姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

戦闘準備

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「……で?その情報の出処は?!」

「えっと……ニ、ニュースソースは明かせないというかぁ~……。」

ギロリ、と睨んでくるガスパーから、俺は視線を泳がせた。
怖い……さすがはヤンキー姫……ガチだとマジで怖い……。
俺は蛇に睨まれた小動物よろしくピヨっていた。

ギルのリムジン。
学校に入る前に一度直接話し合おうと、皆の代表としてガスパーが抜け出してきて話し合った。

そこには先日の弁護士さんも同席していた。
これから俺は、弁護士さん同席で学校側と今回の件について話す事になっている。

昨日のうちに一報入れ午前中に俺側からの内容証明も届いたので、生徒間の問題として学校内で済ますのが難しくなくなりそうな事から学校側も裏でてんやわんやしているらしい。
昨日までの感じだとエドの話から喧嘩両成敗的に学校内で内々に処理する方向で動いていたみたいだが、こちらが被害届の提出、刑事告発も視野に入れてる事を明確にしたので、いつもの生徒間問題と甘く考えていた学校側は面食らっているらしい。

まぁ被害届だの社会的にどうのというより、うちの学校はセレブ様たちを相手に商売している側面もあるので、こういったスキャンダルは表沙汰にしたくないというのが本音だろう。
ぶっちゃけ、大物セレブからのクレームを受けるくらいなら、面倒を避ける為に俺とエドを退学させる道を取る。
俺とエドを退学させてしまえば学校での処分は終わっているというスタンスになり、被害届でも刑事告発でも好きにしてくれってところだろうから。

とはいえどんな形であれ学校を辞めさせるのに、加害者でもない当事者の俺の話を一切聞かないままというのも体裁が悪く後々叩かれる可能性がある。
だから後手に回った感が否めないが、今日のところは俺と話をし、そしてできるならどちらにも問題があった体を取るか、俺には自主的に辞めてもらうかして欲しいところだろう。
なのでエドとの騒動の流れも聞かれるだろうが、最終的には訴えなどは起こさずこの件は学校側に任せてもらうか、それが駄目なら退学を勧めるような方向で話をしてくるだろうと考えている。

ちなみにエド宛にも内容証明を送っており、親からすぐ弁護士さんに「ひとまずこちらでも状況を確認してから追って連絡する」と連絡があったそうだ。
ある意味、宣戦布告されたと弁護士さんは笑った。
現在は会社の規模を小さくしたとはいえ、今でも現役経営者であり元一流セレブの人間だ。
返り咲く事を念頭にその地位とプライドを守る為、息子のエドのしてきた事を揉み消してきた。
今回の事も保身の為どんな手を使ってくるかわからない。

だからこの件は、早々に決着をつけなければならない。
そこで俺はエドがどういう風に学校側に話しているかをガスパーに話したのだが……。

「明かせないってなんだ?!ナメてんのか?!コラッ!!」

「言えないもんは言えないんだよ!!」

後輩リグからと言えればよいのだが……。
アイツ、何でそんな事にこだわったんだろう??
昨日の事を思い出す。

「……え??まぁ……言われたくないなら言わないけど……。」

「そうしてよ、先輩。」

情報を教えてくれる代わりに、リグは俺にいくつか約束をさせた。

一、情報元がリグである事を誰にも言わない。
ニ、リグが情報を教えるのは俺にだけ。
三、今後も聞かれればわかる事は必ず教えるが、聞かれない情報は話さない。

「別にいいけど……皆にまで隠す必要あるのか??」

「大アリですね。俺にとってはそこが重要なんで。」

「何で??信用できないか?アイツら??」

「違いますよ。力不足かもしれないけど、俺にだって中学から先輩を追っかけてきた意地があるんです!!」

「意地?!」

「そうです!セレブでもなければ!医者でも弁護士でもなく!財力も権力もない!!かと言って物理的に先輩を守れる腕っ節もない俺ですが!!彼らにはできない事が俺にだって少しはあるんです!!」

「……それはわかるが、何で秘密にするんだ??」

「ふふふ。先輩にはわかんないですよねぇ~。」

「わかんねぇな??」

「いいんです。先輩はわかんなくって♡」

リグはそう言って笑っていた。
俺はその意味がさっぱりわからなかったんだが……。

「……アイツか?!クソッ!!」

「ガスパー??」

「つまんねぇ自己主張しやがって……っ!!」

ガスパーがブツブツ言っているところを見ると、俺にはよくわからないが何か意味があったようだ。
しかしすぐに頭を切り替えたように俺の顔をギロリと睨む。

「……信用できる情報だろうな?!」

「あ~うん……。信用していい。」

「本当か?!」

「そこは本当。これ以上ないくらいにな……。」

「……ふ~ん?」

ちょっと言い淀んだせいでガスパーが顔を顰めたが、情報としては信用していい。
何しろ出処がどうも……。
昨日の事を思い出し、俺は少し身震いする。

「……ていうか、どこから聞き出したんだよ?これ??信用していいのかよ??」

「別に信じなくてもいいですよ~。」

そう聞いた俺にリグは含み笑いをして答える。
それは逆に言えば、その情報にかなりの自信があるからだ。
だとすると……俺は逆に不安になって聞いた。

「……本当に危ない事、してないよな??」

情報を集める事が半ば趣味となっているリグは以前、いい気になって一度だけ危険な真似をした事がある。
その時にちょっとは痛い目を見たから、もう無茶をする事はないと思うが流石にこれは心配になる。

「してないって。」

「でもさっき、危ない展開がどうのって……。」

「そうなんですよ~。俺、魅力ないのかなぁ~。」

「は?はぁっ?!ちょっと待て!誰から聞いたんだよ?!この話?!」

「……彼氏っぽい人?」

「か?!……オマ?!彼氏いたのか?!」

冗談の延長だろうが散々俺を追い掛け回してきて、実は彼氏がいたとか初耳だ。
しかしここがまた心配でしかない。

「彼氏っぽいって何だよ?!彼氏じゃないのか?!お前、本当に危ない事はしてないんだよな?!」

「してないですよ。彼氏じゃないっていうのは変な意味じゃなくて……。俺はすぐに付き合いたいんですけどね、卒業するまで駄目って言うんですよ?!」

「?!」

「だから今回の事も~、いい機会だし危ない展開も期待したのにぃ~。生徒には手は出さないって~。」

「生徒には手は出さない?!」

「硬いですよねぇ~。」

そこまで聞いて、俺は怖くなってそれ以上聞かなかった。
ただ、リグの情報がバチクソ信用できる事は理解した。

「……オマ……あんま、その人に迷惑かけるなよ……。」

「かけてないって。俺、本気だし。ちゃんと好きって言ってもらって、卒業したら付き合う約束してから、俺、遊んでないですよ?それに迷惑かけたとしても!その分、将来お釣りが来る勢いでたっぷり払うから!!」

からからと明るくそう言われ、俺はそれ以上、何も言えなかった。
シルクがぶっ飛んでで忘れてたけど……リグも相当な小悪魔なのを忘れていた……。
まぁ、ふざけて俺に言い寄る以外はふらふらしてると思っていたリグが、知らないうちに固定されていた事はある意味安心したのだが……。
誰だかわからないがリグの将来の彼氏が、あまりこの大型犬子犬に振り回されず、平穏に過ごせている事を願うばかりだ。
俺は乾いた笑いを浮かべた後、気持ちを切り替えてガスパーと向き合った。

「とりあえず、誰に聞いたのかも情報源がどこかも言えないが、情報内容は本当に信用していい。」

「……手薄な部分を掻っ攫って独占しやがって……どんだけ自己主張が強いんだよ……負けず嫌いも大概にしろっての、クソッ……。一矢報いたつもりかよ……気に入らねぇ……。」

俺にはよくわからないが、今回のやり取りでリグは何か3年メンバーに一泡食わせた事になっているようだ。
いや、俺はリグから聞いたなんて一言も言ってないんだけどな。
頭の中でリグがキシシッと笑った気がした。

「とはいえ、今後のクーパー側との攻防を考えますと、学校側の情報だけでも正確に把握できたのは大きいかと。それで、その情報元とは今後とも接触は可能なのですか?」

「あ、はい。聞いた事に関してはわかる事は教えてくれると言っていました。」

「……聞かれた事に関しては、か。なるほどな。確かに正確な情報らしいな。」

「どういう意味だよ??」

「つまり、聞かれた以上の事は不用意に明かせないって意味だろ。それだけ教える側も慎重に扱う必要があるって事だよ。聞かれてない部分は相手に必要だとわかっていても向こうから簡単には明かせない。裏を返せばそれだけ信用性がある。」

「へえー。」

「へえーって……他人事みたいに言うな!!全部、テメェの事だ!!テメェの!!」

「わ?!ごめんごめん!!」

「まぁまぁ、坊っちゃん、落ち着いて下さい。約束の時間も迫っていますので、話をまとめましょう。」

なんだがカリカリしているガスパーはそう弁護士さんに宥められ、気に入らなそうに座り直した。

そう、ここからだ。

午前中までは惰眠を貪り食っていたが、ここからは俺も戦わなくてはいけない。
俺のためでもあるし、エドのためでもある。
権力や財力があろうと、やったら駄目な事は駄目なのだ。
今まではなあなあにしてきたのだろうが、それはエドの為にならない。
それまで泣き寝入りしてきた人たちの為にも、ここでガツンと一発、痛い目をみせなければならない。

来る途中で見た、働く大人たちを思い出す。
俺達はいずれ、立場は違えど皆、ああやって社会を背負っていくのだ。
社会的に子供でいられるのは今だけだ。
俺達は後少しで高校を卒業するのだ。

今しかない。

俺はグッと手を握った。
正直、自分自身の不安定さを把握しきれていない。
だから不安だし自分を信用しきれなくて怖い。

でも俺はひとりじゃない。

「……お前ひとりで意気込むんじゃねぇ。その為にこっちは色々準備してきたんだからな。」

「うん。ありがとう、ガスパー。ガスパーにも皆にも感謝してる。」

「ヘッ。まだ早えっての。その言葉は全部終わる時までとっとけよ、馬鹿。」

俺達は顔を見合わせて頷いた。
それを微笑ましそうに弁護士さんが見守っていた。
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