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本編
結果発表!!前半戦。
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音楽が流れる中、クラスメイトと駄べりながら集計を待つ。
もう、面倒くさかったので、俺もライルも教室で制服に着替えた。
「な~、ライル~。このエセ乳、貰っていい?!」
「駄目に決まってんだろ。俺の渾身のおっぱいを持って帰ろうとすんじゃねぇよ。」
渾身のおっぱいって何なんだよ??
アホなテンションも落ち着き、俺達は机を並べ直して普通の状態に戻った教室でダラダラしている。
「……やっぱ、フィッツちゃん可愛い~。」
スマホで動画を見ているクラスメイトに数人が寄っていく。
俺も覗くと、サッカーのユニフォームでリフティングをしている男の子が映っていた。
「へぇ~、もう今日のライブ動画、編集されて上がってるんだ??」
「前半部分は途中から編集してたみたいだからな。だから後半部分のサークの動画とかは、多分、明日になるんじゃね??」
「別に見たくはないけどな。」
あははと皆が笑う。
いや、俺も別に見たかないけど、自分のクラスの姫に対して、その言い方はなくないか?!こいつら?!
その時、ガラリと教室のドアが開く。
顔を上げるとバレンタイン合戦実行委員会の有志生徒が慌てた様子で入ってきた。
「あれ?集計なら提出したよ??」
「わかってるって!!ちょっとこっちでもカウントさせてくれ!!ブツは?!」
そう言われ、本命分ときちんとしたもの以外はでかいゴミ用のビニール袋に突っ込んである貢物を指差した。
扱い方が雑なので、実行委員会メンバーも「え?!」という顔をしたが、中がうまい棒やら駄菓子やら、その辺のスーパーで買ってきたっぽい菓子やらパンやらが詰まっているのを見て、納得したように苦笑いした。
「ちゃんとした貢物っぽい物とかはこの箱。本命はこっちの箱。食べてあるのもあるけど、もぐもぐタイムの話は知ってるだろ??」
ライルが近づいて説明してくれる。
俺らはそれを眺めながらダラダラしていた。
「……なるほど、確かに数はありそうですね……。」
「うわ~。生徒会室前の回収ボックスもそうだったから何となくわかってたけど……。」
「でもこれってありなの?!」
流石にアホみたいな数のうまい棒を前に、実行委員会メンバーも顔を引きつらせている。
まぁ、どう見ても姫への貢物って感じじゃないよな……。
でも駄菓子やらが駄目と言う決まりはないし、どこのクラスにもこういう駄菓子やらの貢物はある。
確かにそういうものばっかりというのは前代未聞なんだろうけど、それを駄目とすると他のクラスの集計も変わってしまう。
「数を確認しに来たって事は、競ってるのか?サーク?」
「ええ……。どこのとは教えられませんが、微妙なのでこちらで数をきちんと集計させて頂きます。」
「……そこ!そこで食ってるうまい棒の山は?!」
「あ、これは立番の時に貰ったヤツです。」
皆でボリボリ齧っているうまい棒。
今食べる分を取られたら大変だとばかりに、数人が机に置いてあるうまい棒を守るように庇った。
それを困惑気味に見つめる実行委員会メンバー。
「それ、本当だよな??」
「……いや、たとえそれが貢物だったとしても、正式な数を水増しして増やしてるんじゃなくて、食って減らしてるんだからどうでもいいんじゃないか……??」
「まぁ……そうだな……。」
彼らはそう言うと、俺の貢物を持って去って行った。
皆で顔を見合わせ複雑な顔をする。
「何の順位にサークが引っかかったんだ??」
「3年の順位付けじゃね??」
「本命数じゃないのは確かだな。」
「だな。」
そう言いながら、立番で貰ったうまい棒をボリボリ食う。
だから、何でお前らは自分のところの姫を扱き下ろす?!
「お前らさぁ……一応、俺、姫なんだから、もう少し労った言葉を選べよ……。」
「いや、バレンタイン合戦、終わったし。」
「そうそう。バレンタイン合戦が終われば別に。」
「お前らなぁ!!」
どうでも良さげなクラスメイトたち。
バレンタイン合戦が終わってしまえば、俺は用済みらしい。
「む、ムカつく!!俺がどんな大変な思いをしたかも知らないで!!」
「まあまあ、サーク。落ち着けよ。」
「落ち着けるかぁ!!俺はリオのマカロンロシアンルーレットまでやらされたんだぞ!!」
「いやそれは俺らが計画した事じゃねぇし。」
「リオ様の愛なんだから、噛み締めとけよ。」
「噛み締められるか!!あんな……あんな……。」
俺は思い出して恐怖した。
あれは……できれば早く記憶から抹消したい……。
そんな事をしているうちに音楽が止まり、放送がブツっと切り替わった。
皆がスピーカーを見上げる。
『ええ……大変長らくお待たせしました。ちょっと集計確認が必要なクラスもあり、現在、確認作業中ですが……!!時間も押しておりますので!!集計結果の発表を行いたいと思います!!』
何となくそこで拍手が起こる。
それまでダラケてどうでも良さそうだった皆が、ちょっと楽しそうに顔を見合わせ笑う。
なんだかんだ言っても、楽しみなのには変わりないのだ。
『今回は発表の順番を少し変えまして、1・2年の学年順位、それからざっとの総合金額、本命数ランキングの発表の後、総合順位発表並びに3年の順位をお届けしたいと思います!!』
3年の順位が後なのはいつもの事。
3年の順位はあまり総合順位と変わらないからだ。
ただ、いつもは総合金額・本命数は最後なのだが、今回は先らしい。
「まぁ、金額も本命数もサークには関係ないもんな?!」
「総合最低金額なら関係あるだろうけど。」
「……ほっとけ。」
3年の順位発表が最後に持ってきたと言う事は、俺の貢物数の確認が影響しているのだろう。
でも、誰と競ってるんだ??
シルクがリタイアで抜けているのだ。
ウィル、ガスパー、リオ、そして俺の4人だけのはずだ。
「……サーク、むしろ総合の方じゃねぇの??」
「え?!」
「だって、重要なのは5位までだけどさ?一応、7位まで発表すんじゃん。」
言われてみればそうだ。
ウィルたち3人はおそらく上位5位以内だろう。
ガスパーと競っていたリグも5位以内には入ると思う。
だから5位以内に俺が入るというのは考えにくいが、サラッと読み上げるだけだが確かに7位まで発表がある。
「……あ~。なるほど。」
「良かったな!サーク!!総合7位以内には入ってて!!」
「まぁ、3年だしな……。」
どれだけ人気がなくても、一応は3年だ。
学校中の姫の中で半分の中には入ったって事だ。
俺としては上出来だろう。
高校最後のバレンタイン合戦。
クラスメイトに寂しい思いをさせずに済んで良かった。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「……でもさ、数だけなら結構行ってたよな~?サーク。」
「馬鹿だな?!お前、シルクちゃんと同じクラスになった事ないだろ?!シルクちゃんならサークの倍以上貰うぞ?!」
「……え、マジ?!」
「しかも半数近くはガチガチの本命だからな!!」
「怖っ!!」
「でもさ、シルク姫はリタイアだろ??」
「お前な……3年は1・2年よりめちゃくちゃもらえるに決まってんだろ?!サークがこんなに貰ったって事は、他のレジェンド姫達だって貰ってんだよ!!」
「うわっ!!そっか!!」
「えぇ~?!サークもいい線まで行ってると思ったのになぁ~!!」
「ちょっと入賞、期待してたんだけどなぁ~!!」
「まぁ……レジェンド相手によく頑張ったよ、サークは……。」
「……おいおい。まだ発表されてねぇのに!!勝手にお通夜みたいな雰囲気になるんじゃねぇ!!」
勝手に盛り上がり、勝手に諦めムードになるクラスメイトたち。
俺はそれに空元気でカツを入れる。
そりゃな?俺だってレジェンド姫たちに勝てるとは思ってねぇよ!!だからって勝手に落ち込むな!!
「……甘いな、お前ら。」
そこにライルが呟く。
ゴスロリメイド服を脱いだのに、まだ安い悪役面をしている。
「言ったはずだぁ!!俺はサークを優勝させると!!」
ダダンッとばかりに立ち上がっていうが、ボインのゴスロリメイド服に慣れてしまって感覚が狂っている俺達は、ライルの大見栄がそんなに凄く感じられなかった。
「……なんか、女装じゃなくなったから、迫力に欠けるな?ライル。」
「何だとぉ?!」
「うん、迫力に欠ける。」
「ボインもないし。」
「……確かに。ボインは偉大だからな……。」
おっぱいがない事を指摘され、なぜか納得するライル。
お前、どんだけおっぱい好きなんだよ??
おっぱい信者にも程があるだろ?!
アホな事を言っているうちに、今回のバレンタイン合戦を振り返っていた放送がとうとう順位発表に移っていく。
『では!!一年のランキング発表です!!』
『第三位!!E組!!ヘンリー姫!!』
『やはりセレブクラス!!どの学年でも強いですね!!』
『ご趣味はチェスだという事で!クラスでも今日はヘンリー姫と一局持てるという事で、中々白熱したそうです。』
『その様子の一部が、近日中に動画公開される予定です!!』
『続きまして第二位!!』
『惜しくも及ばず!!一年B組!!ケリー姫!!』
『素晴らしいクッキーアートの情報が上がった後半戦!怒涛の追い上げを見せましたが!!残念ながら二位となりました!!』
『そして見事!!第一位!!一年D組!!フィッツ姫!!』
『やはり強い!!一年生としては早くから有望株としてチェックの入っていたフィッツ姫が一年ランキングで見事一位に輝きました!!おめでとう!!フィッツ姫!!』
『一年生はまだまだわかりません!!まだバレンタイン合戦に慣れておらず!姫の売り込みも甘かった部分が目立ちます!!まだ見ぬ魅力的な姫も隠れているでしょう!!今後が楽しみです!!』
パチパチと拍手を贈りながら、俺達は放送を聞く。
俺達にはもう来年はない。
馬鹿なイベントではあったがそれを思うと少し寂しい。
皆、どこかしんみりした雰囲気を持っていた。
「ケリー姫、二位か~。」
「残念だなぁ~。」
「来年、頑張って欲しいよな~。」
何となく縁ができたスイーツ君。
そのせいか二位と聞いてちょっと悔しい。
でもきっと、あの特技を全面に出せばいい結果が残せるんじゃないかと思う。
もう直接応援はできないけれど、頑張って欲しいと心の中でエールを送った。
『続きまして!二年!!』
『比較的落ち着いた展開を見せた二年生!!』
『でもパフォーマンスは結構、はっちゃけてましたね~。バンド演奏してたり、eスポーツ対戦してたり。』
『まあ、バレンタイン合戦もわかってきたし、二年が一番、はっちゃけるよなぁ~。貢物順位とか気にしないで好き勝手楽しむ事に集中するっていうか~。』
『そんな中で第三位に輝いたのは!!A組!!ルイ姫!!去年に続き!三位入賞です!!』
『強いなぁ!ルイルイ!!』
『水泳部選手のルイ姫!一年時も二位入賞者の強者です!!』
『相変わらずの美形!!そして選手としても強い!!ただ一年の時より体がしっかりしてきた事もあり、水泳王子と呼ばれる事の方が増えてきたルイ姫!!』
『ですが水も滴る美しさは健在です!!』
『続きまして!第二位!!』
『新勢力!!ザカリア姫!!愛称のザック姫と呼ばれる事が多い、期待の新星です!!』
『ザック姫はeスポーツが得意で!!「Z」と言う名前で国際大会にも出場するほどの腕前!!』
『今年の2学期から姫に選ばれ、頭角を表してきたザック姫!!』
『クールな印象で他を寄せ付けない雰囲気がかえって信者を生む結果になっております!!』
『そして二年、一位は!!C組!!リグ姫!!』
『やはり強い!!1年の時から「第二のシルク姫」と言われ!当のシルク姫とも真っ向から勝負してしまう勝ち気な一面もあるリグ姫!!総合予想にも食い込む二年を代表する「姫」です!!』
『流石に強い!懐き姫!!子犬のような愛らしさ!!積極性!!自由さ!!誰にでも懐いてしまう得意性!!やはり強い!!』
『やっぱり愛嬌は大事ですよ~。可愛いもん、リグちゃん~。話してても何ていうか~楽しい!!そんでもってそこ突かれると弱いんだよなぁ~ってところで懐いてくるんだよ~!!もう!本当、子犬!!ちょっと背は高いけど!!顔は綺麗だから問題なし!本当、大型犬の子犬って感じ!!もう!わしゃわしゃ可愛がりたくなるんだよ~!!』
『相手を骨抜きにするある種のプロ!!それが懐き姫!!』
『そんなリグ姫が去年に続き!二年の一位に輝きました!!おめでとうございます!!』
お~、リグが二年の一位だ。
一年の時も一位だったし、来年もリグなんだろうなぁ。
まぁ、何ていうか~うん。
大型犬子犬だからな、アイツは。
人間、やっぱり懐かれて悪い気はしないもので……。
放っとけないというか、わしゃわしゃしたくなるというか。
でもアイツ、大丈夫かな??
本命さん、怒らないといいけど……。
まぁそこは俺が心配しても仕方ないだろう。
何となく手を伸ばしてうまい棒を取ろうとする。
しかしなんかスカッと空振りした。
「……んん??」
不思議に思って、うまい棒の積んであった机を見る。
そこはいつの間にかスッカラカンになっていた。
「あ~!!うまい棒がない!!」
「遅せぇよ、サーク。」
「結構、前になくなったぞ??」
「何で?!俺が貰ったうまい棒なのに!!」
「姫の貰ったものはクラス皆の物だろ??」
「でも俺がもらったのに~!!」
「はいはい。」
「俺のうまい棒~!!」
知らないうちに食い尽くされたうまい棒。
確かにたくさんあったから、皆で食べればいいと思ってたけどさぁ~。
俺は少しショックで落ち込んだのだった。
もう、面倒くさかったので、俺もライルも教室で制服に着替えた。
「な~、ライル~。このエセ乳、貰っていい?!」
「駄目に決まってんだろ。俺の渾身のおっぱいを持って帰ろうとすんじゃねぇよ。」
渾身のおっぱいって何なんだよ??
アホなテンションも落ち着き、俺達は机を並べ直して普通の状態に戻った教室でダラダラしている。
「……やっぱ、フィッツちゃん可愛い~。」
スマホで動画を見ているクラスメイトに数人が寄っていく。
俺も覗くと、サッカーのユニフォームでリフティングをしている男の子が映っていた。
「へぇ~、もう今日のライブ動画、編集されて上がってるんだ??」
「前半部分は途中から編集してたみたいだからな。だから後半部分のサークの動画とかは、多分、明日になるんじゃね??」
「別に見たくはないけどな。」
あははと皆が笑う。
いや、俺も別に見たかないけど、自分のクラスの姫に対して、その言い方はなくないか?!こいつら?!
その時、ガラリと教室のドアが開く。
顔を上げるとバレンタイン合戦実行委員会の有志生徒が慌てた様子で入ってきた。
「あれ?集計なら提出したよ??」
「わかってるって!!ちょっとこっちでもカウントさせてくれ!!ブツは?!」
そう言われ、本命分ときちんとしたもの以外はでかいゴミ用のビニール袋に突っ込んである貢物を指差した。
扱い方が雑なので、実行委員会メンバーも「え?!」という顔をしたが、中がうまい棒やら駄菓子やら、その辺のスーパーで買ってきたっぽい菓子やらパンやらが詰まっているのを見て、納得したように苦笑いした。
「ちゃんとした貢物っぽい物とかはこの箱。本命はこっちの箱。食べてあるのもあるけど、もぐもぐタイムの話は知ってるだろ??」
ライルが近づいて説明してくれる。
俺らはそれを眺めながらダラダラしていた。
「……なるほど、確かに数はありそうですね……。」
「うわ~。生徒会室前の回収ボックスもそうだったから何となくわかってたけど……。」
「でもこれってありなの?!」
流石にアホみたいな数のうまい棒を前に、実行委員会メンバーも顔を引きつらせている。
まぁ、どう見ても姫への貢物って感じじゃないよな……。
でも駄菓子やらが駄目と言う決まりはないし、どこのクラスにもこういう駄菓子やらの貢物はある。
確かにそういうものばっかりというのは前代未聞なんだろうけど、それを駄目とすると他のクラスの集計も変わってしまう。
「数を確認しに来たって事は、競ってるのか?サーク?」
「ええ……。どこのとは教えられませんが、微妙なのでこちらで数をきちんと集計させて頂きます。」
「……そこ!そこで食ってるうまい棒の山は?!」
「あ、これは立番の時に貰ったヤツです。」
皆でボリボリ齧っているうまい棒。
今食べる分を取られたら大変だとばかりに、数人が机に置いてあるうまい棒を守るように庇った。
それを困惑気味に見つめる実行委員会メンバー。
「それ、本当だよな??」
「……いや、たとえそれが貢物だったとしても、正式な数を水増しして増やしてるんじゃなくて、食って減らしてるんだからどうでもいいんじゃないか……??」
「まぁ……そうだな……。」
彼らはそう言うと、俺の貢物を持って去って行った。
皆で顔を見合わせ複雑な顔をする。
「何の順位にサークが引っかかったんだ??」
「3年の順位付けじゃね??」
「本命数じゃないのは確かだな。」
「だな。」
そう言いながら、立番で貰ったうまい棒をボリボリ食う。
だから、何でお前らは自分のところの姫を扱き下ろす?!
「お前らさぁ……一応、俺、姫なんだから、もう少し労った言葉を選べよ……。」
「いや、バレンタイン合戦、終わったし。」
「そうそう。バレンタイン合戦が終われば別に。」
「お前らなぁ!!」
どうでも良さげなクラスメイトたち。
バレンタイン合戦が終わってしまえば、俺は用済みらしい。
「む、ムカつく!!俺がどんな大変な思いをしたかも知らないで!!」
「まあまあ、サーク。落ち着けよ。」
「落ち着けるかぁ!!俺はリオのマカロンロシアンルーレットまでやらされたんだぞ!!」
「いやそれは俺らが計画した事じゃねぇし。」
「リオ様の愛なんだから、噛み締めとけよ。」
「噛み締められるか!!あんな……あんな……。」
俺は思い出して恐怖した。
あれは……できれば早く記憶から抹消したい……。
そんな事をしているうちに音楽が止まり、放送がブツっと切り替わった。
皆がスピーカーを見上げる。
『ええ……大変長らくお待たせしました。ちょっと集計確認が必要なクラスもあり、現在、確認作業中ですが……!!時間も押しておりますので!!集計結果の発表を行いたいと思います!!』
何となくそこで拍手が起こる。
それまでダラケてどうでも良さそうだった皆が、ちょっと楽しそうに顔を見合わせ笑う。
なんだかんだ言っても、楽しみなのには変わりないのだ。
『今回は発表の順番を少し変えまして、1・2年の学年順位、それからざっとの総合金額、本命数ランキングの発表の後、総合順位発表並びに3年の順位をお届けしたいと思います!!』
3年の順位が後なのはいつもの事。
3年の順位はあまり総合順位と変わらないからだ。
ただ、いつもは総合金額・本命数は最後なのだが、今回は先らしい。
「まぁ、金額も本命数もサークには関係ないもんな?!」
「総合最低金額なら関係あるだろうけど。」
「……ほっとけ。」
3年の順位発表が最後に持ってきたと言う事は、俺の貢物数の確認が影響しているのだろう。
でも、誰と競ってるんだ??
シルクがリタイアで抜けているのだ。
ウィル、ガスパー、リオ、そして俺の4人だけのはずだ。
「……サーク、むしろ総合の方じゃねぇの??」
「え?!」
「だって、重要なのは5位までだけどさ?一応、7位まで発表すんじゃん。」
言われてみればそうだ。
ウィルたち3人はおそらく上位5位以内だろう。
ガスパーと競っていたリグも5位以内には入ると思う。
だから5位以内に俺が入るというのは考えにくいが、サラッと読み上げるだけだが確かに7位まで発表がある。
「……あ~。なるほど。」
「良かったな!サーク!!総合7位以内には入ってて!!」
「まぁ、3年だしな……。」
どれだけ人気がなくても、一応は3年だ。
学校中の姫の中で半分の中には入ったって事だ。
俺としては上出来だろう。
高校最後のバレンタイン合戦。
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俺はホッと胸を撫で下ろした。
「……でもさ、数だけなら結構行ってたよな~?サーク。」
「馬鹿だな?!お前、シルクちゃんと同じクラスになった事ないだろ?!シルクちゃんならサークの倍以上貰うぞ?!」
「……え、マジ?!」
「しかも半数近くはガチガチの本命だからな!!」
「怖っ!!」
「でもさ、シルク姫はリタイアだろ??」
「お前な……3年は1・2年よりめちゃくちゃもらえるに決まってんだろ?!サークがこんなに貰ったって事は、他のレジェンド姫達だって貰ってんだよ!!」
「うわっ!!そっか!!」
「えぇ~?!サークもいい線まで行ってると思ったのになぁ~!!」
「ちょっと入賞、期待してたんだけどなぁ~!!」
「まぁ……レジェンド相手によく頑張ったよ、サークは……。」
「……おいおい。まだ発表されてねぇのに!!勝手にお通夜みたいな雰囲気になるんじゃねぇ!!」
勝手に盛り上がり、勝手に諦めムードになるクラスメイトたち。
俺はそれに空元気でカツを入れる。
そりゃな?俺だってレジェンド姫たちに勝てるとは思ってねぇよ!!だからって勝手に落ち込むな!!
「……甘いな、お前ら。」
そこにライルが呟く。
ゴスロリメイド服を脱いだのに、まだ安い悪役面をしている。
「言ったはずだぁ!!俺はサークを優勝させると!!」
ダダンッとばかりに立ち上がっていうが、ボインのゴスロリメイド服に慣れてしまって感覚が狂っている俺達は、ライルの大見栄がそんなに凄く感じられなかった。
「……なんか、女装じゃなくなったから、迫力に欠けるな?ライル。」
「何だとぉ?!」
「うん、迫力に欠ける。」
「ボインもないし。」
「……確かに。ボインは偉大だからな……。」
おっぱいがない事を指摘され、なぜか納得するライル。
お前、どんだけおっぱい好きなんだよ??
おっぱい信者にも程があるだろ?!
アホな事を言っているうちに、今回のバレンタイン合戦を振り返っていた放送がとうとう順位発表に移っていく。
『では!!一年のランキング発表です!!』
『第三位!!E組!!ヘンリー姫!!』
『やはりセレブクラス!!どの学年でも強いですね!!』
『ご趣味はチェスだという事で!クラスでも今日はヘンリー姫と一局持てるという事で、中々白熱したそうです。』
『その様子の一部が、近日中に動画公開される予定です!!』
『続きまして第二位!!』
『惜しくも及ばず!!一年B組!!ケリー姫!!』
『素晴らしいクッキーアートの情報が上がった後半戦!怒涛の追い上げを見せましたが!!残念ながら二位となりました!!』
『そして見事!!第一位!!一年D組!!フィッツ姫!!』
『やはり強い!!一年生としては早くから有望株としてチェックの入っていたフィッツ姫が一年ランキングで見事一位に輝きました!!おめでとう!!フィッツ姫!!』
『一年生はまだまだわかりません!!まだバレンタイン合戦に慣れておらず!姫の売り込みも甘かった部分が目立ちます!!まだ見ぬ魅力的な姫も隠れているでしょう!!今後が楽しみです!!』
パチパチと拍手を贈りながら、俺達は放送を聞く。
俺達にはもう来年はない。
馬鹿なイベントではあったがそれを思うと少し寂しい。
皆、どこかしんみりした雰囲気を持っていた。
「ケリー姫、二位か~。」
「残念だなぁ~。」
「来年、頑張って欲しいよな~。」
何となく縁ができたスイーツ君。
そのせいか二位と聞いてちょっと悔しい。
でもきっと、あの特技を全面に出せばいい結果が残せるんじゃないかと思う。
もう直接応援はできないけれど、頑張って欲しいと心の中でエールを送った。
『続きまして!二年!!』
『比較的落ち着いた展開を見せた二年生!!』
『でもパフォーマンスは結構、はっちゃけてましたね~。バンド演奏してたり、eスポーツ対戦してたり。』
『まあ、バレンタイン合戦もわかってきたし、二年が一番、はっちゃけるよなぁ~。貢物順位とか気にしないで好き勝手楽しむ事に集中するっていうか~。』
『そんな中で第三位に輝いたのは!!A組!!ルイ姫!!去年に続き!三位入賞です!!』
『強いなぁ!ルイルイ!!』
『水泳部選手のルイ姫!一年時も二位入賞者の強者です!!』
『相変わらずの美形!!そして選手としても強い!!ただ一年の時より体がしっかりしてきた事もあり、水泳王子と呼ばれる事の方が増えてきたルイ姫!!』
『ですが水も滴る美しさは健在です!!』
『続きまして!第二位!!』
『新勢力!!ザカリア姫!!愛称のザック姫と呼ばれる事が多い、期待の新星です!!』
『ザック姫はeスポーツが得意で!!「Z」と言う名前で国際大会にも出場するほどの腕前!!』
『今年の2学期から姫に選ばれ、頭角を表してきたザック姫!!』
『クールな印象で他を寄せ付けない雰囲気がかえって信者を生む結果になっております!!』
『そして二年、一位は!!C組!!リグ姫!!』
『やはり強い!!1年の時から「第二のシルク姫」と言われ!当のシルク姫とも真っ向から勝負してしまう勝ち気な一面もあるリグ姫!!総合予想にも食い込む二年を代表する「姫」です!!』
『流石に強い!懐き姫!!子犬のような愛らしさ!!積極性!!自由さ!!誰にでも懐いてしまう得意性!!やはり強い!!』
『やっぱり愛嬌は大事ですよ~。可愛いもん、リグちゃん~。話してても何ていうか~楽しい!!そんでもってそこ突かれると弱いんだよなぁ~ってところで懐いてくるんだよ~!!もう!本当、子犬!!ちょっと背は高いけど!!顔は綺麗だから問題なし!本当、大型犬の子犬って感じ!!もう!わしゃわしゃ可愛がりたくなるんだよ~!!』
『相手を骨抜きにするある種のプロ!!それが懐き姫!!』
『そんなリグ姫が去年に続き!二年の一位に輝きました!!おめでとうございます!!』
お~、リグが二年の一位だ。
一年の時も一位だったし、来年もリグなんだろうなぁ。
まぁ、何ていうか~うん。
大型犬子犬だからな、アイツは。
人間、やっぱり懐かれて悪い気はしないもので……。
放っとけないというか、わしゃわしゃしたくなるというか。
でもアイツ、大丈夫かな??
本命さん、怒らないといいけど……。
まぁそこは俺が心配しても仕方ないだろう。
何となく手を伸ばしてうまい棒を取ろうとする。
しかしなんかスカッと空振りした。
「……んん??」
不思議に思って、うまい棒の積んであった机を見る。
そこはいつの間にかスッカラカンになっていた。
「あ~!!うまい棒がない!!」
「遅せぇよ、サーク。」
「結構、前になくなったぞ??」
「何で?!俺が貰ったうまい棒なのに!!」
「姫の貰ったものはクラス皆の物だろ??」
「でも俺がもらったのに~!!」
「はいはい。」
「俺のうまい棒~!!」
知らないうちに食い尽くされたうまい棒。
確かにたくさんあったから、皆で食べればいいと思ってたけどさぁ~。
俺は少しショックで落ち込んだのだった。
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