姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

賢い番犬は牙を見せない

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弁護士さん、俺、ガスパー、リオ、ライルの五人で話し合っていると、トントンと窓を叩かれた。
見るとギルが無表情に立っている。
何だコイツ、授業、抜け出してきたのか?!
ぎょっとしているとドアが開き、ギルが中に入ってきた。

「……何だ?」

「いや、なんで??」

「……うちのリムジンに俺が乗るのは何か変か??」

「あ……そうだ。お前んちのリムジンだった。」

リムジンというものに慣れていない俺は、今日ここで話し合うのが2回目な事もあり、リムジンではなくこういう部屋という感覚になっていた。
後、リムジンというのがリオに似合いすぎていて、これがギルの車である事を忘れていたというのもある。

「お疲れ~。」

「ああ。」

「そういやチャイム鳴ったな?授業終わったのかよ?」

「ああ。」

「それでも早すぎない?ギル?ホームルームはどうしたの?」

「………………。」

「無言になるな、無言に。」

どうやら放課後になったようだ。
ギルはすでに鞄を持っており、ホームルームをぶっ千切って出てきたようだ。
平然と何故か隅に座っていた俺の横に座ろうとしてくる。

「狭い!!無理やり入ってくんな!馬鹿野郎!!」

「詰めればいいだろう?」

さすがのリムジンも6人座ると満ち満ちだ。
優雅な室内がすし詰めみたいになってくる。

「ふふっ。とりあえず、話も一段落しましたので、私は一旦、事務所に戻ります。」

それを見かねたように弁護士さんが立ち上がった。
それにガスパーも続く。

「俺も行く。……いいか、サーク。小さな事でも何かあったら連絡しろ。勝手に一人で解決しようとすんなよ?!でないと進行に支障が出るからな!!」

「わかった。」

キツく念を押され、苦笑いする。
リオも執事さんが出してくれたお茶を飲むと、優雅に微笑んだ。

「私もそろそろ戻るよ。無理を言って一人で抜け出したから、皆が心配しているだろうし。」

「そうだな。通用門あたりに騎士が数人ウロウロしていた。早く戻ってやった方がいいだろう。」

基本リオの意志とは関係なく、リオにはいつも取り巻きや騎士がついて回っている。
そんなリオが今回ガスパーと一緒とはいえ一人だったのはそういう理由だったらしい。
ただやはり、駄目と言われてもこっそり護衛はついていたようだ。
そういう事にも慣れているのか、リオは仕方ないとばかりに笑った。

「……サーク。私たちにできる事は少ないかもしれない。でも、私たちは君の味方だし、できる限りの事をするから忘れないで。」

リオはそう言って俺に近づき、手を握った。
話し合いの最中はいつもと違ってキリッとしていたが、俺を見つめる今のリオはいつものふわふわした感じに戻っており、不安そうに瞳を揺らしていた。
……しかし、キラッキラである。
なんか生物として何か違うんじゃないかというほどキラッキラである。
こんな儚げでキラッキラの王子様キャラに、こんな顔をさせているかと思うとかなり居た堪れない。

「だ、大丈夫、リオ。むしろ俺みたいな平凡な一般庶民には計り知れない、人知を超えた何かで力になってくれてありがとう……。」

「ふふっ。何、それ?サークは相変わらず面白いなぁ。」

くすくす笑うリオはやはり何かその辺の人間とは違うオーラがある。
この人が俺らと同じものを食べ、同じ消化経路を持っているとか半ば信じられない。

「……リオって、普段何を食べてるんだ??」

「え??普通の食事だけど??」

「なんか絶対違う気がする……。」

「何それ?!私が霞を食べてるとでも思ってるの?サーク??」

「そう言われてもなんか納得しそう……。」

あまりに生物としての存在感が違うので、思わずそんな事を言ってしまう。
それをおかしそうにリオは笑った。

「私はサークと何も変わらないよ?」

「いや、絶対違う気がする。なんとなくいい匂いするし。」

「それは単にシャンプーや洗剤の違いだよ。」

「いや違う。存在からして匂いが違うんだと思う。」

「あはは!そんな訳ないじゃないか!!」

真剣に言えば言うほど、リオはツボにハマるのか笑い転げる。
俺の前ではリオはよく笑う。
以前、訳のわからない因縁をつけてきたセレブ組のリオ信者がそう言っていた。
俺としては笑わそうとしている訳ではないので、ちょっとそれにはなんと言い返せばいいのがわからなかったなぁと思い出す。

「……とにかく、私たちはサークの味方だ。絶対におかしな話にはさせない。でも何より、サーク自身が変わらずに過ごせる事が一番なんだ。今日のところは、帰ってゆっくり休んで。」

「うん。ありがとう、リオ。」

「じゃ、また明日ね。」

リオそう言ってリムジンを降りて行った。

「………………。」

「………………。」

「………………。」

妙な沈黙が落ちる。
俺は何となく居づらくて腰を上げた。

「…………じゃ、俺も……。」

「お前はいい……。送っていく。」

「……それって、俺は邪魔だから早く降りろって事か?ギル??」

残ったのは俺とギルとライルの三人。
ライルは立ち上がる気配もなく、執事さんが用意してくれた茶菓子を頬張っている。
そしてむぐむぐと口を動かしながらギルの顔を覗き込んだ。

「……また、明日。」

「いや、降りるとは言ってないし、俺。」

初リムジンでめっちゃ寛ぐライル。
他の皆が手を付けなかった茶菓子を手に取ると、一つを俺の前に置いて、一つをまたむぐむぐ食べ始めた。

「……帰らない気か?」

「帰るけどさ、俺、まだ今はサークの姫騎士だし??」

「………………。」

そう言われがギルは分が悪そうに明後日の方を見た。
なんだよ、変な会話だな??
俺はライルの置いてくれたお菓子を手に取ると、同じくむぐむぐと口に運んだ。

「フルーツ大福、旨い……。」

「サークの何??」

「キウイ。初めて食った。ライルのは?」

「王道のいちご。」

俺とライルがむぐむぐしていると、ギルが諦めたようにため息をついた。

「……わかった。待っているから、鞄を取って来てくれ。ライル。」

「おう。そういう事なら一度降りよう。」

そう言って大福の粉のついた手をぺろっと舐めると、立ち上がった。
ティッシュを取って渡してやるとニカッと笑う。

「じゃ、カバン取ってくるから、いい子に待ってろよ?サーク?」

「いい子にって……俺、いつからライルの子供になったんだ??」

ワシャワシャと俺の頭を撫でて降りていくライル。
そこに入れ替わりのように執事さんがお茶を入れに入ってきた。

「坊っちゃま、ほうじ茶でよろしいですか?」

「ああ……。」

「サーク様もどうぞ。」

「ありがとうございます。」

ライルを待ちながら、入れてもらったお茶をすする。
口の中が甘かったのでとても美味しい。
そんな俺をギルが横目でチラリと見た。

「……サーク。」

「何だ??」

「……その……もし良ければ……。」

「??」

歯切れの悪いギルを俺は不思議そうに見つめる。
何だよ?いつもはこっちの話も聞かずにゴーウィングマイ・ウェイな癖に??
少しの間。
そして腹を括ったようにギルが俺の方を見た。

「良ければ……また、俺の……。」

「お待たせ~!!サーク、いい子にしてたか~?!」

「お~、お帰りライル。いい子にしてたぞ~。」

「そうかそうか。偉い偉い~。」

ギルが何か言いかけたところで、ライルが元気よく戻って来た。
その途端、すん……っと押し黙るギル。

「なるほど~。サークはいい子にしてたんだな、サークは。」

そして不自然に口を閉ざしたギルをライルがにっこり笑って見つめた。
その笑顔に決して視線を合わそうとしないギル。
何なんだ?この変な感じは??

「……土壇場に来て急接近したけどさぁ~。そもそもサークはうちの姫なんで。」

「わかってる……。」

「それに今の状況で抜け駆けはしないよなぁ?ギル??皆もあんなに心を割いてるんだし~。」

「……わかってる。」

「??」

ライルはギルを押しのけるように俺の隣に座った。
いつもなら文句を言いそうだが、ギルはおとなしく座る位置を変えた。
考えてみたらファースト騎士で姫騎士のライルに、騎士見習いのギルの頭が上がらないのはいつもの事で。
そういう事かと俺は納得した。

「ほい、サーク。」

「え??あ!うわっ!!」

「皆がサークにって。」

鞄をとってきたライルがビニール袋を俺に渡す。
なんの飾り気もないビニールに、個包装のチョコやらせんべいやらなんやらが無造作に入れ込まれていた。
どうやらクラスの皆がおやつを分けてくれたらしい。
窓から手を降ってくれた姿とも重なって、俺はそのビニール袋を大事に握りしめた。

「……ありがとな。」

皆の気持ちが嬉しくて、ちょっと泣きそうだ。
そんな俺の頭を、ライルがぽんぽんと撫でてくれる。

俺は中からせんべいを取り出して齧った。
2枚一袋だったので、1枚をライルに上げた。

そんなライルに執事さんがお茶を入れてくれる。
そしてにっこり笑って俺達に聞いた。

「では、どちらからお送りいたしましょう?」

「ライルを……。」

「あ、サークん家に。そこで俺も降りるんで。」

「ライル……。」

「何だよ、ギル?お前はA組だろ??俺はC組の昨日今日のプリントとか渡さないとだし、ノートとか授業とかの話もしたいし。」

「あ、マジ?!助かる!!」

しれっとライルがそう言うと、ギルはまた、分が悪そうに視線を反らせた。
そんなギルを執事さんがクスクスと笑っている。

「……わかった。爺、そうしてくれ……。」

「はい。かしこまりました。」

こうして俺の事件後、1日目の登校は終わった。
ギルが不自然に無表情だったのが、なんかよくわからなかった。
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