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第15話
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「どうですか!?」
「とりあえず……本当に私の作品が好きなのは充分理解できたわ……」
週末を挟んだ次の活動日、アマーリエは約束通り作品を五点といくつかのデザイン案をナタリアに見せていた。
まさかデザイン案まで提出されるとは思っておらず、これにはナタリアも面食らう。
「はい!もうアイデアが湧いてきてしまって!とっても楽しかったです!」
この日まで、アマーリエはそれはもう休むことも忘れてデザイン画作成に没頭していた。ドレスも良いしタキシードも似合いそう。町娘風だって素敵だ。
思いつくままにラフ画を描き、その中から詳細を詰められそうな物や彼女の作品の雰囲気に似合ってそうな物を割り出し、またデザインを考える作業はとても楽しかった。最近のごたごたの所為でこの楽しい感覚を久しく忘れていたような気がする。
リンブルク家はというと、今までどこか遠慮がちで、憂いを含んだ表情を時折していた彼女の急な生気に、満ちた様子に驚きつつも見守ることにした。勿論宿題を忘れていないか声をかけたり、軽くでも良いから食べた方が良いと部屋に持って来たり、夜も遅いからと就寝を促していたが。
屋敷の幽霊はともかくとしてアマーリエはいずれ自分の肉体に戻る人間だ。幽霊達のように日々の寝食を気にしなくて良い生活に慣れてしまっては、身体を取り戻した後が大変である。
その為彼女には生者と同じように規則正しい生活を送らせている。いくら幽体では何時間も活動しても肉体的疲労は蓄積されないとはいえ、身体を酷使するようなやり方が癖になってしまったら不健康待ったなしだ。
そうした彼らの世話を受けつつ完成したのが、現在ナタリアの前に出されたデザインである。我ながら上出来だと思っているのだが彼女はどうだろう。ドキドキしながら彼女の判定を待った。
二つ返事で頷くのもどうかと思い、作品を持って来させたナタリアだったが、流石にデザイン案も追加してくるとは誰が予想できただろうか。
内心の動揺を悟られないよう表面上は平素なフリをして、とりあえずまずは持って来てくれた作品をチェックする。
作品はドレスが二点とワンピース、それと男児用の正装と水兵服だった。
作り方はどれもしっかりしていてセンスも良い。難しい縫製をしている部分があり、こんな服を作りたいという熱意から長年研磨を重ねて来たのが分かる。
それに何よりひと針ひと針に良い物を作ろうという心が篭っていた。使う道具は違うけれどそういうのは分かる。
技術も熱意も見られ、全体的なデザインも好みなアマーリエの作品をナタリアは直ぐに気に入った。
次に本人曰く「特に印象が強かった子の服を考えました!」と出されたデザイン画を手に取る。
モデルは垂れ耳イヌのジャックと、ハチワレネコのメアリーの二人らしい。それぞれパン屋の店主とパイプを持った探偵、帽子をかぶったお忍び風の令嬢とエプロンドレスの少女だった。
見た目の可愛さだけでなく、実際に作る時のことも考えられていて本気具合が窺える。それを見ているうちに段々と自分の作品のキャラクター性に奥行きが出てくるような気がしてきた。
例えば探偵のジャックは年若いけど数々の事件を解決してきた敏腕探偵で警察からの信用も厚い。王都の表通りに探偵事務所を構えていて、普段は人探しや浮気調査の依頼を請け負っている。
そこに貴族の令嬢がお忍びで彼の事務所にやって来て奇妙な事件の解決の依頼をする。なんということだ、今まで単体で存在していた二人にあっという間に繋がりができてしまったではないか。
だったら探偵にはやはり相棒が必要だ。それに捜査を手伝ってくれる刑事も居た方が良いかもしれない。
今まで沢山のあみぐるみを作って来たけれど、それを使ったストーリーが脳内で展開されるのは初めてだった。実家に帰省した際にでもカメラで写真を撮って、その写真を元に試しに絵本を作ってみても面白いかもしれない。
「作っても良いけど条件があるわ」
「はい……」
モニカが少し前のめりになる。彼女の喉が緊張からか上下したのがこちらにも見えた。
「ジャックは探偵の衣装で作ってくれる?それとメアリーのドレスは良いけど、リボンの形はこちらが指定する物に変えてほしいわ」
「それって……?」
モニカの期待が篭った声と視線に自然と口端が上がる。今まで様々な人に期待の目で見られてきたけれど、こんな期待なら悪くない。
「完全に負けたわ。貴女の作った洋服を着せる権利をあげる」
「え?やったぁ!ホントに良いんですね!早速作っても良いですか!?」
淑女的に許される範囲ではしゃぐモニカにしょうがないなぁと気持ちを込めた溜息を吐く。何だか子犬のようで憎めないのがちょっとだけ悔しい。
「現物を実家から送ってもらう必要があるから、採寸できるまでに少し時間がかかるけど……」
「問題ありません!待ちます!」
即答するモニカに尻尾を振る犬を脳内で思い浮かべながら、作品集の冊子を取り出し開く。次はどの子の服を作ってもらおうか考えて、大きな耳がチャームポイントのキツネにした。
「その間この子の衣装のデザインを考えてくれる?子どもと大人のイメージ両方ほしいのだけれど」
「はい!大丈夫ですよ!」
ウキウキと机の上に紙とペンを広げた彼女を眺めながら、ナタリアは先程思いついた相棒と刑事の構想を練り始める。知的なジャックの相棒となるならモチーフはヒョウかオオカミ、刑事はライオンかインテリな印象のあるシカでも良いかもしれない。
後にナタリアは自分のあみぐるみと彼女の衣装を使った珍しい写真仕立ての絵本を完成させる。この絵本が世間にどのような影響を与えるかは、この時点ではまだ誰も知らない。
「とりあえず……本当に私の作品が好きなのは充分理解できたわ……」
週末を挟んだ次の活動日、アマーリエは約束通り作品を五点といくつかのデザイン案をナタリアに見せていた。
まさかデザイン案まで提出されるとは思っておらず、これにはナタリアも面食らう。
「はい!もうアイデアが湧いてきてしまって!とっても楽しかったです!」
この日まで、アマーリエはそれはもう休むことも忘れてデザイン画作成に没頭していた。ドレスも良いしタキシードも似合いそう。町娘風だって素敵だ。
思いつくままにラフ画を描き、その中から詳細を詰められそうな物や彼女の作品の雰囲気に似合ってそうな物を割り出し、またデザインを考える作業はとても楽しかった。最近のごたごたの所為でこの楽しい感覚を久しく忘れていたような気がする。
リンブルク家はというと、今までどこか遠慮がちで、憂いを含んだ表情を時折していた彼女の急な生気に、満ちた様子に驚きつつも見守ることにした。勿論宿題を忘れていないか声をかけたり、軽くでも良いから食べた方が良いと部屋に持って来たり、夜も遅いからと就寝を促していたが。
屋敷の幽霊はともかくとしてアマーリエはいずれ自分の肉体に戻る人間だ。幽霊達のように日々の寝食を気にしなくて良い生活に慣れてしまっては、身体を取り戻した後が大変である。
その為彼女には生者と同じように規則正しい生活を送らせている。いくら幽体では何時間も活動しても肉体的疲労は蓄積されないとはいえ、身体を酷使するようなやり方が癖になってしまったら不健康待ったなしだ。
そうした彼らの世話を受けつつ完成したのが、現在ナタリアの前に出されたデザインである。我ながら上出来だと思っているのだが彼女はどうだろう。ドキドキしながら彼女の判定を待った。
二つ返事で頷くのもどうかと思い、作品を持って来させたナタリアだったが、流石にデザイン案も追加してくるとは誰が予想できただろうか。
内心の動揺を悟られないよう表面上は平素なフリをして、とりあえずまずは持って来てくれた作品をチェックする。
作品はドレスが二点とワンピース、それと男児用の正装と水兵服だった。
作り方はどれもしっかりしていてセンスも良い。難しい縫製をしている部分があり、こんな服を作りたいという熱意から長年研磨を重ねて来たのが分かる。
それに何よりひと針ひと針に良い物を作ろうという心が篭っていた。使う道具は違うけれどそういうのは分かる。
技術も熱意も見られ、全体的なデザインも好みなアマーリエの作品をナタリアは直ぐに気に入った。
次に本人曰く「特に印象が強かった子の服を考えました!」と出されたデザイン画を手に取る。
モデルは垂れ耳イヌのジャックと、ハチワレネコのメアリーの二人らしい。それぞれパン屋の店主とパイプを持った探偵、帽子をかぶったお忍び風の令嬢とエプロンドレスの少女だった。
見た目の可愛さだけでなく、実際に作る時のことも考えられていて本気具合が窺える。それを見ているうちに段々と自分の作品のキャラクター性に奥行きが出てくるような気がしてきた。
例えば探偵のジャックは年若いけど数々の事件を解決してきた敏腕探偵で警察からの信用も厚い。王都の表通りに探偵事務所を構えていて、普段は人探しや浮気調査の依頼を請け負っている。
そこに貴族の令嬢がお忍びで彼の事務所にやって来て奇妙な事件の解決の依頼をする。なんということだ、今まで単体で存在していた二人にあっという間に繋がりができてしまったではないか。
だったら探偵にはやはり相棒が必要だ。それに捜査を手伝ってくれる刑事も居た方が良いかもしれない。
今まで沢山のあみぐるみを作って来たけれど、それを使ったストーリーが脳内で展開されるのは初めてだった。実家に帰省した際にでもカメラで写真を撮って、その写真を元に試しに絵本を作ってみても面白いかもしれない。
「作っても良いけど条件があるわ」
「はい……」
モニカが少し前のめりになる。彼女の喉が緊張からか上下したのがこちらにも見えた。
「ジャックは探偵の衣装で作ってくれる?それとメアリーのドレスは良いけど、リボンの形はこちらが指定する物に変えてほしいわ」
「それって……?」
モニカの期待が篭った声と視線に自然と口端が上がる。今まで様々な人に期待の目で見られてきたけれど、こんな期待なら悪くない。
「完全に負けたわ。貴女の作った洋服を着せる権利をあげる」
「え?やったぁ!ホントに良いんですね!早速作っても良いですか!?」
淑女的に許される範囲ではしゃぐモニカにしょうがないなぁと気持ちを込めた溜息を吐く。何だか子犬のようで憎めないのがちょっとだけ悔しい。
「現物を実家から送ってもらう必要があるから、採寸できるまでに少し時間がかかるけど……」
「問題ありません!待ちます!」
即答するモニカに尻尾を振る犬を脳内で思い浮かべながら、作品集の冊子を取り出し開く。次はどの子の服を作ってもらおうか考えて、大きな耳がチャームポイントのキツネにした。
「その間この子の衣装のデザインを考えてくれる?子どもと大人のイメージ両方ほしいのだけれど」
「はい!大丈夫ですよ!」
ウキウキと机の上に紙とペンを広げた彼女を眺めながら、ナタリアは先程思いついた相棒と刑事の構想を練り始める。知的なジャックの相棒となるならモチーフはヒョウかオオカミ、刑事はライオンかインテリな印象のあるシカでも良いかもしれない。
後にナタリアは自分のあみぐるみと彼女の衣装を使った珍しい写真仕立ての絵本を完成させる。この絵本が世間にどのような影響を与えるかは、この時点ではまだ誰も知らない。
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