実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

ねぎ(塩ダレ)

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本編

運命の女神

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キネセンの大人げない大人の対応のせいで大騒ぎになって、霖(ながめ)は立体映像みたいな半透明から白い線だけみたいな幽霊みたいになったが(霖は幽霊だけど)、何だかんだで霖は消えなかった。
場の収拾はキネセンが飴をくれると言う良くわからない形で収まった。
霖曰く、キネセンは飴かチョコを補充してないと目が死んでしまうらしい。
メタボまっしぐらだな、キネセン。
そんなキネセンの秘蔵らしい飴を前に置かれて、霖は難しい顔をしている。

「……いいの?食べて??」

「じゃないと話が進まなそうだ。」

「なら罰として、後でこれ食べてよ?」

「は!?何で!?」

「捨てたらもったいないでしょ?食べるなら許してあげる。」

霖にそう言われ、キネセンは苦々しい顔をしていた。
え?何??
霖て食べれるの??
そしてその後のものを食べろって言ってるって事は、霖が食べても消えて無くならないようだ。
それを食べろと言われてるなんてキネセン羨ましいな!?
むしろ俺が食べたいわ!
なんか間接キスみたいでドキドキするじゃんっ!!
これは良いことを聞いた。
霖の怒りがあるので今は俺が食べたいとは言えないが、今度何か食べてもらって残りを貰おう。
俺はにやけながら目の前に置かれた飴を手に取った。

「ここで食べるなよ?」

「え??駄目なの??」

「化学室は飲食禁止だ。ちゃんと掃除はしてるが、後で腹が痛くなられても責任取れん。」

「怖いこと言うなよ!」

キネセンは相変わらず涼しい顔をしている。
霖が食べたと言った飴を渋々ポケットにしまうと、さっきのノートを開いて頬杖をついた。

「で?勇者、霖はどうしてここにいるんだ??」

「杵くん、蒸し返さないでよ……。」

「いいから。話がまとまらないだろ??」

「やっぱ、魔王と戦って死んだとか??」

「うん……そう……。」

「魔王と戦って死亡……これまた王道だな?」

「王道とか言わないでよっ!!」

「それで何で霖はここにいるの??」

「それは私からお話させて頂きます。」

いきなり俺たちとは違う、第三者、しかも女性の声がした。
俺とキネセンはびっくりして辺りを見渡す。
霖だけが、目を見開いて呟いた。

「運命の女神、インディラ……。」

「は??霖、お前、大丈夫か??」

「俺をここに送った女神だよ!嘘だろ!?」

「えっ!?やっぱり霖!本当に異世界転生してるんだっ!!」

「ちょっと!静かにして!」

霖はやけに慌てたような混乱したような状態だった。
キネセンはため息をついて立ち上がり、頭を押さえて俯く霖の後ろから、実験台に手を置いた。
基本、触れられない霖に対してできる、最大限の寄り添い方なんだと思う。
後ろから壁ドンならぬ机ドンのようにキネセンに囲まれた中で、霖は顔を上げ、小さく笑った。

「落ち着け、霖。」

「うん…。ありがと、杵くん……。」

霖が落ち着いたのを確かめると、キネセンは手を離し、霖の隣に座り直した。
それを霖がはにかんだように見つめる。
俺は興奮するだけで何も出来なかった。
やっぱ、こう言う時、大人と子供の差が出るのかな……。
何も出来なかった事が悔しくて悲しかった。

『勇者の現在地を確認しました。これより救済イベントを展開します。』

さっきの女神とも違う、機械的な音声が流れる。
暗い化学室の実験台の上が、突然、ぱあっとオレンジ色に輝いた。
そしてそこに一瞬、いかにもファンタジーな女神と言った女性が現れて、スッとオレンジ色に輝く白い鳩に変わった。

「……お久しぶりです。勇者よ。」

「え?ええと……お久しぶりです??」

「まだ記憶が安定していないようですね?貴方の転生は魔王の妨害が入った為に、シナリオ通りに進まなかったので仕方ありませんね……。」

鳩は困ったように言った。
俺はぽかんとそれを見ている。
何これ??現実??鳩が喋ってるよ??
光ってるし、何とかとか言う女神らしいし。

「ええと??インディラ?ですか??」

「ええ、そうです。転生してからシナリオに妨害が入り、長い間、貴方を見失っていました。どうか許して下さい。」

「はぁ…??」

霖は理解しているが記憶が混乱している感じだ。
まぁ無理もない。
いくら記憶があったって、今はこっちの世界の住人なんだから。

「インディラさんだっけ?霖……ああ、ここではこいつを霖と言う仮の名で呼んでるんだが、見ての通り少し混乱している。俺が話を進めても構わないか??」

キネセンがやけに冷静に鳩に話しかけた。
鳩は霖をしばらく見つめた後、ゆっくりとキネセンに顔を向けた。

「どうやらその方が良さそうです。勇者は子供の状態で停止しており、状況への対応性が未熟の状態のようです。」

「なら話を進めるが、霖の言う通り、こいつは別の世界からこの世界に転生したんだな?そしてそれはあんたがやったって事で良いのか?」

キネセンは内容が非現実的な事も鳩が喋ってる事も気にしないで、サクサク質問してノートをとっている。
何なんだこいつは??
キネセンてちょっと変だと思ってたけど、かなり変だな!?

「その通りです。勇者と言うのは人生の殆どを犠牲にしてその務めを果たします。ですので本当はやりたかった事を、1つ叶えるために異世界に転生させるのです。」

「何で自分の世界じゃ駄目なんだ??」

「一度勇者の魂となると、その世界で転生しても、勇者の生まれ変わりとなってしまいます。そうなると、願いを叶えるためにの障害となる事が多いのです。ですので、勇者と認識されていない異世界に一時的に転生させるのです。」

「なるほど。霖、ここまでで何か確認したいことはあるか?」

「ううん、大丈夫。ありがと、杵くん。」

キネセンはガリガリとノートに書き込んでいく。
なんとなく出遅れてしまった俺は、あわあわしながら言った。

「あ、あのさ?一時的にって今、言ったよな?なら、霖は元の世界に還るのか??」

鳩はやっと俺がいることに気がついたとでも言うように振り返り、俺を見つめた。
鳩なのに、なんか凄く威圧感を感じて俺は少しビビった。

「インディラ、友人の匠です。」

「……そうですね…友人も必要ですね……。」

霖が俺を紹介してくれた。
その言葉にペコリと頭を下げてみる。
鳩は妙な事を言って少し考えていた。
それから顔を上げて俺を見た。
もうあまり威圧的は感じなかった。

「その通りです。願いを叶えたら、魂を本来居るべき場所に戻します。」

「えっ!?なら霖は今から還るの!?」

鳩は少し困った様子で首を傾げた。
そして霖の顔を見上げる。

「出来ればそうしたいのです……。魔王が復活して、貴方を探しています……。」

「え……??千年は封じられるんじゃなかったんですか??」

「あれからもう、あちらでは246年経っています。」

何だよ、中途半端な数字だな??
静かな化学室に雨音とキネセンがペンを走らせる音だけが響いている。
霖は複雑な表情で鳩を見つめた。

「約、1/4ですね……。」

「ええ……貴方が先に命を落とした事で、封印がうまく作動しなかったのです。そして魔王の勇者に対する執念も影響しました。それは貴方の転生プログラムを混乱させ、そして目覚めを早めました。」

「……レスリー……。」

何だか良くわからないが、魔王と勇者はえらく因縁深いようだ。
まぁ、霖に執着しちゃう気持ちはわからないでもないけど……。
……ん??
え?待って!?
それってどういう事!?
魔王は勇者である霖をどうしたいの!?
殺したいの!?
それともお約束の展開で、自分のものにしたいの!?

「……魔王!許せんっ!!」

ちょっと妄想が飛んでしまった。
いきなりそう言って立ち上がった俺を、全員の目が見ている。
ヤバい、恥ずかしい……。
俺は赤くなって席に座り直した。
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