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第六章 天幻要塞・上
第六章 天幻要塞・上(2)天幻兵士との激突
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ぼくたちはアンビメタル荷受所から精製所の横手に回り込んだ。幸い、警備しているギデス兵には見られずにすんだ。
残念なことに、アンビメタル精製所とザイアス要塞の間には、高い塀があった。塀の唯一の扉の前には、十人を超える兵隊が取り巻いている。
けれど、精製所の二階と要塞の二階は渡り廊下で繋がっているようだった。ぼくたちは、そこを通って要塞へと侵入することにした。
精製所の窓からは中が見え、鉱石を運び込む人々や、精製炉に材料を投げ込む人などが見える。
外から中が見えるということは、中からもこちらが見えるということだ。頭を低くして、できるだけ見つからないようにする。
スズランの先導のもと、ぼくたちは精製所の外階段を上る。二階から精製所に入ると、精製所の二階と要塞の二階を繋ぐ渡り廊下へと向かった。
「お前たち! 何をしている!」
さすがにここまで不審な動きをしていれば、警備に当たっているギデス兵に呼び止められてしまう。
ぼくは腕を振るい、その兵に天幻知覚レクトリヴの衝撃波を与えて昏倒させた。
それに気がついて、二、三人の兵隊がブラスターライフルを抱えて走ってくる。
ぼくはその兵隊たちと戦うために構えたが、それをスズランがいさめる。
「ユウキ、ここで時間を使っているわけにもいかない。先へ進むんだ」
「え、でも」
「あいつらは放っておくんだ。この場所に釘付けにされるわけにいかない」
スズランの言うことももっともだ。あのギデス兵たちと戦っている間に、また新手の兵隊が現れるだろう。そうなってしまっては動けなくなってしまう。
ぼくはスズランの後を追って走った。後ろからはブラスターライフルのビームが飛んでくるが、レクトリヴでシールドを張って偏向させた。
ぼくたちの前に、巨大な鉄の扉が現れた。この扉を抜ければ、ザイアス要塞へと入ることができる。
「くそっ、鍵が掛かってる。ユウキ! 頼む!」
「わかった!」
ぼくはレクトリヴの力で扉の表面、そして裏面をなぞると、巨大な真空の刃をもって鉄の扉を切り裂いた。
◇◇◇
スズランは扉の残骸を蹴り飛ばしながら要塞へと跳び込み、ジャケットの内側からブラスターガンを抜いた。
要塞の中を警備していたギデス兵三人がそこにいた。
彼らは鉄の扉が破壊され、ぼくたちふたりが侵入したのを見ると、ぼくたちに向かってブラスターライフルを撃ってきた。
スズランが敵のうちひとりを撃ち倒す。
慌てて飛び込んだぼくが、もうひとりのギデス兵をカマイタチで切り裂く。撃ち出されたビームがスズランのほうへと飛んできたので、それをシールドではじき返す。
残りひとり。ぼくはレクトリヴを使って地面を蹴り、離れたところにいるギデス兵との間の距離を一瞬で詰めて、衝撃波で殴り倒した。
敵を相当したのもつかの間、廊下の向こうから数人の兵隊たちが現れ、掛けてくる。彼らの間にはドローンも飛んでいる。
「増えてきたぞ、ユウキ。でも相手にするな。あたしたちは一階に下りるんだよ。城壁の門を破壊するんだ」
「わかってるって!」
ぼくたちは銃撃の音を背後に聞きながら、階段を飛び降りる。もちろん、スズランが撃たれないようにシールドでカバーした。
階段を下りきると、そこからはやはり廊下が延びていた。
警報が鳴っている。ぼくらの侵入に応じる態勢がとられている。
ギデス兵士たちと武装ドローンが集まってくる。
「ユウキ、突破するぞ! 一階の敵はどのみち倒さなきゃ進めない!」
「よし! まかせて」
敵の兵士たちとドローンによる銃撃。ぼくたちの周囲の床、壁を削り、見る間に弾痕だらけにしていく。
ぼくはスズランの前に立ち、ぼくたちふたりをカバーしきる大きなシールドを作り出した。
無数の弾丸をシールドがはじく。
敵の数が多い。一人ひとり個別に攻撃していくのは時間が掛かってしまう。
だけど今のぼくは、こういう大人数を相手にするときの方法がある。
ぼくは敵の兵士たち、そしていくつものドローンの周辺の空間をレクトリヴ知覚で探った。支配権を掌握する。
前に突きだした手を――拳を握る。爆縮する衝撃波。
兵士たちもドローンも、廊下の中心に向かってすっ飛び、お互いに激しくぶつかり合って床の上に落ちた。
ぼくは大きく深呼吸する。
「まとめて片付いたよ。スズラン、急ごう」
「ああ」
ぼくとスズランは走る。
◇◇◇
廊下の先にはホールが見える。ということは、要塞の外へ出るための出入口があるということだ。そこから外へ出ればいい。
だが、そのホールにはヘルメットを被った一団がいる。兵隊か? とは思うものの、装備がこれまで兵士たちとは異なる。
ぼくは、肌に何かが触れるのを感じた。
まずい――
ホールにいる一団が一斉に手をこちらに向けた。
全身をまさぐられるような感覚。
これは――
ぼくは天幻知覚レクトリヴを使って、“それら”をぼくの周囲から引き剥がした。
刹那、ぼくとスズランの周囲で無数の衝撃波が発生する。ぼくはそれを、自分たちからできるだけ遠くに追いやることに、知覚のすべてを使った。
「こ、こいつら、強い……っ!」
このヘルメットの一団は、全員レクトリヴ能力者だ。
天幻部隊――ギデス大煌王国に勝利をもたらしてきた特殊能力者の部隊だ。
レクトリヴ能力者と戦うのは、リッジバックに負けて以来初めてだ。ぼくの力で通用するだろうか。
敵の数は十五人。うちひとりは色違いのヘルメットを被っており、それが一団の中で隊長格であることを示している。
敵の一団から、ふたたび天幻知覚の手が伸びてくる。手に触れられたままでいるのはまずい。ぼくは自分の超知覚を使って、ぼくとスズランの周囲から彼らの手を排除する。
距離を詰める。
ぼくは走った。スズランもそのあとをついて来る。
ぼくたちの周囲、前後左右、そして上下で衝撃波が次々に発生する。ぼくたちの領域に挿し込まれようとする超知覚の手を、ぼくは撥ねのけ続ける。
「うああああああああああああああああっ」
ぼくは叫んでいた。そうでもしないと、脳が焼けそうだった。敵の隊長格以外の十四人の脳による攻撃を、ぼくはわずか一個の脳で処理しているのだから。
ホールに飛び出した。天井が高いそこで、ぼくは高く跳び上がる。水平方向に回転する。
さながら、回転するスキャナーだ。ホール中の空間を天幻知覚レクトリヴの手で撫でていく。手の数はもはや一本でも、二本でもなかった。
ホールじゅうを無数の手で撫でまわしてやった。
その最中、レクトリヴの手はスズランにも触れた。彼女はホールの大扉から外へ出ようとしたが、外にも十人単位の兵士がいることに気づき、扉の内側から外をうかがっている。
――そんなことも、ぼくには手に取るようにわかる。
敵の天幻兵士たちが、ぼくに向かって手を突き出し、ぼくの周囲の空間を奪取しようと足掻いている。
だけどゴメンな。ここはもう、ぼくのものなんだ。
ぼくはホールの中じゅうにカマイタチの嵐を巻き起こした。もちろん、スズランには当たらないように。
十五人の天幻兵士たちが吹き飛ぶ。壁のタペストリーも、床の絨毯も、天井のシャンデリアも、全部まとめて切り刻み、巻き上げた。
着地すると、さすがに呼吸が荒い。
それでも、どうやら、十五人の天幻兵士たちを撃破することはできたみたいだった。
「ユウキ!」
ホールの中の状況を確認し、そして扉の外を警戒しているスズランが、ぼくに声を掛けた。
「わかってる。すぐに行くよ」
「いや、お前、大丈夫か? そんな大技、お前できたのか?」
「あ、うん。なんだか、だんだんコツが掴めてきたみたいだ」
「……無理がないならいい。この外にも敵がいる。もうひと仕事だ」
残念なことに、アンビメタル精製所とザイアス要塞の間には、高い塀があった。塀の唯一の扉の前には、十人を超える兵隊が取り巻いている。
けれど、精製所の二階と要塞の二階は渡り廊下で繋がっているようだった。ぼくたちは、そこを通って要塞へと侵入することにした。
精製所の窓からは中が見え、鉱石を運び込む人々や、精製炉に材料を投げ込む人などが見える。
外から中が見えるということは、中からもこちらが見えるということだ。頭を低くして、できるだけ見つからないようにする。
スズランの先導のもと、ぼくたちは精製所の外階段を上る。二階から精製所に入ると、精製所の二階と要塞の二階を繋ぐ渡り廊下へと向かった。
「お前たち! 何をしている!」
さすがにここまで不審な動きをしていれば、警備に当たっているギデス兵に呼び止められてしまう。
ぼくは腕を振るい、その兵に天幻知覚レクトリヴの衝撃波を与えて昏倒させた。
それに気がついて、二、三人の兵隊がブラスターライフルを抱えて走ってくる。
ぼくはその兵隊たちと戦うために構えたが、それをスズランがいさめる。
「ユウキ、ここで時間を使っているわけにもいかない。先へ進むんだ」
「え、でも」
「あいつらは放っておくんだ。この場所に釘付けにされるわけにいかない」
スズランの言うことももっともだ。あのギデス兵たちと戦っている間に、また新手の兵隊が現れるだろう。そうなってしまっては動けなくなってしまう。
ぼくはスズランの後を追って走った。後ろからはブラスターライフルのビームが飛んでくるが、レクトリヴでシールドを張って偏向させた。
ぼくたちの前に、巨大な鉄の扉が現れた。この扉を抜ければ、ザイアス要塞へと入ることができる。
「くそっ、鍵が掛かってる。ユウキ! 頼む!」
「わかった!」
ぼくはレクトリヴの力で扉の表面、そして裏面をなぞると、巨大な真空の刃をもって鉄の扉を切り裂いた。
◇◇◇
スズランは扉の残骸を蹴り飛ばしながら要塞へと跳び込み、ジャケットの内側からブラスターガンを抜いた。
要塞の中を警備していたギデス兵三人がそこにいた。
彼らは鉄の扉が破壊され、ぼくたちふたりが侵入したのを見ると、ぼくたちに向かってブラスターライフルを撃ってきた。
スズランが敵のうちひとりを撃ち倒す。
慌てて飛び込んだぼくが、もうひとりのギデス兵をカマイタチで切り裂く。撃ち出されたビームがスズランのほうへと飛んできたので、それをシールドではじき返す。
残りひとり。ぼくはレクトリヴを使って地面を蹴り、離れたところにいるギデス兵との間の距離を一瞬で詰めて、衝撃波で殴り倒した。
敵を相当したのもつかの間、廊下の向こうから数人の兵隊たちが現れ、掛けてくる。彼らの間にはドローンも飛んでいる。
「増えてきたぞ、ユウキ。でも相手にするな。あたしたちは一階に下りるんだよ。城壁の門を破壊するんだ」
「わかってるって!」
ぼくたちは銃撃の音を背後に聞きながら、階段を飛び降りる。もちろん、スズランが撃たれないようにシールドでカバーした。
階段を下りきると、そこからはやはり廊下が延びていた。
警報が鳴っている。ぼくらの侵入に応じる態勢がとられている。
ギデス兵士たちと武装ドローンが集まってくる。
「ユウキ、突破するぞ! 一階の敵はどのみち倒さなきゃ進めない!」
「よし! まかせて」
敵の兵士たちとドローンによる銃撃。ぼくたちの周囲の床、壁を削り、見る間に弾痕だらけにしていく。
ぼくはスズランの前に立ち、ぼくたちふたりをカバーしきる大きなシールドを作り出した。
無数の弾丸をシールドがはじく。
敵の数が多い。一人ひとり個別に攻撃していくのは時間が掛かってしまう。
だけど今のぼくは、こういう大人数を相手にするときの方法がある。
ぼくは敵の兵士たち、そしていくつものドローンの周辺の空間をレクトリヴ知覚で探った。支配権を掌握する。
前に突きだした手を――拳を握る。爆縮する衝撃波。
兵士たちもドローンも、廊下の中心に向かってすっ飛び、お互いに激しくぶつかり合って床の上に落ちた。
ぼくは大きく深呼吸する。
「まとめて片付いたよ。スズラン、急ごう」
「ああ」
ぼくとスズランは走る。
◇◇◇
廊下の先にはホールが見える。ということは、要塞の外へ出るための出入口があるということだ。そこから外へ出ればいい。
だが、そのホールにはヘルメットを被った一団がいる。兵隊か? とは思うものの、装備がこれまで兵士たちとは異なる。
ぼくは、肌に何かが触れるのを感じた。
まずい――
ホールにいる一団が一斉に手をこちらに向けた。
全身をまさぐられるような感覚。
これは――
ぼくは天幻知覚レクトリヴを使って、“それら”をぼくの周囲から引き剥がした。
刹那、ぼくとスズランの周囲で無数の衝撃波が発生する。ぼくはそれを、自分たちからできるだけ遠くに追いやることに、知覚のすべてを使った。
「こ、こいつら、強い……っ!」
このヘルメットの一団は、全員レクトリヴ能力者だ。
天幻部隊――ギデス大煌王国に勝利をもたらしてきた特殊能力者の部隊だ。
レクトリヴ能力者と戦うのは、リッジバックに負けて以来初めてだ。ぼくの力で通用するだろうか。
敵の数は十五人。うちひとりは色違いのヘルメットを被っており、それが一団の中で隊長格であることを示している。
敵の一団から、ふたたび天幻知覚の手が伸びてくる。手に触れられたままでいるのはまずい。ぼくは自分の超知覚を使って、ぼくとスズランの周囲から彼らの手を排除する。
距離を詰める。
ぼくは走った。スズランもそのあとをついて来る。
ぼくたちの周囲、前後左右、そして上下で衝撃波が次々に発生する。ぼくたちの領域に挿し込まれようとする超知覚の手を、ぼくは撥ねのけ続ける。
「うああああああああああああああああっ」
ぼくは叫んでいた。そうでもしないと、脳が焼けそうだった。敵の隊長格以外の十四人の脳による攻撃を、ぼくはわずか一個の脳で処理しているのだから。
ホールに飛び出した。天井が高いそこで、ぼくは高く跳び上がる。水平方向に回転する。
さながら、回転するスキャナーだ。ホール中の空間を天幻知覚レクトリヴの手で撫でていく。手の数はもはや一本でも、二本でもなかった。
ホールじゅうを無数の手で撫でまわしてやった。
その最中、レクトリヴの手はスズランにも触れた。彼女はホールの大扉から外へ出ようとしたが、外にも十人単位の兵士がいることに気づき、扉の内側から外をうかがっている。
――そんなことも、ぼくには手に取るようにわかる。
敵の天幻兵士たちが、ぼくに向かって手を突き出し、ぼくの周囲の空間を奪取しようと足掻いている。
だけどゴメンな。ここはもう、ぼくのものなんだ。
ぼくはホールの中じゅうにカマイタチの嵐を巻き起こした。もちろん、スズランには当たらないように。
十五人の天幻兵士たちが吹き飛ぶ。壁のタペストリーも、床の絨毯も、天井のシャンデリアも、全部まとめて切り刻み、巻き上げた。
着地すると、さすがに呼吸が荒い。
それでも、どうやら、十五人の天幻兵士たちを撃破することはできたみたいだった。
「ユウキ!」
ホールの中の状況を確認し、そして扉の外を警戒しているスズランが、ぼくに声を掛けた。
「わかってる。すぐに行くよ」
「いや、お前、大丈夫か? そんな大技、お前できたのか?」
「あ、うん。なんだか、だんだんコツが掴めてきたみたいだ」
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