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本編
血気盛んなお年頃
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俺は夢でも見たのだろうか?
家に帰ってから、そんな事を考えた。
「霖が異世界転生者とか……。」
漫画やラノベの読みすぎか?
いや、霖が死ぬって時に混乱したのか?
よくわからない。
霖の告白の後、キネセンは考える事を放棄した。
「……とりあえず、テストが終わるまで、その話はお預けだ。」
キネセンにそう言われ、霖は酷く後悔した顔をした。
俺は霖にそんな顔をさせたくなかった。
だから何でそんな事を言うのかと、イライラしてキネセンを睨み付けた。
「柘植もテストが終わるまで、霖と会うな。いいな?」
「は!?勝手に決めんなよっ!!」
「霖もいいな?テストが終わるまで、柘植と会うな。」
「……わかった。ごめんね、匠。」
「おい!!勝手に決めるなっ!!……あっ!霖っ!!」
霖は困ったような笑みを浮かべて、ふっと姿を消した。
俺は荒々しく席を立って、キネセンに食って掛かった。
「キネセン!てめえっ!!」
「落ち着け。柘植。」
「はぁっ!?」
「俺がテストが終わるまでと言ったのは、別に霖を馬鹿にしているからじゃない。本当かは疑ってる部分はあるが、霖にとっては本物の記憶だ。何かに準えたものかも知れないが、霖の存在に関わるものだ。」
「……だから何だよっ!?」
「もし霖がそれを話した事で成仏?って言うのか?消えちまったら、お前、テストどころじゃなくなるだろ?」
俺は言葉を失った。
そこまで考えてなかった。
正直、今すぐ霖の話を聞きたいが、それによって霖は成仏?してしまう可能性があるのだ。
「だから、テスト後だ。テスト前にボロボロになられても、俺はお前の人生に責任なんかとれないからな。テスト後なら、お前もじっくり霖と向き合えるだろ?」
うちの学校は二期制だ。
だからこの時期に中間があって、暫く学校に来た後、夏休みに入る。
二期制は三期制に比べて、テストが少ない分、1回のテストが成績に与える影響も大きい。
それが今後の進路選択にだって関わってくる。
俺はそこまでは真面目に進路を考えている訳じゃないが、塾で耳にタコが出来るほど聞かされているので、その重さについては洗脳されている。
元々成績がいいと言えるわけじゃない。
巻き返せるような自信も俺にはない。
短い言葉の中で、キネセンが言わんとしているのは、そういうことだ。
何だよ、こんな時だけ教師になりやがって。
俺はその気遣いと言うか冷静な判断と言うかを理解したが、何となく反抗したくなってただムスッとして見せた。
キネセンは考えを放棄したんじゃない。
俺が学校に来ながらじっくり霖と向き合える時間と、もしもその結果、霖が消えてしまったとしても、夏休みになると言うところまで瞬時に考えたようだ。
「……何か…スゲー、ムカつく。」
その大人の余裕みたいのが、凄くムカつく。
だって、それは俺にはないものだ。
キネセンの背後に、一瞬ちらりと霖が見えた。
前と同じく、ただにっこりとキネセンに笑い掛けているような気がした。
キネセンはそれに気づかない。
本当、どんだけ鈍感なんだよ!?
「はいはい。どうせ嫌われ者ですよ、俺は。さっさと帰って勉強しろ。変な点数だったら、テスト後も霖に会わさないからな。」
「て言うかっ!!何で霖の事をキネセンが決めるんだよっ!!」
俺はやっぱりイライラして、キネセンに突っ掛かる。
キネセンはかったるそうに肩を回すと、何でもない事のように言った。
「だって俺、あいつの保護者みたいなもんだろ??制服着てるから、生徒みたいなもんでもあるし……。」
「え……?」
キネセンがそう言った時、霖の声だけが響いた。
俺とキネセンが辺りを見渡すが、姿は見えない。
「……俺…杵くんの事を保護者だなんて…思った事ないよ……。」
その声は少しの困惑と寂しさが含まれていた。
そして化学室のドアが、開きはしなかったがカタンと音を立てた。
キネセンは、あ~と変な声を出して額を押さえる。
何でだか俺の胸は妙に苦しくなった。
「……参ったな……この時期、姿が見えないといないと思っちまうんだよな……。」
キネセンは本当に馬鹿だ。
霖の姿が見えない時は、決まってキネセンの側にいるんだ、あいつは。
そんな事も、俺より1年も付き合いが長い癖に知らないのかよ。
その上、キネセンはこんな事を言った。
「いやでも、別に変な事、言ってないよな!?俺!?何でアイツ、拗ねてるんだ!?」
本当に馬鹿だ。
それで俺は、付き合っていられなくて、鞄を持って家に帰って来たのだ。
「キネセンって、マジで馬鹿だな!?」
俺はそう言いながら、ポスンとベッドにダイブした。
枕に顔を押し付けて、暫くじっとしている。
そしてごろんと寝返りを打って、天井を見上げた。
「……霖は……キネセンが好きなんだ……。」
わかっていた、はじめから。
改めて言葉にしてしまうと、何だかそれがくっきりとした形を持ってしまった。
唯一話が出来るから特別なんじゃない。
キネセンが好きだから、霖にとって特別なんだ。
正直、異世界転生者だとか言う話より、そっちの方がショックだ。
そしてその事が、曖昧にしてきたもう一つの事もはっきりさせてしまった。
「俺……霖が好きなんだ……。」
七不思議の梅雨時だけの幽霊だからとか、幽霊なのに怖くないとか、記憶がないからとか、そんな事で興味があるんじゃない。
霖がいつもキネセンに向けているあの笑顔。
優しくて温かく、はにかんだような微笑み。
俺はあの顔に一目惚れした。
そして俺は、あれを自分に向けて欲しかったんだ。
「あ~~っ!!気づいた瞬間!!失恋かよ~~っ!!」
霖が男だとかキネセンも男だとか、幽霊だとか何か色々、わかってはいる。
いると思う。
これは恋とは違うのかもしれない。
でも、キネセンにいつも嫉妬していたのはわかってる。
だから恋じゃないと、ただ幽霊に興味があるんだと無意識に言い聞かせてた。
恋じゃないかもしれない。
でも、友達に対する思いじゃないし、幽霊に興味があるからじゃない。
それだけははっきりわかる。
「……でも、キネセンは霖にその気はない。保護者とか言っちゃってるし……。」
馬鹿だとは思う。
あれだけ好き好きアピールされててわからないなんて、どうかしてる。
だけどそれなら、チャンスはまだあるかもしれない。
「……見てろよ!キネセンっ!!大人の余裕はなくてもな!俺らには若さと言う無謀な力があるんだからなっ!!」
無謀な事が果たして良いことなのかはわからないが、かったるそうな大人にはないエネルギーが、メラメラと俺の中で活気づいていた。
家に帰ってから、そんな事を考えた。
「霖が異世界転生者とか……。」
漫画やラノベの読みすぎか?
いや、霖が死ぬって時に混乱したのか?
よくわからない。
霖の告白の後、キネセンは考える事を放棄した。
「……とりあえず、テストが終わるまで、その話はお預けだ。」
キネセンにそう言われ、霖は酷く後悔した顔をした。
俺は霖にそんな顔をさせたくなかった。
だから何でそんな事を言うのかと、イライラしてキネセンを睨み付けた。
「柘植もテストが終わるまで、霖と会うな。いいな?」
「は!?勝手に決めんなよっ!!」
「霖もいいな?テストが終わるまで、柘植と会うな。」
「……わかった。ごめんね、匠。」
「おい!!勝手に決めるなっ!!……あっ!霖っ!!」
霖は困ったような笑みを浮かべて、ふっと姿を消した。
俺は荒々しく席を立って、キネセンに食って掛かった。
「キネセン!てめえっ!!」
「落ち着け。柘植。」
「はぁっ!?」
「俺がテストが終わるまでと言ったのは、別に霖を馬鹿にしているからじゃない。本当かは疑ってる部分はあるが、霖にとっては本物の記憶だ。何かに準えたものかも知れないが、霖の存在に関わるものだ。」
「……だから何だよっ!?」
「もし霖がそれを話した事で成仏?って言うのか?消えちまったら、お前、テストどころじゃなくなるだろ?」
俺は言葉を失った。
そこまで考えてなかった。
正直、今すぐ霖の話を聞きたいが、それによって霖は成仏?してしまう可能性があるのだ。
「だから、テスト後だ。テスト前にボロボロになられても、俺はお前の人生に責任なんかとれないからな。テスト後なら、お前もじっくり霖と向き合えるだろ?」
うちの学校は二期制だ。
だからこの時期に中間があって、暫く学校に来た後、夏休みに入る。
二期制は三期制に比べて、テストが少ない分、1回のテストが成績に与える影響も大きい。
それが今後の進路選択にだって関わってくる。
俺はそこまでは真面目に進路を考えている訳じゃないが、塾で耳にタコが出来るほど聞かされているので、その重さについては洗脳されている。
元々成績がいいと言えるわけじゃない。
巻き返せるような自信も俺にはない。
短い言葉の中で、キネセンが言わんとしているのは、そういうことだ。
何だよ、こんな時だけ教師になりやがって。
俺はその気遣いと言うか冷静な判断と言うかを理解したが、何となく反抗したくなってただムスッとして見せた。
キネセンは考えを放棄したんじゃない。
俺が学校に来ながらじっくり霖と向き合える時間と、もしもその結果、霖が消えてしまったとしても、夏休みになると言うところまで瞬時に考えたようだ。
「……何か…スゲー、ムカつく。」
その大人の余裕みたいのが、凄くムカつく。
だって、それは俺にはないものだ。
キネセンの背後に、一瞬ちらりと霖が見えた。
前と同じく、ただにっこりとキネセンに笑い掛けているような気がした。
キネセンはそれに気づかない。
本当、どんだけ鈍感なんだよ!?
「はいはい。どうせ嫌われ者ですよ、俺は。さっさと帰って勉強しろ。変な点数だったら、テスト後も霖に会わさないからな。」
「て言うかっ!!何で霖の事をキネセンが決めるんだよっ!!」
俺はやっぱりイライラして、キネセンに突っ掛かる。
キネセンはかったるそうに肩を回すと、何でもない事のように言った。
「だって俺、あいつの保護者みたいなもんだろ??制服着てるから、生徒みたいなもんでもあるし……。」
「え……?」
キネセンがそう言った時、霖の声だけが響いた。
俺とキネセンが辺りを見渡すが、姿は見えない。
「……俺…杵くんの事を保護者だなんて…思った事ないよ……。」
その声は少しの困惑と寂しさが含まれていた。
そして化学室のドアが、開きはしなかったがカタンと音を立てた。
キネセンは、あ~と変な声を出して額を押さえる。
何でだか俺の胸は妙に苦しくなった。
「……参ったな……この時期、姿が見えないといないと思っちまうんだよな……。」
キネセンは本当に馬鹿だ。
霖の姿が見えない時は、決まってキネセンの側にいるんだ、あいつは。
そんな事も、俺より1年も付き合いが長い癖に知らないのかよ。
その上、キネセンはこんな事を言った。
「いやでも、別に変な事、言ってないよな!?俺!?何でアイツ、拗ねてるんだ!?」
本当に馬鹿だ。
それで俺は、付き合っていられなくて、鞄を持って家に帰って来たのだ。
「キネセンって、マジで馬鹿だな!?」
俺はそう言いながら、ポスンとベッドにダイブした。
枕に顔を押し付けて、暫くじっとしている。
そしてごろんと寝返りを打って、天井を見上げた。
「……霖は……キネセンが好きなんだ……。」
わかっていた、はじめから。
改めて言葉にしてしまうと、何だかそれがくっきりとした形を持ってしまった。
唯一話が出来るから特別なんじゃない。
キネセンが好きだから、霖にとって特別なんだ。
正直、異世界転生者だとか言う話より、そっちの方がショックだ。
そしてその事が、曖昧にしてきたもう一つの事もはっきりさせてしまった。
「俺……霖が好きなんだ……。」
七不思議の梅雨時だけの幽霊だからとか、幽霊なのに怖くないとか、記憶がないからとか、そんな事で興味があるんじゃない。
霖がいつもキネセンに向けているあの笑顔。
優しくて温かく、はにかんだような微笑み。
俺はあの顔に一目惚れした。
そして俺は、あれを自分に向けて欲しかったんだ。
「あ~~っ!!気づいた瞬間!!失恋かよ~~っ!!」
霖が男だとかキネセンも男だとか、幽霊だとか何か色々、わかってはいる。
いると思う。
これは恋とは違うのかもしれない。
でも、キネセンにいつも嫉妬していたのはわかってる。
だから恋じゃないと、ただ幽霊に興味があるんだと無意識に言い聞かせてた。
恋じゃないかもしれない。
でも、友達に対する思いじゃないし、幽霊に興味があるからじゃない。
それだけははっきりわかる。
「……でも、キネセンは霖にその気はない。保護者とか言っちゃってるし……。」
馬鹿だとは思う。
あれだけ好き好きアピールされててわからないなんて、どうかしてる。
だけどそれなら、チャンスはまだあるかもしれない。
「……見てろよ!キネセンっ!!大人の余裕はなくてもな!俺らには若さと言う無謀な力があるんだからなっ!!」
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