姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

先生、結婚してください。

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そして3日後、1年、2年ときて、俺達3年の立番の日が来た。

「……………………。」

「サーク!!ちったぁ笑えって!!」

「笑えると思うか?!笑われてんのに?!」

「別に笑われてないだろうが!!」

「いや!笑ってる!!俺なら指差して笑う!!」

何が悲しくて、このキラッキラなレジェンド姫達と並んで立たなきゃならんのだ!!
平凡代表みたいな俺が!!
も~!穴があったら入りたい!!

立番というのは、本来は先生方や生徒会・風紀委員が行う活動の一つで、主に「朝、元気に挨拶を交わせる校風」をモットーに行われている。
まぁ挨拶もそうなのだが、服装のチェックやあからさまに変な物を持ってきていないかみたいな役割も持っている。

そんな立番に、3学期は「姫」も加わる。
もちろん、バレンタイン合戦の為の顔売りだ。
初めは自由参加だったらしいんだけど、やはりそこで顔が売れれば貰える貢物も増えるので「立番合戦」みたいな事が昔あり、今は希望日を提出し実行委員会の方で日数調整をして振り分けて行われている。

最初の3日間は全学年の「姫」の紹介という事で、1日目が1年、2日目が2年、3日目が3年の「姫」が立つ。
当然目玉は3年の「姫」となる。

「サーク!!暗い顔して立たない!!「姫」は笑顔が基本!!ほら!笑ってよ!!」

「アホか!!この状況で笑顔で要られるほど俺は役者でもなきゃ!ウグイス嬢でもねぇ!!」

やる気なさそうに突っ立っていたら、速攻シルクにどつかれた。
流石に服装チェックもある立番で初日からスカートは控えたらしく、何故かジャージ姿だ。

「……なんでジャージ??」

「ん??この前、稽古つけた時、イヴァンが俺に勝てなかったから走り込ませてきた!!」

「いくらイヴァンでもお前になんか勝てるか!!」

「勝ったらデートしてあげるって言ったのにだよ~?!」

「……そりゃ、動揺してかえって本領発揮できねぇよ…アイツ……。」

「勝負は勝負!どんな時でも最大限の力が出せなかったら駄目じゃん!!」

可哀想に…イヴァンはまだシルクに遊ばれているらしい……。
そこにウィルがくすっと笑って近づく。

「シルクはまたイヴァンを困らせてるのか?」

「別に困らせてないもん!鍛えただけ!!」

「ふ~ん。」

何となく分が悪そうに頬を染めツンとするシルクに、ウィルは静かにふふっと笑う。
う~ん、花が…二人の背後に花が満開だ……。
去年の優勝者である姫&姫騎士の二人の絡みとあって、周囲が騒然となる。
拝みだす奴まで出てくるんだから、この二人は本当、迂闊に並べてはいけない。

「おいコラ、お前ら、並ぶなっての。人だかりができて登校の妨げになってんじゃねぇか?!」

そこに不機嫌そうなガスパーが止めに入る。
「姫なんか馬鹿らしい、やってらんねぇ」とか言いながらクラスからの説得に応じて仕方なく「姫」をやっている割に、ちゃんと立番にも出てくるあたりガスパーって生真面目なんだよな~。
ヤンキーっぽいのに、ちょっとそういう所は可愛いと思う。

「リオ~!!リオもこっちおいでよ~!!」

セレブ組の「下々の者は近づくな」的な無言の圧力に囲まれているリオに、シルクは何でもない事のように呼びかける。
うん、シルクが「姫」として揺るぎない地位を築いているのは、単に可愛いからってだけじゃない。
こうやって周りができない事を「え~?気づかなかった~」みたいなノリでやってのける優れた社交性あってのものだ。
こちらの和に入りたくても入りにくかったリオは、シルクの声に笑顔で駆け寄ってくる。

「ねね!!ちょっと写真撮って!!」

自分の騎士にスマホを渡し、3年「姫」の集合写真を取ろうとしている。
それに気づいた周囲もスマホを出して構え始める。

うん、シルクの凄いところは、こうやってごく自然に周りに自分や周りを売り込む事ができるPR力でもある。

「待って、シルク!私も写真撮ってもらうから!!」

中々、他クラスと交流できないリオが嬉しそうにクラスの騎士に写真を取ってくれるよう頼んでいる。
そんな様子に、周囲の何人かはほぅ…っとため息をついた。
リオは元々美形だ。
やっぱ血筋とか違うんだろうかという美貌の持ち主だ。
だがやはり「セレブ組」の「セレブクラス」の「姫」となると誰もが及び腰になる。
そこにセレブクラスの連中の圧が加わるもんだから、やっぱり近寄りがたい「姫」という認識になってしまう。
そんなリオが俺達と変わりなく笑って、嬉しそうに俺達と写真を撮ろうと無邪気にしている様子を見れば、偏見みたいな壁は薄らぐ。

「ほら!ガスパーももっと近づいてよ!!」

「だあぁぁぁ!!俺まで巻き込むな!!」

「いいじゃん!いいじゃん!!」

シルクに構われ、ドタバタしているガスパーも同じだ。
孤高の人、不良、ヤンキー、怖い、近寄りがたいと言うイメージのガスパーが、シルクに巻き込まれたとはいえ、俺達とわちゃわちゃしている様子は目から鱗が落ちるだろう。
しかも何気に困って真っ赤になってる様子は可愛い。
いつもキツい雰囲気で隠しているが、こうなってしまえばガスパーがかなりの美人である事は皆の目に明らかだ。

「……いい。」

「……可愛い……可愛いよ……。どうして今まで気づかなかったんだろう……。」

シルクやウィルに目を奪われていた連中も、リオやガスパーの可愛さに気づき、ぽぅっとなっている。

う~ん、本当、レジェンドと言われるだけあるよな~。
華がある、しかもその華の種類が群を抜いて別格なのだ。
俺は4人を眺めながら、一人、うんうんと納得していた。

「……サーク??」

「ちょっと!サーク!!何やってんの?!写真撮るって言ってるじゃん!!」

「……へ??」

「おい、サーク……。忘れてるみてぇだが、テメェも「姫」だろうが……。」

「へっ?!」

「あはは!サーク!!本当に忘れていたのかい?!」

そんなキラッキラなレジェンド姫達が俺に注目し、一斉に呼びかけた。
俺は目を瞬かせる。

「………………ハッ!!」

あまりのレベルの差に完全に忘れていた。
俺も「姫」だった!!

周囲も誰かの「騎士」か何かだと思っていたのだろう。
彼らの近くにいた完全にど平凡な俺に注目が集まる。
レジェンド姫達の視線と言葉に、信じられないものでも見るように俺を凝視する。

や、やめてくれ~!!
だから嫌だったんだよ!!
このメンツと「姫」なんて!!
明らかにおかしいだろ?!
このキラッキラなレジェンド姫達と俺が並ぶのは!!

「お!俺はいい!!」

「良くない!何、馬鹿な事言ってんの?!」

「ほら、サーク?早くしないとホームルームの時間になるだろ??」

「さっさとしろ!!馬鹿が!!俺だって仕方なく混ざってんだからよ?!」

「サーク?私は一緒に写真撮りたいな!駄目??」

レジェンド姫、それぞれから声がかかる。
周囲は騒然としていた。
この見目麗しい伝説クラスの「姫」達に親しげに呼ばれている平凡な奴は誰だ?!
一緒に写真を撮ろうと懇願されているどう見ても平凡なこの男は誰だ?!

こいつはどこの「姫」なんだ?!

ざわざわする雰囲気に耐えかね、俺は慌てて皆の和に加わった。
時間をかければかけるほど、ざわつきが広がって不利(?)になる。
だったら大人しくサクッと写真を撮って終わらせた方が被害が少ない。

4人に引っ張られ、俺は真ん中に置かれた。
そして4人が何故か俺に引っ付いてきた。

ひいいぃぃぃぃ~!!

待って?!
別に皆の事、嫌いとかじゃないけど!!
この状況って……!!

皆、写真を撮りながら、思いっきり変な顔をしている。
明らかに混ざった異物に怪訝な顔をしている。

「……誰なんだよ、あれ?!」

「3年C組の「姫」らしいぞ?!」

「姫?!あれが?!あんな平凡な奴が?!」

「でも3年C組って言えば……グラント元生徒会長に10点減点出した……。」

「は?!あの鬼の元生徒会長が無理やり「騎士」になろうとして減点つけたって「姫」?!」

「しかも10点!!」

「というか…めちゃくちゃレジェンド達に愛されてね?!あの平凡……?!」

「……何者だよ…あいつ……?!」

写真が終わっても、周囲はざわざわと驚愕した様に俺を見ていた。
ライルやクラスの奴らがしてやったりって顔でニヤニヤ笑っている。
くそう!!こういう狙いなんだろうけど…こういう狙いなんだろうけど……っ!!

そんな俺の頭に、ぽんっと誰かの手が乗った。
びっくりして振り返り……俺は歓喜に叫んだ。

「……ドイル先生っ!!」

「おはようございます。サーク君。」

「おはようございます!今日も一段とダンディで素敵です!!先生!!」

自分からこんな黄色い声が出る事に驚くが、そんな事はどうでもいい!!
立番!ありがとう!!
朝から嫌な目にあったと思ったが!!
こんなご褒美をくれるなら!俺はいくらでも晒し者になるぜ!!
しかもドイル先生に頭ぽんぽんしてもらったよ!!
今日はすこぶるいい日に違いない!!

先生はふふっと大人の微笑を浮かべる。
あ~、もう……死んでもいい……。
その微笑だけで俺は昇天しそうだ。

ホームルーム近くになり、登校する生徒もまばらになった。
立番をしていた生徒も先生方も、ホームルームや授業に向けて校舎に戻っていく。

そんな中で俺は先生と話している。
世界が先生と俺だけになってしまったみたいな気分になる。(乙女)

「ありがとうございます。サーク君。ところで、サーク君は「姫」なのですか??」

「あ~……。お恥ずかしながら、うちのクラスは他のクラスと違ってなり手がいなくて……。」

「そう…ですか……。ふふっ、なるほど。考えましたね、C組。サーク君を「姫」に置くとは、優勝を狙っているのかもしれませんね。」

「……はい??」

「ふふっ。いえいえ、何でもありませんよ。」

先生は優雅な笑みを浮かべている。

レオンハルド・ドイル先生。
歴史の先生だ。

はっきり言おう。
どこをとっても完璧な紳士、この世のものとは思えない格好良さ、滲み出る大人の余裕、人生が何たるかを語る背中、世界で一番かっこいいいぶし銀、それがドイル先生だ。
許されるなら、俺はペンライトとうちわを持参して授業を受けたいくらいだ。

ちなみにドイル先生のカッコ良さは、頭脳だけではない。
なんとこの先生、各格闘技の師範免許を持っている様な武闘派なのだ。
うちではメインで空手部の顧問をしているが、柔道から太極拳まで、武術系のどの部活の指導もできるスーパーウルトラマンなのだ。

キラッキラな目でドイル先生をも見つめる俺に、クラスの連中が引いている。
でも!引かれようが何だろうが構わない!!
こんなに格好いい先生を間近で拝めたんだから!!
俺はうっとりとドイル先生を見つめる。

「……いつ見ても格好いい…。」

「ふふっ。サーク君もいつ見ても可愛いですよ??」

「俺は別に可愛くないです。平凡すぎて「姫」とか言われるの恥ずかしいですし……。」

「おや、それは自分を知らなすぎますねサーク君。君の魅力は深い。その愛らしさに一度でも気づいてしまったら、抜け出し難い愛らしさなのですよ??」

「……愛らしい。」

とても自分がそうだとは思わなかったが、それでも先生が好意的に俺を見てくれていると思うともう、天にも上る思いだった。

「……先生、結婚して下さい!!」

思わず口から漏れる。
知らない人は俺のその言葉にぎょっとするが、見慣れている奴らはあ~また言ってるよ~と呆れて見ている。

それを先生は大人の余裕でさらりと流してしまう。

「ふふっ。ありがとうございます、サーク君。でも私は妻がおりますからね。すみません。」

「ブレない!愛妻家な所も好きです!!」

「はい。愛妻家なので、いくら君が可愛くて愛おしくて仕方なくても、浮気はしないのですよ??」

「そこがいい!!そうだからこそ格好いい!!素敵です!先生!!」

恋は盲目。
推しは神。

俺の秘密。(ほぼ秘密になっていない)
それは先生に恋をしているという事。

恋…とは少し違うのかもしれない。
とにかくこの世で最も尊い俺の激推しナイスミドル。

格好いい……。
とにかく格好いい……。

まさに、神!!

頭のネジでも飛んだかのようにドイル先生を激推しする俺をクラスの奴らは遠い目で見ていた。
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