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本編

ラノベと告白

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次の日、俺は意気揚々と化学室に向かった。
昨日はだいぶ霖と話ができた。
話しているうちに、小さい頃に見たアニメの話を霖が知っている事がわかり、続きが気になると言った霖の為に、原作のラノベと同じ作者のスピンオフ作品等を持って来たのだ。

「たのも~!!」

俺はふざけてそう、化学準備室に声をかけた。
キネセンはテスト問題を作っているらしく、出てこない。

「化学室、開けてあるから勝手に入れ~。」

そう、声だけで返事があった。
先生ってのも大変だな。
部活の顧問もしないといけないし、担任になったらクラスの生徒全員の対応をしないといけないし。
俺は絶対、教師とかにはなりたくない。
そう言えば、キネセンは何で先生やってるんだろ?
あんま向かない感じなのに?
そんな事を思いながら、俺は化学室に入った。

「あ!柘植くんっ!!」

霖がいつもの場所で嬉しそうに笑った。
テストを作っている時は準備室に入るなとキネセンに言われて、暇をもて余していたようだ。

「……あのさ、霖。」

「何?」

「その、柘植くんってやめない??」

「え?」

「俺も霖の事、名前で呼んでるんだし、なんか友達っぽくないし。」

まぁ、霖は名字も何もないんだけどさ。
友達になったんだし、名前で呼んで欲しいとか思うのは、普通だよな??

「え?なら何で呼べばいい?杵くんが柘植って呼んでたからそう呼んでたんだけど?」

「柘植は名字じゃん!俺、柘植 匠って言うの!だから匠って呼んでよ。」

「ん~わかった!呼び捨てでいいの?」

「うん。くんとかつけられるとかえってむず痒い。」

「そっか。なら匠でいいね?」

「うん……。」

にっこり笑って霖は言った。
呼ばれたら呼ばれたで何かむず痒かった。
赤くなりそうなのを誤魔化すために、俺は乱暴に台の上に鞄を置いた。

「昨日話してた、アニメの原作、持ってきた。」

「え!?本当!?嬉しい!!ありがとう!匠っ!!」

「……あ、でも、霖って本とか読めるの??」

「うん。頑張れば可能っ!!」

「頑張ればって何だよ。」

霖の反応にちょっと笑ってしまった。
でも何も考えずに本を持ってきたが、霖は幽霊だ。
色々突き抜けたりするのに、本を持って読めるのかという疑問に突き当たった。
とりあえず鞄から本を出して並べた。

「うわ~!!懐かしい~!!前編は持ってたんだよな~!!」

「その後、事故ったの??」

「買った覚えがないから、多分そうじゃないかな?」

俺は前編を手にとって、末尾を見た。
初版は……10年位前だ。
確か生きていればキネセンと同い年位って話だから、辻褄は合っている。
何かこうして同い年の友達として一緒にいるけど、生きていたらキネセンと同い年ぐらいなのだと思うと不思議な気がした。

「……なのに全く怖くねぇ…。」

「え?何が??」

興味津々でラノベを手にとっている霖を、俺は眺めたが、やっぱりキネセンと同い年とは思えないし、ごく普通の同年代にしか見えない。

「……本、掴めるんだ……。」

「うん。掴めるって意識してると簡単な物とかは掴めるよ。掴んだ事で人に害がない場合に限るけど。」

「害がない場合??」

「うん。前に頭に来て、杵くんに持ってた本を投げようとしたんだよ。ほんの弾みだったんだけどさ。でもその瞬間、本が手からすり抜けたんだよ。」

「何それ??」

「で、杵くんとどういう事だろうって調べたら、人に何かしようとしたら……特に害を与えるような時は、いきなり掴めなくなるってわかったんだ。」

「え??でも怪談話の幽霊とかって、人に何かしてくるよね??」

「うん。多分、そういう幽霊さんは特別なんだよ。それだけ強い思いがあるっていうか。」

「そうなの??」

「多分だけど。1度ね、俺、杵くんを突き飛ばした事があるんだ。」

「は!?害があることはできないんだろ!?」

「その時は夢中だったんだ。スズメバチがね杵くんを襲おうとしてて、助けなきゃって思って。杵くん気づいてなかったから、焦って突き飛ばしちゃったの。何で出来たのかその後、検証したんだけどできなくて。相当強い思いがないとできないんだね~って話に落ち着いたんだけどさ。」

「へ、へ~。」

だとしたら、怪談話の幽霊ってマジで怖いな。
幽霊も皆、霖みたいなら仲良くなれるのに。
霖はそのまま、本に集中してしまった。
俺はすることがなくて、しばらく霖を眺めていたが、なんとなく俺も本を手にとって読み始めた。
内容は知っているが、懐かしさもあって、集中してしまった。

今日の雨は、風もあって少し激しい。
バチバチとガラスを打ち付ける音がたまに化学室に響いた。
古びたガラス窓は、強い風が吹くと、微かにカタカタ音を鳴らした。

「………何やってんだ?お前ら……。」

俺たちが無言で本を読み続けていたので、キネセンが準備室と化学室を繋ぐドアから顔を出した。
俺と霖は顔を見合わせる。

「何って……読書??」

暗い中で本を読んでいたので、少々小言を言われる。
全体の電気をつけると、誰かに覗かれて、霖を見られるといけないので、キネセンはどこからかデスクライトを持ってきて、俺たちの実験台につけてくれた。

「……あ、それって……。」

俺たちの読んでいる本を見て、キネセンが呟いた。
まぁ、キネセンも知っているものだろう。

「懐かしいな……。異世界転生ものの走りだよな、これ。」

「そうそう。キネセン、詳しいじゃん?」

「いや、俺もこの頃は普通に学生だったし?」

俺たちが読んでない本を手に取り、キネセンはパラパラめくっている。
霖はページを開いたまま、何か考え込んでいた。

「……あのさ、ふたりとも……。」

「何?」

「もしも……もしもだよ?」

「うん?」

「異世界転生って本当にあったら、どう思う??」

おずおずとした霖の言葉に、俺は立っているキネセンを見上げた。
キネセンも、訝しげに俺と目を合わせた。

「霖、どういう意味だ?」

キネセンにそう言われ、霖は本で顔を隠した。
叱られた子供みたいでちょっと可愛い。

「あのね……俺、前世の記憶があるって言ったでしょ??」

「うん?」

「それね……異世界なんだよ……。冗談じゃなくてさ……。」

霖は困ったように言った。
俺とキネセンが言葉を失って無言になったその時、空には稲光が走って、化学室を一瞬、明るく照らした。
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