テンセイシャの舞台裏 ─幽霊令嬢と死霊使い─

葉月猫斗

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第40話

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「で、どうだった?雑談会は?」
「どんな風になってるのかも聞かせてくださいまし」

 教室に入ると、既に登校していた友人達からワクワクとした目で待ち構えられていた。良いと思える人は居たのか話せと言っているのだ。
 
 会話をした男子生徒はまだ全体の半分だが、もう一度話したい人は何人かピックアップしている。それを伝えれば友人達の頬が紅潮した。

「もしかしたらこのまま婚約までいくのかしら!?」
「さあ……それはどうかなぁ?」

 アマーリエは苦笑する。
 モニカ・ローウェルとして過ごす時間はいつか終わる。モニカでいるのも中々悪くないけど、自分はやはりアマーリエに戻りたいのだ。
 
 だから今の時点で婚約は考えられない。

 反応が悪いアマーリエに友人達はガッカリと肩を落とす。これでロマンスに進展したら楽しいが、無理強いはできない。

「それよりも雑談会にマリアス様とアランさんが参加してて驚いちゃって」
「えぇっ!それって本当なの!?」

 やはりインパクトはこちらの方が大きいらしい。問題グループの二人がパートナー決めの雑談会に参加したなんて、ちょっとした事件のようなものだ。

「でもあの二人、本当にパートナー務める気、あるのかなぁ……?」

 クラリスの言葉に全員首を傾げる。さすがに一人の女子に複数の男子が同伴するなんて暴挙はしないようだが、当日になったら何やかんやでパートナーそっちのけで彼女の世話を焼いていそうだ。
 パートナーになった人が可哀想だから本当に止めてほしい。

「疑問なのだけれど、パートナーが決まらなかった人は一人で出席しなくちゃいけないんですの?」
「それは大丈夫みたい。会場の人に聞いてみたけど、決まらなかった人はマナーを習得してる学校の使用人か、先生が相手役になるみたい」

 その措置は生徒に恥ずかしい思い出を作りたくない、学校の気遣いとは分かっているのだが。

「先生とは……ちょっと、嫌かな……?」

 うっかり自分達よりも随分年が離れた教師とダンスをする場面を想像してしまいげんなりする。それなら使用人がパートナーになった方が余程気が楽だ。

「でも、あの二人に関しては先生がパートナーになってくれた方が手綱を掴めるし、誰も不幸にならないのかもね」

 マーガレットの秀逸な言葉に、みんな声を挙げて笑ってしまうのだった。



 二日目はセオドアと実の無い会話をし、最終日の三日目はいよいよ個別会話となる。
 二日目の終了時に参加者全員の名前が書かれた用紙が配られ、そこに自分の名前を書いて、もう一度会話をしたい生徒の欄にチェックを入れる。

 そして両者とマッチした組み合わせが個別会話へと進めるのである。
 もし誰ともマッチできなかったら、救済措置で自分がチェックした生徒と一応は会話できるよう計らってくれるらしい。
 
 そうなったら悲しすぎるが、アマーリエは幸いにも五人の生徒とマッチしていて悲しい事態は避けられた。
 
 ちなみに可愛い子や格好良い子はやはりチェックされる数も多いらしい。誰々とマッチできなかったと、悲しがる生徒の姿もあちこちで見られた。

 個別会話ではマッチした人数によって上下するが、十五分から二十分の時間が与えられる。
 全員との会話が終わって退出する際に、まだ会場内に残っているアランとセオドアの姿を見かけた。
 
 彼らは背中を向いていて表情が窺えないが、女子生徒達は困っているような浮かない顔をしていた。恐らく誰ともマッチしなかったんだろう。

 (もしかしたら本当に先生と組む羽目になるのかもね……)

 学校側の気持ちを考えると使用人にあの二人を相手にするのは荷が重い。目が届く所に置く意味も兼ねて、教師をパートナーにしそうだ。
 それでも一人で入場するよりかはずっとマシだけど。
 
 個別会話を終えた生徒は、誰と組みたいか生徒の名前を第三希望まで記入する。これでマッチした生徒と晴れてパートナーとなる。

「これでお願いします」

 係員に用紙を渡してアマーリエの雑談会は無事に終了となった。誰とパートナーとなるかは、後日会場内に設置される掲示板にて発表される仕組みになっている。

 彼女は去り際に校内にある時計を見る。まだ時間はあるので部室を覗いて行こう。
 ついでにヘスターと同じクラスの先輩から、彼女の相手がどんな人なのか聞けたらと思い、部室のドアを開ける。

「モニカ、雑談会は終わったの?」
「うん、後は天に任せるしかないわね」

 「どうかパートナーが決まりますように」と両手を組んで祈ると、ナタリアが口元を隠して笑う。

「そうだ、私の話は一旦置いておいて、今日はマチルダ様はいらっしゃるかしら?」
「来てるけどどうかしたの?」

 何か用があるのかと不思議がるナタリアに、アマーリエは内緒話を打ち明けるように彼女の耳に口を寄せる。

「お姉様にパートナーを申し込んだ人が誰なのか気になって、少し話を聞きたいの」
「まさかその為だけに?」

 ナタリアが本気かと確認すると、駄々をこねるように「だって気になるんだものぉ」と身を捩る。その仕草が妹そっくりだ。

 かく言うナタリアも気にならないと言えば嘘になる。アマーリエの紹介で顔を合わせれば世間話する程度の仲にはなったが、あの浮世離れした雰囲気の人に惹かれる男はどんな人なのか、知る機会があれば知りたい。

「仕方ないわねぇ。貴女だけに行かせたら相手の迷惑になるかもしれないし、私も付き合うわ」

 あくまでアマーリエが迷惑をかけない為に、と言い訳をしてナタリアも腰を上げる。
 マチルダはいつもの席でステッチをしていた。

「あのぅマチルダ様、今お時間よろしいですか?」
「ええ、どうしたのかしら?」

 作業の手を止めて振り向くマチルダに、胸を高鳴らせながら聞いてみる。

「近いうちにダンスパーティが開かれますよね?それでアンお姉様のお相手がどんな方なのか気になってしまって……」

 マチルダは一瞬キョトンとして、そういえば親戚だったかと思い出す。

 アマーリエの純粋な好奇心あふれる眼差しに、仲が良いのねと微笑ましくなる。パートナーのレベルの高さで優位性を競おうと、ギスギスし合っている人間が居る一方で平和さに癒される。

「そうね、物静かな文学青年って感じの人ね。去年はラグビー部の人に誘われてたし、彼女結構人気があるのよ」

 物静かな文学青年。普段あまり主張しない人が、折角のチャンスを掴もうと勇気を出して申し出たのかもしれない。
 それに去年はラグビー部なんて体育会系と文化系で美味し過ぎる。

 ここが部室でなければキャアキャアと騒いでいたかもしれない。

「ほら、満足したでしょ?すみませんマチルダ様、ありがとうございます」
「いきなりすみませんでした!ありがとうございます!」

 ナタリアに引き摺られながら定位置に戻るアマーリエを見送ったマチルダは、自分の周りは平和で良かったと、再び作業に戻るのだった。

 
 
 後日、第一希望の生徒と無事にパートナーが成立し、安心して当日を迎えられる心地になったのだった。
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