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本編
我が姫を指し示すモノ
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「……え、?」
「……………………。」
短縮授業の1時間目が終わってトイレに行こうとした俺は固まった。
開けた引き戸をそのままピシャリ、と閉める。
突然の俺の妙な動きに、近くにいたクラスメイトが不思議そうに声をかけてくる。
「どうした?サーク?」
「……俺、何かヤバイのかも。」
「は??」
「いないはずのものが見えた……。」
「いないはずのもの??」
「やべっ。カウンセラーさんに電話しよ。」
俺はそう言って急いでカバンを取りに机に向かおうとした。
その瞬間、ガラッと閉じたはずのドアが開いた。
皆がそちらに注目する。
「……ギャー!!いないはずのストーカーの幻が!!なんでこんなにはっきり見えてんだ?!ヤバイのか?!俺?!」
そこにはいないはずの、デカくて黒い無表情男が立っていた。
叫ぶ俺。
呆気にとられるクラスメイト。
「バカ。本物だ、サーク。」
スカンと後ろから頭を叩かれた。
振り返るとライルが飽きれたように立っていた。
そしてそれでもなお無言のギル。
……だから怖えぇっての。
俺は久しぶりに見た奇行に言葉を失う。
しかしライルはお構いなしにギルに話しかけた。
「試験、明後日だっけ?面接練習??」
「……いや、今日は書類を取りに。」
「まぁ、頑張れよ!!」
「……あぁ。」
その様子をおっかなびっくり見守る俺とクラスメイト。
ぬぼーっと突っ立っているギルをよく見ると、目の下にはクマがあり、寝不足なのか若干瞼が腫れ、いつもよりヨレヨレに見える。
どうやら最近治まっていた奇行が再発したのは、受験勉強で追い込まれているからのようだ。
「……気が抜けないのはわかるけど……ちゃんと寝ろよ、お前……。」
「無理なスケジュールは昨日までだから安心しろ。今日明日は体調管理優先だ。きちんと寝る。」
「ならいいけどよ……。」
寝不足と追い込み勉強のせいでいつもに増して不気味なデカブツに、俺とクラスメイトは引き気味だ。
しかしライルはやはり気にしてないのか、身長差のあるギルの肩を抱くと教室の中に引き入れた。
ギョッとする俺とクラスメイト。
「ライル?!」
「いや、ちょうどいいかなと思って。」
「何が?!」
「……引き継ぎの儀に。」
いきなりライルの口から出た聞きなれない言葉。
俺は訳がわからなくてぽかんとする。
しかしクラスメイト達はわかっていたようで、あぁ……と少し残念そうに呟いた。
「え?!引き継ぎの儀って何?!」
「そのまんま。ほいじゃギル、跪いてもらおうか??」
あっけらかんと話を進めるライル。
それまで半分寝ているみたいだったギルの目が光を戻し、じっとライルを見つめる。
「ライル……それは……。」
「だってお前しかいないし。だろ?!」
「………………。」
ギルは少しだけ躊躇った後、ライルの前に跪き、頭を垂れる。
それを満足気に笑って、ライルはポケットから何かを取り出してギルの肩にそれを当てた。
「我、ライル・ハウ・コーディは、3年C組の姫、アズマ・サークのファースト騎士の座を、ギルバート・ドレ・グラントに譲り渡す。」
「……謹んで、お受け致します。」
そしてライルはその持っていた物を剣を立てるように顔の前に立て、そして横向きにしてギルの前に差し出した。
ギルはそれを座ったまま、賞状を受け取るように授かる。
「これでよし!」
「いや……いやいやいやいや?!ちょっと待て?!どういう事だ?!聞いてないぞ?!」
訳がわからず、思わずぽかんとその儀式を見届けてしまったが、何かとんでもない事が目の前で行われた気がする。
正直、剣に見立てたであろう物も物凄く気になったがそれどころではない。
「おい!ライル!どういう事だよ?!」
「どういうもこういうも、見ての通り。俺はお役御免って事。」
「はぁ?!なんで?!聞いてないぞ?!」
「まぁサークは休んだりしてたからなぁ~。」
「それは関係ないだろ?!」
「あるって。」
「はぁ?!」
「……俺は、姫騎士とはいえサークの騎士だった。」
「わかってるよ?!」
「でも、お前を守れなかった。」
「!!」
「騎士規定により、俺はファースト騎士の座を降りなきゃならない。しかも今回の事はちょっとしたミスで済む話じゃない。下手したら姫が乱暴されていたんだ。しかも自分の指導下にあったはずの騎士見習いにだ。騎士としての務めを果たせなかったその責任を取らなきゃならないんだよ。」
「そんな……。何、馬鹿な事言ってんだよ?!騎士だの姫だの、ほんのお遊びだろ?!そこまでガチでやんなくていいだろ?!」
「まぁ、お遊びだけどさ。そのお遊びを全校あげて本気でやってんだよ。うちの学校の伝統でもある。馬鹿な遊びであっても本気でバカやんないとつまんないだろ?」
「だからって……!!」
「まぁ心配するなよ。騎士じゃなくなったって俺はC組のクラスメイトなんだから、俺の姫はサークのままだし。ギルが受験終わって戻ってくるまでは騎士代理の許可もらってるしさ。」
「……でも。」
俺は何も言えなかった。
有無を言わさず無理矢理俺を姫にして、色々腹黒く振り回してくれたけど、ライルの策略があったから俺は「姫」として周りから認められ、「平凡姫」という異色の姫として他のクラスのレジェンド姫と並んで遜色ないところまで注目度が上がったんだ。
ライルが全部企てて俺達を引っ張ってきてくれたんだ。
「……なのに……。」
「そんな凹むなよ。サークこそマジになり過ぎ。単に騎士じゃなくなるだけだって。」
「わかってるけどさぁ……。」
それでも何かショックだし納得いかない。
そんな俺達の事を無言で見つめていたギルが口を開いた。
「……これを受け取ったからには……。俺がサークのファースト騎士なのか?」
「だってサーク、他に騎士いないし。」
「え?!見習いじゃん?!」
「騎士見習いも一応騎士扱いだぞ?だからエドも本当なら騎士規定に従って、騎士見習いの剥奪及び守るべき姫に危害を加えた事による罰則を受ける筈だったんだ。ただまぁ……。状況が状況だし、多分、今後学校には殆ど来ないだろうって判断から、除名扱いになってるけど。」
「でもなんで今更?!」
「学校としての処分が決まってないのに、非公認の学生イベントでの処罰をする訳にはいかないだろ?」
「……でもあとちょっとでバレンタイン合戦で!その後すぐ卒業式じゃんか?!なんで見逃してくんない訳?!実行委員会?!」
「遊びは遊びでも、学校上げて本気でバカやってんだよ。3年だから、あと少しだからとかで大目に見てたらなあなあになるだろ?そんなのつまんないっしょ。」
「でも……。」
「とにかく、今は俺がファースト騎士なんだな?」
「そ。でも受験が終わるまでは大丈夫だから安心しろよ。」
二度、ギルは確認し、ライルから渡されたブツをじっと見つめる。
まぁ……わかるわ……じっと見たくもなるよな……。
なぜこれ?!って俺も思ったし……。
しかしギルは俺とは違った考えでそれを見ていたらしく、いきなりライルの前に跪いた。
「ヒエッ?!今度は何?!」
「……アズマ・サークの元姫騎士、ライル・ハウ・コーディ殿に現ファースト騎士、ギルバート・ドレ・グラントとしてお頼み申し上げる。」
「ふぁ?!」
唐突にまたも変な小芝居が始まり、俺は変な声が出る。
ライルはギルがその行動に出るとは思っていなかったようで、びっくりした顔をしていた。
「ギル、よせって。」
「お頼み申し上げる。」
「お前、わかってる?俺がお前を信頼して、サークの一番近くにお前を置くって言ってんだよ。お前だってその方が嬉しいだろ?騎士の名の元にサークの一番近くにいられるんだから……。」
「げっ?!そうなの?!騎士の名の元に正々堂々ストーカーできる権利をコイツにあげた訳?!ライル?!」
「変な事しないようにちゃんと見てるって。」
「ギャー!それ!俺的一大事!!」
「でも一番サークを守ってくれるだろ?」
「そうだけど!そうだけれども!!」
わちゃわちゃする俺とライル。
しかしギルは体制を崩さなかった。
「お頼み申し上げる。」
「……わかった。聞くだけお聞きいたします。」
「我が姫、アズマ・サークはまだまだ姫として未熟。元姫の貴方を見込んで、我が姫の姫騎士となって頂きたい。」
「?!」
ギルはそう言うと、ライルから渡された例のブツを剣を差し出すようにライルに掲げた。
……え??どういう事??
さっきといい、今度のこれといい、俺は意味がわからない。
そもそも俺はあまりバレンタイン合戦の騎士とか姫とかに詳しくない。
自分の発言からウィルを「姫」にしてしまい遠い存在になってしまった事がショックで、クラスとしてバレンタイン合戦に参加してきたが、あまり積極的に関わろうとしてなかったのだ。
「騎士の誓い」や「先輩騎士へのお伺い」なんかはよく見たから知っているが、あまり行われていないであろう、さっきから行われているこの小芝居が何なのかわからないのだ。
「……私は己の無力さからアズマ・サークの姫騎士を退いた身。お受けしかねます。」
「否、我が姫は未だに貴方の帰りを待っております。どうか今一度、姫を導く為に剣をその手にお納めください。」
「……しかし、それは規定に反します。」
「現ファースト騎士として、議会に今回の処分の再審、ならびに我が姫がいかに貴方を必要としているかを訴えかけます。どうか己を許し、議会がそれを認めた暁には、我が姫の姫騎士としてお戻り頂きたい。」
さすがのライルもこれには困惑したように俺の方を見る。
俺も困ってクラスメイトたちを見ると、皆がうんうんと頷いてくれた。
「俺からも頼むよ、ライル。平凡で無名の俺が姫としてここまで認知されたのは、全部ライルの悪巧みがあったからじゃんか。今更、降りるとか言うなよ。」
「悪巧みって随分な言い方だな?!」
俺の言葉にクラスの皆がプッと吹き出した。
ギルも俯いたままちょっと笑っているように見える。
俺も笑った。
「だってそうじゃんか。」
「酷っ。」
「それに、確かにギルは守ってくれるかもしれないけどさ。忘れてないか?!コイツが一番の危険人物なんだよ!姫になる時に約束したじゃん!頼むからライル、ちゃんと最後まで俺を守ってくれよ~!!」
俺の言葉に皆が爆笑する。
ライルも笑った。
「わかったよ……。ただし、実行委員会が許可した場合だけな?!」
そう言ってライルはギルが差し出していたブツを受け取った。
ワッと歓声が上がる中、それを高々と掲げて皆に見せる。
……良かった。
俺は皆に囲まれるライルを見つめてホッとして胸を撫で下ろした。
しゃがみ込んでいたギルも立ち上がってそれを見守る。
「……でも……アレは何だったんだよ……。」
俺はライルが握っている、剣の象徴となったモノを見つめる。
多分、騎士ごっこだから剣の代わりだったんだろうけれど、なんでアレなんだよ……。
それしか持ってなかったのかもしれないけどさ……。
「……儀式の際、剣に見立てて使うのは、その姫を象徴するものだと聞いた。」
「は??」
「その姫を表す花や物を用いるらしい……。」
「……は?じゃあ、何か??あれは俺を表す象徴ってことかよ?!」
「あぁ……。」
「マジかよ……。」
俺はそれを確かめ、がっくりと項垂れた。
確かに俺は「平凡姫」だけどさ……。
いくら何でもそれはなくないか?!ライル?!
「……お前らしいモノと思うぞ?」
「ギル……。テメェ……ぶっ殺す!!」
俺はそう言ってぼーっと突っ立っているギルにローキックをかました。
皆とはしゃぐライルの手には……。
なぜか「うまい棒」が握られていた……。
「……………………。」
短縮授業の1時間目が終わってトイレに行こうとした俺は固まった。
開けた引き戸をそのままピシャリ、と閉める。
突然の俺の妙な動きに、近くにいたクラスメイトが不思議そうに声をかけてくる。
「どうした?サーク?」
「……俺、何かヤバイのかも。」
「は??」
「いないはずのものが見えた……。」
「いないはずのもの??」
「やべっ。カウンセラーさんに電話しよ。」
俺はそう言って急いでカバンを取りに机に向かおうとした。
その瞬間、ガラッと閉じたはずのドアが開いた。
皆がそちらに注目する。
「……ギャー!!いないはずのストーカーの幻が!!なんでこんなにはっきり見えてんだ?!ヤバイのか?!俺?!」
そこにはいないはずの、デカくて黒い無表情男が立っていた。
叫ぶ俺。
呆気にとられるクラスメイト。
「バカ。本物だ、サーク。」
スカンと後ろから頭を叩かれた。
振り返るとライルが飽きれたように立っていた。
そしてそれでもなお無言のギル。
……だから怖えぇっての。
俺は久しぶりに見た奇行に言葉を失う。
しかしライルはお構いなしにギルに話しかけた。
「試験、明後日だっけ?面接練習??」
「……いや、今日は書類を取りに。」
「まぁ、頑張れよ!!」
「……あぁ。」
その様子をおっかなびっくり見守る俺とクラスメイト。
ぬぼーっと突っ立っているギルをよく見ると、目の下にはクマがあり、寝不足なのか若干瞼が腫れ、いつもよりヨレヨレに見える。
どうやら最近治まっていた奇行が再発したのは、受験勉強で追い込まれているからのようだ。
「……気が抜けないのはわかるけど……ちゃんと寝ろよ、お前……。」
「無理なスケジュールは昨日までだから安心しろ。今日明日は体調管理優先だ。きちんと寝る。」
「ならいいけどよ……。」
寝不足と追い込み勉強のせいでいつもに増して不気味なデカブツに、俺とクラスメイトは引き気味だ。
しかしライルはやはり気にしてないのか、身長差のあるギルの肩を抱くと教室の中に引き入れた。
ギョッとする俺とクラスメイト。
「ライル?!」
「いや、ちょうどいいかなと思って。」
「何が?!」
「……引き継ぎの儀に。」
いきなりライルの口から出た聞きなれない言葉。
俺は訳がわからなくてぽかんとする。
しかしクラスメイト達はわかっていたようで、あぁ……と少し残念そうに呟いた。
「え?!引き継ぎの儀って何?!」
「そのまんま。ほいじゃギル、跪いてもらおうか??」
あっけらかんと話を進めるライル。
それまで半分寝ているみたいだったギルの目が光を戻し、じっとライルを見つめる。
「ライル……それは……。」
「だってお前しかいないし。だろ?!」
「………………。」
ギルは少しだけ躊躇った後、ライルの前に跪き、頭を垂れる。
それを満足気に笑って、ライルはポケットから何かを取り出してギルの肩にそれを当てた。
「我、ライル・ハウ・コーディは、3年C組の姫、アズマ・サークのファースト騎士の座を、ギルバート・ドレ・グラントに譲り渡す。」
「……謹んで、お受け致します。」
そしてライルはその持っていた物を剣を立てるように顔の前に立て、そして横向きにしてギルの前に差し出した。
ギルはそれを座ったまま、賞状を受け取るように授かる。
「これでよし!」
「いや……いやいやいやいや?!ちょっと待て?!どういう事だ?!聞いてないぞ?!」
訳がわからず、思わずぽかんとその儀式を見届けてしまったが、何かとんでもない事が目の前で行われた気がする。
正直、剣に見立てたであろう物も物凄く気になったがそれどころではない。
「おい!ライル!どういう事だよ?!」
「どういうもこういうも、見ての通り。俺はお役御免って事。」
「はぁ?!なんで?!聞いてないぞ?!」
「まぁサークは休んだりしてたからなぁ~。」
「それは関係ないだろ?!」
「あるって。」
「はぁ?!」
「……俺は、姫騎士とはいえサークの騎士だった。」
「わかってるよ?!」
「でも、お前を守れなかった。」
「!!」
「騎士規定により、俺はファースト騎士の座を降りなきゃならない。しかも今回の事はちょっとしたミスで済む話じゃない。下手したら姫が乱暴されていたんだ。しかも自分の指導下にあったはずの騎士見習いにだ。騎士としての務めを果たせなかったその責任を取らなきゃならないんだよ。」
「そんな……。何、馬鹿な事言ってんだよ?!騎士だの姫だの、ほんのお遊びだろ?!そこまでガチでやんなくていいだろ?!」
「まぁ、お遊びだけどさ。そのお遊びを全校あげて本気でやってんだよ。うちの学校の伝統でもある。馬鹿な遊びであっても本気でバカやんないとつまんないだろ?」
「だからって……!!」
「まぁ心配するなよ。騎士じゃなくなったって俺はC組のクラスメイトなんだから、俺の姫はサークのままだし。ギルが受験終わって戻ってくるまでは騎士代理の許可もらってるしさ。」
「……でも。」
俺は何も言えなかった。
有無を言わさず無理矢理俺を姫にして、色々腹黒く振り回してくれたけど、ライルの策略があったから俺は「姫」として周りから認められ、「平凡姫」という異色の姫として他のクラスのレジェンド姫と並んで遜色ないところまで注目度が上がったんだ。
ライルが全部企てて俺達を引っ張ってきてくれたんだ。
「……なのに……。」
「そんな凹むなよ。サークこそマジになり過ぎ。単に騎士じゃなくなるだけだって。」
「わかってるけどさぁ……。」
それでも何かショックだし納得いかない。
そんな俺達の事を無言で見つめていたギルが口を開いた。
「……これを受け取ったからには……。俺がサークのファースト騎士なのか?」
「だってサーク、他に騎士いないし。」
「え?!見習いじゃん?!」
「騎士見習いも一応騎士扱いだぞ?だからエドも本当なら騎士規定に従って、騎士見習いの剥奪及び守るべき姫に危害を加えた事による罰則を受ける筈だったんだ。ただまぁ……。状況が状況だし、多分、今後学校には殆ど来ないだろうって判断から、除名扱いになってるけど。」
「でもなんで今更?!」
「学校としての処分が決まってないのに、非公認の学生イベントでの処罰をする訳にはいかないだろ?」
「……でもあとちょっとでバレンタイン合戦で!その後すぐ卒業式じゃんか?!なんで見逃してくんない訳?!実行委員会?!」
「遊びは遊びでも、学校上げて本気でバカやってんだよ。3年だから、あと少しだからとかで大目に見てたらなあなあになるだろ?そんなのつまんないっしょ。」
「でも……。」
「とにかく、今は俺がファースト騎士なんだな?」
「そ。でも受験が終わるまでは大丈夫だから安心しろよ。」
二度、ギルは確認し、ライルから渡されたブツをじっと見つめる。
まぁ……わかるわ……じっと見たくもなるよな……。
なぜこれ?!って俺も思ったし……。
しかしギルは俺とは違った考えでそれを見ていたらしく、いきなりライルの前に跪いた。
「ヒエッ?!今度は何?!」
「……アズマ・サークの元姫騎士、ライル・ハウ・コーディ殿に現ファースト騎士、ギルバート・ドレ・グラントとしてお頼み申し上げる。」
「ふぁ?!」
唐突にまたも変な小芝居が始まり、俺は変な声が出る。
ライルはギルがその行動に出るとは思っていなかったようで、びっくりした顔をしていた。
「ギル、よせって。」
「お頼み申し上げる。」
「お前、わかってる?俺がお前を信頼して、サークの一番近くにお前を置くって言ってんだよ。お前だってその方が嬉しいだろ?騎士の名の元にサークの一番近くにいられるんだから……。」
「げっ?!そうなの?!騎士の名の元に正々堂々ストーカーできる権利をコイツにあげた訳?!ライル?!」
「変な事しないようにちゃんと見てるって。」
「ギャー!それ!俺的一大事!!」
「でも一番サークを守ってくれるだろ?」
「そうだけど!そうだけれども!!」
わちゃわちゃする俺とライル。
しかしギルは体制を崩さなかった。
「お頼み申し上げる。」
「……わかった。聞くだけお聞きいたします。」
「我が姫、アズマ・サークはまだまだ姫として未熟。元姫の貴方を見込んで、我が姫の姫騎士となって頂きたい。」
「?!」
ギルはそう言うと、ライルから渡された例のブツを剣を差し出すようにライルに掲げた。
……え??どういう事??
さっきといい、今度のこれといい、俺は意味がわからない。
そもそも俺はあまりバレンタイン合戦の騎士とか姫とかに詳しくない。
自分の発言からウィルを「姫」にしてしまい遠い存在になってしまった事がショックで、クラスとしてバレンタイン合戦に参加してきたが、あまり積極的に関わろうとしてなかったのだ。
「騎士の誓い」や「先輩騎士へのお伺い」なんかはよく見たから知っているが、あまり行われていないであろう、さっきから行われているこの小芝居が何なのかわからないのだ。
「……私は己の無力さからアズマ・サークの姫騎士を退いた身。お受けしかねます。」
「否、我が姫は未だに貴方の帰りを待っております。どうか今一度、姫を導く為に剣をその手にお納めください。」
「……しかし、それは規定に反します。」
「現ファースト騎士として、議会に今回の処分の再審、ならびに我が姫がいかに貴方を必要としているかを訴えかけます。どうか己を許し、議会がそれを認めた暁には、我が姫の姫騎士としてお戻り頂きたい。」
さすがのライルもこれには困惑したように俺の方を見る。
俺も困ってクラスメイトたちを見ると、皆がうんうんと頷いてくれた。
「俺からも頼むよ、ライル。平凡で無名の俺が姫としてここまで認知されたのは、全部ライルの悪巧みがあったからじゃんか。今更、降りるとか言うなよ。」
「悪巧みって随分な言い方だな?!」
俺の言葉にクラスの皆がプッと吹き出した。
ギルも俯いたままちょっと笑っているように見える。
俺も笑った。
「だってそうじゃんか。」
「酷っ。」
「それに、確かにギルは守ってくれるかもしれないけどさ。忘れてないか?!コイツが一番の危険人物なんだよ!姫になる時に約束したじゃん!頼むからライル、ちゃんと最後まで俺を守ってくれよ~!!」
俺の言葉に皆が爆笑する。
ライルも笑った。
「わかったよ……。ただし、実行委員会が許可した場合だけな?!」
そう言ってライルはギルが差し出していたブツを受け取った。
ワッと歓声が上がる中、それを高々と掲げて皆に見せる。
……良かった。
俺は皆に囲まれるライルを見つめてホッとして胸を撫で下ろした。
しゃがみ込んでいたギルも立ち上がってそれを見守る。
「……でも……アレは何だったんだよ……。」
俺はライルが握っている、剣の象徴となったモノを見つめる。
多分、騎士ごっこだから剣の代わりだったんだろうけれど、なんでアレなんだよ……。
それしか持ってなかったのかもしれないけどさ……。
「……儀式の際、剣に見立てて使うのは、その姫を象徴するものだと聞いた。」
「は??」
「その姫を表す花や物を用いるらしい……。」
「……は?じゃあ、何か??あれは俺を表す象徴ってことかよ?!」
「あぁ……。」
「マジかよ……。」
俺はそれを確かめ、がっくりと項垂れた。
確かに俺は「平凡姫」だけどさ……。
いくら何でもそれはなくないか?!ライル?!
「……お前らしいモノと思うぞ?」
「ギル……。テメェ……ぶっ殺す!!」
俺はそう言ってぼーっと突っ立っているギルにローキックをかました。
皆とはしゃぐライルの手には……。
なぜか「うまい棒」が握られていた……。
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