上 下
17 / 65
第六章 天幻要塞・上

第六章 天幻要塞・上(2)天幻兵士との激突

しおりを挟む
 ぼくたちはアンビメタル荷受所から精製所の横手に回り込んだ。幸い、警備しているギデス兵には見られずにすんだ。

 残念なことに、アンビメタル精製所とザイアス要塞の間には、高い塀があった。塀の唯一の扉の前には、十人を超える兵隊が取り巻いている。

 けれど、精製所の二階と要塞の二階は渡り廊下で繋がっているようだった。ぼくたちは、そこを通って要塞へと侵入することにした。

 精製所の窓からは中が見え、鉱石を運び込む人々や、精製炉に材料を投げ込む人などが見える。

 外から中が見えるということは、中からもこちらが見えるということだ。頭を低くして、できるだけ見つからないようにする。

 スズランの先導のもと、ぼくたちは精製所の外階段を上る。二階から精製所に入ると、精製所の二階と要塞の二階を繋ぐ渡り廊下へと向かった。

「お前たち! 何をしている!」

 さすがにここまで不審な動きをしていれば、警備に当たっているギデス兵に呼び止められてしまう。
 
 ぼくは腕を振るい、その兵に天幻知覚レクトリヴの衝撃波を与えて昏倒させた。

 それに気がついて、二、三人の兵隊がブラスターライフルを抱えて走ってくる。

 ぼくはその兵隊たちと戦うために構えたが、それをスズランがいさめる。

「ユウキ、ここで時間を使っているわけにもいかない。先へ進むんだ」

「え、でも」

「あいつらは放っておくんだ。この場所に釘付けにされるわけにいかない」

 スズランの言うことももっともだ。あのギデス兵たちと戦っている間に、また新手の兵隊が現れるだろう。そうなってしまっては動けなくなってしまう。

 ぼくはスズランの後を追って走った。後ろからはブラスターライフルのビームが飛んでくるが、レクトリヴでシールドを張って偏向させた。

 ぼくたちの前に、巨大な鉄の扉が現れた。この扉を抜ければ、ザイアス要塞へと入ることができる。

「くそっ、鍵が掛かってる。ユウキ! 頼む!」

「わかった!」

 ぼくはレクトリヴの力で扉の表面、そして裏面をなぞると、巨大な真空の刃をもって鉄の扉を切り裂いた。

 ◇◇◇

 スズランは扉の残骸を蹴り飛ばしながら要塞へと跳び込み、ジャケットの内側からブラスターガンを抜いた。

 要塞の中を警備していたギデス兵三人がそこにいた。

 彼らは鉄の扉が破壊され、ぼくたちふたりが侵入したのを見ると、ぼくたちに向かってブラスターライフルを撃ってきた。

 スズランが敵のうちひとりを撃ち倒す。

 慌てて飛び込んだぼくが、もうひとりのギデス兵をカマイタチで切り裂く。撃ち出されたビームがスズランのほうへと飛んできたので、それをシールドではじき返す。

 残りひとり。ぼくはレクトリヴを使って地面を蹴り、離れたところにいるギデス兵との間の距離を一瞬で詰めて、衝撃波で殴り倒した。

 敵を相当したのもつかの間、廊下の向こうから数人の兵隊たちが現れ、掛けてくる。彼らの間にはドローンも飛んでいる。

「増えてきたぞ、ユウキ。でも相手にするな。あたしたちは一階に下りるんだよ。城壁の門を破壊するんだ」

「わかってるって!」

 ぼくたちは銃撃の音を背後に聞きながら、階段を飛び降りる。もちろん、スズランが撃たれないようにシールドでカバーした。

 階段を下りきると、そこからはやはり廊下が延びていた。

 警報が鳴っている。ぼくらの侵入に応じる態勢がとられている。

 ギデス兵士たちと武装ドローンが集まってくる。

「ユウキ、突破するぞ! 一階の敵はどのみち倒さなきゃ進めない!」

「よし! まかせて」

 敵の兵士たちとドローンによる銃撃。ぼくたちの周囲の床、壁を削り、見る間に弾痕だらけにしていく。

 ぼくはスズランの前に立ち、ぼくたちふたりをカバーしきる大きなシールドを作り出した。

 無数の弾丸をシールドがはじく。

 敵の数が多い。一人ひとり個別に攻撃していくのは時間が掛かってしまう。

 だけど今のぼくは、こういう大人数を相手にするときの方法がある。

 ぼくは敵の兵士たち、そしていくつものドローンの周辺の空間をレクトリヴ知覚で探った。支配権を掌握する。

 前に突きだした手を――拳を握る。爆縮する衝撃波。

 兵士たちもドローンも、廊下の中心に向かってすっ飛び、お互いに激しくぶつかり合って床の上に落ちた。

 ぼくは大きく深呼吸する。

「まとめて片付いたよ。スズラン、急ごう」

「ああ」

 ぼくとスズランは走る。

 ◇◇◇

 廊下の先にはホールが見える。ということは、要塞の外へ出るための出入口があるということだ。そこから外へ出ればいい。

 だが、そのホールにはヘルメットを被った一団がいる。兵隊か? とは思うものの、装備がこれまで兵士たちとは異なる。

 ぼくは、肌に何かが触れるのを感じた。

 まずい――

 ホールにいる一団が一斉に手をこちらに向けた。

 全身をまさぐられるような感覚。

 これは――

 ぼくは天幻知覚レクトリヴを使って、“それら”をぼくの周囲から引き剥がした。

 刹那、ぼくとスズランの周囲で無数の衝撃波が発生する。ぼくはそれを、自分たちからできるだけ遠くに追いやることに、知覚のすべてを使った。

「こ、こいつら、強い……っ!」

 このヘルメットの一団は、全員レクトリヴ能力者だ。

 天幻部隊――ギデス大煌王国に勝利をもたらしてきた特殊能力者の部隊だ。

 レクトリヴ能力者と戦うのは、リッジバックに負けて以来初めてだ。ぼくの力で通用するだろうか。

 敵の数は十五人。うちひとりは色違いのヘルメットを被っており、それが一団の中で隊長格であることを示している。

 敵の一団から、ふたたび天幻知覚の手が伸びてくる。手に触れられたままでいるのはまずい。ぼくは自分の超知覚を使って、ぼくとスズランの周囲から彼らの手を排除する。

 距離を詰める。

 ぼくは走った。スズランもそのあとをついて来る。

 ぼくたちの周囲、前後左右、そして上下で衝撃波が次々に発生する。ぼくたちの領域に挿し込まれようとする超知覚の手を、ぼくは撥ねのけ続ける。

「うああああああああああああああああっ」

 ぼくは叫んでいた。そうでもしないと、脳が焼けそうだった。敵の隊長格以外の十四人の脳による攻撃を、ぼくはわずか一個の脳で処理しているのだから。

 ホールに飛び出した。天井が高いそこで、ぼくは高く跳び上がる。水平方向に回転する。

 さながら、回転するスキャナーだ。ホール中の空間を天幻知覚レクトリヴの手で撫でていく。手の数はもはや一本でも、二本でもなかった。

 ホールじゅうを無数の手で撫でまわしてやった。

 その最中、レクトリヴの手はスズランにも触れた。彼女はホールの大扉から外へ出ようとしたが、外にも十人単位の兵士がいることに気づき、扉の内側から外をうかがっている。

 ――そんなことも、ぼくには手に取るようにわかる。

 敵の天幻兵士たちが、ぼくに向かって手を突き出し、ぼくの周囲の空間を奪取しようと足掻いている。

 だけどゴメンな。ここはもう、ぼくのものなんだ。

 ぼくはホールの中じゅうにカマイタチの嵐を巻き起こした。もちろん、スズランには当たらないように。

 十五人の天幻兵士たちが吹き飛ぶ。壁のタペストリーも、床の絨毯も、天井のシャンデリアも、全部まとめて切り刻み、巻き上げた。

 着地すると、さすがに呼吸が荒い。
 
 それでも、どうやら、十五人の天幻兵士たちを撃破することはできたみたいだった。

「ユウキ!」

 ホールの中の状況を確認し、そして扉の外を警戒しているスズランが、ぼくに声を掛けた。

「わかってる。すぐに行くよ」

「いや、お前、大丈夫か? そんな大技、お前できたのか?」

「あ、うん。なんだか、だんだんコツが掴めてきたみたいだ」

「……無理がないならいい。この外にも敵がいる。もうひと仕事だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

えっちのあとで

奈落
SF
TSFの短い話です

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...