姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

立てば普通、座れば平凡、食べる姿は小動物。

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「……駄目か?」

「いや……むしろ、何故そこまで拘る?!」

俺は廊下に立ち、目の前のデカイ男を見つめて困惑していた。
後ろではライルがニヤニヤ笑っている。
きっとこれも「思惑通り!」とか思ってるんだろうなぁ~。

昼休み、弁当を食おうと思っていたら、クラスメイトが慌てた様に駆け寄ってきた。
客が来てるけどどうする?!とドアの方を指差され、俺はあからさまに変な顔になった。

そこにはどことなく申し訳なさそうにしたギルが立っていたのだ。

どうするか戸惑っていると、ライルがニッと笑って「追い返すのも可哀想だろ?弁明もあるんだろうし。大丈夫!何かあったらこの姫騎士に任せろ!」って言うもんだから、仕方なく話す事になった。

そして廊下で向かい合ってみて気づいた。

滅茶苦茶注目されてる……。
いや、あからさまには見てこないんだけど、皆、思いっきりこっちに意識を向けている。
俺はチラリとライルを見て、はぁ、とため息をついた。
だから話して来いって勧めたのか……。
何かもう、慣れてきた……。

「だからさ?なんでそんなに俺の「騎士」に拘るんだよ??お前、A組じゃん?!シルクの騎士になれよ??」

「……俺が騎士になりたいと思うのはお前だ、サーク。誰でもいい訳じゃない……。先日は思いの丈が強過ぎて無理を強いた事は……反省している……。」

「いやいやいやいや?!男子校の「姫」だの「騎士」だの、単なるノリと悪ふざけのお遊びだぞ?!そこに強過ぎる思いの丈とかいらないから!怖いから!!」

「……怖がらせた事は反省している。」

「いや!だからな?!そんなマジになる事じゃねぇだろ?!」

鬼の生徒会長として恐られたギルが、俺の前で少し項垂れ、おとなしく反省を口にする様を皆が驚愕してひそひそ言っている……。
も~これ、どうしたらいいんだよ~。
俺は半泣きになっていた。

「……コホン。」

そこにライルが咳払いして俺を庇う様に前に出た。
その途端、ギルの雰囲気が変わって無表情にライルを見つめた。

「……何だ、ライル?悪いが俺はサークと話をしているんだ。」

「わかっているさ。うちの「姫」と話してるって事はね。だが「姫」がお困りの様だからね~、俺も自分の仕事をしないとならないって訳さ。」

ライルのその言葉にギルは一瞬、驚いた様に目を開き、そして淡々と言った。

「……「騎士」か…。お前が「騎士」と言う事は……「姫騎士」か……。」

「そういう事。」

にこにこと普段通りに話すライル。
周囲もそれに少しざわついた。
ギルが俺の「騎士」になりたがっていると言うのはもう、誰もが知っている話だったからだ。
だがそこに、俺にはもう「騎士」が、しかも「姫騎士」がついているとわかったのだ。
ギルはふぅ…と小さくため息をつくと、真面目な顔でライルと向き合った。

「ならばお頼み申す。貴公の「姫」、アズマ・サークの「騎士」となりたい。許可願えるか?」

俺はライルの後ろで頭を抱えた。
言われてしまった……。
前回は跪いて誓いを言われる前に俺がそれを阻止したけれど、今回は言われてしまった。

おいおいおいおい!!
何かあったら俺を守ってくれるんじゃなかったのか?!
「姫騎士」ライル!!

既に騎士のついている「姫」の「騎士」になる場合、直に姫に誓いを立てるのではなく、揉め事を避ける為に既についている先輩騎士にお伺いを立ててから行うというのが暗黙の了解となっている。
そしてギルはその「先輩騎士にお伺いを立てる」と言うのをやってしまったのだ。

周囲がもう、チラ見ではなくガン見でざわざわこちらを見ている。
暇人ども!面白がりやがって!!
俺は頭を抱えながら、心の中で悪態をついた。

大体、ライルは何の為に前に出てくれたんだよ?!
あっさり「お伺い」を受けやがって!!

そんな俺の思いを知ってか知らずか、ライルはにこにこ笑っている。
そして「う~ん…。」と演技ががった仕草をした。

「……君の気持ちはわかった。ギルバート・グラント公。だが、君はうちの「姫」から10点の減点を与えられた身だ。それはわかっているのか??」

「よくわかっている。だからその失態を挽回する為にも「騎士」として誠心誠意、サークに仕えたい。」

「おいおいおいおい!!待て待て!!俺抜きで話が進んでねぇか?!これ?!」

流石にまずいと思って声を上げると、ライルがまあまあとなだめてくる。
まあまあじゃねぇ。

「落ち着けって、サーク。」

「これが落ち着いていられるか!!」

「いいからいいから。ふふっ、悪い様にはしないからさ?な??ここは俺に任せろって。」

妙な含み笑いをしてライルが言った。
こいつ……また何か企んでやがる……。
何かここにきて、ライルの性格が読めなくなってきた……。
それに困惑して黙った俺を見て、ライルは了承されたと判断したのだろう。
クルッと向きを変え、にこやかにギルと向かい合った。

「……その心意気、確かに受け止めた。だが、見ての通り……うちの姫様はまだ御立腹の様でね??」

「……どうしたらいい?」

「そうだなぁ……とりあえず「騎士」云々の前に、誠意を見せて「姫」の怒りを鎮める事から始めた方がいいかもな。」

「……誠意?何をしたらいい?」

そこまで言うと、ライルは満面の笑みで俺を振り返った。

「サーク、デザートは何が食べたい??」

「……へっ?!」

「なるほど……そういう事か……。わかった。サークの許しが出るまで、食後の甘味を用意しよう。」

「……へっ?!」

「サークもその時その時で食べたい物が変わるだろうし……。学食に場所を移そう。」

「へ?!」

ライルがパチンと指を鳴らし、教室の俺の机の方を指差した。
すると申し合わせていたように、クラスの連中が俺の弁当をまとめ直して包みなおして持ってきた。

え……何、この連携プレイ……?!

そしてライルに弁当を渡す。
そしてにっこりと笑った。

「じゃ、行こうか?サーク??」

「え……ええぇぇぇ~?!」

無言で頷き、歩き出すギル。
その後に続くライル。
弁当を人質に取られた俺は、黙ってそれについていくしかなかった……。










「……アイツだろ?!毎日、鬼の元生徒会長に甘いモノ奢らせてる「姫」って……?!」

次の立番。
俺は恥ずかしくて顔を上げられなかった。

ライル~!!
妙な噂になってんじゃねぇか!!

俺はにこにこ立番に付き合う自分の「姫騎士」を睨みつけた。
ライルはそんなものはどこ吹く風で、挨拶を行っている。

「ほら!サークも元気に挨拶!!」

「元気に挨拶してられるか!!変な噂になってるってのに!!」

「本当、話題性は抜群だな~。流石は鬼の生徒会長~。」

「アイツを話のネタに利用すんなよ!!流石に可哀想だろ?!」

「ん~??あんなに「騎士」にするのを嫌がるのに、なんでそんなに気遣うんだ?サーク??こうやって無駄に奢らされてたら「騎士」になるのが嫌になるかもしれないだろ??」

「いやでも……。」

ライルはにまっと含み笑う。
よくわからないが、まだまだ何か企んでいるらしい。
俺は諦めて大きくため息をついた。

ひそひそ、ひそひそ、噂は広がっていく……。

「……俺さ~学食で見た。」

「俺も~。」

「あの元生徒会長がさ……。」

「そうそう……。」

「でも……ちょっと……何ていうか……。」

「うん……わかるわ……。」

「…………食べてる時……妙に可愛いっていうか……なあ?!」

「俺もそれ、思った……。」

「なんでこんな平凡なのが「姫」?!なんで元生徒会長、こんなにこだわってるんだって思ってたんだけど……。」

「……うん……何ていうか……。」

「こう……リスとかハムスターとかが……もきゅもきゅしてるみたいっていうか……。」

「うん……わかるわ……。」

「こう……なんつうか、ずっと見てられるというか……。」

「……餌付けしたくなるよな……。」

「うん……。」

「王道の「姫」って感じじゃないんだけどさぁ……。」

「むしろ平凡過ぎて親しみが湧くっていうか……。」

「……新感覚の「姫」…だよな……。」

遠巻きにサークを見つめるギャラリーは、知らぬ間に自分たちがおかしな沼にハマりかけている事に気づいてはいない。
ライルはニヤッとそれを笑った。

サークの食べる姿の隠れファンは多い。
だからサークが昼休みに弁当を食べていると、皆、なんとなくおやつを与えてしまう。

それを利用しない手はない。

様々な面から話題を集め、学食で食事をさせる。
皆、はじめはギルがデザートを奢らされていると注目するが、やがてサーク自身に注目するようになる。
学食にあるフリースペースの利用者は前まで席の2/3ほどだったが、今や日々、満員御礼で普通に学食を使う生徒が弾かれてしまったりと、生徒会に苦情が来始めたらしい。
サーク本人はそれが自分のせいだとは思っておらず、「今月の月一メニュー人気なんだな??旨いのかな??俺も食べてみようかなぁ~。」何て呑気な事を言っていた。

本当、無自覚だよな、コイツ。

しかし苦情も来ているし、あまり「売り」をタダ見させるのも勿体無い。
そろそろ出し惜しみして焦らして行かなければ。

「サーク?」

「ん??」

「何か学食、混んできたから弁当なら今日から教室で食おうな??」

「え?そりゃ俺はその方がありがたいけど……??」

「ギルには何食べたいか言って、買ってきて貰えばいいし。」

「いや!つか、そろそろこれやめないか?!流石にお金の関わる事だし!!」

「そっか~。なら、違う事で頑張ってもらうか~。」

「……ライル、まだアイツを利用する気か?!」

「なら「騎士」にするか??」

「そ、それは……っ!!」

サークが思わず言い淀んだ時だった。

誰かが勢い良く、サークの前に立った。
驚いてそれを見ると、3年の空手部の元主将だった。

「サーク!!」

「お!主将!!久しぶり!!」

同じ部活だったサークは久しぶりに話す主将ににこやかだ。
だが、ライルはさっとその間に入った。

「ライル……??」

「………………。」

変な緊張感にサークは首を傾げる。
主将はそれを見て一瞬、苦い顔をした。
しかしすぐにもじもじと顔を赤くしてサークをチラ見すると、大きく息を吸い込んで叫んだ。

「俺もサークの「騎士」にしてくださいっ!!よろしくお願いしますっ!!」

「………………へ?!」

主将の大声に周囲が騒然としている。
まるで告白よろしく手を差し出して頭を下げる主将に、俺は困惑したまま固まっていたのだった。
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