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本編
奇妙な感覚
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「……………………。」
ギルは反省したのか今日は1日、顔を見せなかった。
姫顔合わせが終わり、バレンタイン合戦実行委員会(非公式)の本部になっている生徒会会議室である教室前。
掲示板に早々に貼られた減点告知を見ながらそんな事を思う。
「……やっぱ、やり過ぎだったかな??」
始業式に3学期の「姫」が決まったばかりの状態で張り出された10点の減点告知に、集まった各学年の「姫」やクラス代表はざわついていた。
しかもそれが元、鬼の生徒会長様なのだからそりゃざわつく。
皆が去った後、改めてその告知を一人、俺は苦笑いしながら眺めていた。
そして思うのだ。
俺はなんであの時、あんなにも腹立たしかったのだろう?
よくよく考えてみれば、そこまで怒る事でもなかった気がする。
まぁアイツの顔を見た途端、危機察知能力がフルスロットル状態になったのは今までの事を考えれば致し方ない事なのだけれども。
はぁ…とため息をつく。
『何でグラント先輩の騎士の申し出を阻んだんです?』
イヴァンに言われた言葉が頭の中に響いた。
なんで拒んだ??
咄嗟の反応だったから、なんでかなんてわからない。
でも凄くそれが嫌で腹立たしかった。
あんまり意識した事なかったけど、そんなに俺、アイツが嫌いなのかなぁ……。
嫌い…嫌い??
俺はアイツを嫌いなのだろうか??
それまでの事を思い返してみる。
2年の時、アイツはまるで孤高の人みたいにクラスで浮いてた。
浮いてたけど本人はそれを気にもしていなかった。
変な奴だなぁとは思った。
でもクラスメイトだし、別に向こうも意識的に周りを避けている訳でもなかったし、他の皆と同じ様に普通に接したのだ。
アイツも別にそれに対して、他のヤツに対応するのと同じく素っ気なくしていた。
素っ気ないというか…あれが素なんだろうなぁ。
無表情に「ああ…」とか「そうか…」とかそんな感じ。
だからアイツが俺を特別扱いしているなんて事は、全く気づかなかったのだ。
何か班分けしたりするといつも一緒になって、体育とかで二人組を作れと言われると何故かアイツと俺があぶれて組むって感じで、またお前かよ~とか笑ってた。
でもあまりにそういう事が続くし、何か周りが俺をあえて避けてる様な気がしてきて、それとなく仲のいい奴に聞いたんだよ、「俺、皆に避けられてる気がするんだけど、何かしちゃったかなぁ~」って。
そしたら言いにくそうにこっそり教えてくれた。
俺がクラスで避けられてる様に見えるのは、ギルがお前を他のヤツと組ませない様に動いているからだって。
唖然とした。
え??って聞き返したよ、マジで。
だってアイツ、別に俺と組んでたって仲良くしようみたいな素振りは全く無かったんだ。
普通これだけ組む事が多かったら、だんだん仲良くなるもんだけど、アイツは相変わらず素っ気なかったし、そうやって組んだり同じ班になって協力したりする以外で話しかけたりどっか遊びに行こうみたいな話をしたりとかなかったんだ。
変わってるなと思ったけれど、個人個人パーソナルスペース?みたいなものはあるし、これがアイツの通常運転なんだなと納得してた。
なのに、だ。
俺に直接仲良くしたいと言う雰囲気は微塵も出さない癖に、周りに圧をかけて俺から遠ざけてたってどういう事だよ?!
俺はそれを聞いてすぐ、友人が止めるのも聞かずにアイツに直接文句を言いに行ったんだ。
「おい!ギル!!お前、他のヤツが俺と組まないよう圧かけてたってどういう事だよ?!お前、全然素っ気ないから別に俺と仲良くする気がないんだと思ってたのに!!何なんだよ?!周りを脅してるとか!!」
俺の言葉にアイツはとても驚いたようで、珍しく無表情から面食らった顔をした。
「……別に…脅したつもりはない……。お前と組みたいのかと見ていただけで……。」
「メッチャ圧力かけられてたって皆言ってんぞ!!」
「圧力をかけていたつもりはない…。」
「なら班決めの時、俺を入れようとすると何かと口出ししたってのは何なんだよ?!」
「……それは…その方が良いと思ったからで……。」
「良いとか悪いとか、なんでテメェが決めるんだよ?!活動班なんか別にどう組んだっていい事だし!!」
俺にそう言われ、ギルは無表情に黙ってしまった。
そのなんの感情も見えない無表情が俺を酷くイライラさせた。
「何なんだよ?!お前?!俺と仲良くしたい訳でもないのに?!なんでそんな嫌がらせすんだよ?!俺、お前に何かしたか?!」
俺にそう言われ、ギルは初めて傷ついたみたいな顔をした。
「……俺は…お前と仲が良いんじゃないのか……?」
「へっ?!」
「……そうか……お前はそう思っていたんだな……。」
「へ…??……お前…もしかして、俺と仲良くしているつもりだったのか??あれで??」
素っ頓狂な声を上げた俺に、ギルは無表情に頷いた。
……わかりにくい。
わかりにくすぎるだろう?!
え?!どこがどう仲良くしてたんだ?!俺達?!
「……………………。」
「……………………へ??」
全くをもって会話が成り立っていない。
周りがハラハラと俺とギルを遠巻きに見守っている。
ギルは俺と仲良くしていたつもりだった。
俺はコイツは俺に興味がなく仲良くしたい訳じゃないと思っていた。
俺もギルも無言。
よくわからずにお互いの顔を見ていた。
「……わかった。」
ふぅ…とばかりにギルがため息をつく。
そして立ち上がって教室を出て行こうとした。
「え?!おい!ギル?!」
俺は慌てた。
全くをもって仲良くしようとしていたようには見えなかったが、ギルはどうやら俺と仲が良いと思っていた。
そんな俺にあんな事を言われたのだ。
流石に異次元の無言男も傷ついたであろう事は俺にだってわかった。
俺の呼びかけにギルは一度立ち止まったが、振り向かなかった。
そして言った。
「……そう思われていなかったのは残念だ。だが、確かに俺が一方的にそう思っていたのだろう……。」
「それは……!!」
「……俺の行動はわかりにくいと昔から言われていた…。だから…少し時間が欲しい……。今後はきちんとお前と仲良くしたいという事が伝わるよう、努力する……。」
そう言ってギルは教室を出て行った。
俺も周りも何も言えなかった。
俺は後悔した。
何故ならこの行動が!!
ヤツの変態的行動をエスカレートさせてしまったのだから…っ!!
そこからは酷かった……。
本当に酷かった…。
その頃の事を思い出し、俺は頭を抱えた。
あれは今思い出しても恐ろしい…。
ヤツの隠そうとしなくなった独占欲はとどまるところを知らず、俺がいくらやめろと言っても「まだお前に伝える努力が足りないのだな……。」とか斜め上どころか宇宙まで突き抜けた思考回路でつきまとってきた。
あまりに酷くて、相談したシルクがクラスに突入してくる事も日常茶飯事だった。
なんでシルクに相談したかと言えば、ギルは剣道部の有力選手でもあり、次期主将を約束されていた男だったからだ。
そんな戦闘能力の高い男に対抗するにはこちらもそれ相応の戦力が必要になる。
そしてヤツに勝てる見込みのある奴と言ったらシルクぐらいしかいなかったのだ。
だが…。
シルクが来るという事は、当時シルクの姫騎士だったウィルも来るという事で……。
俺は自分で芽のうちに刈り取ってしまったとはいえ、かつて淡い想いを抱いていたウィルに変なところを見られるという完全終了を受ける羽目になったのだ。
「うぅ……俺の青春ていったい……迷走しすぎてて悲しくなる……。」
俺は掲示板に手をつき俯いた。
全てと言う訳ではないが、諸悪の根源は間違いなくコイツだ。
もしもあの馬鹿なストーキングがなかったら、一度は自分で刈り取ってしまったとはいえ、根が死んでなければ俺の淡い気持ちはもう一度芽吹いたかもしれない。
だが、これでとどめを刺されてしまったのだ。
俺はみっともなくて恥ずかしいところをウィルに見られた。
しかも手助けしてもらうという醜態付きでだ。
結局あの一件は、色々な人の協力と、最終的にヤツを生徒会長にしてしまうという妙案のお陰で沈静化した。
生徒会長にしてしまえば忙しくなって俺に構う時間も減るし、何より学校の顔である生徒会長が一人の生徒にストーキングしているなどと言う事は許されるはずもなく、学校全体から注目される事で無意識の監視下に置かれ、馬鹿な真似ができなくなったのだ。
ちなみにこの絶妙な監視システムを考えついたのはガスパーだ。
状況を見るに見かねて、「テメェには借りがあんからよ…」と、呆れながら手助けしてくれた。
不良なのに律儀な奴だと思う。
そこに幼馴染でセレブ組に影響力のあるリオがバックアップしてくれ(ギルもガスパーと同じくセレブクラスでないセレブ組なのだ)、俺もクラスの奴らに協力してもらいながら言葉巧みにおだてて、生徒会長戦に立候補させ、見事当選させたのだ。
当選した事でヤツは忙しくなり、そして生徒会長と言う立場になった事から今まで以上に周りからの視線に晒され、色々言われたりする事でやっと俺に対する執着が異様だと自覚してくれた。
だからヤツが生徒会を引退するまでは本当に俺も穏やかな日々を送る事ができ、軽くアイツの事は忘れていたのだ。
なのに……。
俺が「姫」になった事で、アイツの変な執着が再燃した。
いや、しかけただけかもしれない。
このまま反省して終わってくれればいい。
アイツは学園内受験とはいえ、これから入試試験だってあるのだから。
「…………………………。」
考えてみれば、酷い事をされたよな?俺??
俺がアイツを毛嫌いしていたとしても、誰も非難しないだろう。
嫌い?
俺はギルが嫌い??
『サーク。』
頭の中でアイツが俺に呼びかけた。
まだ、変な執着をされていると気づいていなかったあの頃のアイツ。
慣れてくると、無表情の中に微かな喜怒哀楽があるのが見えた。
俺に呼びかける時、アイツはいつも穏やかで笑っていた。
無表情だったけどそれがわかったんだ。
もっと、わかってやればよかった。
そうしたら、アイツが俺と仲良くしたいんだって意思表示をしていたのも見えたかもしれない。
アイツが俺を特別だと、大事なんだと思っている気持ちに気づいてやれたかもしれない。
アイツが俺を……。
「……ん??何か、変くね??」
急に我に返った。
なんで、俺がアイツの気持ちを理解してやる事を前提に考えているんだ??
そもそもの問題は、アイツがわかりにくいと事が原因だし、人に理解してもらおうという一般的な言動がなかった事が問題なのだ。
「………………………………??」
ま、いっか。
妙な気分だったが、とりあえずわかった事がある。
俺はギルが嫌いな訳じゃない。
そりゃ、ストーキングされて死ぬほど怖かったし、迷惑だったし、頭にきたし、面倒くさかった。
でも、だからって絶対許せないとか、恐怖で身がすくむとか、死ぬほど嫌いとか、そういう風には思っていない。
『何でグラント先輩の騎士の申し出を阻んだんです?』
イヴァンに言われた言葉。
どうして阻んだのか…。
そりゃ、付きまとわれたら迷惑だし、面倒くさいし、何より怖いって気持ちがある。
でも、騎士の申し出を拒んだ根本的な何かは別なところにある気がする。
「……何だ??よくわからんな??」
頭をボリボリ掻いてみたがよくわからない。
だいたい、イヴァンが変に意味がありそうな言い方をしたのが悪い。
単に嫌だったから阻んだだけなのに。
変な言い方をされたせいで、変に考え込んでしまう。
嫌いな訳じゃないのに??
俺はなんであの時、あんなにアイツが許せなかったんだろう??
「??」
よくわからない。
そんな事を考えながら、俺はギルの減点告知を眺めていたのだった。
ギルは反省したのか今日は1日、顔を見せなかった。
姫顔合わせが終わり、バレンタイン合戦実行委員会(非公式)の本部になっている生徒会会議室である教室前。
掲示板に早々に貼られた減点告知を見ながらそんな事を思う。
「……やっぱ、やり過ぎだったかな??」
始業式に3学期の「姫」が決まったばかりの状態で張り出された10点の減点告知に、集まった各学年の「姫」やクラス代表はざわついていた。
しかもそれが元、鬼の生徒会長様なのだからそりゃざわつく。
皆が去った後、改めてその告知を一人、俺は苦笑いしながら眺めていた。
そして思うのだ。
俺はなんであの時、あんなにも腹立たしかったのだろう?
よくよく考えてみれば、そこまで怒る事でもなかった気がする。
まぁアイツの顔を見た途端、危機察知能力がフルスロットル状態になったのは今までの事を考えれば致し方ない事なのだけれども。
はぁ…とため息をつく。
『何でグラント先輩の騎士の申し出を阻んだんです?』
イヴァンに言われた言葉が頭の中に響いた。
なんで拒んだ??
咄嗟の反応だったから、なんでかなんてわからない。
でも凄くそれが嫌で腹立たしかった。
あんまり意識した事なかったけど、そんなに俺、アイツが嫌いなのかなぁ……。
嫌い…嫌い??
俺はアイツを嫌いなのだろうか??
それまでの事を思い返してみる。
2年の時、アイツはまるで孤高の人みたいにクラスで浮いてた。
浮いてたけど本人はそれを気にもしていなかった。
変な奴だなぁとは思った。
でもクラスメイトだし、別に向こうも意識的に周りを避けている訳でもなかったし、他の皆と同じ様に普通に接したのだ。
アイツも別にそれに対して、他のヤツに対応するのと同じく素っ気なくしていた。
素っ気ないというか…あれが素なんだろうなぁ。
無表情に「ああ…」とか「そうか…」とかそんな感じ。
だからアイツが俺を特別扱いしているなんて事は、全く気づかなかったのだ。
何か班分けしたりするといつも一緒になって、体育とかで二人組を作れと言われると何故かアイツと俺があぶれて組むって感じで、またお前かよ~とか笑ってた。
でもあまりにそういう事が続くし、何か周りが俺をあえて避けてる様な気がしてきて、それとなく仲のいい奴に聞いたんだよ、「俺、皆に避けられてる気がするんだけど、何かしちゃったかなぁ~」って。
そしたら言いにくそうにこっそり教えてくれた。
俺がクラスで避けられてる様に見えるのは、ギルがお前を他のヤツと組ませない様に動いているからだって。
唖然とした。
え??って聞き返したよ、マジで。
だってアイツ、別に俺と組んでたって仲良くしようみたいな素振りは全く無かったんだ。
普通これだけ組む事が多かったら、だんだん仲良くなるもんだけど、アイツは相変わらず素っ気なかったし、そうやって組んだり同じ班になって協力したりする以外で話しかけたりどっか遊びに行こうみたいな話をしたりとかなかったんだ。
変わってるなと思ったけれど、個人個人パーソナルスペース?みたいなものはあるし、これがアイツの通常運転なんだなと納得してた。
なのに、だ。
俺に直接仲良くしたいと言う雰囲気は微塵も出さない癖に、周りに圧をかけて俺から遠ざけてたってどういう事だよ?!
俺はそれを聞いてすぐ、友人が止めるのも聞かずにアイツに直接文句を言いに行ったんだ。
「おい!ギル!!お前、他のヤツが俺と組まないよう圧かけてたってどういう事だよ?!お前、全然素っ気ないから別に俺と仲良くする気がないんだと思ってたのに!!何なんだよ?!周りを脅してるとか!!」
俺の言葉にアイツはとても驚いたようで、珍しく無表情から面食らった顔をした。
「……別に…脅したつもりはない……。お前と組みたいのかと見ていただけで……。」
「メッチャ圧力かけられてたって皆言ってんぞ!!」
「圧力をかけていたつもりはない…。」
「なら班決めの時、俺を入れようとすると何かと口出ししたってのは何なんだよ?!」
「……それは…その方が良いと思ったからで……。」
「良いとか悪いとか、なんでテメェが決めるんだよ?!活動班なんか別にどう組んだっていい事だし!!」
俺にそう言われ、ギルは無表情に黙ってしまった。
そのなんの感情も見えない無表情が俺を酷くイライラさせた。
「何なんだよ?!お前?!俺と仲良くしたい訳でもないのに?!なんでそんな嫌がらせすんだよ?!俺、お前に何かしたか?!」
俺にそう言われ、ギルは初めて傷ついたみたいな顔をした。
「……俺は…お前と仲が良いんじゃないのか……?」
「へっ?!」
「……そうか……お前はそう思っていたんだな……。」
「へ…??……お前…もしかして、俺と仲良くしているつもりだったのか??あれで??」
素っ頓狂な声を上げた俺に、ギルは無表情に頷いた。
……わかりにくい。
わかりにくすぎるだろう?!
え?!どこがどう仲良くしてたんだ?!俺達?!
「……………………。」
「……………………へ??」
全くをもって会話が成り立っていない。
周りがハラハラと俺とギルを遠巻きに見守っている。
ギルは俺と仲良くしていたつもりだった。
俺はコイツは俺に興味がなく仲良くしたい訳じゃないと思っていた。
俺もギルも無言。
よくわからずにお互いの顔を見ていた。
「……わかった。」
ふぅ…とばかりにギルがため息をつく。
そして立ち上がって教室を出て行こうとした。
「え?!おい!ギル?!」
俺は慌てた。
全くをもって仲良くしようとしていたようには見えなかったが、ギルはどうやら俺と仲が良いと思っていた。
そんな俺にあんな事を言われたのだ。
流石に異次元の無言男も傷ついたであろう事は俺にだってわかった。
俺の呼びかけにギルは一度立ち止まったが、振り向かなかった。
そして言った。
「……そう思われていなかったのは残念だ。だが、確かに俺が一方的にそう思っていたのだろう……。」
「それは……!!」
「……俺の行動はわかりにくいと昔から言われていた…。だから…少し時間が欲しい……。今後はきちんとお前と仲良くしたいという事が伝わるよう、努力する……。」
そう言ってギルは教室を出て行った。
俺も周りも何も言えなかった。
俺は後悔した。
何故ならこの行動が!!
ヤツの変態的行動をエスカレートさせてしまったのだから…っ!!
そこからは酷かった……。
本当に酷かった…。
その頃の事を思い出し、俺は頭を抱えた。
あれは今思い出しても恐ろしい…。
ヤツの隠そうとしなくなった独占欲はとどまるところを知らず、俺がいくらやめろと言っても「まだお前に伝える努力が足りないのだな……。」とか斜め上どころか宇宙まで突き抜けた思考回路でつきまとってきた。
あまりに酷くて、相談したシルクがクラスに突入してくる事も日常茶飯事だった。
なんでシルクに相談したかと言えば、ギルは剣道部の有力選手でもあり、次期主将を約束されていた男だったからだ。
そんな戦闘能力の高い男に対抗するにはこちらもそれ相応の戦力が必要になる。
そしてヤツに勝てる見込みのある奴と言ったらシルクぐらいしかいなかったのだ。
だが…。
シルクが来るという事は、当時シルクの姫騎士だったウィルも来るという事で……。
俺は自分で芽のうちに刈り取ってしまったとはいえ、かつて淡い想いを抱いていたウィルに変なところを見られるという完全終了を受ける羽目になったのだ。
「うぅ……俺の青春ていったい……迷走しすぎてて悲しくなる……。」
俺は掲示板に手をつき俯いた。
全てと言う訳ではないが、諸悪の根源は間違いなくコイツだ。
もしもあの馬鹿なストーキングがなかったら、一度は自分で刈り取ってしまったとはいえ、根が死んでなければ俺の淡い気持ちはもう一度芽吹いたかもしれない。
だが、これでとどめを刺されてしまったのだ。
俺はみっともなくて恥ずかしいところをウィルに見られた。
しかも手助けしてもらうという醜態付きでだ。
結局あの一件は、色々な人の協力と、最終的にヤツを生徒会長にしてしまうという妙案のお陰で沈静化した。
生徒会長にしてしまえば忙しくなって俺に構う時間も減るし、何より学校の顔である生徒会長が一人の生徒にストーキングしているなどと言う事は許されるはずもなく、学校全体から注目される事で無意識の監視下に置かれ、馬鹿な真似ができなくなったのだ。
ちなみにこの絶妙な監視システムを考えついたのはガスパーだ。
状況を見るに見かねて、「テメェには借りがあんからよ…」と、呆れながら手助けしてくれた。
不良なのに律儀な奴だと思う。
そこに幼馴染でセレブ組に影響力のあるリオがバックアップしてくれ(ギルもガスパーと同じくセレブクラスでないセレブ組なのだ)、俺もクラスの奴らに協力してもらいながら言葉巧みにおだてて、生徒会長戦に立候補させ、見事当選させたのだ。
当選した事でヤツは忙しくなり、そして生徒会長と言う立場になった事から今まで以上に周りからの視線に晒され、色々言われたりする事でやっと俺に対する執着が異様だと自覚してくれた。
だからヤツが生徒会を引退するまでは本当に俺も穏やかな日々を送る事ができ、軽くアイツの事は忘れていたのだ。
なのに……。
俺が「姫」になった事で、アイツの変な執着が再燃した。
いや、しかけただけかもしれない。
このまま反省して終わってくれればいい。
アイツは学園内受験とはいえ、これから入試試験だってあるのだから。
「…………………………。」
考えてみれば、酷い事をされたよな?俺??
俺がアイツを毛嫌いしていたとしても、誰も非難しないだろう。
嫌い?
俺はギルが嫌い??
『サーク。』
頭の中でアイツが俺に呼びかけた。
まだ、変な執着をされていると気づいていなかったあの頃のアイツ。
慣れてくると、無表情の中に微かな喜怒哀楽があるのが見えた。
俺に呼びかける時、アイツはいつも穏やかで笑っていた。
無表情だったけどそれがわかったんだ。
もっと、わかってやればよかった。
そうしたら、アイツが俺と仲良くしたいんだって意思表示をしていたのも見えたかもしれない。
アイツが俺を特別だと、大事なんだと思っている気持ちに気づいてやれたかもしれない。
アイツが俺を……。
「……ん??何か、変くね??」
急に我に返った。
なんで、俺がアイツの気持ちを理解してやる事を前提に考えているんだ??
そもそもの問題は、アイツがわかりにくいと事が原因だし、人に理解してもらおうという一般的な言動がなかった事が問題なのだ。
「………………………………??」
ま、いっか。
妙な気分だったが、とりあえずわかった事がある。
俺はギルが嫌いな訳じゃない。
そりゃ、ストーキングされて死ぬほど怖かったし、迷惑だったし、頭にきたし、面倒くさかった。
でも、だからって絶対許せないとか、恐怖で身がすくむとか、死ぬほど嫌いとか、そういう風には思っていない。
『何でグラント先輩の騎士の申し出を阻んだんです?』
イヴァンに言われた言葉。
どうして阻んだのか…。
そりゃ、付きまとわれたら迷惑だし、面倒くさいし、何より怖いって気持ちがある。
でも、騎士の申し出を拒んだ根本的な何かは別なところにある気がする。
「……何だ??よくわからんな??」
頭をボリボリ掻いてみたがよくわからない。
だいたい、イヴァンが変に意味がありそうな言い方をしたのが悪い。
単に嫌だったから阻んだだけなのに。
変な言い方をされたせいで、変に考え込んでしまう。
嫌いな訳じゃないのに??
俺はなんであの時、あんなにアイツが許せなかったんだろう??
「??」
よくわからない。
そんな事を考えながら、俺はギルの減点告知を眺めていたのだった。
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