はるのひだまり ~君の音を聞きたかった~

秋野 奏

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『陽気な障害者』と『笑えない少年』の出会い

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ガチャガチャと響く金属音は僕にとって不快ではない。むしろ、好きな方だ。
僕は谷川陽太。中学二年生の軽音楽部に入っているだけの、ごく普通の男だ。
ただ、他人と違うことがあるとすればー・・・

「陽太、今日ヒマ?」
ヒマならどこか寄り道して帰ろうぜ、と最近転入してきた同級生が僕に話しかけてきたけれど、
「あ、おい、やめとけよ」
あいつ何度も誘っても来ないし、表情がないから不気味なんだよな、と言いながら他の男子が回収していった。

僕としても一人にさせてくれてありがたいし、不気味と言われることにも慣れているので、なんてことも無い。


そう、僕が他人と違うことを挙げるとするならば、一般人よりも表情が乏しいくらいだろうか。

(別に、意図してるわけでもないんだけどな)

もともとぼっちの体質だったのか、友達は現在進行形で0人だ。まあ、1人の例外はいるが。

「みんな帰ったかな、っと」
僕はみんなが下校したことを確認し、一度片付けた楽器を取り出して、吹き始めた。

楽器はトロンボーン。入学オリエンテーションで軽音学部を見学しに行った時、その時三年生だった先輩が
「そこの君、やってみるかい?」
と声をかけてくれたのが始まりだった。

僕が表情に乏しいことにも理解してくれたし、先輩が卒業したときは少し悲しかった。

それに、僕に花形のラッパやサックスなんて向いていない。
(目立ちたくもないからな)

一区切りするまで集中して吹いていたからか、後ろに立った人の気配にも気がつかなかった。
「陽太くんー!!」

ほれほれ、と僕に手をふる彼女は最近僕にまとわりついてきた、『陽気な障害者』だ。
彼女とは、いつも通り放課後練習をしている時に、出会った。

「ねえ、あなたの音って、綺麗だけどなんだか悲しいねー」

と変に間延びする声で話しかけてきたのが始まりだった。


「吹いている時に話しかけないでって言ったよね、『陽気な障害者』」
「あー!私のことちゃんと呼んでくれたー!今日は記念日だねえ!!よ・う・た・君!!」

名前を一字区切りにして呼ばれたことで普段モンゴル平原のように広い心を持つ僕でも少しばかりイラッときたので、フワフワとした髪の毛を引っ張ってやった。

「いたぁっ!!もう!ひどいなぁ!!」 

「うるさい」

耳元の大音量はキツイものがある。

「もう、そんなことしてたらとっておきのこと
教えてあげないよ!」
「は?」

嫌な予感がする。アイツはニマニマとしているが、その頭には黒い触角があった。






「ふふふふ、聞いて驚け、今から君は私と一緒にコンサートに行くのだ!拒否権はないぞ!!」

    
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