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第二章「別宮編」

メソサイクロン

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「私が模擬戦をするんですか!?しかも、ロナンド様と!?」

あまりの事に、思わず大きな声が出た。
突然、ロナンド様が俺と模擬戦をすると言い出したのだ。
焦る俺に対し、ロナンド様は飄々としている。

「そうよ~。」

「聞いてません!!」

「あら?さっきの話、聞いてなかったの?戦いはいつ起こるかわからないのよ?」

「ですが!!」

「それにあたし、サークちゃんの実力を確認して、必要なら色々教えてあげてって頼まれてるし。実力を確認するなら、戦ってみるのが一番でしょ?」

ロナンド様はにっこりとそう言った。

「さ~早くしなさい!!じゃないとこっちから仕掛けるわよ!!」



ロナンドは杖を手に俺に向けた。
その顔はヘラヘラ笑ってはいるが、目は本気だった。
これはやるしかないのか……。

「わかりました!!待ってください!!」

「それでいいわ~。さて。一応、何かあったらまずいからね~。」

俺が練習場の中央に歩いていくと、ロナンド様は皆との間にシールドを張った。

「さぁ!これで多少無茶な攻撃しても大丈夫よ!同時使用なんかも使っていいから、全力で来なさい!!」

ロナンド様はまた、杖を持って俺に向けた。
隊長代理として来るくらいだ、実力はかなりのものだろう。
しかも相手の癖や得意な事なども全くデータがない。

確かにこれでは実戦と変わらない。
どうする!?

俺は杖を握った。


「では、スタート!!」


そう言った次の瞬間、風の刃が無数に飛んできた。
シールドは端から準備していたので前方のそれを防ぐ。

「!!」

感覚に何かが引っ掛かり、俺はとっさに、二つ目のシールドを頭上に張った。
ズガンと重い空気の層がのし掛かってくる。
二つ目のシールドのお陰で潰されずには済んだが、立っているのがやっとだ。
周囲から、おおっ!というどよめきが聞こえる。

「あら~やっぱり、これぐらいは簡単に防いじゃうのね~。面白いわ~。」

そんな声が聞こえた時には両脇に土の壁が出来ていて、押し潰さんと迫っていた。

この人!!
いったい、1度にいくつ魔術を使うんだ!?

このまま防御に徹していたら、逆に追い詰められる。
俺はシールドを2つとも解除する。
間髪いれず、爆発と身体強化を使った。
ドーンと自分が立っていた場所で爆発が起こり、その爆風と身体強化の力を使って重圧のかかるそこから抜け出す。

「ちょっと捨て身だけど、凄くいいわ!サークちゃん!!」

何かされる前に仕掛けないとやられる。
俺は走り出しながら風の矢を打ち出した。
バキバキと言う音がして、走る俺を捉えようと巨大な植物の蔦が迫ってくる。
風の矢を解除して焼こうかとも思ったが、身体強化を利用して叩き切った。

「面白い戦い方をするのね~!魔術師じゃないみたい。」

楽しげに笑うロナンド様。
続けざまに降り注ぐ炎弾を避けつつ、俺は真っ直ぐにロナンド様に迫る。

「……どうも、元魔術兵ですっ。」

ロナンド様が放った氷の塊を力技で叩き壊し、目の前に飛び出した。

魔術兵と魔術師は違う。

貴族と平民という言い方も出来るが、それは違う。
魔術師は基本的、後方支援だ。
騎士たちに守られながらその力を使う。
だが、魔術兵は魔術を使うだけで、ただの兵士だ。
歩兵や騎馬兵と何も変わらない。
対等だ。
だから戦いでは自分の身は自分で守るし、術が使えなくなったら、ただただ己の身体一つで泥臭く戦うだけだ。

サボってだけど、現場の兵士、なめんなよ!!

戦で騎士や魔術師が綺麗な戦いをする影に、数え切れないほどの兵士達が泥まみれで戦ってる。
俺はそこから来たんだ。
例え誰に何を言われようと、魔術兵だった事が俺の誇りだ。
外壁兵士の仲間、皆の誇りを背負って俺はここにいるんだ。
勝てなくったって一矢報いてやる!!
俺は力を込めて炎弾を一発作り方、ロナンド様に放った。

「……良いわね、そういうの、好きよ。」

ロナンド様が笑った。
これまで見てきたお約束の笑顔ではなく、心から笑った顔だ。
残念ながら俺の炎弾は、ロナンド様の氷に食われる。

……ぜってー諦めない!!

そして杖を振る。
そのまま雷を放ったが、同じ魔術でロナンド様は対抗してきた。
こうなってしまえば、魔術師としての魔力と魔術の強さが勝負になる。
魔術では押されたが、俺は同時に肉体強化を用いて力ずくで無理矢理前に押して走った。
吹き飛ばされそうな力の差の中、俺は必死に手を伸ばした。


「……~~っ!……こんちくしょうっ!!」


だが、俺の手はロナンド様に届かず、そのままバーンと吹っ飛ばされた。


「うふふ。勝負ありかしら?」


ぶっ倒れた俺にロナンド様がそう言った。
だが俺は、倒れたまま片手を高々と上げて見せた。

俺の手には、ロナンド様のうさぎの耳。


「……やるじゃない。」


満足げなため息まじりにニヤッと笑われる。
ロナンド様はそう言うと、倒れた俺に手を差し伸べた。
その手を掴み、俺は体を起こす。


「いえ、参りました。師匠。」


起き上がった俺は、まっすぐにロナンド様を見つめた。
そしてニッと笑った俺の言葉に、ロナンド様は嬉しげなため息をついた。


「……あたしは厳しいわよ?」

「出来ればお手柔らかにお願いします。師匠。」


元魔術兵の俺に、魔術師の師匠ができた瞬間だった。
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