姫、始めました。〜男子校の「姫」に選ばれたので必要に応じて拳で貞操を守り抜きます。(「欠片の軌跡if」)

ねぎ(塩ダレ)

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本編

最後の最後に何で俺?!

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「………………は??」

サークは持っていたシャーペンを落とした。
意味がわからなかった。

「だから、今年の『姫』に選ばれたんだって。」

「辞退します。終了。」

「ダメダメ!一度やったヤツは辞退可能だけど、まだやったことない奴は強制だから。」

「はぁ?!ていうか!お前ら?!俺がC組の『姫』で良い訳?!」

「だって他にいないじゃん?」

「ライルは?!」

「断固拒否。」

「ライルと違って、たかだか3ヶ月なんだから我慢しろよ~。」

そう、3年になってクラスが決まった時、うちのクラスには「姫」というタイプがいなかった。
そんでもってとりあえず見た目もそれなりで小さめなライルが「姫」にされた。

そもそも、「姫」って何なのかと言う話だ。

俺達は男子校で、当たり前だが女子はいない。
その為、非公式ながらクラスごとに「姫」が決められる。

「姫」の役割は、まぁ姫だ。

男子なんだけどお姫様扱いする。
いたれりつくせり、皆に可愛がられるマスコットみたいなもんだ。
体育祭や文化祭等のイベント時は女装したりもする。

ただ基本、「姫」が嫌がる事は絶対に禁止であり、妙な事を「姫」にしようとするとクラス全員にボコられる。
皆に大事にされ、ちやほやされる。
だから好んで「姫」をやりたがる奴だっているくらいだ。

「ショーンは一年の時、候補に上がってただろ??お前がやれよ!!」

「え??そりゃ、一年の時は身長小さかったから候補になったけど……。」

「めちゃくちゃ背が伸びたもんな、お前……。後、色白なのに髭が濃すぎる……。」

「とにかく!!まだやった事のねぇヤツには辞退権はねぇ!!強制だから!!」

「嫌に決まってんだろ?!」

「俺らだって苦肉の策なんだよ!!」

「そうそう、サークは『姫』って言うより、もふもふの小動物って感じだからなぁ~。可愛いって言えば可愛いけど、『姫』ってんじゃないんだよなぁ~。」

「殴るぞ、お前ら……。」

「そりゃさ~、俺らももうすぐ卒業だし、男の『姫』とかもういいっていえばいいんだけどさぁ~。」

「だったら!!うちのクラスはなしでいいだろ?!」

「駄目に決まってんだろ?!2月にバレンタイン合戦があんだからよぉ!!」

バレンタイン合戦というのは、そのクラスの「姫」がどれだけ貢物をもらうかを競う、学年最後の非公式イベントだ。
これは一人3人までの「姫」に貢物を渡していい事になっていて、その為、自分のクラスの「姫」以外に二人渡せる為、一番貢がれた「姫」がいるクラスは鼻が高い……と言うか、貢物はクラスで山分けなので、たくさん「姫」が貰えれば貢がれるほど分け前が増えるので、皆、必死なのだ。
ただ一応、高い貢物は学校に怒られるので、金額は一つにつき1000円までと伝統で決まっている。

「お前らさぁ~?俺が『姫』になって、貢物が集まると思ってんのか??」

言いたい事はわかるがと、サークはため息をついてそう言った。
無理やり「姫」を作ったって、貢物が集まる訳がないのだ。

しかし、クラスメイトは俺の言葉に顔を見合わせる。
何言ってんだこいつって顔で俺を見てくるが、一切、間違った事は言ってないつもりなんだが??

「……サークって……。」

「あんま、自分の事、わかってないよな……うん。」

そして顔を見合わせ、ため息をついた。
何なんだよ??意味がわからない。
そこにうんうんと頷きながら、ライルが割って入ってきた。

「本当、サークって自分の事わかってないよなぁ~。」

「ライル!!いるんならお前やれよ!!」

「俺はもう1学期・2学期、頑張っただろ??」

「後、3ヶ月…学校に来る日にちを考えたら2ヶ月程度じゃんか!!もう少し頑張れよ!!」

そう言うが、ライルは皆と顔を見合わせお手上げのポーズをする。

「あのな、サーク。実は1学期の時点でお前を『姫』にしようってほぼ決まってたんだよ。」

「はい?!」

「だって、うちのクラス、シルクみたいなお色気ギャル系もいないし、ウィルやリオみたいな正統派美人もいないし、不良ツンデレ枠のガスパーみたいのもいないし~。」

「……それの対抗馬が何で俺になるんだよ、おい。」

全くわからなくてツッコむ。
しかし皆はかなり真剣な顔で詰め寄ってきた。

「むしろお前以外に対抗馬になれる奴がいると思うか?!」

「うちの学年、希に見る『姫豊作学年』だったんだぞ?!あのレベルの『姫』は普通、学年に一人か二人いれば万々歳なところを!!四人も揃えてたんだぞ?!」

「それはわかる!!だが俺が言いたいのは!何でそれの対抗馬が俺なんだって事だよ!!」

そう言うとまた、皆が顔を見合わせる。
何なんだよ、本当、意味わかんねぇんだけど?!

はぁ~とため息をつき、ライルが真剣な顔で俺の机の前に座り、ずいっと顔を寄せてきた。

「あのな、サーク?これだけレジェンド級の「姫」が揃ってんだよ、うちの学年。」

「わかってるよ?!」

「それに、多少可愛い系の奴とか、多少綺麗系の奴とかで対抗できると思うか?!」

「できないに決まってんだろ?だから諦めろよ、運がなかったんだよ、うちのクラスは。」

「そうかもしれない。だが!!その鉄壁のレジェンド達を打ち破る秘策がうちのクラスにはある!!」

「はぁ?!どこに?!」

「お前だ!サーク!!」

「だから!なんで俺?!」

「可愛い系も綺麗系もツンデレ系も駄目だが!うちにはお前がいる!!彼らすら魅了する『超平凡なのになぜかド級アイドルヒロイン系・難攻不落の堅物主人公系!皆に取り合いにされる「平凡激烈愛され系」!!』それがお前だ!!」

熱くライルが言い切ると、クラスメイトたちは拍手喝采。
よく言ったと大盛り上がりだ。
しかし言われた俺は意味がわからず呆けてしまう。

………………。
「平凡激烈愛され系」って、何??

盛り上がるクラスメイトをよそに、俺は思考回路が完全に止まり、無機物になっていた。

とはいえ、よくわからないまま、俺は高校最後の3ヶ月間を「3年C組の『姫』」として過ごす事になったのだった……。
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