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第六章 天幻要塞・上
第六章 天幻要塞・上(4)亡命すると言ってくれ
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統合宇宙軍地上部隊とザイアス要塞のギデス兵士たちの間で、激しい戦闘が繰り広げられている。
もちろん、ここはギデス大煌王国領内だから、ギデス側に有利だ。要塞にしつらえられた火器類が無数にあるのだから。統合宇宙軍は目の前に布陣している歩兵だけでなく、あらゆる方向からの銃撃を想定しなければならない。
そういった状況の割に、統合宇宙軍は善戦していた。
要塞からミサイルだって撃たれているはずなのに、戦闘ヘリ部隊は敵のヘリコプターを次々撃墜している。なかには要塞のミサイル発射台を攻撃する余裕のあるものまである。
特務機関シータのレクトリヴ能力者隊もよく戦っている。組成されたばかりで訓練時間もそう多くはないというのに。さすがにギデスの天幻部隊は練度が高く、やすやすと撃破はできていないのは確かだけれども。
「行くぞ、ユウキ!」
「う、うん」
走り出すスズランを追う。守るのはぼくなんだけどな。
すると――
そのとき、統合宇宙軍の戦車のひとつが大爆発を起こし、火柱を巻き上げた。
一台だけなら、その戦車がミサイルでも受けたのかと思うところだ。だけど、火柱は歩兵、ドローンの群れ、そして戦闘ヘリなどあらゆるところで起こる。
どこかに危険な強さの天幻兵士がいるようだ。
ぼくは警戒しながら見回す。
要塞の入口に堂々と立つ男がいた。細いゴーグル、朱いコンバットスーツ……。見覚えがある。
まさか、あいつがここに……いるのか。
――フォ・ダ・リッジバック。
「リッジバック!」
ぼくとスズランは要塞入口前に走った。途中、ぼくたちのほうへ撃ってくるドローンと兵士たちがいたので、爆縮する衝撃波を一撃浴びせて黙らせておいた。
「ほう、小僧。お前がここにいたのか。まさか、ネージュの部隊を壊滅させたのもお前か?」
リッジバックの隣には、負傷したネージュが控えている。彼女はぼくたちを見ると構えたが、リッジバックが片手で制止する。
「リ、リッジバック様……」
「面白い。少し見ないうちに、ずいぶんレクトリヴを使いこなせるようになったようだ」
ぼくはここが天幻要塞と呼ばれる、ギデス大煌王国の天幻部隊兵士の本拠地であることを思いだした。
「そうか、お前もここにいたのか、リッジバック。ここはなんせ、天幻要塞だからな」
「いや、そうではない。俺が所属するのは首都惑星オルガルムだ。オルガルムに帰投する途中、偶然別の用事でここに寄ったまでだ」
「なに……?」
そこへ、スズランが会話に割り込む。彼女は手にブラスターガンを持っているものの、リッジバックたちのほうに向けてはいない。
「リッジバック! 統合宇宙政体に戻ってくるなら今だ! 本当に帰ってくる気はないのか?」
必死な彼女の声を聴いて、リッジバックは小さく笑う。
「は、何を言いだすかと思えば。スズラン大統領令嬢、今、俺たちは勝っている。降伏する必要がどこにある」
「降伏の話なんかしてない! あたしは、お前に亡命の選択肢を与えようとしてるんだ」
「大統領令嬢としてそう言っているのか? それとも、軍人としてか?」
「あたしは、あたしとして言ってるんだ」
「……つまらん。肩書きのないお前に何の価値があるというんだ」
リッジバックは片手を掲げ、パチンと指を鳴らす。その瞬間、統合宇宙軍の戦闘ヘリが一機、爆散する。
ぼくは深く構えをとった。リッジバックの周辺の空間は“掴んで”いる。
「お前……っ!」
「掛かってこい、小僧。どれほどできるようになったかテストしてやろう」
リッジバックに向かって走りながら、ぼくは真空の刃でやつを斬りつけた。やつの身長の何倍も大きな刃でだ。
一撃、二撃、三撃――!
でも、リッジバックには傷ひとつ付かない。リッジバックの体表面には非常に強力なシールドが張られていて、それがぼくのレクトリヴ知覚の手が侵入するのを防いでいる。
リッジバックも強力な火焔を浴びせてくる。連続攻撃だ。だけれど、ぼくはシールドで攻撃を防ぎきった。
ぼくは、確実に、前よりも強くなっている。
「小僧、やるな」
「お、お前こそ!」
「だが、これはどうかな」
嫌な予感がしたぼくは、横方向に走って“それ”を回避した。
それは火焔の大蛇。巨大な火炎放射器。地を這う炎の竜巻――。
灼熱の炎の壁が、城門の前に陣取っていた統合宇宙軍の兵士たちを焼き尽くした。
「お、お前っ!!」
火焔をなんとか浴びずにすんだ統合宇宙軍の兵士が、リッジバックに照準を定めてブラスターライフルを連射する。リッジバックはそれらを身体に受けたが、無傷だった。
「邪魔な連中だ。横槍が入らないように、一掃してくれる」
リッジバックが腕を振るうと、爆発が起こり、やつを狙って撃っていた統合宇宙軍の兵士たちが吹き飛ばされる。
「やめろっ!!」
ぼくの言葉になど反応せず、リッジバックは腕を振るい続ける。
統合宇宙軍兵士、ドローン、戦闘ヘリ。次々に味方が爆発に見舞われていく。
形勢が一気に逆転した。ギデス側の歩兵たちや天幻部隊兵士たちが一気に城壁の外へと飛び出し、侵入を試みていた統合宇宙軍を要塞から引き離す。
城壁内で戦っていた特務機関シータのレクトリヴ能力者隊も半数近くが戦闘継続不能になった。多くの者が負傷し、航宙艦エージー、ビーエフに退避していっている。
敵戦闘ヘリの攻撃をかいくぐり、リリウム・ツーが城郭内に着陸した。ゴールデン司令がスピーカーを使ってぼくたちを呼びかける。
『スズラン、ユウキ、撤退じゃ。このままでは特務機関シータとしての任務継続は不可能と考える。早く戻れ!』
「く、くそっ!!」
破れかぶれで、ぼくはリッジバックに真空の刃で斬りかかった。
今度もまた防がれてしまうと思った。リッジバックだってそう思っていただろう。だけど今回は、リッジバックの右腕を切り落としたのだった。
サイボーグの腕から、機械部品が飛び散る。
「な、なに、小僧――」
怒りでぼくの攻撃力が増したのか、うかつにもリッジバックが集中を切らしたのかはわからない。だけど、攻め込むのは今しかない。
「待て! 待ってくれ、ユウキ!」
スズランの声がぼくを止めた。彼女はリッジバックにブラスターガンを向けていた。
「スズラン……」
「リッジバック、頼むから、統合宇宙政体に亡命すると言ってくれ。あんたのお兄さんだって、あんたがこんな生き方をするのを望んでなんかいないはずだ」
スズランの声は震えていた。目は涙目だ。
リッジバックの、お兄さん――?
「何を言う、スズラン。あいつは、あの事故で死んだ。統合宇宙政体にはあいつを生かすことができなかった。だが、ギデスは俺を生かしてくれた」
「だからって、ギデスの宇宙侵略に加担しなくたっていいじゃないか!」
「俺にとって、ギデスが宇宙を支配しようと、統合宇宙政体が宇宙を支配しようと、どっちだって構わん」
「あんたにとっちゃ、違いなんてないのかもしれないけど!」
そのとき、ザイアス要塞の正面の巨大な男のホログラムが浮かび上がる。軍服を着て、かつマントを羽織った、髑髏のような顔をした男だった。
『統合宇宙軍の諸君。私はラーム中将。この惑星ザイアスの総督である』
もちろん、ここはギデス大煌王国領内だから、ギデス側に有利だ。要塞にしつらえられた火器類が無数にあるのだから。統合宇宙軍は目の前に布陣している歩兵だけでなく、あらゆる方向からの銃撃を想定しなければならない。
そういった状況の割に、統合宇宙軍は善戦していた。
要塞からミサイルだって撃たれているはずなのに、戦闘ヘリ部隊は敵のヘリコプターを次々撃墜している。なかには要塞のミサイル発射台を攻撃する余裕のあるものまである。
特務機関シータのレクトリヴ能力者隊もよく戦っている。組成されたばかりで訓練時間もそう多くはないというのに。さすがにギデスの天幻部隊は練度が高く、やすやすと撃破はできていないのは確かだけれども。
「行くぞ、ユウキ!」
「う、うん」
走り出すスズランを追う。守るのはぼくなんだけどな。
すると――
そのとき、統合宇宙軍の戦車のひとつが大爆発を起こし、火柱を巻き上げた。
一台だけなら、その戦車がミサイルでも受けたのかと思うところだ。だけど、火柱は歩兵、ドローンの群れ、そして戦闘ヘリなどあらゆるところで起こる。
どこかに危険な強さの天幻兵士がいるようだ。
ぼくは警戒しながら見回す。
要塞の入口に堂々と立つ男がいた。細いゴーグル、朱いコンバットスーツ……。見覚えがある。
まさか、あいつがここに……いるのか。
――フォ・ダ・リッジバック。
「リッジバック!」
ぼくとスズランは要塞入口前に走った。途中、ぼくたちのほうへ撃ってくるドローンと兵士たちがいたので、爆縮する衝撃波を一撃浴びせて黙らせておいた。
「ほう、小僧。お前がここにいたのか。まさか、ネージュの部隊を壊滅させたのもお前か?」
リッジバックの隣には、負傷したネージュが控えている。彼女はぼくたちを見ると構えたが、リッジバックが片手で制止する。
「リ、リッジバック様……」
「面白い。少し見ないうちに、ずいぶんレクトリヴを使いこなせるようになったようだ」
ぼくはここが天幻要塞と呼ばれる、ギデス大煌王国の天幻部隊兵士の本拠地であることを思いだした。
「そうか、お前もここにいたのか、リッジバック。ここはなんせ、天幻要塞だからな」
「いや、そうではない。俺が所属するのは首都惑星オルガルムだ。オルガルムに帰投する途中、偶然別の用事でここに寄ったまでだ」
「なに……?」
そこへ、スズランが会話に割り込む。彼女は手にブラスターガンを持っているものの、リッジバックたちのほうに向けてはいない。
「リッジバック! 統合宇宙政体に戻ってくるなら今だ! 本当に帰ってくる気はないのか?」
必死な彼女の声を聴いて、リッジバックは小さく笑う。
「は、何を言いだすかと思えば。スズラン大統領令嬢、今、俺たちは勝っている。降伏する必要がどこにある」
「降伏の話なんかしてない! あたしは、お前に亡命の選択肢を与えようとしてるんだ」
「大統領令嬢としてそう言っているのか? それとも、軍人としてか?」
「あたしは、あたしとして言ってるんだ」
「……つまらん。肩書きのないお前に何の価値があるというんだ」
リッジバックは片手を掲げ、パチンと指を鳴らす。その瞬間、統合宇宙軍の戦闘ヘリが一機、爆散する。
ぼくは深く構えをとった。リッジバックの周辺の空間は“掴んで”いる。
「お前……っ!」
「掛かってこい、小僧。どれほどできるようになったかテストしてやろう」
リッジバックに向かって走りながら、ぼくは真空の刃でやつを斬りつけた。やつの身長の何倍も大きな刃でだ。
一撃、二撃、三撃――!
でも、リッジバックには傷ひとつ付かない。リッジバックの体表面には非常に強力なシールドが張られていて、それがぼくのレクトリヴ知覚の手が侵入するのを防いでいる。
リッジバックも強力な火焔を浴びせてくる。連続攻撃だ。だけれど、ぼくはシールドで攻撃を防ぎきった。
ぼくは、確実に、前よりも強くなっている。
「小僧、やるな」
「お、お前こそ!」
「だが、これはどうかな」
嫌な予感がしたぼくは、横方向に走って“それ”を回避した。
それは火焔の大蛇。巨大な火炎放射器。地を這う炎の竜巻――。
灼熱の炎の壁が、城門の前に陣取っていた統合宇宙軍の兵士たちを焼き尽くした。
「お、お前っ!!」
火焔をなんとか浴びずにすんだ統合宇宙軍の兵士が、リッジバックに照準を定めてブラスターライフルを連射する。リッジバックはそれらを身体に受けたが、無傷だった。
「邪魔な連中だ。横槍が入らないように、一掃してくれる」
リッジバックが腕を振るうと、爆発が起こり、やつを狙って撃っていた統合宇宙軍の兵士たちが吹き飛ばされる。
「やめろっ!!」
ぼくの言葉になど反応せず、リッジバックは腕を振るい続ける。
統合宇宙軍兵士、ドローン、戦闘ヘリ。次々に味方が爆発に見舞われていく。
形勢が一気に逆転した。ギデス側の歩兵たちや天幻部隊兵士たちが一気に城壁の外へと飛び出し、侵入を試みていた統合宇宙軍を要塞から引き離す。
城壁内で戦っていた特務機関シータのレクトリヴ能力者隊も半数近くが戦闘継続不能になった。多くの者が負傷し、航宙艦エージー、ビーエフに退避していっている。
敵戦闘ヘリの攻撃をかいくぐり、リリウム・ツーが城郭内に着陸した。ゴールデン司令がスピーカーを使ってぼくたちを呼びかける。
『スズラン、ユウキ、撤退じゃ。このままでは特務機関シータとしての任務継続は不可能と考える。早く戻れ!』
「く、くそっ!!」
破れかぶれで、ぼくはリッジバックに真空の刃で斬りかかった。
今度もまた防がれてしまうと思った。リッジバックだってそう思っていただろう。だけど今回は、リッジバックの右腕を切り落としたのだった。
サイボーグの腕から、機械部品が飛び散る。
「な、なに、小僧――」
怒りでぼくの攻撃力が増したのか、うかつにもリッジバックが集中を切らしたのかはわからない。だけど、攻め込むのは今しかない。
「待て! 待ってくれ、ユウキ!」
スズランの声がぼくを止めた。彼女はリッジバックにブラスターガンを向けていた。
「スズラン……」
「リッジバック、頼むから、統合宇宙政体に亡命すると言ってくれ。あんたのお兄さんだって、あんたがこんな生き方をするのを望んでなんかいないはずだ」
スズランの声は震えていた。目は涙目だ。
リッジバックの、お兄さん――?
「何を言う、スズラン。あいつは、あの事故で死んだ。統合宇宙政体にはあいつを生かすことができなかった。だが、ギデスは俺を生かしてくれた」
「だからって、ギデスの宇宙侵略に加担しなくたっていいじゃないか!」
「俺にとって、ギデスが宇宙を支配しようと、統合宇宙政体が宇宙を支配しようと、どっちだって構わん」
「あんたにとっちゃ、違いなんてないのかもしれないけど!」
そのとき、ザイアス要塞の正面の巨大な男のホログラムが浮かび上がる。軍服を着て、かつマントを羽織った、髑髏のような顔をした男だった。
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