姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

シンデレラ達とガラスの靴

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今日は登校したと聞いて、D組までガスパーを探しに行ったのだが……。

「……え…………。」

D組は異様なオーラで覆われていた。
何と言うか……皆さん、受験組だからな……。
推薦等で受験の終わっている人もいるが、まだの人は机に向かってピリピリしている。
その中に数名、動かない屍の様な奴らがいる。
試験が終わったばかりの奴だ。
机に突っ伏していたり、魂が抜けたように空を見つめている者、様々だ。
まぁ……普通、高3の今の時期ってこんなんだよな……。
迂闊に声も出せない雰囲気にビビってしまう。

そしてその屍の中にガスパーがいた。
それはもう異様としか言いようがなくて、突っ伏したまま得体のしれない暗黒を垂れ流し、同じD組の奴らまで近づく事もできずに遠巻きにしていた。

あ、あのガスパーがこうなるとは……。
改めて弁護士をも目指すというのは並大抵ではないのだなと思い知った。

「……あの~?ガスパー??」

俺がそろりそろりと近づいて控えめに声をかけると、ガスパーはのそっと顔をこちらに向けた。

「……あ?」

「ごめん!急ぎじゃなかったんだけど!改めた方がいいよな?!」

「……何ビビってんだよ?馬鹿か??」

だるそうにツンケンそう答えながら、ガスパーは面倒そうに体を起こした。
疲れてるのに押しかけて申し訳なかったな……。

「お、お疲れ。大変だったみたいだな……。」

「久しぶりに死んだ……。」

「そうなんだ……。」

それは試験が駄目っぽいと言う事だろうか?
だが、ここで試験の手応えを聞くのはタブーだ。
いくら俺が能天気でもそれぐらいはわかる。

「……変な顔してんな。試験だけなら九分九厘、受かってんよ。」

「九分九厘?!」

「それでも何が起こるかわかんねぇだろ……。面接とか内申書とかもあんだからよ……。点数競ったら、愛想のいい奴に取られっかもしれねぇし……。」

「……ガスパーが弱気なの……なんか気持ち悪い……。」

「あぁっ?!もう一度言ってみろや?!」

「ひ~!!ごめんごめん!!悪かったよ!!」

思わず出てしまった素の感想に、カチンときたガスパーが鋭く睨んできた。
完全に鎌首をもたげた蛇に見据えられる小動物のように、俺は固まってアワアワする。

「ぷっ……。帰った早々、お前がアワアワしてんの見るとは思わなかったわ。」

「わ、笑うなよ……殺気が凄かったんだぞ?!お前?!」

「仕方ねぇだろ。流石に俺も追い込まれてたんでな。」

ガスパーはそう言いながらガサガサとカバンを漁った。
そしてポンっと俺に箱を押し付けてきた。

「へ?!」

「土産。面倒だったから新幹線乗り場で手に掴んだやつ適当に買っただけだけどな。」

「あ、ありがとう……。」

「他の奴らにも配っとけや。」

「わかった。」

「……あ、後…………。」

俺がもらったお菓子の数から一人の個数を考えているところに、ズイッとガスパーがまた何か俺の方に渡してきた。
よくわからないままそれを受け取る。

「……お守り??」

渡された小さな袋には神社の名前があり、中には木でできた鈴が入っていた。
一見、お守りには見えにくいそれは優しい音がころりと鳴った。
意外なものを渡され、俺はそれを見つめる。

「ま、気休めだけどな。お前、信心深そうだからご利益あんじゃね?」

俺の方を見ないガスパーの顔はちょっと赤い。
わざわざ買いに寄ってくれたのかと思うと胸が痛い。
俺はそのお守りをギュッと握った。

「……ごめん。」

「え……。」

俺の口から出たその言葉に、ガスパーは素で驚いたように俺の顔を覗き込む。
嬉しかった。
でも嬉しいからこそどうしていいのかわからない。
俺にはガスパーの優しさを貰っていいのかわからない。

「俺は……ガスパーが辛かった時……何もできなかったのに……。」

「サーク??」

もらったお守りを握りしめ俯き加減にぼそっと呟くと、ガスパーは訳がわからないという顔で俺に呼びかけた。
俺もその声にはっとする。

「あ……。ご、ごめん。」

「サーク……お前……。」

「ありがとな!いいな、これ!一見お守りっぽくないし、可愛いし気に入った~。カバンにつけてても目立たなそうだし。……どこの神社?!」

「…………。」

「それより試験終わったんだよな?」

「あぁ……まぁ……。」

「なら、放課後空いてんよな?!」

「まぁ……。……は?!ほ、放課後?!なんで?!」

それまで浮かない顔で俺の話を聞いていたガスパー。
若干ぼんやりしていたが、俺が放課後空いてるか聞くと突然スイッチが入ったようにアワアワしだす。
俺はにっと笑って答えた。

「ガスパーには世話になったし、お礼って訳じゃないけどなんか奢ろうと思ってたんだよ。あ!他の奴に言うなよ?!昨日も後輩にたかられて皆に奢れるほど金ないから!!」

俺の言葉に固まるガスパー。
下の方からグラデーションみたいにだんだんと真っ赤になっていく。

「え?!ガスパー、大丈夫か?!」

「うっせ!!」

ガスパーは突慳貪にそう言うと、両手で顔を覆ってしまった。
俺の方を見ようともしない様子に慌てる。

「え?!体調悪いのか?!突っ伏してたもんな?!」

「別に体調は悪かねぇ!!」

「でも本調子じゃないなら別の日でも……。」

「平気っつってんだろ!!」

「え、なら今日の放課後、空いてんの??」

「………………空いてる……。」

プシューとばかりに背を丸め、勢いのない声でガスパーは答えた。
何だよ、びっくりしたなぁ。
俺は今日ここにガスパーを探しに来た要件が済んだので、ホッと一息ついて笑った。

「なら!放課後な?!」

「……おう。」

「あ!他のヤツに見つかるとついてきそうだから、裏門で待ち合わせようぜ。」

「……わかった。」

「じゃ!」

「サーク……。」

「何だよ?」

「確認だが……他のヤツは行かないんだな??」

「うん。お前だけだよ?俺、そこまで金ねえもん。」

「……お前と、俺だけ?」

「そうだけど……なんか都合悪いか??」

「いや、全っ然・・・?!」

「そっか!良かった~。あんま高いもんとか無理だけど!食いたいもの考えといてな!!」

「…………わかった。」

言いたい事が言い終えた俺は意気揚々とD組を後にした。
そんな俺をD組の皆さんが硬直しながら見つめていた。
しまった、騒ぎすぎただろうか……。
めちゃくちゃ信じられないものを見るような目で見られている……。
居心地の悪くなった俺は慌てて自分の教室に戻った。

俺の去ったD組の教室。
クラスメイト達が、己のクラスの硬派なヤンキー姫が見た事のない状態になってしまっている事に動揺していた。














放課後。
俺はガスパーとの待ち合わせに向かおうとカバンを手に取る。
早速付けた木鈴がコロコロと小さく鳴った。
そんな俺にライルが声をかけてくる。

「もうリムジンじゃないんだっけ??」

「うん。カウンセラーさんも普通にした方がいいって言うし、昨日から普通に帰ってる。」

「ええ~、リムジンまた乗りたかったのになぁ~。」

「俺じゃなくてギルかリオに頼めよ。」

何故かそんな事を言われ、俺は苦笑した。
思えば贅沢待遇だったなぁとしみじみ思う。

「っていうか、一人で帰ってんのか?ストーカー戻ってきてないのに、危なくないか?」

「いや?昨日はリグと帰って、今日は……。」

ストーカーが戻ってないから危なくないかって変な表現だよな?
俺はそれに笑ってしまった。
そして今日は誰と帰るか言いかけ、慌てて口を押さえた。
危なかった。
ライルならついてきかねないからな。
しかもリグ並みに容赦なく食いそうだし。

「……何?どうしたんだ??サーク??」

「いや……別に……。」

そんな俺をニヤニヤニヤニヤ、ライルは見ている。

「……何だよ?!」

「ん~??別にぃ~?!」

何なんだ、この「別に」の言い合いは?!
しかしあまり長くいるとボロが出てライルに見抜かれてしまいそうなので、俺はササッとカバンを背負った。

「とにかく一人じゃないから!またな!!」

「ほ~い。行ってらっしゃい~。」

慌てて去っていくサークに手を振り、ライルはニヤニヤ笑っている。

「さて。今日のシンデレラは誰なのかなぁ~。サークも罪な男だよなぁ~。」

昨日は中学時代からの追っかけのリグ君。
今度の休みはリオと出かけるらしい。

鉄壁のガードを誇るストーカーがいない今、このチャンスを逃すシンデレラ達ではないだろう。
事件も落ち着き、バレンタイン合戦も差し迫る中、人知れずC組の「平凡姫」争奪戦も最終決戦に向かっているようだ。

「うちのシンデレラ達は、ガラスの靴を残してサークに探してもらうんじゃなくて、ガラスの靴を片方、有無を言わずに渡しに向かってくるからなぁ。」

激しくなる水面下の戦いを想像して、ライルはふふふっと笑う。
誰が最後に、渡したガラスの靴を返してもらって履かせてもらうのだろう?
まぁ渡してもいないガラスの靴を、サークが無理やり履かされる展開も考えられるが、何にしろ面白くなってきた事は間違いない。

「……最後まで一番近くで見守れなくて残念だよ。サーク。」

ライルは少しだけ淋しげに笑って、自分の帰り支度を始めた。










「サーク。」

「うわっ!!」

下駄箱で靴を履き替えて裏門に向かおうと思っていたら、そこで声をかけられた。
あからさまにビクッとした俺をその人はクスクスと笑った。

「ウィル……脅かさないでよ……。」

「サークが驚きすぎなんだよ。」

何となくお互い間を持て余す。
何か言いたいのに言えないもどかしさ。
焦るのにずっとこのままでいたいような変な感覚。

「えっと……。」

「昨日。」

「え??」

「昨日、シルクに用があったのか?それとも俺に?」

「あ、あ~。」

そわそわした気持ちの中、ウィルの声が響く。
綺麗な声。
俺はそれに少し顔を赤くしながら、昨日の事かと頭を掻いた。
同じように帰る為に靴に履き替えた連中が、笑いながら外に出ていく。

「特に用はなかったんだ。ただ、シルクが泣いてたから……。」

「そっか。」

「うん。ごめん、わざわざ声かけてくれたのに。」

「いいよ。俺が遮っちゃったから気になってただけだし。」

「そっか。」

そこでまた、妙な沈黙が落ちる。
じゃあまた明日、そう言ってしまえば終わってしまう。
それがわかっているから言えなかった。

「……サーク。」

「え?」

先に沈黙を破ったのはウィルだった。
顔を上げると、緊張に顔を強張らせたウィルがいた。
意外な顔をしていて俺はちょっと呆けてしまう。

「明日……明日、弁当持ってこないでくれないか?」

「え?!弁当?!いいけど……。」

「俺が……俺がサークの分も持ってくるから!」

「!!」

「明日の昼休み!あの桜の下で待ってるから!!」

「……え?!ウィル?!」

「待ってるから!!」

ウィルはそうとだけ言うと、バタバタと走り去ってしまった。
残された俺は突然の事に固まり、そして真っ赤になった。

え……ちょっと待って?!

俺はあまりの急展開に頭の中がぐるぐるしてしゃがみこんだ。
え?!どういう事?!
ウィルが俺にお弁当作ってきてくれるって事だよな?!
でもってあの桜の下に行けばいいんだよな?!昼休みに?!

俺はゆっくり立ち上がった。
もう散ってしまったであろう河津桜。

「……………………。」

俺は少しウィルの事を考え、そして深呼吸した。

「とにかく、今はちょっと置いておこう……。」

これからガスパーに会うのに変な顔になっていないか、下駄箱の側の鏡で確認して、俺は靴に履き替えて裏門に向かった。
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