姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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落とし前の付け方

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A組の教室の中は屍でいっぱいだった。
完全に死体のように倒れている者、燃え尽きたように座り込み虚を見つめる者、丸まって何かブツブツ呟き続ける者。
後はゾンビのように徘徊する奴とさめざめと泣いて項垂れる者……。
そんな死者の国に俺はウィルと共に駆け込んだ。

「シルク!イヴァン!!」

「あ!!」

「サークさん!ウィルさん!!」

死者の国の屍たちとは対象的にキラッキラに輝いている二人が、俺達を見てハイパーな笑顔を見せる。
幸せオーラが半端ない……。
というか、あんなにツンツンだったシルクがイヴァンの腕にひっついて、半ば抱きついたみたいにベッタベタに甘えている。
あまりの変わりように若干イヴァンの方が戸惑い気味なのが笑えた。

「ウィル~♡」

「シルク!おめでとう!!」

「ありがと~!!」

ウィルを見た瞬間シルクはイヴァンを突き放し、上機嫌で両手を広げて飛び付いていく。
突然手のひらを返されたイヴァンは苦笑気味だ。
二人はにこにこ笑ってハグし合い、キャッキャウフフという感じでキャピキャピしている。

あ~眩しい~。
俺はそれを目を細めて無心で眺める。

ただでさえ二人揃うとキラキラが飛ぶのに、シルクが幸せオーラ出してるせいでいつにも増してキラキラしてる……。
バックに見える花の背景の幻も、今日は一段とゴージャスだ……。
それを見た屍たちが華々しい元姫&姫騎士コンビを泣きながら拝みだした。

「うぅ……こんな日でも美しい……。」

「瀕死の心に染みる……。」

「有り難や有り難や……。」

こ、怖い……。
ゾンビ共は精神ダメージがデカ過ぎたらしく、ウィルとシルクを変な宗教の御神体みたいに崇めている……。

とはいえ、一番の大舞台であるバレンタイン合戦の日に、学校一の小悪魔アイドルが目の前でカレシ作ってリタイアされたら灰にもなるよな……。
特にクラスメイトとずっと側についてきた騎士たちは見てて可哀想なくらいだった。

「おい、イヴァン……。」

「何でしょう?」

「お前……えげつない男だったんだな……。」

「なんとでも言って下さい。」

しかし俺の小言も、長い片想いを実らせたこいつには馬の耳に念仏でしかない。
突き飛ばされたというのに、じゃれ合うウィルとシルクを微笑ましそうに見つめる眼差しには、穏やかな絶対的勝者の余裕が漂っている。

「……何にしろ、まぁ、良かったよ。」

「ありがとうございます。」

俺とイヴァンは顔を見合わせる。
そしてニッと笑いながらハグした。

「メチャクチャ危険な橋渡りやがって!!」

「あはは!どうせやるなら派手に行こうかと。」

「キャラじゃねぇ事すんなよな!!」

バンバンッとお互いの背中を叩く。
すると突然、グイッと俺は後ろに引っ張られた。
何かと思ったら、シルクが後ろから抱きついて俺を引っ張っている。

「シルク?!」

「ダメ!!イヴァンは俺の!!」

ぷぅと頬を膨らませて怒るシルク。
え?!何?!もうすでにダチとして仲良くすんのも禁止な訳?!
付き合うと決まった途端、独占欲強いな?!おい。

「……そりゃ悪かったな??今後気をつけるけど……お前はどうなんだよ?!」

後ろからべったり俺にくっついているシルク。
いつもの事って言えばいつもの事なのだが、カレシができたんだから、お前も俺に懐くのやめろよ??
なのにシルクは、いつものようににへへと笑ってゴロゴロ猫みたいに懐いてくる。

「俺はいいの!だってサークの事、今も好きだし~。」

「は??オマ……イヴァンと付き合うんだよな?!」

「そうだよ?でもイヴァンはサークの事、好きでいていいって言ってくれたし、俺の事、束縛しないって言ったし。」

「いやいやいやいや?!」

何だその不平等条約は?!
お前は今まで通り好き勝手するのに、イヴァンは束縛すんのかよ?!
しかしイヴァンの顔を見ると本当に気にしていないのか、にこにこ笑っている。
にこにこ……にこにこ……笑って……。

「……怖っ!!」

ゾッ……と背筋に寒さを感じた俺は、慌ててシルクを引き剥がした。
やべぇよ、イヴァン……。
素知らぬ笑顔で人殺せそうなブリザード出すなっての……。
俺と離れた事で温和な顔に戻り、不服そうにするシルクをイヴァンはそっとバックハグしてなだめる。

「シルクさん、ウィルさんもいますし。ね?」

「う~、わかったよ~。」

ぷぅっと膨れているが、イヴァンの腕の中で一応満足しているらしい。
拗ねながらもイヴァンに体を預け、大事そうにひまわりを抱えて文句垂れてる。

何、このイチャイチャ……。
俺は何を見せられてるんだ??

いきなりの状況変化に頭が対応できない。
ぽかーんとばかりに二人を見つめる俺に、寄り添うようにウィルが並んで笑った。

「それにしてもびっくりしたよ。いきなりあんな放送流れるから……。」

「あ!!放送!!俺!行かなきゃ!!」

ウィルにそう言われたシルクは突然何かを思い出したように叫んだ。
イヴァンの腕の中からスルリと抜け出すと、一目散に走り出す。

「シルク?!」

「シルクさん?!」

「イヴァンは待ってて!俺!自分の決着、つけてくるから!!」

「決着?!」

嵐のように走り去るシルク。
本当にアイツはいつだって人騒がせな台風の目だ。
待っていろと言われたイヴァンも困ったように俺の顔を見る。

「どうしましょう……僕……。」

「……とりあえず、お前もここには居辛いだろうし、うちの教室来るか??」

「ありがとうございます……。助かります……。」

シルクという絶対に逆らえない女神がいなくなり、周囲の屍達は徐々に殺意の眼差しをイヴァンに向け始めている。
これはここに置いておいたら、シルクが帰る前にドラム缶に詰められて川か海に沈められかねない。

「……移動すっか。」

「はい……。」

「生きる屍を刺激しないよう、そっとな……。」

俺とイヴァンがコントのようにそっと動くと、憎悪の眼もゆっくりこちらをロックオンして負い続ける。
怖い……怖いよ、お前ら……。
それまですすり泣く声やブツブツと呟きが聞こえていたのに、しん……と不気味なくらい教室は静まり返っている。

ひいぃぃぃぃ~っ!!

針のむしろ状態とはまさにこの事。
だと言うのにイヴァンは覚悟ができていたのか、結構、普通の顔だ。
ウィルに至っては、くすくす笑いながら普通にゆっくり歩いている。

「……イ~ヴァ~ン~っ!!」

「待てや!イニス坊!!」

「ギャアァァァ~ッ!!」

しかし、途中で亡者が低く叫び声を上げた。
地獄の底から聞こえたその声に、俺は思わず叫び声を上げた。

それを合図にズザザザッとゾンビたちが血眼になってイヴァンを取り囲む。
まずいと思った俺は、ウィルとイヴァンを背後に庇った。

「どけ!!サーク!!」

「邪魔すんな!!」

「庇うなら姫だからって容赦しないぞ!!」

「そうだ!これは俺らとイヴァンの問題なんだからな!!」

シルクが歴代飛び抜けた「姫」だっただけあり、この教室に集まっているのは驚異的な狂信者たちだ。
しかもその姫の城である3年A組の教室。
貢物を渡しに来た狂信的なファンのみならず、ガチの親衛隊、クラスメイトと騎士たちの根城なのだ。

そりゃわかる。
ずっとシルクの側でずっと支えてきたのだ。
それは自分の想いを押し殺した献身的な愛だっただろう。
抜け駆けを禁じ、皆でシルクを見守り、わがままに応え、寄り添い支えてきたのだ。

だというのに、だ。
事もあろうか「姫」の最大の大舞台、バレンタイン合戦のその日に、告白した馬鹿が出た上、ずっとずっと無償の愛を捧げてきた「姫」がその告白に応えてしまったのだ。

当然、バレンタイン合戦はリタイア。
もう多くの貢物を期待する事はできない。
何の為にずっと頑張ってきたのかわからないクラスメイト。
自分たちの「姫」を奪われた騎士たち。
熱い想いを貢物に込めて渡しに来たファンたち。
イヴァンはその全てを踏み躙ったのだ。

「わかる、わかるけど!落ち着け!!」

「わかる?!何がわかるんだよ?!」

「俺達の気持ちが本当にわかるなら!!退けよ!サーク!!」

行き場のない感情。
コイツらは何も悪くない。
わかってる。
でもここで暴力沙汰になったら、誰も救われない。

どうする?!

「……あっと!今!現場に到着しました!!やはり大荒れの模様です!!」

そんな声がして顔を向けると、どうやらライブ班が来たようだ。
この大変な時に!何だってこんなのが来るんだよ?!

「おい!やめろよ!!今それどころじゃないの!見てわかんだろうが!!」

俺は思わず怒鳴った。
しかし彼らは遠巻きにだが現状をライブ配信し続ける。
全く!こんな時に余計なフラストレーション加算しやがって!!
なんかちょっと、マスコミに追われる芸能人の気持ちがわかった気がした。

「………………。」

「イヴァン?!」

その状況で、イヴァンが真剣な表情で俺の前に出ようとした。
それを俺は無理やり止める。

「何してんだよ?!」

「先輩たちの言う通りです。これは僕と先輩たちの問題です。僕がきちんとつけなければならない落とし前です。」

「イヴァン……。」

「ありがとうございます、サークさん。」

「おい!」

「よくわからないけれど、シルクさんも自分の決着を付けに行かれました。……僕も逃げません。落とし前をきちんとつけます。」

イヴァンの真剣な眼差し。
その顔を見たら俺は何も言えなかった。
遮っている手を下ろし、イヴァンを前に出した。

「これは不味いです!一触即発の現状です!!」

ライブ班がそう実況している。
俺はムッとして睨みつけた。
だがそんな事で状況が変わる事はない。

「……いい覚悟だ、イヴァン。」

「はい。覚悟の上、行った事。制裁は受けます。」

イヴァンの言葉に野次馬達はざわめく。
かと言って、誰も止めようとはしない。

どうする?!
俺が割り込んだのでは話がややこしくなるだけだ。
騎士たちの言い分も間違ってはいない。
それに対するイヴァンの覚悟に泥を塗るのもどうかという事になる。
だがこのまま黙って暴力沙汰になるのを見ている訳にも行かない。
どうする?!考えろ!俺!!


「……お互いの覚悟はわかった。」


そんな中、凛とした声が響いた。
ざわついていた野次馬も、苛立っていたシルクのファンやクラスメイトや騎士たちもその声に黙り込んだ。

それだけその声は澄んでいたのだ。

「……え?」

「大丈夫。任せてくれ。」

そう言ってウィルが俺の前に出た。
ウィルの登場にシルクの騎士たちも少し戸惑いながら、取り囲む輪を緩めた。

「ウイリアム……。」

「いや……シルクと仲が良いのはわかるけど、これは俺らの問題だから……。」

「そう。俺達の問題だ。」

「え?!」

「忘れたとは言わせない。俺はシルクの姫騎士だ。」

「!!」

まるで聖騎士の登場のように、ウィルは神々しくその場に言い放った。
誰もがその存在にハッと我に返り、その場の切迫した緊張が緩んだ。

そうだ、ウィルは今、3年B組の「姫」だけど、その前に「シルクの姫騎士」なのだ。

騎士は一度なったら、よほどの事がなければ下りる事はできない。
だからウィルは、「姫」でありながら「シルクの騎士」なのだ。
そして姫騎士は騎士の中でも特殊な立ち位置。
ファースト騎士とも並ぶ権限がある。

ウィルはそれを利用してこの場を収めようとしていた。
スッとイヴァンと騎士たちの間に入り、凛とした声で話し始める。

「ファースト騎士、デューク・バレンタイン。」

「は!」

「不服はあると思うが、この場は私に任せてもらえないだろうか?」

「しかし……っ!!」

「わかっている。私の処分が気に入らなければ、異論は聞こう。だが、まず私の案を聞いて欲しい。」

「……承知しました。」

シルクのファースト騎士、デュークは少し迷いながらもひとまずウィルの話を聞く事にした。
それに従い、他の騎士たちもA組のクラスメイトたちも、シルクのファンたちも、クールダウンして話を聞く状態になった。
だが辺りにはまだ、緊張が残っている。
静まり返る中、野次馬とライブ班が息を呑んでそれを見守る。

ウィルは、芝居がかった仕草で騎士側に行き、イヴァンを振り向いた。
その手にはいつの間にか、さっきまでシルクが大事そうに持っていた「ひまわり」が握られていた。
そして剣を抜くようにひまわりをイヴァンに向ける。

「イヴァン・エル・イニス!!」

「は!!」

鋭いウィルの声に、イヴァンはウィルの前に跪く。
そのイヴァンに剣を突き立てるように、ウィルはひまわりを向け続ける。

「我らがシルク姫に対し、そして我ら騎士に対し、礼儀に欠けた振る舞いをした事は認めるか?!」

「認めます。」

「長い間、姫の騎士となりたいと我らに語り、今日、それを欺いた事は認めるか?!」

「認めます。」

糾弾するウィルの声には迫力があり、これがお遊びの騎士ごっことはいえ、誰もがその凛とした芝居に飲まれた。
ライブ班が何も言えず、その迫力ある演技を撮り続ける。

「ならば制裁を受ける覚悟はあるな?!」

「はい。長い間、気にかけてくださった先輩方に心より謝罪を致します。申し訳ございません。如何なる制裁も謹んでお受け致します。」

「相分かった。」

ウィルはここで一度、デュークの顔を見た。
頭に登っていた血が引き、少し冷静になったのだろう。
デュークはウィルに小さく頷いた。

「シルク姫姫騎士、ウィリアム・ロム・クラフトの名において!「姫代行権限」を用い!イヴァン・エル・イニスに5点の減点を言い渡す!!異論はないか?!」

「御座いません。寛大なご配慮、ありがとうございます。」

「ファースト騎士、デューク・バレンタイン!!」

「……異論御座いません。」

「これにてこの件は不問に付す。よいな?!」

ウィルの澄んだ声が辺りに響く。
姫騎士というより聖騎士の大岡裁きに、野次馬たちから拍手が起こる。
ひまわりを引き剣を収めるフリをしてから、ウィルも演技をやめ、ちょっと恥ずかしそうに笑って周りを見た。

「すまない。そしてありがとう。だが、皆がシルクを愛するなら、わかってくれとは言わないけど、これからもシルクの幸せを見守ってあげて欲しいんだ。」

「ウイリアム……。」

「ウィル姫……。」

ウィルの言葉に、彼らも思うところがあったのか、互いに肩を叩き合いクッと男泣きする。
それを見たウィルは安心したように笑った。
俺もウィルに並び、感謝を込めて微笑んだ。

そこでまた、プツッと放送が途切れる。
皆がスピーカーを見上げた。

『曲の途中ですが、臨時放送です!今、放送室にシルク姫が来られています!!』

またも突然の展開にギョッとする。
いきなり走って行ったと思ったら、どうやら放送室に向かっていたらしい。

『ええ……リタイアに伴い、シルク姫から皆様に伝えたい事があるという事でマイクを変わります。……どうぞ……。』

『えっと。……応援してくれてたファンの人、騎士の皆、3年A組の皆、たくさん応援してくれたのに、勝手な事してごめんなさい。皆の気持ちを裏切ってしまってごめんなさい。俺は1年の1学期からずっと姫で本当、皆に大切にしてもらいました。ありがとう。とても楽しかったし、幸せだったよ。でも、俺、恋をしたんだ。ホントはね、告白してくれた彼じゃない人がずっと好きだったの。でも振り向いてもらえなくて……。そんな俺の恋心を支え続けてくれたのが彼です。彼が諦めずに俺を好きでいてくれたから、俺も好きな人を諦めないで追いかけてこれたの。』

シルクの放送を皆が黙って聞いている。
というか、シルク、好きな奴いたのかよ……。
しかもイヴァンじゃないとしたら誰だよ??
俺の事、好き好き言ってるから、本命はいないのかと思ってた。
もしかしてシルクも本当はウィルが好きだったのかな……。

『そんな彼が……自分でも気づかないうちに、少しずつ好きになってたんだと思う。だから今日、彼が騎士の誓いじゃなくて告白してくれて嬉しかった。俺の恋は追いかけてもハッピーエンドにならなかったけど、彼の気持ちに応えたくなったんだぁ~。だからね!追いかけても叶わない恋もあるけど!叶う恋もあるんだって俺は皆に大声で伝えたいよ!!追いかけ続けた先にハッピーエンドになる恋もあるんだよ!!皆が大好きだ!!恋をしてる人!!頑張れ!!俺は力一杯応援してる!!今日はバレンタインデーなんだから!!』

なんか言ってる事がズレてきたけど、明るく前向きで元気なシルクらしい言葉に皆が笑った。
シルクにフラレる形になった奴らも泣きながら笑ってる。
手が届かなくても、アイツはいつまでも皆の「ひまわり」なのだ。

『応援してもらったのに、バレンタイン合戦、勝手にリタイアしちゃってごめんなさい。でも、俺は幸せだよ!!本当にありがとう!!バレンタイン合戦はリタイアしたけど!!今日までは皆の姫でいるから!!嫌じゃなかったら会いに来てね!!俺!待ってるから!!あ!貢物はなくていいからね!!本当!ありがとう!!皆が大好きだよ!!』

謝罪放送にしては明るく前向きな言葉。
本当、最後まで「姫」として、憎めない小悪魔であり続けるシルク。
これがシルクなりの決着の付け方なのだろう。

どこからともなく拍手が上がった。
複雑な思いはあれども、皆がシルクを祝福しようと思えたのだろう。
臨時放送が終わり、またBGMが流れ出す。
ウィルが笑って皆に言った。

「じゃあ……ちょっと、実行委員会本部に行ってくるよ。」

「いや、ウィルはB組の姫だし、俺が行くから。」

「ありがとう。デューク。」

デュークはウィルに畏まって一礼した。
色々な思いがあっただろう。
でもデュークはそうしたのだ。
そして跪くイヴァンを立たせる。

「……この野郎……。」

「すみません。先輩……。」

デュークはイヴァンの顎を掴むとグリグリとイビった。
周りの騎士たちもそれを見てゲラゲラ泣き笑いする。

「覚えとけ!イヴァン!!」

「そうだぞ?!夜道は背後に気をつけろよ?!」

「とりあえず、俺ら全員に肉まん買ってこい!!」

皆がやいのやいの野次を飛ばす。
でもその野次はとても温かかった。

「ま、とりあえず速攻処分遂行できるよう、お前も俺と来い。」

「わかりました。」

デュークはガシっとイヴァンの肩を捕まえて笑った。
おそらく殴られる覚悟はあっただろうイヴァンは、そんな先輩方の温情に少し泣きそうな顔で笑っている。

一次はどうなるかと思ったが、丸く収まった。
俺はホッとしてウィルと笑い合った。

「……良かった、丸く収まって。」

「ありがとう、ウィル。俺じゃどうにもできなかったから助かったよ……。」

「ふふっ。どうしてサークがお礼を言うんだよ??」

「いや……なんて言うか……。ずっとイヴァンの相談に乗ってきたし……。それにさ、シルクってずっと俺に対してああだっただろ?だからなんか……妹みたいな感覚があってさ~。」

俺がそう言うと、ウィルは信じられないものを見たような目で俺を見た。
そしてはぁ……と大きくため息をついた。

「……サーク。」

「何??」

「それ、絶対、シルクに言うなよ?」

「妹みたいって事を??」

「サーク……。いい?絶対、言うなよ?」

「わ、わかった……言わない……。」

妙に気迫の残ったウィルにそう言われ、俺は頭に疑問符をたくさん浮かべながらも、そう約束させられたのだった。
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