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第二章「別宮編」

それぞれの想い

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「いろんな子にモーションかけられてんのに、妙に冷めてたのって、こういう事だったの!?」

副隊長が髪をかき上げながらため息をついた。
やっと少し冷静になった俺は、腐るから今、食べなさいと、師匠と副隊長に説教されたレオンハルドさんにもらったお菓子をモゴモゴ食べていた。
くそう……何かしらの魔術をかけて神棚に飾ろうと思ったのに!!
でも確かに食べてと渡されたものなのだから食べた方がいいのかもしれない。
しかも美味しい。

「いや、俺は元々、告白されてもあんな感じですよ?性欲がないせいか、今まで誰かに特別な感情を持った事がなくて。」

「じゃあ!レオンさんが初恋なのね!?」

師匠が目をキラキラさせて俺に聞いた。
そんなストレートな言い方しないでよ!師匠!!
俺はちょっともじもじと顔を赤らめた。

「初恋……なのかは正直わからないです。好きって言うか、尊い?とにかく俺自身、他の人をこういう感じでこんなにも意識したのが生まれて初めてで……。何もかもどうしたらいいかわからないし、何なのか訳がわからないのが正直なところです……。」

「やだ~!良いじゃない~!ロマンスグレーとの恋~!!」

恋に恋する乙女のように、師匠はうっとりとしていた。
ムキムキの心だけ乙女が。
すみません。
師匠、死ぬほど怖いです…。

「やめときな、サーク。私は反対。」

副隊長が珍しく真面目な声で言った。
それに俺はきょとんと顔を向ける。

「どうしてですか?」

「どうしても、よ。」

「危険だからですか?」

「……そう。」

何がどう危険なのだろう?
聞きたかったが、副隊長の真剣な横顔を見ると何も言えなかった。
その顔は、本当に俺を思うからこそというのがよくわかる顔だった。

「そもそもあんたさ~、殿下が自分を好きなの、数回しか会ってないのに何で?とか言ってたじゃない!あんた何回、レオンさんに会ったって言うのよ!?」

「それを言われると……返す言葉もないです……。」

「数回しか会ってなくったって、サーク。あんたもそんだけ変になってるのよ?殿下も同じよ。数回しか会ってなくったって、想いが募ってるのよ。」

「…………。」

そう言われて、初めて王子への対応を反省した。
ちょっと、話をはぐらかされた感も否めないけれども。
そんなやり取りを見守っていた師匠が、雰囲気を切り替えるように言った。

「サークちゃん、少し早いけどお昼買ってきてくれない?3人分。ここで3人で食べましょ!!おごってあげるから!!」

師匠はそう言って俺にウインクした。

師匠は優しい。
見た目も性格もヤバイが、基本的には良い人だ。

そんな師匠の気遣いが嬉しいが、やはりちょっとだけ背筋がゾッとした事は黙っていよう。
俺はお金を預かり、食堂に向かった。





「……何だかんだで、あの子、わかってるんじゃない?あの時、自分を助けたもう一人が誰かって……。」

「それはない。話聞いたけど、肩越しに誰かがアサシンの首を切ったとしか覚えてなかったわよ。」

「意識的には覚えてなくても、無意識にわかってるのよ。」

「でも……あの人は駄目よ。」

「……サム、あんたの言いたい事はわかるわ。でもこればっかりは、私たちが口出しできる事じゃないわよ。誰かを好きになるのなんて、理屈じゃないんだもの。」

「そうだけどさ~、どう転んでもサークが幸せになれるとは思えないのよ!!」

「ふふふ。サークちゃんのこと、気に入ってるのね。」

「だっていい子よ!!楽しいし!!」

「まぁ、あの子はいい子よね~。でもあたしとしては~、サムには他人の心配するより、自分の心配をして欲しいんだけどね~?」

「うっさいな~!!ほっといてよっ!!」

「も~世の中不公平よね~。こんないい女が二人とも相手がいないなんて~。」






それは、ばったり、という言葉がぴったりだった。

「……よう。」

「何してんだよ?こんなところで?」

食堂に行こうと歩いていたら、角に隠れるように身を寄せているガスパーに遭遇した。
いつもは俺の顔を見れば訳のわからない事を言ってくるこいつが、今日は後ろをチラチラと気にしながら何も言わない。
俺はピンと来た。

「……うさ耳争奪戦の為に、業務を怠ると罰則だぞ?」

「うるさい!サボってねぇ!!」

「ふーん、耳はまだ無事なんだな?しっぽはどうした?」

「まだある!」

「へ~どれどれ??」

俺はそう言うと、ガスパーの腰に手を伸ばした。
とたんに真っ赤になる。

「うわ!やめろよ!変態!!」

あの日以来、ガスパーは俺に対して挙動不審だ。
あんなのを見てしまったせいで、どういう態度を取っていいのかわからないらしい。
それをいい事に、俺は逃げようとするガスパーを取っ捕まえて、壁に追い詰める。

「サ、サーク!お前、何を……!?」

顔が赤いんだか青いんだか。
目を白黒させてるのが面白くて、俺はにんまりと笑った。
そして尻の方をすっと触った。

「!!」

言葉も出なくなって、ガスパーは固まっている。
顔はゆでダコみたいに真っ赤だ。

「ああ、本当だ。まだしっぽもあるな。」

確かに尻にはまだフサフサのボールみたいなのがついてる。
確認すると俺はさっと体を離した。
いくら一度は俺をイジメようとした相手だからって、あまりからかうと問題になるからな。
そんな俺に、ガスパーはぷるぷる小刻みに震えて大声で怒鳴った。

「……バカ!アホ!死んじまえっ!!」

そしていつものように走り去っていった。
ちょっと涙目になってたなぁ。
やりすぎたかもしれない。
そんな事を思っていた次の瞬間、足に激痛が走った。

「痛っ!」

「見てたぞ!サーク!流石にあれはない!!」

振り向くと、ライルさんが腕組みをして立っていた。
どうやらライルさんにローキックされたようだ。
いつから見てたんだろう?
気づかなかった。

ちなみにライルさんはうさ耳も尻尾もすでにない。
取られた訳じゃなく、あると仕事の邪魔になるからって、さっさと外して周りに上げてしまっていた。
だから俺はライルさんが強いのか弱いのかよくわからない。

「いつも絡んで来るから、仕返しにからかっただけですって。」

「それにしたってあれはない!!ガスパー可哀想~。」

何故かライルさんがガスパーの肩を持つ。
ちょっとショックだ。
何で?!俺、アイツとアイツの仲間に手篭めにされかけたんですよ?!
なのにちょっとあの日の仕返しをしてるだけなのに……。
しゅんとした俺に、ライルさんはため息をついた。

「本当、無自覚って怖い。ガスパー、可哀想。」

「すみません……。仕返しとはいえ、少しやり過ぎました……。」

ただ俺も、やりすぎたとは少し思ったので素直に謝った。
う~ん、そこじゃないんだよなぁ~と、何故かライルさんは少し頭を抱えていた。

「そういうの鈍そうだしなぁ……。それで?サークはこんなところで何してんだ?」

「ああ、師匠にお昼を買ってくるように言われて。……そうだ!ライルさんも一緒にどうですか?!」

「一緒にって……ロナンド様とお昼をって事??」

「はい。」

「……う~ん。人を見た目で判断したらダメだけど~、正直、ちょっと怖い。」

「副隊長も来てるから大丈夫ですよ!!」

「……副隊長、こっちに来てるんだ?」

そう言うとライルさんはちょっと首を傾げた。
俺だけじゃなく副隊長もいると聞いて、少し考えてるみたいだ。

「……そうだよな~。話してみないで人を判断したらダメだよな~。」

「師匠、見た目はあれですけど、結構ヤバい人ですけど、根はいい人ですよ?」

「何だよそれ!?あんまフォローになってないぞ!」

「本当の事ですし。」

「はははっ!……でも、そうだな。じゃあ、ご一緒させてもらおうかな?」

良かった。
レオンハルドさんの事を咎められた後だから、何か一人だと気まずかったんだよなぁ。
ほっと俺は胸を撫で下ろした。

俺とライルさんは師匠や副隊長の事を話ながら、昼食を買いに食堂に向かった。
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