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第13話
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「ところで部活や委員会は決めたの?」
「はい、色々迷ったんですが手芸部に決めようかと思います。委員会は慈善委員に入りました」
エスターの問いにアマーリエが楽しそうに答える。己の性格を知ってもらうには上級生と知り合う機会のある部活や委員会に所属するのは最も手軽な方法とも言える。
部活は運動部も文化部も豊富でどれも活気があったのだが、結局アマーリエは手芸部を選んだ。
母親に人形やぬいぐるみの洋服を作ってくれた思い出から、自分も人形用の洋服作りが趣味になったらしい。部室の雰囲気も和気あいあいとしながらも作品作りへの熱意があり、ここなら楽しくそれでいて気が緩むことなく作品作りを続けられると判断したようである。
慈善委員はその名の通り慈善活動する委員会で、生徒が貴族や裕福な商家が集まる学校ならではの委員会とも言える。
定期的に寄付を集めたり、月に1回ずつ孤児院や病院などを訪れて何か困っていることはないか、入用な物は無いかなどを直接聞き出して議会への嘆願書を作成している。
また年に一回行われる学校開放日にはチャリティーバザーも運営しているのだ。
様々な立場の人の話を聞けるこの委員会をアマーリエはすぐに気に入って申請書を提出したみたいで。チャリティーバザーでは手芸部の活動で作った洋服を売る予定だと活き活きと話してくれた。
「ちなみにヘスター様は……」
「こら、まだ家に着いていないんだから『お姉様』と呼ばなきゃダメでしょ?」
「あっ、すみません!」
注意されたアマーリエがハッと口を手の平で隠す。外では2人は親戚で通しているので、ヘスターではなくお姉様と呼ばせているのだ。
ミカ曰く部活動や委員会は、パラメーター調整やそこに属している攻略キャラへの好感度アップに使われるのだが、ハーレムエンドを目指している場合に限って部活は帰宅部、委員会は広報委員に所属した方が到達しやすいらしい。
広報委員会は数ある委員会の中でも一番自由度が高く、最初の集まりで「全員あまりやる気がないみたい……」を選択するとその後の召集は無くなるそうだ。
また部活ではゲーム内で強制的に参加を義務付けられている日が月に一日定められているが、帰宅部にはそれも無い。
しかも帰宅部では部活に出ている攻略キャラを応援するイベントが他の部活よりも多く発生する。ここで万遍なく攻略キャラとの好感度を上げるのがハーレムエンドを目指す際のオーソドックスなやり方らしい。
「ちなみにお姉様はどの部活に入っているのですか?」
「私?私は美術部なの」
この国では芸術家を名乗る貴族も少なくない。芸術の神を信仰している家では一家揃って何事かの芸に秀でているのもざらである。
その歴史は古く、家督を継げない貴族の子女の一部が少しでも財産を得ようと自身の創作物を売ったのが始まりとされている。人気の芸術家になれればそれこそ多くの貴族や王の覚えも目出度く、社交界でも一定の地位を得られる上に縁談も良い条件のものが沢山舞い込むのだ。
ヘスターは家の仕事を手伝う傍ら、絵画を描いたり宝石細工を作成してアマチュアの展示会に出品している。
日々の生活に困らない裕福な貴族に生まれたからこそできる贅沢だとは彼女の談である。
「そういえば昨日例の彼女が演奏部の見学に来ていたらしく、キャサリンさんが煩くて仕方がなかったとプリプリしてました」
「ああ、確かに鬱陶しそうねぇ……」
見ていない筈のヘスターの瞼にその時の光景がまざまざと思い浮かぶ。演奏部はバイオリンやフルートなど、楽器を演奏する部でコンテストの入賞者も輩出している。その演奏部に所属しているのが大商人の息子のアランである。
一部の部活動にはファンも居るので見学者が居ること自体に問題は無いのだが、テンセイシャはアランの演奏に毎回キャアキャアと褒めちぎり声援を送っていた。
テンセイシャに盲目的なアランが照れる一方で、他の部員は集中力が途切れるし、他人の演奏が聞こえないしで、とうとう顧問の先生が「これ以上煩くするなら出て行ってくれ」と叱責したようだ。
アランが先生を取りなして結局静かにできるのなら見学しても良いと許しをもらえたが、問題が起きた時に宥めるくらいなら早めに本人に注意した方が良いだろうに。テンセイシャの魅了とは判断も危うくするらしい。
テンセイシャは流石に静かにしていたが、代わりに終始口を尖らせていてそれも他部員からの反感を買う要因になっていた。
(馬術部の見学の時にも大声出して応援して注意されていたようだしねえ……)
前にも騎士候補生のベンジャミンが居る馬術部に応援しに行って、他部員から「馬が驚くから止めてくれ」と再三にわたって注意したが聞き入られず、最終的に追い出されたと彼女に付けている部下のヒロトから報告を受けている。
馬は臆病な生き物で、大きな音などに敏感だ。特に乗っている最中に大きな音に驚いた馬が乗り手を振り落として怪我をさせるなんて事故も実際に起きている。
追い出される最中彼女は「追い出すなんて横暴」だの「自分はただ応援してただけ」だの「ベンジャミン様に言いつけてやる」だのと、自分勝手なことばかり叫んで周囲を呆れさせていた。その後もドスドスと淑女らしくない乱暴な足音を立てて寮へと帰って行ったそうだ。
「何はともあれ帰宅部でいてくれるようで良かったよねぇ。不純な動機で部活を選ばれても他の人に迷惑なだけになるし」
「結果的ですけど彼女に邪魔されない部を選んで良かったって思っちゃいました。他の人には申し訳ないんですけど」
「良いの良いの。私達は安寧を享受しておきましょ」
二人を乗せた馬車が屋敷に到着すると、ドアの前の様子がいつもと違っていた。沢山の荷物が所狭しと置かれていて、使用人達が忙しそうに荷物を中へと運び込んでいる。
それを見たヘスターが「あ」と嬉しそうに声を上げた。
「お姉様からのお土産ね。今回はどんなのを送ってくれたのかしら?」
「お姉様?」
アマーリエが首を傾げると、ヘスターは「そういえばまだ話していなかったかもしれないね」と右手を広げた状態で目の高さまで掲げる。
「リンブルク家には4人の子が居るんだけど上から長女のダイアナお姉様、長男のフェリックスお兄様、三番目が私で末っ子がダニエル。それでこの荷物はお姉様が旅行先でお土産を送ってくれたってことなの」
右手の指を曲げながらヘスターはリンブルク家の子ども達について説明する。
ダイアナは現在新婚旅行中だそうで、行く先々で品物を見繕ってはこうして送ってくれているらしい。それにしても数が凄く、ヘスター曰く「お姉様はあげたがりなの」と慣れているようだが、やはり財力がある分お土産のスケールが自分の家とは全然違うと物怖じしてしまう。
中に入ると荷物を抱えた使用人達が廊下を引っ切り無しに右往左往している。仕事の邪魔にならないよう隅でアイリーンに身体を返していると、夫人が「丁度良いところに」と両手の平に収まるくらいの大きさの箱を差し出した。
「アマーリエちゃんにですって。良かったわねぇ」
「え?」
何かの間違いかと思って目を合わせたが、夫人はニコニコと箱を引っ込める様子はない。本当に自分の分のお土産のようだ。自分のことがなぜ旅行中の彼女にも伝わっているのかはこの家だから今更驚かないとして、部外者なのにもらっても良いのだろうかと戸惑ってしまう。
「ただでさえお世話になってもらっているのにこれ以上良くしてもらう訳には……」
「良いのよぉ!うちのヘスターがお世話になっているんだもの!」
遠慮しようとしたが半ば強引に箱を持たされてしまった。
「もらっときなさい。お姉様は使ってくれないと『気に入ってもらえなかったのかしら……』ってしょげちゃうタイプだから」
ヘスターにまでこう言われてしまっては受け取る以外の選択は無く、呆気にとられながら呟くように礼を言うアマーリエだった。
自室にて箱を開けると可愛らしいサークル型のネックレスが入っていた。同封されていた手紙には妹が世話になっている旨が書かれていたが、世話になっているのはむしろこちらの方である。
身に着けてみると肌に馴染む似合うデザインだった。派手過ぎないし普段使いできそうだし、ダイアナはセンスが良いに違いない。
思いがけず良いものを手に入れてしまったアマーリエは、次に出す実家への手紙にリンブルク家へのお礼の品はくれぐれも良い物をと念押ししておくことを忘れずにいようと記憶に刻み込んだ。
一方ヘスターは自分宛ての箱を開けると、絵具やその土地の装飾デザインがまとめられた本が入っていた。装飾品やドレスも気分が上がるけれど創作のアイデアの幅が広がる物も嬉しい。幼い頃からよく自分の絵を褒めてくれていた姉が、こうして遠い地でも応援してくれていると思うと頑張れる。
手紙には姉の字で今は南の地に居ること、義理の兄がボートを漕いでいる最中に池に落ちたなど土産話が面白おかしく綴られていたが、最後の文面で片眉を上げる。
『最近貴女に友達ができたと聞きました。それを聞いた時、私はとても驚いて舞い上がってしまったわ。これからも彼女と貴女が仲良しでいられるのを祈っています』
「やだ、お父様かお母様の仕業ね」
ヘスターはやられたと犯人であろう顔を思い浮かべる。もしかしたら両方かもしれない。
自分は単に彼女があの子と雰囲気が似ていたからつい世話を焼いてしまうだけであって、別に友達とは思っていないのだが。きっと説明したところでハイハイと流されるばかりだろう。
自分に同年代の友人ができないのを家族全員が心配していたのは知っている。だからといってこれは気が早いのではないだろうか。
向こうにも都合があるだろうし、自分は年上との会話の方が好きだし、第一この問題が解決したらお互い関わる必要は無くなるというのに。
(あの後も何だかんだでごり押しで囲みそうな気がする……)
大変な人達に目を付けられたアマーリエに同情しつつ、もし未来でそうなりかけるなら一回叱ってやらなければと決めながら手紙を引き出しに仕舞った。
「はい、色々迷ったんですが手芸部に決めようかと思います。委員会は慈善委員に入りました」
エスターの問いにアマーリエが楽しそうに答える。己の性格を知ってもらうには上級生と知り合う機会のある部活や委員会に所属するのは最も手軽な方法とも言える。
部活は運動部も文化部も豊富でどれも活気があったのだが、結局アマーリエは手芸部を選んだ。
母親に人形やぬいぐるみの洋服を作ってくれた思い出から、自分も人形用の洋服作りが趣味になったらしい。部室の雰囲気も和気あいあいとしながらも作品作りへの熱意があり、ここなら楽しくそれでいて気が緩むことなく作品作りを続けられると判断したようである。
慈善委員はその名の通り慈善活動する委員会で、生徒が貴族や裕福な商家が集まる学校ならではの委員会とも言える。
定期的に寄付を集めたり、月に1回ずつ孤児院や病院などを訪れて何か困っていることはないか、入用な物は無いかなどを直接聞き出して議会への嘆願書を作成している。
また年に一回行われる学校開放日にはチャリティーバザーも運営しているのだ。
様々な立場の人の話を聞けるこの委員会をアマーリエはすぐに気に入って申請書を提出したみたいで。チャリティーバザーでは手芸部の活動で作った洋服を売る予定だと活き活きと話してくれた。
「ちなみにヘスター様は……」
「こら、まだ家に着いていないんだから『お姉様』と呼ばなきゃダメでしょ?」
「あっ、すみません!」
注意されたアマーリエがハッと口を手の平で隠す。外では2人は親戚で通しているので、ヘスターではなくお姉様と呼ばせているのだ。
ミカ曰く部活動や委員会は、パラメーター調整やそこに属している攻略キャラへの好感度アップに使われるのだが、ハーレムエンドを目指している場合に限って部活は帰宅部、委員会は広報委員に所属した方が到達しやすいらしい。
広報委員会は数ある委員会の中でも一番自由度が高く、最初の集まりで「全員あまりやる気がないみたい……」を選択するとその後の召集は無くなるそうだ。
また部活ではゲーム内で強制的に参加を義務付けられている日が月に一日定められているが、帰宅部にはそれも無い。
しかも帰宅部では部活に出ている攻略キャラを応援するイベントが他の部活よりも多く発生する。ここで万遍なく攻略キャラとの好感度を上げるのがハーレムエンドを目指す際のオーソドックスなやり方らしい。
「ちなみにお姉様はどの部活に入っているのですか?」
「私?私は美術部なの」
この国では芸術家を名乗る貴族も少なくない。芸術の神を信仰している家では一家揃って何事かの芸に秀でているのもざらである。
その歴史は古く、家督を継げない貴族の子女の一部が少しでも財産を得ようと自身の創作物を売ったのが始まりとされている。人気の芸術家になれればそれこそ多くの貴族や王の覚えも目出度く、社交界でも一定の地位を得られる上に縁談も良い条件のものが沢山舞い込むのだ。
ヘスターは家の仕事を手伝う傍ら、絵画を描いたり宝石細工を作成してアマチュアの展示会に出品している。
日々の生活に困らない裕福な貴族に生まれたからこそできる贅沢だとは彼女の談である。
「そういえば昨日例の彼女が演奏部の見学に来ていたらしく、キャサリンさんが煩くて仕方がなかったとプリプリしてました」
「ああ、確かに鬱陶しそうねぇ……」
見ていない筈のヘスターの瞼にその時の光景がまざまざと思い浮かぶ。演奏部はバイオリンやフルートなど、楽器を演奏する部でコンテストの入賞者も輩出している。その演奏部に所属しているのが大商人の息子のアランである。
一部の部活動にはファンも居るので見学者が居ること自体に問題は無いのだが、テンセイシャはアランの演奏に毎回キャアキャアと褒めちぎり声援を送っていた。
テンセイシャに盲目的なアランが照れる一方で、他の部員は集中力が途切れるし、他人の演奏が聞こえないしで、とうとう顧問の先生が「これ以上煩くするなら出て行ってくれ」と叱責したようだ。
アランが先生を取りなして結局静かにできるのなら見学しても良いと許しをもらえたが、問題が起きた時に宥めるくらいなら早めに本人に注意した方が良いだろうに。テンセイシャの魅了とは判断も危うくするらしい。
テンセイシャは流石に静かにしていたが、代わりに終始口を尖らせていてそれも他部員からの反感を買う要因になっていた。
(馬術部の見学の時にも大声出して応援して注意されていたようだしねえ……)
前にも騎士候補生のベンジャミンが居る馬術部に応援しに行って、他部員から「馬が驚くから止めてくれ」と再三にわたって注意したが聞き入られず、最終的に追い出されたと彼女に付けている部下のヒロトから報告を受けている。
馬は臆病な生き物で、大きな音などに敏感だ。特に乗っている最中に大きな音に驚いた馬が乗り手を振り落として怪我をさせるなんて事故も実際に起きている。
追い出される最中彼女は「追い出すなんて横暴」だの「自分はただ応援してただけ」だの「ベンジャミン様に言いつけてやる」だのと、自分勝手なことばかり叫んで周囲を呆れさせていた。その後もドスドスと淑女らしくない乱暴な足音を立てて寮へと帰って行ったそうだ。
「何はともあれ帰宅部でいてくれるようで良かったよねぇ。不純な動機で部活を選ばれても他の人に迷惑なだけになるし」
「結果的ですけど彼女に邪魔されない部を選んで良かったって思っちゃいました。他の人には申し訳ないんですけど」
「良いの良いの。私達は安寧を享受しておきましょ」
二人を乗せた馬車が屋敷に到着すると、ドアの前の様子がいつもと違っていた。沢山の荷物が所狭しと置かれていて、使用人達が忙しそうに荷物を中へと運び込んでいる。
それを見たヘスターが「あ」と嬉しそうに声を上げた。
「お姉様からのお土産ね。今回はどんなのを送ってくれたのかしら?」
「お姉様?」
アマーリエが首を傾げると、ヘスターは「そういえばまだ話していなかったかもしれないね」と右手を広げた状態で目の高さまで掲げる。
「リンブルク家には4人の子が居るんだけど上から長女のダイアナお姉様、長男のフェリックスお兄様、三番目が私で末っ子がダニエル。それでこの荷物はお姉様が旅行先でお土産を送ってくれたってことなの」
右手の指を曲げながらヘスターはリンブルク家の子ども達について説明する。
ダイアナは現在新婚旅行中だそうで、行く先々で品物を見繕ってはこうして送ってくれているらしい。それにしても数が凄く、ヘスター曰く「お姉様はあげたがりなの」と慣れているようだが、やはり財力がある分お土産のスケールが自分の家とは全然違うと物怖じしてしまう。
中に入ると荷物を抱えた使用人達が廊下を引っ切り無しに右往左往している。仕事の邪魔にならないよう隅でアイリーンに身体を返していると、夫人が「丁度良いところに」と両手の平に収まるくらいの大きさの箱を差し出した。
「アマーリエちゃんにですって。良かったわねぇ」
「え?」
何かの間違いかと思って目を合わせたが、夫人はニコニコと箱を引っ込める様子はない。本当に自分の分のお土産のようだ。自分のことがなぜ旅行中の彼女にも伝わっているのかはこの家だから今更驚かないとして、部外者なのにもらっても良いのだろうかと戸惑ってしまう。
「ただでさえお世話になってもらっているのにこれ以上良くしてもらう訳には……」
「良いのよぉ!うちのヘスターがお世話になっているんだもの!」
遠慮しようとしたが半ば強引に箱を持たされてしまった。
「もらっときなさい。お姉様は使ってくれないと『気に入ってもらえなかったのかしら……』ってしょげちゃうタイプだから」
ヘスターにまでこう言われてしまっては受け取る以外の選択は無く、呆気にとられながら呟くように礼を言うアマーリエだった。
自室にて箱を開けると可愛らしいサークル型のネックレスが入っていた。同封されていた手紙には妹が世話になっている旨が書かれていたが、世話になっているのはむしろこちらの方である。
身に着けてみると肌に馴染む似合うデザインだった。派手過ぎないし普段使いできそうだし、ダイアナはセンスが良いに違いない。
思いがけず良いものを手に入れてしまったアマーリエは、次に出す実家への手紙にリンブルク家へのお礼の品はくれぐれも良い物をと念押ししておくことを忘れずにいようと記憶に刻み込んだ。
一方ヘスターは自分宛ての箱を開けると、絵具やその土地の装飾デザインがまとめられた本が入っていた。装飾品やドレスも気分が上がるけれど創作のアイデアの幅が広がる物も嬉しい。幼い頃からよく自分の絵を褒めてくれていた姉が、こうして遠い地でも応援してくれていると思うと頑張れる。
手紙には姉の字で今は南の地に居ること、義理の兄がボートを漕いでいる最中に池に落ちたなど土産話が面白おかしく綴られていたが、最後の文面で片眉を上げる。
『最近貴女に友達ができたと聞きました。それを聞いた時、私はとても驚いて舞い上がってしまったわ。これからも彼女と貴女が仲良しでいられるのを祈っています』
「やだ、お父様かお母様の仕業ね」
ヘスターはやられたと犯人であろう顔を思い浮かべる。もしかしたら両方かもしれない。
自分は単に彼女があの子と雰囲気が似ていたからつい世話を焼いてしまうだけであって、別に友達とは思っていないのだが。きっと説明したところでハイハイと流されるばかりだろう。
自分に同年代の友人ができないのを家族全員が心配していたのは知っている。だからといってこれは気が早いのではないだろうか。
向こうにも都合があるだろうし、自分は年上との会話の方が好きだし、第一この問題が解決したらお互い関わる必要は無くなるというのに。
(あの後も何だかんだでごり押しで囲みそうな気がする……)
大変な人達に目を付けられたアマーリエに同情しつつ、もし未来でそうなりかけるなら一回叱ってやらなければと決めながら手紙を引き出しに仕舞った。
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