ」
「これがザイアス要塞の戦いの結末だ。私は、今後の身の振りについて考える必要がありそうだ。……統合宇宙政体で即刻処刑などにならなければな」
「そんなことは、ぼくが絶対に阻止する。絶対に」
「……それは頼もしいな」
ネージュはかすかに笑った。
◇◇◇
惑星ザイアスを完全に制圧したぼくら――特務機関シータは、旗艦のリリウム・ツーがエージー、ビーエフを伴って、政府機能ステーション・ビシュバリクへ凱旋帰国することになった。
そのころ、惑星ザイアスと同じように、惑星シダルゴ、惑星アンダルシアのあたりも制圧を完了したといいう情報が届いてきた。勝利の知らせは、今後ますます増えるだろうという見通しだ。
リッジバックはリリウム・ツー艦内のラボで治療を受けていた。新しい腕と脚のパーツを付けるのだという。このあたりは、スズランが権力を使って強硬に押し通した。
リッジバックはギデス大煌王国の軍人だったけれども、元々は自分の知り合いであり、もはや統合宇宙軍を裏切る心配はないと言い切ったのだ。これで許されるのは、スズランだからだろう。
艦内の廊下を歩いていると、手錠を掛けられたネージュと出会った。彼女は特務機関シータの男性職員ふたりに両脇を抱えられている。だが、本来その程度の拘束は無意味だろうとは思う。
特務機関シータの職員のうちひとりが、ぼくに言う。
「ユウキさん、こいつは営倉から出されました。またもやスズラン少尉のはからいだそうです」
「そうか。やっぱりそうなると思ってたよ。……ここから先はどこへ?」
「司令室です。手続き上、司令の許可があってようやく釈放となりますので」
「そう。それならここから先はぼくが引き継ぐよ」
「いや、……われわれの仕事ですので」
「いいんだ。ネージュはぼくの知り合いなんだよ。だからまかせて」
「……了解いたしました」
職員ふたりはネージュの両腕を放し、ぼくに対して敬礼する。ぼくも軽く敬礼で応じると、ネージュに見えるように進行方向を指さす。
「司令室まではぼくが案内するよ。……きみがぼくたちのところに来てくれて良かった」
「ここまでのところ……丁重な扱いには感謝している。だが、今後、正直どうしたものかと思っているよ」
ぼくとネージュは、リリウム・ツー艦内の廊下を、司令室に向かって歩く。
「そうだろうね。ぼくでさえ、成り行きで統合宇宙軍・特務機関シータに入ってしまったけれど、いまだに変な気がするよ」
「あのスズランという子は、なかなか無茶をするようだな。私の釈放も本部に掛け合って通してしまったようだ。私が艦内で暴れるようだったらどうするつもりなんだろう」
「スズランは思い切りがいいんだ。思い切って、相手のふところに飛び込んでしまうんだ。……いつもびっくりさせられるけどね」
「興味深いな。一度話をしてみたいね」
まがりなりにもネージュは敵軍に捕まっている状況だというのに、落ち着いていて、表情はやわらかい。
◇◇◇
司令室の前に着いたぼくは、部屋の入口のビープを鳴らす。
少し待ってくれという声が聞こえ、ネージュと一緒に待ったのち、扉が開いたので入室した。
部屋の中では、ゴールデン司令が椅子に座ってデスクで仕事をしていた。
「ゴールデン司令、彼女がネージュです」
「話は聞いていおる。ラーム中将確保の際に協力してくれたそうじゃな――」
そう言いながら、椅子を回転させて向き直ったゴールデン司令は、彼女の姿を見て、絶句した。
「な――」
言葉を発せないゴールデン司令を相手に、ネージュはやや格式張った自己紹介をする。
「ギデス大煌王国、天幻部隊ネージュ隊隊長、ネージュ中尉です。丁重な取り扱いに感謝する」
「ユ――いや、まさか」
「司令、どうしたんです?」
司令の様子は明らかに、ネージュの姿を見てからおかしい。
「い、いや――」
部屋のビープが鳴る。
誰かがゴールデン司令の部屋に入ろうとしているのだろう。だが、いまは取り込み中だ。
またビープが鳴る。
もはや連打しているという感じだ。
渋々ながら、ゴールデン司令はデスク上のインターホンのボタンを押す。
「なんじゃ一体」
『司令、ランナです。急ぎの用です。開けてください』
「用事ならメッセージを送ってくれればそれでいい」
『そういうレベルの話ではないんです。これはすぐに直接お見せしないと』
あまりの押しの強さに、ゴールデン司令は仕方なく部屋のドアを解錠する。
ランナ博士は小走りに入室してきたが、部屋の中にぼくとネージュもいるのを見て、少し驚いたようだった。だが、ぼくたちには軽い会釈だけをして、博士は司令のほうへと近寄る。
「……司令、これを見て下さい。ネージュ中尉の遺伝情報が統合宇宙政体のデータバンクでヒットしまして、その該当者というのが……」
ランナ博士はタブレット端末をゴールデン司令に見せる。画面に何が表示されているのかは、ぼくのほうからは見えない。
「こ、これは……、やはり……」
「お気づきでしたか、司令」
「ひと目見て、まさかとは思ったが……」
ゴールデン司令の目から熱い涙がこぼれる。
いや、しかし、この展開はどういうことだろう。完全に、ぼくとネージュは放置されてしまっている感じがある。
だが、ゴールデン司令は泣きながら椅子から立つと、そのままぼくたちのほうへと歩いてきて――これにはさすがにぎょっとした――そして、ネージュの両手を取って膝をついた。
「よく無事でいてくれた……、ユキ……」
「え、えっと……」
この状況に、ネージュは表情でぼくに助けを求める。といって、ぼくにできることなんて何もない。
ゴールデン司令が感極まりすぎて何もしゃべれなくなってしまったので、ランナ博士が代わりに説明をしてくれる。
「ネージュ中尉、あなたは、ゴールデン司令の生き別れのお孫さんなのよ。遺伝データではっきりしたわ」
「えっ……」
たしか、ゴールデン司令は元々惑星ザイアスに住んでいて、五年前のギデス軍の侵略の際に統合宇宙政体へと亡命したのだと聞いたっけ。その際に一家が離散してしまったとのことだったけれども。
「こんなに大きくなって……。うおおおおおおおん」
ゴールデン司令が大変なことになってしまっている。
「一体どういう冗談なんだ。ここでの歓迎の作法はこんな感じなのか? えっ、冗談じゃない? えっ……」
◇◇◇
結局のところ、特務機関シータによる――もとい、ゴールデン司令によるネージュの熱烈歓迎は、不発に終わった。最後まで、ネージュを混乱させただけだったからだ。
事務的な話としては、ネージュの身柄の安全は保障されることになり、いまのところ確定はしていないが、追って特務機関シータによる管理下に入るという通達が届くだろうとのことだった。
ぼくとネージュはゴールデン司令の部屋をあとにした。
「驚いたね」
「ああ……」
ネージュの表情はまだ微妙な様子だ。ゴールデン司令の泣きながらの歓迎を、どう受け取っていいか戸惑っている。無理もない。
「でも」とネージュは呟く。「私は、何か、知っている気がするんだ。司令が言っていた、ユキという名前を……」
ぼくは、以前見たゴールデン司令の端末に十二歳程度の金髪の少女の写真があったことを思いだしていた。いま思えば、あの少女はネージュだったのだ。
あの端末のロックが『YUKI』の四文字で開いたのも、今なら意味がわかる。スズランはぼくの名前が鍵になっていると言っていたけれど、種明かしされてしまえばなんのことはない。あれは自分の孫の名前を鍵にしていただけだ。
「ユキにユウキか。なんの偶然だろう」
ぼくは笑ってしまった。
「……まあいい。ユウキ、艦内を案内してくれ。折角狭い営倉から出られたんだ。広いところに行きたい」
ネージュの申し出に、ぼくは応じる。
「わかった。じゃあ、まずはブリッジに行こうか。艦長――スズランにも会えると思うから」
廊下からブリッジに至るドアをくぐると、そこには多数の職員がいて、政府機能ステーション・ビシュバリクに向かう航路のための仕事をしていた。
スズランは艦長席に座り、オペレーターたちの仕事ぶりを見ていたけれど、ぼくたちふたりが近づいてきたのに気がついて、振り返った。
深い緑の艶髪に、一筋の白いメッシュ。青々とした山の谷間に咲く、スズランの花を思わせた。
「おかえり。それと、ようこそ、リリウム・ツーへ」
われらが艦長は、ぼくの帰還とネージュの乗艦を、ほっとするような笑顔で歓待してくれたのだった。
ラーム中将の声がこだまする。中将の両足が凍り始め、彼はその場から動けなくなる。ネージュのレクトリヴ能力だ。
「私には、あなたが裏切ったように聞こえました」
「たわけ! 頭目が生きている限り負けはないのだ! つまり、私さえ生きていれば、この戦い、負けることはないのだ! それがなぜわからん?」
ネージュは深い溜息を吐く。銃口の先は、ずっとラーム中将の額を捉えている。
「ひとつきかせてください。中将、あなたは“ギデスによる宇宙平和”についてどうお考えですか?」
「なに? なんだ、こんなときに」
「ギデス大煌王の目指す宇宙平和のありかたです。中将はどう考えているのですか?」
「ギデス大煌王国はなるべくして宇宙を支配するのだ! 優れたもの、強いものが支配する権利を持っているのは当然のことだろう?」
「では、そこで生まれる不幸な者たちはどうするのです?」
「そんな連中、クズだからクズに相応しい人生があるだけだ! ギデス大煌王国には何も関係がない! そんなことより私を早く安全に本国へ移送しろ! 褒美は取らせる。だから……」
「それでは、私はあなたとともに歩むことはできません。残念ながら」
「や、やめろ……!」
引き金を引き絞る代わりに、ネージュはラーム中将を全身氷付けにした。彼は死んではいないだろうが、喋らなくなってしまった。
「ネージュ」
「これがザイアス要塞の戦いの結末だ。私は、今後の身の振りについて考える必要がありそうだ。……統合宇宙政体で即刻処刑などにならなければな」
「そんなことは、ぼくが絶対に阻止する。絶対に」
「……それは頼もしいな」
ネージュはかすかに笑った。
◇◇◇
惑星ザイアスを完全に制圧したぼくら――特務機関シータは、旗艦のリリウム・ツーがエージー、ビーエフを伴って、政府機能ステーション・ビシュバリクへ凱旋帰国することになった。
そのころ、惑星ザイアスと同じように、惑星シダルゴ、惑星アンダルシアのあたりも制圧を完了したといいう情報が届いてきた。勝利の知らせは、今後ますます増えるだろうという見通しだ。
リッジバックはリリウム・ツー艦内のラボで治療を受けていた。新しい腕と脚のパーツを付けるのだという。このあたりは、スズランが権力を使って強硬に押し通した。
リッジバックはギデス大煌王国の軍人だったけれども、元々は自分の知り合いであり、もはや統合宇宙軍を裏切る心配はないと言い切ったのだ。これで許されるのは、スズランだからだろう。
艦内の廊下を歩いていると、手錠を掛けられたネージュと出会った。彼女は特務機関シータの男性職員ふたりに両脇を抱えられている。だが、本来その程度の拘束は無意味だろうとは思う。
特務機関シータの職員のうちひとりが、ぼくに言う。
「ユウキさん、こいつは営倉から出されました。またもやスズラン少尉のはからいだそうです」
「そうか。やっぱりそうなると思ってたよ。……ここから先はどこへ?」
「司令室です。手続き上、司令の許可があってようやく釈放となりますので」
「そう。それならここから先はぼくが引き継ぐよ」
「いや、……われわれの仕事ですので」
「いいんだ。ネージュはぼくの知り合いなんだよ。だからまかせて」
「……了解いたしました」
職員ふたりはネージュの両腕を放し、ぼくに対して敬礼する。ぼくも軽く敬礼で応じると、ネージュに見えるように進行方向を指さす。
「司令室まではぼくが案内するよ。……きみがぼくたちのところに来てくれて良かった」
「ここまでのところ……丁重な扱いには感謝している。だが、今後、正直どうしたものかと思っているよ」
ぼくとネージュは、リリウム・ツー艦内の廊下を、司令室に向かって歩く。
「そうだろうね。ぼくでさえ、成り行きで統合宇宙軍・特務機関シータに入ってしまったけれど、いまだに変な気がするよ」
「あのスズランという子は、なかなか無茶をするようだな。私の釈放も本部に掛け合って通してしまったようだ。私が艦内で暴れるようだったらどうするつもりなんだろう」
「スズランは思い切りがいいんだ。思い切って、相手のふところに飛び込んでしまうんだ。……いつもびっくりさせられるけどね」
「興味深いな。一度話をしてみたいね」
まがりなりにもネージュは敵軍に捕まっている状況だというのに、落ち着いていて、表情はやわらかい。
◇◇◇
司令室の前に着いたぼくは、部屋の入口のビープを鳴らす。
少し待ってくれという声が聞こえ、ネージュと一緒に待ったのち、扉が開いたので入室した。
部屋の中では、ゴールデン司令が椅子に座ってデスクで仕事をしていた。
「ゴールデン司令、彼女がネージュです」
「話は聞いていおる。ラーム中将確保の際に協力してくれたそうじゃな――」
そう言いながら、椅子を回転させて向き直ったゴールデン司令は、彼女の姿を見て、絶句した。
「な――」
言葉を発せないゴールデン司令を相手に、ネージュはやや格式張った自己紹介をする。
「ギデス大煌王国、天幻部隊ネージュ隊隊長、ネージュ中尉です。丁重な取り扱いに感謝する」
「ユ――いや、まさか」
「司令、どうしたんです?」
司令の様子は明らかに、ネージュの姿を見てからおかしい。
「い、いや――」
部屋のビープが鳴る。
誰かがゴールデン司令の部屋に入ろうとしているのだろう。だが、いまは取り込み中だ。
またビープが鳴る。
もはや連打しているという感じだ。
渋々ながら、ゴールデン司令はデスク上のインターホンのボタンを押す。
「なんじゃ一体」
『司令、ランナです。急ぎの用です。開けてください』
「用事ならメッセージを送ってくれればそれでいい」
『そういうレベルの話ではないんです。これはすぐに直接お見せしないと』
あまりの押しの強さに、ゴールデン司令は仕方なく部屋のドアを解錠する。
ランナ博士は小走りに入室してきたが、部屋の中にぼくとネージュもいるのを見て、少し驚いたようだった。だが、ぼくたちには軽い会釈だけをして、博士は司令のほうへと近寄る。
「……司令、これを見て下さい。ネージュ中尉の遺伝情報が統合宇宙政体のデータバンクでヒットしまして、その該当者というのが……」
ランナ博士はタブレット端末をゴールデン司令に見せる。画面に何が表示されているのかは、ぼくのほうからは見えない。
「こ、これは……、やはり……」
「お気づきでしたか、司令」
「ひと目見て、まさかとは思ったが……」
ゴールデン司令の目から熱い涙がこぼれる。
いや、しかし、この展開はどういうことだろう。完全に、ぼくとネージュは放置されてしまっている感じがある。
だが、ゴールデン司令は泣きながら椅子から立つと、そのままぼくたちのほうへと歩いてきて――これにはさすがにぎょっとした――そして、ネージュの両手を取って膝をついた。
「よく無事でいてくれた……、ユキ……」
「え、えっと……」
この状況に、ネージュは表情でぼくに助けを求める。といって、ぼくにできることなんて何もない。
ゴールデン司令が感極まりすぎて何もしゃべれなくなってしまったので、ランナ博士が代わりに説明をしてくれる。
「ネージュ中尉、あなたは、ゴールデン司令の生き別れのお孫さんなのよ。遺伝データではっきりしたわ」
「えっ……」
たしか、ゴールデン司令は元々惑星ザイアスに住んでいて、五年前のギデス軍の侵略の際に統合宇宙政体へと亡命したのだと聞いたっけ。その際に一家が離散してしまったとのことだったけれども。
「こんなに大きくなって……。うおおおおおおおん」
ゴールデン司令が大変なことになってしまっている。
「一体どういう冗談なんだ。ここでの歓迎の作法はこんな感じなのか? えっ、冗談じゃない? えっ……」
◇◇◇
結局のところ、特務機関シータによる――もとい、ゴールデン司令によるネージュの熱烈歓迎は、不発に終わった。最後まで、ネージュを混乱させただけだったからだ。
事務的な話としては、ネージュの身柄の安全は保障されることになり、いまのところ確定はしていないが、追って特務機関シータによる管理下に入るという通達が届くだろうとのことだった。
ぼくとネージュはゴールデン司令の部屋をあとにした。
「驚いたね」
「ああ……」
ネージュの表情はまだ微妙な様子だ。ゴールデン司令の泣きながらの歓迎を、どう受け取っていいか戸惑っている。無理もない。
「でも」とネージュは呟く。「私は、何か、知っている気がするんだ。司令が言っていた、ユキという名前を……」
ぼくは、以前見たゴールデン司令の端末に十二歳程度の金髪の少女の写真があったことを思いだしていた。いま思えば、あの少女はネージュだったのだ。
あの端末のロックが『YUKI』の四文字で開いたのも、今なら意味がわかる。スズランはぼくの名前が鍵になっていると言っていたけれど、種明かしされてしまえばなんのことはない。あれは自分の孫の名前を鍵にしていただけだ。
「ユキにユウキか。なんの偶然だろう」
ぼくは笑ってしまった。
「……まあいい。ユウキ、艦内を案内してくれ。折角狭い営倉から出られたんだ。広いところに行きたい」
ネージュの申し出に、ぼくは応じる。
「わかった。じゃあ、まずはブリッジに行こうか。艦長――スズランにも会えると思うから」
廊下からブリッジに至るドアをくぐると、そこには多数の職員がいて、政府機能ステーション・ビシュバリクに向かう航路のための仕事をしていた。
スズランは艦長席に座り、オペレーターたちの仕事ぶりを見ていたけれど、ぼくたちふたりが近づいてきたのに気がついて、振り返った。
深い緑の艶髪に、一筋の白いメッシュ。青々とした山の谷間に咲く、スズランの花を思わせた。
「おかえり。それと、ようこそ、リリウム・ツーへ」
われらが艦長は、ぼくの帰還とネージュの乗艦を、ほっとするような笑顔で歓待してくれたのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる