姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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追いつ追われつ複雑怪奇

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「……え?!反応、それだけ?!」

俺は驚いて上を見上げた。
見上げた後輩は特に気に止めるでもなく、500mLのパック牛乳をストローで飲んでいる。
つか、弁当に牛乳って……小学生の給食じゃあるまいし、なんでその組み合わせで飯が食えるんだよ、お前??
色々突っ込みたかったが、牛乳によっては目が奪われて変な顔で固まってしまった。
俺が見ている事に気づいた後輩は、何でもなさそうに俺をチラ見する。

「そのうちそうなるだろうなぁって感じはありましたからね。そんなに驚かないですね、僕は。むしろ3年の3学期まで引っ張られるとは思わなかったぐらいですよ。」

「はぁ~?!」

「本当、サークさんて自分の事、無自覚ですよね~。」

階段の上と下、右と左、左右上下対象な位置に俺とイヴァンは座って話していた。
俺が「姫」になったせいで、これ以上、無造作に近づけないのだ。
俺は握り飯の残りを口に放り込み、もごもご口を動かしながら上にいるイヴァンを睨みつけた。

イヴァンは部活の後輩だ。
3年が抜けた後、部長をしている。

始業式の今日、3年以外は午後からだいたい部活がある。
何か面白い噂を聞いたとばかりに爽やかに笑って訪ねてきたイヴァンに、俺は昼飯がてら大体の顛末を話した。
コイツとは何となく気の合う奴だったので、こうして無駄話をする事が多かった。
高校三年間の癖で握り飯だけは持ってきた俺は、部活前の腹ごしらえをするイヴァンに付き合って、屋上に繋がる階段の上と下に別れていつものように話した。

イヴァンは割と苦労性なところがある。
真面目で人当たりのいい好青年なんだが、そのせいかあまり人に愚痴を言ったりもできない。
とある事があって俺がつつきまわして、やっとこうやって人気のない場所で少しだけ愚痴を言ってくるようになったのだ。

「無自覚って……皆にそれ言われんだけど?!」

「事実れふから。」

イヴァンは弁当を食い終わると、買ってきたらしい焼きそばパンを頬張りだした。
どんだけ食うんだよ、お前……。
まぁ人一倍、体動かしてんのは認めるけどさぁ~。

「その弁当食って、焼きそばパンって……。」

「デザートは別腹ですよ。」

「いや、焼きそばパンはデザートに入らんだろうが?!」

「メロンパンなら良いですか??」

そう言ってニヤッと笑うとメロンパンを出してくる。
おい待て?!マジでどんだけ食うんだよ?!
あからさまに引いた顔をすると、ヒョイッとばかりにメロンパンを投げてきた。
反射的にキャッチして、意味がわからず上を見上げる。

「姫就任記念の餞です。」

「嫌味かよ?!」

ニヤニヤ笑ってそう言われ、俺はムカッとしながらもありがたくメロンパンを頬張った。
それをニコニコと上からイヴァンが眺めている。

「……何見てんだよ?!」

「ん~??デザート??」

「は??」

「いつ見てもハムスターがもきゅもきゅしてるみたいで癒やされるなぁと思って。」

そう言われて固まる。
そしてもごもごしたまま、メロンパンを寄こしてきた意味を理解して睨みつけた。

「ふふっ。怒んない怒んない。かわいいが台無しですよ~、サークさん??」

「~~~っ!!俺のどこがかわいいって?!」

「ん~、別に顔が可愛い訳じゃないんですけど~。ふふっ。僕的には食べてる仕草はずっと見てられますね~。」

ほのぼの癒され顔でそう言われ、俺はムスッと押し黙る。
腹は立つが、癒やされ顔をしている奴にわざわざ喧嘩売って嫌な気持ちにさせるのも気が引けるので、何も言えないのだ。
まぁ、俺が食ってるのを見て癒やされるってのは意味不明なのだが……。
それでもムカついたので、俺は顔を反らしお茶を飲んだ。
お互い何も言わない時間が過ぎる。

「……僕、やりましょうか??」

腹が満たされて言葉がなかった穏やかな時間。
そこに少し声色の違ったイヴァンの声が響いた。
なんの事かわからず俺は上を見上げる。

「何をやるんだよ??」

「騎士。サークさんの騎士ですよ。」

そう言われ、俺は目を見開いた。
コイツにそれを言われるとは思わなかったからだ。

「……え??騎士って……騎士だぞ?!」

「あはは!わかってますよ?!」

「え??え??でもそれって……?!」

俺はもごもご口篭った。
本当にコイツにこれを言われるとは思わなかったのだ。
その理由もしっかりある。
それで俺がつつき回して、相談に乗るようになったのだから。

「でもこのままいくと、グラント先輩にまた狙われるかもしれないんでしょう?」

「それはそうなんだけど……。」

「グラント先輩を避けたいなら、一応、誰かしら付けた方が良いですよ。僕でなくてもね。」

「まぁ……うん……。」

「多分、鬼の元生徒会長もとい元剣道部主将に、サークさんが騎士の申し出をされそうになってるって話は明日にはきっと皆知ってるでしょうし。そうなるとそう、簡単には騎士になりたいって言ってくる奴もいないと思いますよ?」

「は~、そうなんだよなぁ~!!別に騎士とかいらないんだけどさぁ~!!アイツへの抑止力はできる限りつけといた方がいいのは確かなんだよなぁ~。何しでかすかわかんねぇから~。」

「インパクト凄いですよねぇ~。姫になりそうもなかった平凡タイプが突如「姫」になったってのに、そこに泣く子も黙るグラント先輩が騎士の座を狙ってるとか……。ふふっ、話題性だけで行くと、ぶっちぎりトップですね~。」

「んなトップいらねぇよ!!」

イヴァンの言葉に俺は頭を抱える。
そして理解した。

そうか…こういう事が狙いだったんだな?!

ギルが俺に変なこだわりを持っている事は、うちの学年ならだいたい皆知っている。
そしてシルクをはじめ、レジェンドクラスの姫たちとも仲がいい事も皆知っている。
そして全く「姫」とは縁遠い、ザ・平凡って感じの俺だ。
そんな俺が「姫」になれば話題になる。
そして何もしなくても、ギルや姫たちとわちゃわちゃしていれば、あの見るからに何の取り柄もなさそうな特に特徴もない「姫」は何者なんだと日々、噂さされる事になる。

「クッソー!!そういう事かよ~っ!!だから俺は何もしなくていいと?!「姫」にさえなればそれで大丈夫だと?!」

ライルやクラスの奴らの魂胆がわかり、俺はしてやられたと嘆いた。
イヴァンは何を今更と言うかのように平然とそんな俺を眺めている。

「まぁでも…そこは第一段階に過ぎないでしょうけどねぇ~。」

「はぁ?!まだ何かあんのかよ?!」

「そこがわからないのが、サークさんのいい所というか、無自覚さというか……。」

「何だよ!わかってんなら教えろよ!!」

「え~?!僕は嫌ですね~。せっかくこんな面白い事が起こるのに、教えられませんよ~。」

「何が面白いってんだ!!」

ムキーッとばかりに怒るが、イヴァンはゲラゲラと笑っている。
全く…、コイツ愚痴をこぼすようになったのはいいけど、俺に対しての態度が他と違いすぎないか?!

「あははっ!!……で?どうするんです??」

「何がだよ?!」

「騎士ですよ、騎士。僕、やっても良いですよって言ったじゃないですか??」

「あ~……。」

そう言われ、俺は言葉を濁した。
そりゃ、イヴァンの申し出はありがたい。
ギルが絡んでるとわかった以上、遊び半分でも俺の騎士になってもいいとか言ってくる奴は出てこないだろう。
それに実際ギルが絡んできた時、その前に立ちふさがれる度胸と技量がある奴なんて片手で余るほどしかいない。
イヴァンはその数少ない人間に入るだろう。

「……ふふっ、随分、悩みますね~。」

「だってよ~。そりゃ、お前の申し出はありがたいけどよ~……。アレはどうすんだよ?!もういいのかよ?!」

「……いいんです。もう。見込みないんで。」

「でもよ~~。」

事情を知っているだけに俺は複雑だ。
イヴァンとは仲が良い。
アイツに対する駒としては申し分ない。
だから頼んでしまいたい気持ちもなくはない。
でも俺にはそれは言えなかった。

「……むしろサークさんは、本当に僕の事情の事で迷ってるんですか?」

「……どういう意味だ??」

そんな俺に対し、イヴァンは変な事を言い出した。
何が言いたいのかわかりかね、俺は首をひねる。

「別の事があって迷ってるんじゃないんですかって事です。」

「……は?別の事??」

別の事とは何だろう?
俺は考えてみたがよくわからなかった。
そんな様子に少し苦笑いしながらイヴァンは言った。

「そうですねぇ~。凄く色々あるんですけど……。そうですねぇ……例えば……。何でグラント先輩の騎士の申し出を阻んだんです?」

「……へっ?!」

思いもよらない事を言い出した。
何でって、怖いからだよ。
さっきそう話したじゃないかと思う。

「確かに本人の気持ちを確認せず押し切ろうとしたのはやり方が不味かったと思いますけど、グラント先輩が騎士についたら、絶対、変な奴に絡まれる事なんてなくなりますよ??」

「……それは…そうだろうけど…。」

「でも断った。減点までつけて。」

「……だってよ、あのやり方は汚いだろ…。」

確かに落ち着いて考えれば、やり方は不味かったしムカついたけれども、ギルの申し出は俺にとって都合がいいとも言える。
それを何であんな完全拒絶みたいな拒み方をしたのかと言われたら、よくわからなくなる。
俺は妙な気分になって俯いた。

「でも騎士にしても良ければ、その場でやり直させれば良かっただけでしょ??」

「だってムカついたし……。何か嫌だった……。あんなやり方、嫌だった……。」

「やり方を変えたら??」

「……しない。それでも騎士にはしない。」

そう答えながら自分でもよくわからなくなった。
俺、何でこんなにアイツを騎士にしたくないんだろう??
怖いってのは確かにあるんだけどさ。

「……何で?」

イヴァンがゆっくりと聞いた。
俺は一生懸命考えようとしたけれど駄目だった。
だって、そうしたらどうなるかなんて目に見えてんじゃんかよ!!

「何でって……騎士にしたら!アイツ常にベッタリしてくるぞ?!年中付きまとわれるのが嫌だからに決まってんだろ!!」

ムキになってそう言うと、イヴァンはクスクスと笑いを噛み殺して俺を見下ろしていた。
何なんだよもう!!
年下の癖にムカつく奴だな!!

「ふ~ん??まぁ、そういう事にしておきましょうか。」

「どういう意味だよ?!」

「まあまあ。ならそれで、僕を騎士にしたくない理由は何なんですか??」

「いや、だからそれは……。」

それはお前、聞くなよ。
お前が一番わかってんだろうが。
しかしイヴァンは続ける。

「僕の事情は関係ないですよ?僕は騎士になりますよってあなたに言ってるんですから。今はサークさんの気持ちを聞いてるんです。何で悩んでるんです?そんなにもグラント先輩に寄り付かれたくないなら、僕ほど好条件の奴はいないと思いますけど?」

「……それは…そうなんだけど…。」

いや、だからさぁ~?!
それは俺がいいって言っちゃう訳にはいかないんだよ?!
何でわかんねぇのかなぁ~?!

「僕を…いやむしろ、誰かを騎士として自分の側に置きたくない何か理由があるんじゃないですか??」

「そんなのはない。多分ない。」

「そうですかねぇ~??本当はもう、サークさんの中に「騎士にするならこの人」って気持ちが固まってるんじゃないですか??」

「はあ?!ねぇよ、そんなの!!強いて言えば「姫」って立場に慣れてないから、誰かに守られるって感覚がないし、男としてそうされる事に抵抗があるだけだ!!」

俺が「騎士」にする相手を決めている??
言われて考えてみたがそれはない。
何しろ俺はつい数時間前まで、自分が「姫」になるなんて事を考えた事もなかったのだから。
だから自分に「騎士」ができるなんて想像した事もないのだ。

「……なるほど~。」

「なるほどじゃねぇよ!馬鹿野郎!!」

「ふははっ。まぁ今日はこの辺にしておきましょうか。あんまりイジメると、サークさんパンクしちゃいそうですし。」

「てめぇ~っ!!」

何だかよくわからないが、イヴァンに上からしたり顔で語られるのはとにかくムカつく。
ムカムカ睨んで見るのだが、何だか微笑ましそうに眺められ、さらにムカついた。

「でも無自覚も程々にした方が良いですよ?あっちもこっちも無自覚って、無自覚拗らせ過ぎですよ。」

「……俺は別に無自覚じゃない!!」

「無自覚すら無自覚なんですよね~、サークさん……。」

「違~うっ!!無自覚じゃない!!俺はちゃんとしっかり自分が見えてる!!」

ウガ~ッとばかりにそう叫ぶ。
それをイヴァンは面白そうに笑って見ている。
くそう!余裕カマしやがって!今に見てろよ?!

「なら自分がしっかり見えてるサークさん?僕が騎士になる話はどうするんです??」

「う……。」

「するんなら証人に誰かその辺の人捕まえて、さっさと終わらせましょう。僕も部活までの時間なくなってきたんで。」

確かに無駄話で時間を食った。
俺も時計を見て、さっさと帰ろうと思い立ち上がった。

「え~??今決めなきゃ駄目かよ~?!」

「こういうのは一晩考えたって、答えは変わらないですよ??」

そう言われてもなぁ…。
だとしたら答えは出てんだよ。
俺は一息つくと、イヴァンを見つめて口を開きかけた。


「ふ~ん??イヴァン、サークの騎士になるんだぁ~。ふ~ん?!」


そこに突然、別の声が混じった。
その声に俺はギクリとした。
イヴァンに至っては、死刑宣告を受けた囚人の様に青ざめている。

「……っ!!シルクさんっ!!」

俺達がいた階段とは逆の手すりから、シルクが無表情でこちらを覗き込んでいる。
イヴァンが膝の上のものを全部落っことしながら、勢い良く立ち上がった。

うわぁ~、マジかぁ~。
俺は頭を押さえた。

修羅場だ。
何でいきなりこんな修羅場に突入するんだ?!
これから起こる地獄を想像し、俺はげっそりしていまう。

コツンコツンとミニスカートでゆっくり歩き、シルクは俺達の前に腕を組んで仁王立ちした。
その無表情さがさらに恐怖を加速していく


「入学式の日からぁ~、ず~~っと、俺の騎士になるってぇ~、俺だけを見てますってぇ~、言ってたのにぃ~~。俺だけの騎士になるってぇ~言ってたのにぃ~?ふ~ん?サークの騎士になるんだぁ~~?!」


声に抑揚がない……。
食べたおにぎりが元の形になって口から出そうだ。

そう、イヴァンの事情……。

イヴァンは入学式の日にシルクに一目惚れして告白した。
しかしその時もシルクは「姫」だったので、その告白は周りに阻止されたのだ。
その後「姫制度」を理解したイヴァンは何度となくシルクに「騎士」の名乗りをあげようとしたのだが、これが何故かシルクに拒まれ続けているのだ。

「あ、あの、シルク?!これはだな……。」

イヴァンの顔は青を通り越して白くなっている。
どうにかしてやらなければと俺は口を開いた。
するとシルクは俺を見ると、いつも通りのキャピキャピした顔をして腕に絡みついてきた。
本当、猫みたいにコロコロ機嫌が変わって怖い…。

「サークは気にしないでね?あれでしょ?ギルの事で相談してたんでしょ?」

「あ、うん……まぁ……。」

「うん。わかってるから大丈夫!むしろ俺も姫じゃなかったらサークの騎士になったんだけどなぁ~。騎士になって絶対守ってあげるのに~!!」

「気持ちだけで大丈夫、ありがとうな……。」

「えへへ☆でも同じ「姫」として、できる限りの事はするから何でも言ってね!!絶対!力になるから!!」

「うん、ありがとう……。で、その、イヴァンの事は……。」

それまで上機嫌で俺に甘えながら話していたシルクだったが、イヴァンの名前を出した途端、すんッと真顔になった。
こ、怖い、怖すぎる…。
そして能面のような顔で話しながら、俺の腕から離れていく。

「うん?嫌だな~誤解誤解!イヴァンとは何もないよ??サークが騎士にして大丈夫!! ……だって、別 に イ ヴ ァ ン は 俺 の 騎 士 じ ゃ な い か ら ぁ~っ!!」

「!!」

うわぁ……。
俺は頭を抱えた。

『イ ヴ ァ ン は 俺 の 騎 士 じ ゃ な い か ら ぁ~』

その無表情に近い笑顔で機械的にそれを言わないでやってくれ…シルク……。
イヴァンのライふはゼロを通り越してマイナスだよ!!

しかしそれでもイヴァンは男だ。
グッと覚悟を決めると、階段を駆け下りて来て真っ直ぐにシルクを見つめた。

「シルクさん!!誤解です!!僕は今でもあなたしか見てません!!本当です!!」

偉い、偉いぞ、イヴァン……。
ここまで極寒のブリザード吹き荒れるツンに対して誠実さで答えようなんて、普通はできない。
それだけイヴァンはシルクに対して本気なのだ。
しかしシルク姫のご機嫌は治らない。

「何が??何の事??」

「サークさんが困っていたから!!シルクさんにはずっと騎士の申し出を拒否されていたので……それで……!!」

「サークが困ってたから??それで??」

「シルクさん!!」

「知~らない~っ!!嘘つきなんて、俺、知~らない~!!」

「シルクさん!!」

うわぁ……。
シルク……少しは許してやれよ……。
元々、お前が騎士の名乗りを拒み続けてんのが原因なんだからさぁ~。
こいつがいくら誠実で真っ直ぐにお前しか見てなくても~~、そろそろ限界なんだよ~心が~!!
俺は半泣きになりながら二人を見つめた。

シルクもシルクで何だかんだイヴァンを憎からずヤツと思っていたので、そのイヴァンか他の「姫」の騎士になると話しているのを聞いてしまい、自分の気持ちに収まりがつかなくなっていた。

「ず~~~っと、俺だけを見てるって言ったのに~~。最後の最後で他の人の騎士になるんだぁ~~。」

「ごめんなさい!もう二度としません!!俺は一生!あなただけを見ています!!」

あ、マジだ。
イヴァンが「俺」って言い出した時はマジだ……。

「…………。知らない。」

「シルクさん!!」

ツンツンと去っていくシルクを、イヴァンが必死に追いかけていく。
俺はそれを黙って見送った。

それから仕方なくイヴァンの残した弁当やらカバンやらを片付ける。
道場に持ってっとけば何とかなるだろ。
担ぎ上げてため息をつく。

シルクも意地悪だよなぁ~。
いい加減、騎士にしてやればいいのに……。

そうは言っても、多分シルクは絶対にイヴァンを騎士にはしないだろう。
2年近く二人のごちゃごちゃを見てきた俺はそう思った。

多分、アレなんだよなぁ~。

シルクは無自覚だ。
本人にイヴァンを特別扱いしているつもりはない。
だが、来るもの拒まず大歓迎のシルクが、唯一、ずっと騎士の名乗りを妨害して拒み続けているのがイヴァンなのだ。

誰の申し出もサクッと受けるシルクに断られ続け、イヴァンはかなり参っていた。
見るに見かねて話を聞くようにしていて、それでイヴァンと俺は仲良くなった。

イヴァンもなぁ~、いい加減、気づけばいいのになぁ~。
俺は頭を掻いて困ってしまった。

シルクはイヴァンの「騎士」の名乗りを拒み続けている。
でも、イヴァン自身を拒んでいる訳じゃない。
だからこうやってイヴァンが俺の騎士になるとか言い出すと臍を曲げるんだ。

つまりシルクは、イヴァンから「騎士」としての名乗りが欲しいんじゃないんだ。

その事に無自覚なシルク。
その事に気づかないイヴァン。

「……どっちもどっちなんだよなぁ~。本当……。」

一人残された俺は、はぁ~と深くため息をついた。
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