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本編
姫と騎士
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俺は押し切られる形で「姫」をやる事になった。
シルクやウィルやリオ、ガスパーと言う学校始まって以来のレジェンド美少女たち……じゃなくて姫役男子達に、平凡顔で背が高いわけでも低いわけでもなく、美人じゃなくてもなんとなく可愛い感じという訳でもなく、特徴的な八重歯やえくぼがあったり泣きぼくろとかあったりする訳でもなく、女性的かと聞かれればむしろ粗雑な男子って感じで、何につけてもぱっとしないこの俺が何で彼らの対抗場になれると皆が思っているのか全く理解できなかった。
そもそも「平凡激烈愛され系」って何だよ??
そんな系統、聞いた事ないぞ?!
おそらく愛されキャラ的なモノなんだろうけど、俺、そんなに愛されキャラか??
でもまあ、正当法で挑んでも駄目だから変化球で攻めるつもりなのはわかった。
あの四人相手にはそりゃ正当法で戦えないよな……。
他の学年には申し訳ないけど、バレンタインの貢物は間違いなく3年に集中するだろう。
元々3年は集まりやすい。
卒業してしまうから、特に贔屓の「姫」がいなくても、お世話になった先輩のクラスの「姫」に貢物を持っていく事も多いからだ。
だが今年はそんな事関係なく、レジェンドクラスの「姫」4人衆に貢物は集中するだろう。
5クラスの中でレジェンドがいないのはうちのC組だけだ。
後は1人ずつレジェンドがいる。
めちゃくちゃ不運だよな、C組。
その中でどうにか自分達も少しでも多くの貢物を貢いでもらおうとして立てた「姫」が俺だというのだから、すでに勝負は見えているんだけどな。
「姫」は一応、学期ごとに変わる。
始業式後、どのクラスも「姫」を決めのだ。
続投する「姫」もいれば、辞退する「姫」もいる。
まあ、大体は辞退しないで続投し続けるんだけど、うちのクラスみたいに「姫」ってタイプが誰もいない場合は皆嫌だから学期ごとに変わったりする。
「1学期、2学期とライルがやってたから、3学期も続投するんだと思ってたのに……。」
「ははは!見事に引っかかったよなぁ~、サーク!!」
してやったりと笑うライルを俺は睨んだ。
そう、1学期の時点でこのクラスは俺を「姫」にする事を決めていた。
だが1学期から「姫」にすると2学期からは拒否権が使える為、3学期に絶対に断れない状況にする為にライルが1学期と2学期の「姫」をやったのだそうだ。
確かに変だなぁとは思ったんだよ……。
ライルが抵抗なく「姫」やる事を受け入れてたから……。
小柄で温和で人当たりのいいライルだが、根の方はかなりオッサン入っている。
なにしろライルのおっぱい好きは一部では有名な話だ。
文化祭で女装した時は、もうノリノリで爆乳をブルンブルン言わせていた。
確かにおっぱいは魅力的だが、大きければいいってもんじゃないからなライル。
「なんでそこまでして俺に「姫」をさせたかったんだよ~?!」
「だから!レジェンドクラスのあの4人を負かせるとしたら!サークしかいないんだよ!!」
「負かせる訳ないだろうが?!ていうか、なんでそんなに対抗しようとしてんだよ?!どう考えても無理じゃん?!諦めようぜ?!」
「やなこった!!3年のバレンタイン合戦でショボかったら悲しいじゃんか!!うはうは言って、高校生活を終わりたいじゃんかよ!!」
「そうだそうだ!!3年のバレンタイン合戦でショボいのなんか絶対嫌だからな!!」
「別に4人に勝たなくてもいいから!やっぱバレンタイン合戦は3年だと楽しいよなって量の貢物が欲しいじゃんか!!」
「宝の山に囲まれて!記念写真アップしたいじゃんか!!」
「おい待て!マイク!!何に上げる気だ?!何に?!」
「え~?!ちゃんと全員の顔を隠し加工してから上げるから良いだろ?!」
「まぁ、加工してからならいいけどよ~。」
「だから頑張ってくれよ?!サーク!!」
「頑張るって何をだよ?!」
とはいえ、あの4人に敵うとは思わないが、やるからには3年らしい量の貢物は俺だって欲しい。
別にチョコとか菓子類が食べたい訳でも、ちょっとした小物が欲しい訳でもない。
やっぱり高校最後の思い出に、貢物に囲まれて皆と馬鹿騒ぎしたい。
「……要するにアレだろ??正統派アイドルに太刀打ちする為に、お笑い芸人を立てたって事だよな??」
なら、これから毎日、校門前で一人コントとかやればいいのか?!
でも俺、ネタとか考えた事ないから、コントとか難しいんだけど?!
「いや、サーク……。お前に芸人を目指せとは言ってないだろ……。」
「え?!違うのか??」
「違う。お前は『平凡激烈愛され系』なんだよ。別にお笑い系じゃない。」
「なら…俺、何すればいいんだよ??」
「何もしなくていい。」
「は??」
「サークは何もするな。いつも通りでいろよ。」
「何もしなくていいのか??それで貢物、集まるとでも??」
「集まるよ。」
「ああ、集まるだろうな。」
「むしろ余計な事すんな。いつも通りな??」
「……はあ??」
俺には良くわからないが、俺は何もせずいつも通りでいた方がいいらしい。
どういう事だ?何もしないでなんで貢物が集まるんだ??
「サークはね、とにかく「姫」になってくれさえすればいいんだよ。」
「はぁ……。」
ライルがそう言って自信有りげに笑った。
全く意味がわからん。
その時。
ガラッと教室のドアが開いた。
教室に残っていた全員がそちらに顔を向けた。
「げっ?!」
俺は思わず声を上げた。
そこに立っていた男が苦手だったのだ。
「サーク!!」
「うわっ?!何だよ?!」
「お前…お前……。「姫」になったと言うのは本当か?!」
俺は分が悪いので口元を押さえてそっぽを向いた。
なんで決まった早々にこいつがそれを知ってんだよ……。
相変わらず怖えよ、コイツ……。
「……その様子だと、本当の様だな……。」
そこにいたのは、ガタイのでかい、真っ黒な男。
この学校で知らぬ奴はいない元、鬼の生徒会長さまさま、ギルバート・ドレ・グラントだった。
「……だったら何だよ?お前には関係ないだろ?!今はクラス違うんだし……。」
こいつとは二年の時、同じクラスになった。
学業もスポーツも学年トップクラスの堅物優等生で、何か次元が違う雰囲気で皆、近寄りがたくて一歩引いて接していた。
俺も別に構う気はなかったのだが、席が近くなった時に皆と同じ様に接したのだ。
その時もクールに対応してきていたので、俺も特段、気にしなかった。
だがこいつには「普通に接してくる」俺が物凄く特別だったようで、次第に何かにつけて班やコンビを組みたがる様になった。
しかもそれが、仲良くなったなぁと言う雰囲気ではなく、俺に対する素っ気ない態度は変えないのに外堀から埋めて、そうせざる負えないようにしていくという何とも怖い方法をするもんだから、なまじ頭が良い奴って怖えなと心底思った。
しかも周りも元々こいつをちょっと怖がっていたから、更に怖がって抵抗せずに俺をコイツに差し出してしまう。
そんなこんなで、学年が上がる前は完全にストーカーと化していたのだ。
だが運良く3年は別のクラスになり、コイツも生徒会長になった事もあり、今までの様なストーキングみたいな事はしなくなったというかできなくなって、関わらなくなったので俺は半ばコイツの存在を忘れていた。
俺にクラスの事を指摘され、ギルは無言でそこに立っていた。
表情が殆ど無いんで、何を考えているのかわからずめちゃくちゃ怖い。
クラスメイト達も突然の元、鬼生徒会長の登場に硬直してしまっている。
「?!」
そして来た時と同様、いきなりザッザッサッと言う感じて教室内に入って来た。
思わず皆が反射的に道を開けた。
何、皆、避けてんだよ?!
クラスの「姫」は死ぬ気で守るのが鉄則だろうが!!
こんなヤバメな奴を簡単に侵入させるなっての!!
ズンズンと俺の所まで来ると、無言で見下ろしてくる。
何なんだよ~コイツは~!!
相変わらず意味不明で怖すぎる。
異様な緊張感が教室を包んでいた。
「……!!」
俺はギルが動いた瞬間、何か物凄い嫌な予感がして速攻立ち上がって行動に出た。
何も言わずに立っているのでどうしたものかと思っていたが、考えるよりも先に体が動いた。
その結果、ガタガタッと机がぶつかり合う大きな音が響く事になった。
「~~~っ!!」
「あっぶねぇ~っ!!」
「お~、さすがサーク……容赦ないな……。」
目の前ではギルが変な風に倒れ込んでしゃがんでいる。
俺がその場に跪こうとしたギルの足に、思い切り足払いをしたのだ。
その為、ギルはバランスを崩してコケてしまったという訳だ。
「サーク……!!」
「お前?!馬鹿なのか?!」
「……だが、まだ誰も名乗りを上げていないだろう?!」
「誰も名乗りなんか上げてねぇけど!!なんでクラスも違うのにてめぇが名乗りを上げんだよ!!ボケッ!!」
「騎士の名乗りにクラスも学年も関係ないだろうが!!」
その言葉に、何が起きたのかわからず固まっていたクラスメイト達は、ああ…と納得してため息をついた。
危なかった……。
俺は大きく息を吐き出した。
自分が「姫」になるなんて考えた事もなかったから、俺もうっかりしていた。
「姫」には変なしきたりがある。
それは自分の「騎士」を持つ事が出来るのだ。
「騎士」と言うのはギルの言う通り、クラスも学年も関係なく「姫」に名乗りを上げれば基本的にはなれる。
「姫」になった場合、クラスがその「姫」の城であり国なのだ。
だからクラスではいたれりつくせりお姫様扱いされるが、よそのクラスや他学年の奴らとつるむのは制限がかけられる。
要するに、あんま他のクラスや学年の奴とはつるめなくなるのだ。
だが「姫の騎士」になってしまえば話は別だ。
他のクラスだろうが学年だろうが、「騎士」として側に仕える事が許される。
だから他のクラスや学年に特別な相手がいた場合、一緒につるめなくなるのは不便になるので「姫」はそういう相手を「騎士」にする。
「姫」的には「騎士」は別に何人持っても良いのだが、「騎士」は仕える「姫」を学校生活3年間の中で変える事はできない。
一度「姫の騎士」になったら、相手が姫をやめようが大喧嘩して仲違いしようが、他の「姫」の「騎士」になる事はできない。
それだったら「姫」ばかりが得をする感じだが、「姫」はよほどの事がない限り、自分から「騎士」の申し出を断れないと言う変なルールがある。
これはバレンタイン合戦などの時に味方が多い方が優位だから、来るものは基本拒まずみたいなノリなんだろう。
そんな訳で「姫」は、「騎士」を誓われてしまったら、基本は「自分の騎士」にするしかない。
断る為にはそれ相応の理由として、相手が騎士に向かない証拠、「罪歴」なんかを証明しないといけない。
罪歴って言っても犯罪歴な訳ではなく、学校内で問題行動があったとか無断欠席が多いとかそんなもんだ。
ただ「罪歴」として先生に書いてもらわないとならないのだ。
ノリのいい先生なら書いてくれるが、子供の遊びに巻き込むなと書いてくれない先生もいる。
その他の方法としては、「姫」にすでに「騎士」がいた場合やその場に他に「騎士志望」がいた場合に、「ちょっと待ったあぁぁっ!!」と言って相手に決闘を申し込んで阻止する方法がある。
いくら味方が多い方が良くても、なんの制御もなければ無法地帯になる可能性があるからな。
とはいえ、だ。
脛を思い切り払われて、すぐに立ち上がれないギルを見下ろして俺は思う。
本当に今、かなり危なかった。
「姫」は基本、「騎士」の名乗りを挙げられたら断れない。
ギルの場合、文武両道の優等生なので先生に「罪歴」を書いてもらう事など不可能だ。
だからといって、クラスメイトの誰かが「ちょっと待った」をやってくれるかと言えば、ずんずん入ってくるギルを止めるどころか怖がって避けて道を譲った事から考えても絶対誰もやらなかっただろう。
俺もまだ自分が「姫」って認識がなく油断していたから、何となくマズいと言う直感に従って動いていなければ、間違いなく名乗りを挙げられていた。
そうなったら俺はギルの「騎士」の名乗りを受け入れるしかない。
そうなったらやっとクラスが変わって付きまとわれなくなっていたのに、「姫の騎士」として始終付きまとわれる上、コイツの性格から考えて、他の人が「騎士の名乗り」をしようとしたら「ちょっと待った」と言って阻止していたと思う。
「あっぶねぇ~!本当、危なかったわ~。」
「サーク!!」
「うるさい!俺はてめぇを「騎士」になんかしないからな!!俺の確認も取らずに強行しやがって!!」
「だが……!!」
「減点、10点。」
「……あ…。」
「これ以上、減点されたくなかったら、とっとと出ていけ!!馬鹿野郎!!」
俺にそう言われ、ギルは何か言いたげだったが、黙って教室を出て行った。
その場にいた全員が、はぁ~と大きく安堵のため息をついたついた。
そんな中でライルだけが得意げに笑みを浮かべてこう言った。
「ほらな?読み通り、さっそく始まったな……。だから言ったんだよ、サークは何もしなくていいって。サークは「姫」にさえなってくれれば、今まで通りでいてくれればいいんだよ。」
俺には全く意味がわからず、これからもこういう事が続くのかなぁと頭が痛かった。
シルクやウィルやリオ、ガスパーと言う学校始まって以来のレジェンド美少女たち……じゃなくて姫役男子達に、平凡顔で背が高いわけでも低いわけでもなく、美人じゃなくてもなんとなく可愛い感じという訳でもなく、特徴的な八重歯やえくぼがあったり泣きぼくろとかあったりする訳でもなく、女性的かと聞かれればむしろ粗雑な男子って感じで、何につけてもぱっとしないこの俺が何で彼らの対抗場になれると皆が思っているのか全く理解できなかった。
そもそも「平凡激烈愛され系」って何だよ??
そんな系統、聞いた事ないぞ?!
おそらく愛されキャラ的なモノなんだろうけど、俺、そんなに愛されキャラか??
でもまあ、正当法で挑んでも駄目だから変化球で攻めるつもりなのはわかった。
あの四人相手にはそりゃ正当法で戦えないよな……。
他の学年には申し訳ないけど、バレンタインの貢物は間違いなく3年に集中するだろう。
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5クラスの中でレジェンドがいないのはうちのC組だけだ。
後は1人ずつレジェンドがいる。
めちゃくちゃ不運だよな、C組。
その中でどうにか自分達も少しでも多くの貢物を貢いでもらおうとして立てた「姫」が俺だというのだから、すでに勝負は見えているんだけどな。
「姫」は一応、学期ごとに変わる。
始業式後、どのクラスも「姫」を決めのだ。
続投する「姫」もいれば、辞退する「姫」もいる。
まあ、大体は辞退しないで続投し続けるんだけど、うちのクラスみたいに「姫」ってタイプが誰もいない場合は皆嫌だから学期ごとに変わったりする。
「1学期、2学期とライルがやってたから、3学期も続投するんだと思ってたのに……。」
「ははは!見事に引っかかったよなぁ~、サーク!!」
してやったりと笑うライルを俺は睨んだ。
そう、1学期の時点でこのクラスは俺を「姫」にする事を決めていた。
だが1学期から「姫」にすると2学期からは拒否権が使える為、3学期に絶対に断れない状況にする為にライルが1学期と2学期の「姫」をやったのだそうだ。
確かに変だなぁとは思ったんだよ……。
ライルが抵抗なく「姫」やる事を受け入れてたから……。
小柄で温和で人当たりのいいライルだが、根の方はかなりオッサン入っている。
なにしろライルのおっぱい好きは一部では有名な話だ。
文化祭で女装した時は、もうノリノリで爆乳をブルンブルン言わせていた。
確かにおっぱいは魅力的だが、大きければいいってもんじゃないからなライル。
「なんでそこまでして俺に「姫」をさせたかったんだよ~?!」
「だから!レジェンドクラスのあの4人を負かせるとしたら!サークしかいないんだよ!!」
「負かせる訳ないだろうが?!ていうか、なんでそんなに対抗しようとしてんだよ?!どう考えても無理じゃん?!諦めようぜ?!」
「やなこった!!3年のバレンタイン合戦でショボかったら悲しいじゃんか!!うはうは言って、高校生活を終わりたいじゃんかよ!!」
「そうだそうだ!!3年のバレンタイン合戦でショボいのなんか絶対嫌だからな!!」
「別に4人に勝たなくてもいいから!やっぱバレンタイン合戦は3年だと楽しいよなって量の貢物が欲しいじゃんか!!」
「宝の山に囲まれて!記念写真アップしたいじゃんか!!」
「おい待て!マイク!!何に上げる気だ?!何に?!」
「え~?!ちゃんと全員の顔を隠し加工してから上げるから良いだろ?!」
「まぁ、加工してからならいいけどよ~。」
「だから頑張ってくれよ?!サーク!!」
「頑張るって何をだよ?!」
とはいえ、あの4人に敵うとは思わないが、やるからには3年らしい量の貢物は俺だって欲しい。
別にチョコとか菓子類が食べたい訳でも、ちょっとした小物が欲しい訳でもない。
やっぱり高校最後の思い出に、貢物に囲まれて皆と馬鹿騒ぎしたい。
「……要するにアレだろ??正統派アイドルに太刀打ちする為に、お笑い芸人を立てたって事だよな??」
なら、これから毎日、校門前で一人コントとかやればいいのか?!
でも俺、ネタとか考えた事ないから、コントとか難しいんだけど?!
「いや、サーク……。お前に芸人を目指せとは言ってないだろ……。」
「え?!違うのか??」
「違う。お前は『平凡激烈愛され系』なんだよ。別にお笑い系じゃない。」
「なら…俺、何すればいいんだよ??」
「何もしなくていい。」
「は??」
「サークは何もするな。いつも通りでいろよ。」
「何もしなくていいのか??それで貢物、集まるとでも??」
「集まるよ。」
「ああ、集まるだろうな。」
「むしろ余計な事すんな。いつも通りな??」
「……はあ??」
俺には良くわからないが、俺は何もせずいつも通りでいた方がいいらしい。
どういう事だ?何もしないでなんで貢物が集まるんだ??
「サークはね、とにかく「姫」になってくれさえすればいいんだよ。」
「はぁ……。」
ライルがそう言って自信有りげに笑った。
全く意味がわからん。
その時。
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「げっ?!」
俺は思わず声を上げた。
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「サーク!!」
「うわっ?!何だよ?!」
「お前…お前……。「姫」になったと言うのは本当か?!」
俺は分が悪いので口元を押さえてそっぽを向いた。
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「……だったら何だよ?お前には関係ないだろ?!今はクラス違うんだし……。」
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俺も別に構う気はなかったのだが、席が近くなった時に皆と同じ様に接したのだ。
その時もクールに対応してきていたので、俺も特段、気にしなかった。
だがこいつには「普通に接してくる」俺が物凄く特別だったようで、次第に何かにつけて班やコンビを組みたがる様になった。
しかもそれが、仲良くなったなぁと言う雰囲気ではなく、俺に対する素っ気ない態度は変えないのに外堀から埋めて、そうせざる負えないようにしていくという何とも怖い方法をするもんだから、なまじ頭が良い奴って怖えなと心底思った。
しかも周りも元々こいつをちょっと怖がっていたから、更に怖がって抵抗せずに俺をコイツに差し出してしまう。
そんなこんなで、学年が上がる前は完全にストーカーと化していたのだ。
だが運良く3年は別のクラスになり、コイツも生徒会長になった事もあり、今までの様なストーキングみたいな事はしなくなったというかできなくなって、関わらなくなったので俺は半ばコイツの存在を忘れていた。
俺にクラスの事を指摘され、ギルは無言でそこに立っていた。
表情が殆ど無いんで、何を考えているのかわからずめちゃくちゃ怖い。
クラスメイト達も突然の元、鬼生徒会長の登場に硬直してしまっている。
「?!」
そして来た時と同様、いきなりザッザッサッと言う感じて教室内に入って来た。
思わず皆が反射的に道を開けた。
何、皆、避けてんだよ?!
クラスの「姫」は死ぬ気で守るのが鉄則だろうが!!
こんなヤバメな奴を簡単に侵入させるなっての!!
ズンズンと俺の所まで来ると、無言で見下ろしてくる。
何なんだよ~コイツは~!!
相変わらず意味不明で怖すぎる。
異様な緊張感が教室を包んでいた。
「……!!」
俺はギルが動いた瞬間、何か物凄い嫌な予感がして速攻立ち上がって行動に出た。
何も言わずに立っているのでどうしたものかと思っていたが、考えるよりも先に体が動いた。
その結果、ガタガタッと机がぶつかり合う大きな音が響く事になった。
「~~~っ!!」
「あっぶねぇ~っ!!」
「お~、さすがサーク……容赦ないな……。」
目の前ではギルが変な風に倒れ込んでしゃがんでいる。
俺がその場に跪こうとしたギルの足に、思い切り足払いをしたのだ。
その為、ギルはバランスを崩してコケてしまったという訳だ。
「サーク……!!」
「お前?!馬鹿なのか?!」
「……だが、まだ誰も名乗りを上げていないだろう?!」
「誰も名乗りなんか上げてねぇけど!!なんでクラスも違うのにてめぇが名乗りを上げんだよ!!ボケッ!!」
「騎士の名乗りにクラスも学年も関係ないだろうが!!」
その言葉に、何が起きたのかわからず固まっていたクラスメイト達は、ああ…と納得してため息をついた。
危なかった……。
俺は大きく息を吐き出した。
自分が「姫」になるなんて考えた事もなかったから、俺もうっかりしていた。
「姫」には変なしきたりがある。
それは自分の「騎士」を持つ事が出来るのだ。
「騎士」と言うのはギルの言う通り、クラスも学年も関係なく「姫」に名乗りを上げれば基本的にはなれる。
「姫」になった場合、クラスがその「姫」の城であり国なのだ。
だからクラスではいたれりつくせりお姫様扱いされるが、よそのクラスや他学年の奴らとつるむのは制限がかけられる。
要するに、あんま他のクラスや学年の奴とはつるめなくなるのだ。
だが「姫の騎士」になってしまえば話は別だ。
他のクラスだろうが学年だろうが、「騎士」として側に仕える事が許される。
だから他のクラスや学年に特別な相手がいた場合、一緒につるめなくなるのは不便になるので「姫」はそういう相手を「騎士」にする。
「姫」的には「騎士」は別に何人持っても良いのだが、「騎士」は仕える「姫」を学校生活3年間の中で変える事はできない。
一度「姫の騎士」になったら、相手が姫をやめようが大喧嘩して仲違いしようが、他の「姫」の「騎士」になる事はできない。
それだったら「姫」ばかりが得をする感じだが、「姫」はよほどの事がない限り、自分から「騎士」の申し出を断れないと言う変なルールがある。
これはバレンタイン合戦などの時に味方が多い方が優位だから、来るものは基本拒まずみたいなノリなんだろう。
そんな訳で「姫」は、「騎士」を誓われてしまったら、基本は「自分の騎士」にするしかない。
断る為にはそれ相応の理由として、相手が騎士に向かない証拠、「罪歴」なんかを証明しないといけない。
罪歴って言っても犯罪歴な訳ではなく、学校内で問題行動があったとか無断欠席が多いとかそんなもんだ。
ただ「罪歴」として先生に書いてもらわないとならないのだ。
ノリのいい先生なら書いてくれるが、子供の遊びに巻き込むなと書いてくれない先生もいる。
その他の方法としては、「姫」にすでに「騎士」がいた場合やその場に他に「騎士志望」がいた場合に、「ちょっと待ったあぁぁっ!!」と言って相手に決闘を申し込んで阻止する方法がある。
いくら味方が多い方が良くても、なんの制御もなければ無法地帯になる可能性があるからな。
とはいえ、だ。
脛を思い切り払われて、すぐに立ち上がれないギルを見下ろして俺は思う。
本当に今、かなり危なかった。
「姫」は基本、「騎士」の名乗りを挙げられたら断れない。
ギルの場合、文武両道の優等生なので先生に「罪歴」を書いてもらう事など不可能だ。
だからといって、クラスメイトの誰かが「ちょっと待った」をやってくれるかと言えば、ずんずん入ってくるギルを止めるどころか怖がって避けて道を譲った事から考えても絶対誰もやらなかっただろう。
俺もまだ自分が「姫」って認識がなく油断していたから、何となくマズいと言う直感に従って動いていなければ、間違いなく名乗りを挙げられていた。
そうなったら俺はギルの「騎士」の名乗りを受け入れるしかない。
そうなったらやっとクラスが変わって付きまとわれなくなっていたのに、「姫の騎士」として始終付きまとわれる上、コイツの性格から考えて、他の人が「騎士の名乗り」をしようとしたら「ちょっと待った」と言って阻止していたと思う。
「あっぶねぇ~!本当、危なかったわ~。」
「サーク!!」
「うるさい!俺はてめぇを「騎士」になんかしないからな!!俺の確認も取らずに強行しやがって!!」
「だが……!!」
「減点、10点。」
「……あ…。」
「これ以上、減点されたくなかったら、とっとと出ていけ!!馬鹿野郎!!」
俺にそう言われ、ギルは何か言いたげだったが、黙って教室を出て行った。
その場にいた全員が、はぁ~と大きく安堵のため息をついたついた。
そんな中でライルだけが得意げに笑みを浮かべてこう言った。
「ほらな?読み通り、さっそく始まったな……。だから言ったんだよ、サークは何もしなくていいって。サークは「姫」にさえなってくれれば、今まで通りでいてくれればいいんだよ。」
俺には全く意味がわからず、これからもこういう事が続くのかなぁと頭が痛かった。
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