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第16話
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部活に恋にと青春謳歌する生徒達だが学業という本分はこなさなければならない。その日々の学業の成果が問われるのがテストというものである。
テスト期間が迫りつつある学校内ではどこの教室も鬱々とした雰囲気が漂っていた。特に一年生は入学して初めてのテストとあって緊張はひとしおだ。
「ねぇ、これからみんなで図書室で勉強会しない?」
放課後となり、早く帰って勉強をしなければと思っているとマーガレットがこんな提案をして来た。図書室なら家や寮の自室と違ってだらけないし、一人で勉強するよりもきっと捗るだろうと。
確かに苦手な科目は誰かに教えてもらった方が頭に入りやすいかもしれない。そう考えたアマーリエは一も二もなく頷いた。他の子も大丈夫そうだ。
一年生の前半は魔法のテストは座学が中心で、実践的なのは理論などを履修してからである。
それに魔法学校だからといって魔法だけ勉強していれば良い訳ではない。歴史や文学、美術史、薬学と学ぶ科目は幅広く、この三年間で貴族や政治家として活動する為の教養を培うのだ。
図書室に行くと同じことを考えていた生徒は多かったらしく、空いている机は限られている。どうにか四人座れそうなスペースを見つけたと思ったらヘスターが勉強をしていた。
「お姉様?」
「あら、お友達も一緒?モニカがお世話になって」
「いえ、こちらこそ」
彼女達に気付いたヘスターが顔を上げる。友人の三人が慌てて会釈するのを家に居る時とは違う淑女らしい微笑で応えた。
「モニカ、お姉様が居るのね。私知らなかったわ」
「えっと本当は親戚なんだけど、『お姉様』って呼ばせてもらってるの……」
身内の登場で少し浮き立つ彼女達に、微笑ましい目を向けながら座るよう勧める。友人の身内が同じ場に居るのが気恥ずかしいのか、ドギマギとしながら腰をかける彼女達は可愛らしかった。
「テスト勉強?良ければだけど教えられる科目は教えるわよ?」
「良いんですか?」
「でもお邪魔じゃないですか……?」
嬉しそうに目を輝かせるマーガレットと気を遣おうとするキャサリン。それに勉強の合間の息抜きだと返してヘスターも交えた勉強会が始まった。
アマーリエも友人達も勉強熱心なようで、自分が得意な部分は教え合い、どうしても分からない部分はヘスターに教えを乞うていた。
その間ヘスターは自分の勉強を進めつつ、時折部下からの報告を聞いていた。勉強が疎かにならないようキリの良い時にであるが。
(向こうの様子はどう?)
(変わってません。勉強会とか言いつつただひたすらイチャついているだけです)
このように向こうに何も進展が無いからこそできる荒業でもある。
テンセイシャが「教え合う友達があなた達くらいしか居なくて……」と、ぶりっ子をしつつ攻略キャラ達に勉強会のお願いをしていたので念の為報告をもらっていたのだが、真面目に勉強をしている様子は全く見られなかった。
中庭にある東屋で勉強会を開いているようだが、問題を聞くのは良いとして教えられても「すごーい」「さすがー」と返すばかりで、問題を理解しようとする気はないらしい。ノートの書き込みも全然無いし、媚を売るのに必死なようだ。
物覚えの悪さを大袈裟に嘆くテンセイシャに彼等は「アマーリエは頑張っているよ」など、よく見ろと言いたくなるようなことをのたまっていて、彼等が図書室に来なくて良かったと思う。
こんな体たらくでテストは問題無いのかと問われたらヘスターはそう甘くは無いと断言できる。テストの結果も攻略キャラとの好感度に関わると聞いたのに、なぜああも彼女が余裕そうなのかは、テストの形式を勘違いしているふしがあるからかもしれない。
ミカが言うにはテストはミニゲーム形式で、それまで授業パートで出た用語を選択式か○×問題で答えていく方法になっているそうだ。全ての問題と答えをあらかじめ覚えていれば全問正解も可能らしい。それが通用すると思い込んでいるようだ。
しかし生憎テストは選択式もあるが、記述式が7割を占める。天下のルカヤがそんな生易しい形式で好成績をくれてやるほど甘いわけがないのだ。
(実際のテスト後の反応が楽しみだなぁ……)
自分でも性格が悪い自覚があるが、これは見物だとヘスターは素知らぬフリしてほくそ笑んだ。
見えない存在に見られているとは露知らず、テンセイシャはそれはもう上機嫌だった。
相変わらず周りには余所余所しくされているが、別にモブがどうこうしていようと自分には全く関係無い。いくら見せつけてもエリザベス達が無視しているのにはイラつくが、反っていつも一人でいる自分に彼等が心配して前よりも付き添うようになってくれたのは嬉しい誤算だった。
ランチだけでなく休み時間も放課後や朝の送り迎えにも常に彼等が付いて来てくれる。もうこれは付き合っているも同然ではないだろうか。
どうせエリザベス達もやせ我慢しているだけで心の中では腸が煮えくり返っているに違いない。澄ましていてもどうせ無駄なのに、男は自分のような甘えん坊な女に弱いのに、無駄な努力しちゃって無様だなぁとついニヤニヤしそうになる。
「よし、今日の勉強会はこれくらいにしておこうか」
「え?もう?もう少し頑張っていかない?」
折角面白くなってきたのにここで解散なんて聞いていない。粘ってみたが暗くなったら危ないからと、結局寮まで送ってもらうことになった。テンセイシャも渋々広げたまま全然進まなかった教科書とノートを鞄に入れる。
どうせならお泊りイベントとかもあれば良かったのにと内心で愚痴る。部活も無いこの期間が全員の好感度を一度に上げられる絶好のチャンスなのに、こうも時間が限られているんじゃじれったくてありゃしない。
バーナードは王子で公務があるし、他のキャラ達も忙しい身だ。だから勉強会などの一度に集まれるイベントは貴重なのに、もうちょっと時間に余裕をくれるとかさぁと、どこかの誰かに文句を言う。
「でも今日はありがとう!みんな頭良くて凄いなぁ、憧れちゃうなぁ。……実は明日もお願いしたいんだけど、良いかな?」
モジモジと上目遣いで彼等と目を合わせる。美人って得だ。彼等は一瞬虚を突かれたような顔をして、次に優しく微笑んだ。
「勿論僕達で良ければいつでも力になるよ。でも僕達はどうしても男だし……。女の子の友達が居ないのはやっぱり寂しいよね……」
眉を下げて気を遣うバーナードに彼女は心の底から要らないと首を横に振った。
同性の友達なんてハーレムエンドの邪魔になるだけだし、マウントの取り合いも一々ウザい。居ない子の悪口を言い合うのは楽しいけれど、それよりも人に羨ましがられながらイケメンにチヤホヤしてもらう方が断然良い。
大体モブと仲良くするメリットなんて無いし面倒だけしかない。何で攻略キャラが急にそんなことを言ってくるのかさえ理解できなかった。
「ううん、みんなが友達でいてくれれば私は大丈夫だよ!」
本当に攻略キャラさえ周りに居れば後はどうでも良いと思っての発言だった。だが彼女の顔を見て言葉を聞いた彼等が、勝手に行間を読んで勝手なことをしようとは、ヘスターもテンセイシャもこの時は予想だにしていなかった。
テスト期間が迫りつつある学校内ではどこの教室も鬱々とした雰囲気が漂っていた。特に一年生は入学して初めてのテストとあって緊張はひとしおだ。
「ねぇ、これからみんなで図書室で勉強会しない?」
放課後となり、早く帰って勉強をしなければと思っているとマーガレットがこんな提案をして来た。図書室なら家や寮の自室と違ってだらけないし、一人で勉強するよりもきっと捗るだろうと。
確かに苦手な科目は誰かに教えてもらった方が頭に入りやすいかもしれない。そう考えたアマーリエは一も二もなく頷いた。他の子も大丈夫そうだ。
一年生の前半は魔法のテストは座学が中心で、実践的なのは理論などを履修してからである。
それに魔法学校だからといって魔法だけ勉強していれば良い訳ではない。歴史や文学、美術史、薬学と学ぶ科目は幅広く、この三年間で貴族や政治家として活動する為の教養を培うのだ。
図書室に行くと同じことを考えていた生徒は多かったらしく、空いている机は限られている。どうにか四人座れそうなスペースを見つけたと思ったらヘスターが勉強をしていた。
「お姉様?」
「あら、お友達も一緒?モニカがお世話になって」
「いえ、こちらこそ」
彼女達に気付いたヘスターが顔を上げる。友人の三人が慌てて会釈するのを家に居る時とは違う淑女らしい微笑で応えた。
「モニカ、お姉様が居るのね。私知らなかったわ」
「えっと本当は親戚なんだけど、『お姉様』って呼ばせてもらってるの……」
身内の登場で少し浮き立つ彼女達に、微笑ましい目を向けながら座るよう勧める。友人の身内が同じ場に居るのが気恥ずかしいのか、ドギマギとしながら腰をかける彼女達は可愛らしかった。
「テスト勉強?良ければだけど教えられる科目は教えるわよ?」
「良いんですか?」
「でもお邪魔じゃないですか……?」
嬉しそうに目を輝かせるマーガレットと気を遣おうとするキャサリン。それに勉強の合間の息抜きだと返してヘスターも交えた勉強会が始まった。
アマーリエも友人達も勉強熱心なようで、自分が得意な部分は教え合い、どうしても分からない部分はヘスターに教えを乞うていた。
その間ヘスターは自分の勉強を進めつつ、時折部下からの報告を聞いていた。勉強が疎かにならないようキリの良い時にであるが。
(向こうの様子はどう?)
(変わってません。勉強会とか言いつつただひたすらイチャついているだけです)
このように向こうに何も進展が無いからこそできる荒業でもある。
テンセイシャが「教え合う友達があなた達くらいしか居なくて……」と、ぶりっ子をしつつ攻略キャラ達に勉強会のお願いをしていたので念の為報告をもらっていたのだが、真面目に勉強をしている様子は全く見られなかった。
中庭にある東屋で勉強会を開いているようだが、問題を聞くのは良いとして教えられても「すごーい」「さすがー」と返すばかりで、問題を理解しようとする気はないらしい。ノートの書き込みも全然無いし、媚を売るのに必死なようだ。
物覚えの悪さを大袈裟に嘆くテンセイシャに彼等は「アマーリエは頑張っているよ」など、よく見ろと言いたくなるようなことをのたまっていて、彼等が図書室に来なくて良かったと思う。
こんな体たらくでテストは問題無いのかと問われたらヘスターはそう甘くは無いと断言できる。テストの結果も攻略キャラとの好感度に関わると聞いたのに、なぜああも彼女が余裕そうなのかは、テストの形式を勘違いしているふしがあるからかもしれない。
ミカが言うにはテストはミニゲーム形式で、それまで授業パートで出た用語を選択式か○×問題で答えていく方法になっているそうだ。全ての問題と答えをあらかじめ覚えていれば全問正解も可能らしい。それが通用すると思い込んでいるようだ。
しかし生憎テストは選択式もあるが、記述式が7割を占める。天下のルカヤがそんな生易しい形式で好成績をくれてやるほど甘いわけがないのだ。
(実際のテスト後の反応が楽しみだなぁ……)
自分でも性格が悪い自覚があるが、これは見物だとヘスターは素知らぬフリしてほくそ笑んだ。
見えない存在に見られているとは露知らず、テンセイシャはそれはもう上機嫌だった。
相変わらず周りには余所余所しくされているが、別にモブがどうこうしていようと自分には全く関係無い。いくら見せつけてもエリザベス達が無視しているのにはイラつくが、反っていつも一人でいる自分に彼等が心配して前よりも付き添うようになってくれたのは嬉しい誤算だった。
ランチだけでなく休み時間も放課後や朝の送り迎えにも常に彼等が付いて来てくれる。もうこれは付き合っているも同然ではないだろうか。
どうせエリザベス達もやせ我慢しているだけで心の中では腸が煮えくり返っているに違いない。澄ましていてもどうせ無駄なのに、男は自分のような甘えん坊な女に弱いのに、無駄な努力しちゃって無様だなぁとついニヤニヤしそうになる。
「よし、今日の勉強会はこれくらいにしておこうか」
「え?もう?もう少し頑張っていかない?」
折角面白くなってきたのにここで解散なんて聞いていない。粘ってみたが暗くなったら危ないからと、結局寮まで送ってもらうことになった。テンセイシャも渋々広げたまま全然進まなかった教科書とノートを鞄に入れる。
どうせならお泊りイベントとかもあれば良かったのにと内心で愚痴る。部活も無いこの期間が全員の好感度を一度に上げられる絶好のチャンスなのに、こうも時間が限られているんじゃじれったくてありゃしない。
バーナードは王子で公務があるし、他のキャラ達も忙しい身だ。だから勉強会などの一度に集まれるイベントは貴重なのに、もうちょっと時間に余裕をくれるとかさぁと、どこかの誰かに文句を言う。
「でも今日はありがとう!みんな頭良くて凄いなぁ、憧れちゃうなぁ。……実は明日もお願いしたいんだけど、良いかな?」
モジモジと上目遣いで彼等と目を合わせる。美人って得だ。彼等は一瞬虚を突かれたような顔をして、次に優しく微笑んだ。
「勿論僕達で良ければいつでも力になるよ。でも僕達はどうしても男だし……。女の子の友達が居ないのはやっぱり寂しいよね……」
眉を下げて気を遣うバーナードに彼女は心の底から要らないと首を横に振った。
同性の友達なんてハーレムエンドの邪魔になるだけだし、マウントの取り合いも一々ウザい。居ない子の悪口を言い合うのは楽しいけれど、それよりも人に羨ましがられながらイケメンにチヤホヤしてもらう方が断然良い。
大体モブと仲良くするメリットなんて無いし面倒だけしかない。何で攻略キャラが急にそんなことを言ってくるのかさえ理解できなかった。
「ううん、みんなが友達でいてくれれば私は大丈夫だよ!」
本当に攻略キャラさえ周りに居れば後はどうでも良いと思っての発言だった。だが彼女の顔を見て言葉を聞いた彼等が、勝手に行間を読んで勝手なことをしようとは、ヘスターもテンセイシャもこの時は予想だにしていなかった。
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