姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

写真に写るモノ

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「……これ、貼りだす意味、あるのか??」

俺はポスターの試作品を見ながら呟いた。
だってこれ……どう見ても普通の学校風景だぞ?!
しかもそのうちの一つは○ーリーを探せ状態で、俺がどこにいるかさえよくわからない。
だが、写真を選んできたライルは自信満々に笑っている。

「これぞサークって写真を選んだんだ。「平凡姫」ならではの特徴を全面に押し出したんだから、間違いない。」

「……俺には全く意味がわからん。」

「姫」の広告ポスターは最大で3通り作られる。
一つをメインポスター、他がサブだ。
別に3つ作らなくても良いのだが、皆、宣伝の為に3つ作る事が多い。

「平凡なんだから、3つもいらなくないか??」

「レジェンド姫達みたいなスター性のある場合はあえて一つに絞るのもありだけど、サークは違うだろ?平凡だからこそ3ついるんだよ。」

ライルは何故か自信有りげだ。
全く意味がわからない。
俺は候補の写真をもう一度見てみる。

まず、メインポスター候補。
それは校庭でクラスメイトと800m競走をさせられた後の写真だった。
バテるクラスメイトと俺……。
汗だくだしバカっぽいし、へばってるし……。
「姫」感はゼロ。
本当、ただ単に男子学生が馬鹿やってる日常のひとコマだ。

そしてサブの2枚。
1枚は立番の時にクラスメイトとその辺の生徒に声をかけて、めちゃくちゃ大人数で集合写真みたいに集まって撮った写真だ。
別に俺は真ん中にいる訳でもなく、しかも撮る事を教えられていなかったので、後ろから声をかけられて振り向きざま、何が起きたのかわからないまま取られた写真だ。

「これ……俺がどこかなんて、知り合いでも見つけにくいぞ?!」

「そういう狙いだよ。「平凡姫を探せ!!」ってキャッチコピーつける。」

「……マジか。」

「おうよ。そこにいるだけで目立つレジェンド姫達にはできない「平凡姫」にのみ許された手法だな。」

「まぁいいけど……。それより……。」

俺は最後の写真を手に取り、見つめた。
いつ取られたのかわからない写真。

「……………………。」

俺が窓から外を眺めている後ろ姿。
おそらく雰囲気的に放課後か何かだろう。

ぽつんと一人、窓枠に腕を付いて外を眺めている。
はっきり言って、後ろ姿だから俺だとはっきりわかるかと聞かれると微妙だ。

でも、俺だ。

どうしてだかそれがわかる写真だった。

「……いい写真だろ?」

「さあ、俺にはよくわからない……。」

「本当は、さ……。これをメインにしようかと思ったんだ。でも顔がきちんと写ってないのはメインポスターではNGって実行委員会に言われてさ。」

「いつ撮ったんだよ、これ……。」

本当にこれは撮られた覚えがない。
ポスターの写真は実行委員会に頼まれた写真部の撮った物の他、学校内か学校行事の時の写真なら許可を得て使う事ができるので、修学旅行の時の写真なんかを混ぜる場合もある。

だからおそらく、これは写真部が撮ったものじゃない。
誰かが知らないうちに俺を撮った写真だ。

「悪いが出処は教えられない。」

「なんで?!」

「そういう約束でもらった写真だから。」

ライルは薄く笑った。
その顔は揺るがない筋が通っていて、俺は聞いても無駄だと悟った。
だから精一杯の抗議を込めて睨みつける。

「男と男の約束ってか?!」

「まぁそんなとこだよ。」

何が男と男の約束だよ?!
知らんうちに撮られた写真をポスターにされる身にもなってみろってんだ。
ぶーたれる俺の頬を、ライルはけらけら笑いながら突いてくる。

「まあまあ、怒るなよ。これからレジェンド姫達と花見をするんだろ?」

「その姫たちからいたれりつくせり面倒見られて……。」

「良いよなぁ~。選ばれし華に囲まれて花見だなんて……。普通、一人でもお近づきになるのが難しいってのに、どういう御身分だよ~。」

側にいたクラスメイトが嘆きながら文句を言ってくる。
別に俺。何にもしてないし。
言うなればちょうどいいペットみたいなもんだろ??
ていよくからかわれてるだけだし。

「どういう御身分って……テメェらが選んだこのクラスの姫だっての!!」

「うわぁ~!!やめろ~!!」

「姫様が怖乱心だぁ~!!」

ムカついたので一番近くにいた奴にプロレス技をかけると、皆がゲラゲラ笑う。
こいつら本当に無理矢理「姫」にした癖に、俺を全く「姫」扱いしないよな?!

「あはは。まあまあサーク。そろそろ行かないと、件の姫達に怒られるぞ?!」

「ヤベッ!!」

準備があるから早く来るなとは言われたが、遅くなったらなったでぶーぶー言われるのは目に見えてる。
俺は慌ててクラスメイトを離した。

「行ってらっしゃ~い。」

「……行ってらっしゃいって……??ライル、ついてこないのか??」

「俺が行ってもお邪魔だろ??」

「え??でもお前、俺の姫騎士じゃん?!行ってらっしゃいな訳?!」

「写真部とポスターの話もして来ないとならないし。」

「なら誰かクラスの奴がついてくんの??」

「え?行かないけど??」

「行かねぇな??腹減ってるし。」

「しかもサークがレジェンド達にちやほやされてるのを黙って見守るなんて……何の苦行だよ??」

ライルをはじめ、クラスメイト達はさも当然とばかりの顔で俺を見ている。

え??
俺、姫だよな??

このクラスの「姫」なんだよな??
「姫」ってクラスの奴らにちやほやされて、大事にされるもんじゃねぇの?!

少なくともバレンタイン合戦前なんだし!!
他の「姫」は常に騎士やクラスメイトに徹底して守られてんのに?!
行ってらっしゃいな訳?!このクラス?!

「……テメェら!!もっと「姫」を大事に扱いやがれぇ~っ!!」

思わず叫ぶ。
しかし皆、涼しい顔だ。

「いやだって、レジェンドの騎士達が揃ってんだろ??」

「そこに俺達まで行っても仕方ないじゃんか??」

「むしろめちゃくちゃ安全!!」

……いや、確かにそうだけどな??
レジェンド達の騎士は若干狂気入ったガチモンだけどな??
そこにお遊び感覚のうちのクラスの連中が行ってもすることないし、肩身が狭いだろうけどな??

「お前ら……俺を守る気ねぇな……。」

俺は呆れ返ってため息をついた。
そりゃな??レジェンド姫……いや、普通「姫」に選ばれる様な奴と違って、俺は襲われる危険はないよ?!
しかも一応、元空手部な訳で、多少何かあっても自分で応戦できるし……。

しかしそれにクラスメイト達は微妙な顔で笑った。
いつもなら「別にサークなら平気じゃん?!」とか抜かしそうなのに。

「なくはないぞ、サーク。」

「俺らも頑張ってんのよ?それなりに。」

「姫とか関係なく、サークは俺らの仲間だしな。」

いつもと違う微妙な返答に、俺もどう返して良いのかわからなくなる。
そんな俺を置いてけぼりに、クラスの連中は「うぇーい」とばかりに拳をぶつけ合ったりハイタッチしている。

「お前ら……。」

俺は苦笑いした。
こいつらは話してくれないだろう。
俺に今、何が起きているのか。
何も言わずに、何事もなかったように、俺を守ろうとしている。

それを知ろうとするのは、こいつらの気持ちを無駄にする事かもしれない。
だが、だからこそ知っておかなければならないのかもしれない。

「ほら、サーク。そろそろ行けよ。」

「俺、パン買いに行くから裏庭まで送ってやるからさ。」

「あ、俺も売店行く~。」

「まぁ……何かあっても、あそこにガチなのいるしな。」

「だな。大丈夫、大丈夫。」

軽い感じで馬鹿どもが言う。
「あそこ」の部分は聞かなかった事にしながら、俺は移動を始める。

「………………。」

「………………。」

それでもチラッと「あそこ」にいる奴を見る。
目が合っても安定の無表情。
本当、何考えてんだろうな。
そいつと並んでいた奴が俺に何か言いかけたが、無表情が睨んで黙らせた。

「……アレらはついてくんのかよ??」

「俺らが止めても無駄だしな。」

「ライルが自分がいない時は近づくなって言ってあるし、平気だろ?」

「一応、お前の騎士見習いだし??サークはどうせレジェンド姫達に取り合われてるし、レジェンドの騎士達がうじゃうじゃいる中ではどうにもできないだろうし。」

「別に取り合われてねぇよ。」

「お前って本当、無自覚だよなぁ~。」

「たまにしばきたくなるわ。」

そんな会話をしながら裏庭に向かう。
駄弁ってだらだら歩く俺達の後ろを、それとなくついてくる二人の事は気にしない。

気にしないんだ!!









「え~?!リオ!これ凄くない?!」

花見の会場は花盛りだ。
はっきり言って、河津桜よりもその下のレジェンド姫達の華が凄い……。

何、この豪華な料理は??

それをあれもこれもと皆から取皿に乗せられ、俺はもぐもぐとそれを口に運ぶ。
飲み物も何故かコップが3つもある状態だ。

ごめんよ、皆……。
確かにこれはいたれりつくせりだ。
ペットに餌付けしている状態とも言えるけれど。

そんな中、皆がポスターの原案を持ち寄ってキャッキャしている。

「うん……ちょっと恥ずかしかったんだけどね……。」

照れたように縮こまるリオの写真は、かなり豪華な衣装に身を包んだ写真だった。
一応、学内で撮った写真なんだけど、衣装が凄すぎて学校だとは思えない。

「と言うか……ガスパー、結構意外な路線で来たね?よく似合ってる。」

「……別に……変なモン着せられんのは我慢ならなかったから自分で用意しただけだ……。」

ガスパーの写真はヤンキー姫の異名をひっくり返すようなものだった。
弁護士をイメージした様なきっちりしたスーツ姿。

「これ……ファンが増えるよ……。」

「知るかよ、んなもん。」

「いや、この眼鏡はヤバイな……。」

「だよね~☆エッロ~。」

「はぁ?!眼鏡の何がエロいんだよ?!」

俺が思わずツッコんだ眼鏡をシルクにエロいと言われて、真っ赤になって怒っている。
いや……でも……今回ばかりはシルクに少し賛同する……。
きっちり禁欲的にしたせいで、かえってエロく見える。
これはヤンキー姫からのギャップにヤラれるヤツは多いだろうなと予想できる。

「エロいってのは!!テメェの事だろうが!!」

そう叫ばれたシルクのポスターは言わずものがな、あのミニスカート制服だ。
俺が通りかかってた時取っていた階段のもあるのだが、メインポスターはそれじゃない。

「……そうかな?何かシルクにしたら意外……。」

「清楚っていうか……純真というか……。」

「うん……何か凄く可愛い……。」

「これ、誰のジャージ??この色、2年のだよね??」

そう。
シルクのメインポスターは、イヴァンのジャージを着た状態のものだった。
それに照れ臭そうに袖を通してニマっと笑った顔だった。

ガスパーとウィルが俺の顔をチラ見した。
俺は素知らぬふりをしておいなりさんを口に押し込んだ。
中が五目になってて旨い。

「んふふ。内緒ぉ~♡」

シルクはそう言うと、にへへとポスターと同じく照れ臭そうに笑った。
そして控えめにニマニマ膝を抱えて俯いてる。

「……何か今、シルクにキュンと来た……。」

「キュンとはしねぇが……初めて確かにコイツって可愛いのかもしれねぇと思ったわ……。」

確かに。
今のシルクは可愛いと俺でも思う。
そうさせたのがアレなのかと思うと少し複雑な気もするが……。
シルクってSっぽくて実はMっけでもあったのかな??
散々振り回しておきながらアレで落ちるとか……世の中、何が起きるのかわからないものだ。

「ウィルは?ウィルのポスターも見せてよ??」

「うん……。」

そう言われ、ウィルは丸めていたポスターをおずおずと開いてみせた。
それを横目で見る。
どんなウィルでもウィルは綺麗だろうなと、軽い気持ちだった。

だが……。


「……ッ!!これ……っ?!」


俺はその瞬間、頭が真っ白になった。
皆が見ようとしたそのポスターの1枚を奪い取って立ち上がる。
皆がびっくりして俺を見上げた。

「サーク??」

「おい、一人で見てんなよ?!」

そう言われても、俺は座ってポスターを皆の方に出す事ができなかった。


これは……俺の……俺だけの……。


胸に走った衝撃。
嫌だ、と強く思ったんだ。


だって……これは……。
これは俺の、俺だけのウィルのはずだ……。


そこにあるポスターに映し出されていたのは、図書室のカウンター内に座って本を読むウィルの姿だった……。
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