4 / 12
本編
おぼえている事
しおりを挟む
今日も絶好の雨模様だ。
これならカビも喜んで生えるだろう。
放課後、俺は化学準備室のドアをノックした。
「キネセン~、俺~。」
ドアの外から声をかけると、しばらくしてから、化学室のドアが開いた。
ここまで徹底して準備室に入れてもらえないと、逆に気になる。
「お前、塾とかないのか?」
「あるけど、まだ平気だし。」
「ふ~ん。」
聞いた割にはキネセンは興味無さそうだった。
俺が入ってからドアを閉める。
「あ!本当に来たんだ!」
奥の目立たない実験台に霖が座っていた。
にこにこと笑っていて、とても幽霊には見えない。
「今日はキネセンにくっついて歩かなかったの?」
「さんざん怒られたしね?」
霖は困ったような顔をした。
俺はなんとなく向かいの椅子に座った。
キネセンは教壇の椅子に座って、プリントに赤ペンを入れている。
一緒に話をするつもりはないようだ。
それを少し寂しそうに霖が見つめていた。
「霖はさ~、何にも覚えてないの?」
俺はそう声をかけた。
霖は俺に顔を向けると、う~んと少し考え込んだ。
「何にも……と言うか、違うことを思い出しちゃったせいで、そっちの記憶が薄れちゃったんだよね……。」
「違うこと??」
「うん。」
「何を思い出したの?」
「ええと……それは……。」
霖は言いにくそうに視線を泳がせた。
何だろう?聞いたらまずいのかな?
「言えない感じ?」
「いや……その……信じてもらえるか……。」
「え?何??」
霖はう~んと悩んでいる。
そんなにもったいぶられると、興味が湧く。
「何だよ、霖。教えてよ。」
「う~ん……その…前世の記憶って言うか……。」
「前世の記憶??」
「うん。多分、俺、トラックに跳ねられて死んだんだよね。」
「うん。」
「で、跳ねられる瞬間、急にその前世の記憶をドドドッて思い出して……。気づいたらここにいたんだけど、前世の記憶を思い出したって衝撃が凄すぎて、俺として生きていた時の事が思い出せなくなってたんだよ……。」
「……そりゃまた。」
「だから変な話、前世の事は思い出せるんだけど、俺としての過去は思い出せないって言うか……。」
霖は非常に困ったように眉を潜めた。
死に際に思い出がフラッシュバックするとはよく言うが、霖の場合、前世の記憶がフラッシュバックしてしまったようだ。
その印象が強すぎて、すかんと本来の記憶が失われてしまった。
そんな事ってあるのかな?等と思う。
「ちなみに、前世の記憶って何??」
「あ~。」
霖はさらに複雑な顔をした。
言いたくない、そう顔に書いてある。
まぁ、無理に聞き出してもな、何せ前世の記憶だし。
霖が何でここにいるのかや、何で梅雨にしか見えないのかには関係なさそうだ。
「お~、ちょっと面白いな!?」
唐突にキネセンがそう言った。
何事かと、霖とふたり、顔を向ける。
キネセンはスマホを手にこちらに向けていた。
「何してんだよ??キネセン??」
「いやな、昨日、お前が幽霊探査のアプリ使ってただろ?ちょっと興味が出てな。今、それで霖を観察してんだよ。本当か嘘かわからんが、一応反応はしてるから面白いなと思ってな。」
俺と霖は顔を見合わせた。
案外、子供っぽいところがあるんだな、キネセン。
「霖、ちょっと消えてみろ。」
「ええ~。」
「いいからいいから。」
面白がって、キネセンはそう言った。
霖がどうするか見ていたが、あまり躊躇いもなく、姿を消した。
「はは!一応、見えてなくてもアプリでは見えてるな。おい、ちょっと移動してみ?」
キネセンは面白そうに言った。
俺もスマホを取り出して、昨日のアプリをつける。
霖の姿は見えないので、スマホをあちこちに向けてみた。
「……………。」
俺のアプリだと、それっぽいものはなんとなく人形の光みたいに表示される。
俺のアプリだとあそこにいるな?
キネセンを見ると、似たような方向にスマホを向けている。
「ええ~?本当にわかるの??それ??」
霖がそう声をあげながら、姿を表した。
案の定と言うか、場所は向けていた付近。
何だか悔しそうだ。
「へ~、オモチャだと思ったが、それなりに何かは感知はしてるんだな~。」
キネセンは面白そうにそう言う。
霖に向けていたスマホを、あちこちに向ける。
「でも違うところも何か反応あるな?」
「いるんじゃね?幽霊。化学室だし。」
「化学室は関係ないだろ。」
「そうかな?何かいかにもじゃん、化学室。」
キネセンはそう言われて、俺にスマホを向けた。
ニヤニヤ笑っている。
「お~、柘植、お前の側にも何かいるぞ?」
「は!?嘘つくな!!」
「いやいや化学室だし?」
なんだこいつ、揚げ足とりやがって。
意外とキネセンは大人げないらしい。
俺はムッとして、キネセンにスマホを向けた。
「!?」
スマホの画面、キネセンの側に光る人型がある。
いや、わかってる。
これはオモチャで、本当にわかる訳じゃない。
「あれ?霖、どこ行った??」
キネセンがそう言うので辺りを見渡す。
霖はまた姿を隠したようで、見当たらない。
さっき見つけられたのが、悔しかったのだろう。
自分から注意が反れたのを良いことに、どこかに移動したらしい。
キネセンはスマホをゆっくり動かして、周囲を探っている。
「う~ん。所詮は紛い物のおもちゃか。」
そう言ってつまらなそうにスマホを置いた。
飽きるの早いな!?
俺はキネセンにスマホを向ける。
やっぱり側に光る人型がある。
人型はキネセンにくっついて、おんぶされているように見える。
「……………。」
大正デモクラシー。
俺も何だかどうでも良くなって、スマホを鞄にしまった。
「俺、そろそろ時間だから帰るわ。」
「お~。」
「え!?もう帰るの!?」
霖がそう言って、姿を表す。
場所は教壇の前だった。
わざわざ移動してから出てこなくてもいいのに。
何となく気に入らなかった。
「雨の中、ご苦労様々だな、現代っ子は。」
「え?キネセンは塾とか行かなかったのか?」
「そう言う意味では、俺もまだまだ現代っ子、現役か~。」
「え?杵くんは十分オヤジだよね??」
「は??オヤジは言い過ぎだろうが、この永遠の十代がっ!」
幽霊にオヤジ呼ばわりされるって微妙だな。
相手はずっと年を取らないわけだし。
「現代っ子とか言うあたりでもう終わってるな。」
「いい度胸だ、柘植。覚えてろ?」
キネセンは苦々しい顔をしていた。
相変わらずかったるそうだ。
「……また来る?」
霖が控えめに声をかけてきた。
俺は霖の顔を見て、来るよと素直に返せなかった。
「どうだろ?塾もあるし。」
「そっか……。」
来て欲しいなら、そう言えばいいだろ。
俺は何だかとてもイライラしていた。
「ふ~ん。」
キネセンが俺の事をニヤニヤと見ている。
何か見透かされたような気がして、変に焦った。
「何だよ、キネセン。」
「別に。気をつけて帰れよ?」
「うっせ。」
俺は鞄を掴んで、早足で化学室を出て行った。
これならカビも喜んで生えるだろう。
放課後、俺は化学準備室のドアをノックした。
「キネセン~、俺~。」
ドアの外から声をかけると、しばらくしてから、化学室のドアが開いた。
ここまで徹底して準備室に入れてもらえないと、逆に気になる。
「お前、塾とかないのか?」
「あるけど、まだ平気だし。」
「ふ~ん。」
聞いた割にはキネセンは興味無さそうだった。
俺が入ってからドアを閉める。
「あ!本当に来たんだ!」
奥の目立たない実験台に霖が座っていた。
にこにこと笑っていて、とても幽霊には見えない。
「今日はキネセンにくっついて歩かなかったの?」
「さんざん怒られたしね?」
霖は困ったような顔をした。
俺はなんとなく向かいの椅子に座った。
キネセンは教壇の椅子に座って、プリントに赤ペンを入れている。
一緒に話をするつもりはないようだ。
それを少し寂しそうに霖が見つめていた。
「霖はさ~、何にも覚えてないの?」
俺はそう声をかけた。
霖は俺に顔を向けると、う~んと少し考え込んだ。
「何にも……と言うか、違うことを思い出しちゃったせいで、そっちの記憶が薄れちゃったんだよね……。」
「違うこと??」
「うん。」
「何を思い出したの?」
「ええと……それは……。」
霖は言いにくそうに視線を泳がせた。
何だろう?聞いたらまずいのかな?
「言えない感じ?」
「いや……その……信じてもらえるか……。」
「え?何??」
霖はう~んと悩んでいる。
そんなにもったいぶられると、興味が湧く。
「何だよ、霖。教えてよ。」
「う~ん……その…前世の記憶って言うか……。」
「前世の記憶??」
「うん。多分、俺、トラックに跳ねられて死んだんだよね。」
「うん。」
「で、跳ねられる瞬間、急にその前世の記憶をドドドッて思い出して……。気づいたらここにいたんだけど、前世の記憶を思い出したって衝撃が凄すぎて、俺として生きていた時の事が思い出せなくなってたんだよ……。」
「……そりゃまた。」
「だから変な話、前世の事は思い出せるんだけど、俺としての過去は思い出せないって言うか……。」
霖は非常に困ったように眉を潜めた。
死に際に思い出がフラッシュバックするとはよく言うが、霖の場合、前世の記憶がフラッシュバックしてしまったようだ。
その印象が強すぎて、すかんと本来の記憶が失われてしまった。
そんな事ってあるのかな?等と思う。
「ちなみに、前世の記憶って何??」
「あ~。」
霖はさらに複雑な顔をした。
言いたくない、そう顔に書いてある。
まぁ、無理に聞き出してもな、何せ前世の記憶だし。
霖が何でここにいるのかや、何で梅雨にしか見えないのかには関係なさそうだ。
「お~、ちょっと面白いな!?」
唐突にキネセンがそう言った。
何事かと、霖とふたり、顔を向ける。
キネセンはスマホを手にこちらに向けていた。
「何してんだよ??キネセン??」
「いやな、昨日、お前が幽霊探査のアプリ使ってただろ?ちょっと興味が出てな。今、それで霖を観察してんだよ。本当か嘘かわからんが、一応反応はしてるから面白いなと思ってな。」
俺と霖は顔を見合わせた。
案外、子供っぽいところがあるんだな、キネセン。
「霖、ちょっと消えてみろ。」
「ええ~。」
「いいからいいから。」
面白がって、キネセンはそう言った。
霖がどうするか見ていたが、あまり躊躇いもなく、姿を消した。
「はは!一応、見えてなくてもアプリでは見えてるな。おい、ちょっと移動してみ?」
キネセンは面白そうに言った。
俺もスマホを取り出して、昨日のアプリをつける。
霖の姿は見えないので、スマホをあちこちに向けてみた。
「……………。」
俺のアプリだと、それっぽいものはなんとなく人形の光みたいに表示される。
俺のアプリだとあそこにいるな?
キネセンを見ると、似たような方向にスマホを向けている。
「ええ~?本当にわかるの??それ??」
霖がそう声をあげながら、姿を表した。
案の定と言うか、場所は向けていた付近。
何だか悔しそうだ。
「へ~、オモチャだと思ったが、それなりに何かは感知はしてるんだな~。」
キネセンは面白そうにそう言う。
霖に向けていたスマホを、あちこちに向ける。
「でも違うところも何か反応あるな?」
「いるんじゃね?幽霊。化学室だし。」
「化学室は関係ないだろ。」
「そうかな?何かいかにもじゃん、化学室。」
キネセンはそう言われて、俺にスマホを向けた。
ニヤニヤ笑っている。
「お~、柘植、お前の側にも何かいるぞ?」
「は!?嘘つくな!!」
「いやいや化学室だし?」
なんだこいつ、揚げ足とりやがって。
意外とキネセンは大人げないらしい。
俺はムッとして、キネセンにスマホを向けた。
「!?」
スマホの画面、キネセンの側に光る人型がある。
いや、わかってる。
これはオモチャで、本当にわかる訳じゃない。
「あれ?霖、どこ行った??」
キネセンがそう言うので辺りを見渡す。
霖はまた姿を隠したようで、見当たらない。
さっき見つけられたのが、悔しかったのだろう。
自分から注意が反れたのを良いことに、どこかに移動したらしい。
キネセンはスマホをゆっくり動かして、周囲を探っている。
「う~ん。所詮は紛い物のおもちゃか。」
そう言ってつまらなそうにスマホを置いた。
飽きるの早いな!?
俺はキネセンにスマホを向ける。
やっぱり側に光る人型がある。
人型はキネセンにくっついて、おんぶされているように見える。
「……………。」
大正デモクラシー。
俺も何だかどうでも良くなって、スマホを鞄にしまった。
「俺、そろそろ時間だから帰るわ。」
「お~。」
「え!?もう帰るの!?」
霖がそう言って、姿を表す。
場所は教壇の前だった。
わざわざ移動してから出てこなくてもいいのに。
何となく気に入らなかった。
「雨の中、ご苦労様々だな、現代っ子は。」
「え?キネセンは塾とか行かなかったのか?」
「そう言う意味では、俺もまだまだ現代っ子、現役か~。」
「え?杵くんは十分オヤジだよね??」
「は??オヤジは言い過ぎだろうが、この永遠の十代がっ!」
幽霊にオヤジ呼ばわりされるって微妙だな。
相手はずっと年を取らないわけだし。
「現代っ子とか言うあたりでもう終わってるな。」
「いい度胸だ、柘植。覚えてろ?」
キネセンは苦々しい顔をしていた。
相変わらずかったるそうだ。
「……また来る?」
霖が控えめに声をかけてきた。
俺は霖の顔を見て、来るよと素直に返せなかった。
「どうだろ?塾もあるし。」
「そっか……。」
来て欲しいなら、そう言えばいいだろ。
俺は何だかとてもイライラしていた。
「ふ~ん。」
キネセンが俺の事をニヤニヤと見ている。
何か見透かされたような気がして、変に焦った。
「何だよ、キネセン。」
「別に。気をつけて帰れよ?」
「うっせ。」
俺は鞄を掴んで、早足で化学室を出て行った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
男だけど幼馴染の男と結婚する事になった
小熊井つん
BL
2×××年、同性の友人同士で結婚する『親友婚』が大ブームになった世界の話。 主人公(受け)の“瞬介”は家族の罠に嵌められ、幼馴染のハイスペイケメン“彗”と半ば強制的に結婚させられてしまう。
受けは攻めのことをずっとただの幼馴染だと思っていたが、結婚を機に少しずつ特別な感情を抱くようになっていく。
美形気だるげ系攻め×平凡真面目世話焼き受けのほのぼのBL。
漫画作品もございます。


目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

もういいや
ちゃんちゃん
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが……
まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん!
しかも男子校かよ………
ーーーーーーーー
亀更新です☆期待しないでください☆
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる