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第二章「別宮編」

爆竹

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「……ところであなたは、そこで何をしているんですか?」


男の観察が終わり、魔術で色々綺麗にしてから片付けをしようと振り返ると、何故かガスパーがまだそこにいた。
俺に壁に叩きつけられた格好のまま壁に張り付いていた。

……面白いな、これ。

ガスパーは顔を高揚させ、既に事は終わったのに目を見開き、ずっと固まっている。
興味を持った俺は、観察しようと思い近づいた。

「?!」

俺が近づいた事に気づいたガスパーは、ギクリと身を震わせる。
そしていきなりバシッと俺を遠のけた。

「寄るな!!変態!!」

「……は?」

「お前……お前……!!自分が何したかわかってるのか!?」

「わかってますよ??尋問しろとあなたに言われたからやっただけですけど??」

「そうじゃねぇよ!!」

「あぁ!!あなたの求める感じで言うなら「ナニ」をしたんですか、ですかね?!」

あははと笑って答えると、ガスパーはさらに赤くなった。

「この変態!!」

「変態ではありません。研究です。」

「はぁ!?何が研究だ!この変態野郎!!どうせ誰かを弄んでハアハアしてたんだろ!?ちんこおっ勃てて!!」

「……う~ん。説明が面倒くさいな~。」

興奮気味のガスパーは、まともに話を聞いていない。
これでは何を説明しても無駄だろう。
俺は面倒になって制服のジャケットを脱いだ。

「お前?!なっ何、脱いでんだよ!?」

「見せた方が早いかと。」

「や?!やめろ!!見たくねぇ!!」

「いや、勃ってませんから。本当に。」

まぁ見せた方が早いんだが、この状況で見せるってのもセクハラだよな。
でも話を聞かないんだから見せるしかない。
はじめは顔を背け腕でガードしていたガスパーだったが、こちらが無抵抗に何もせずにいると、恐る恐るこちらを見てくる。
はじめは恐々といった感じで、ちょっと面白かった。

「ほらね、勃ってないでしょう?」

「え……??」

「私は特殊な体質でしてね、勃ちません。」

「う、嘘だ!!」

「別に信じなくてもいいですよ。別にあなたに信じてもらおうがもらうまいが、私が勃たないのは紛れもない事実ですし、あなたには関係ない事ですから。」

ジャケットの裾にじゃまされていない俺のスラックスは正常通りの形をしている。
ガスパーは真っ赤になりながら目を白黒させていた。

「……それより、さっきから気になってたんですけど……。」

「な、何だよ!!」

「何でさっきから、そんなに内股で前屈みなんですか??」

「!!!!」

俺がそう言った瞬間、ガスパーは耳や首までも真っ赤にして、目を潤ませた。

「え?!大丈夫ですか?具合悪いんですか?!」

「……うるさい!!バカ!覚えてろよっ!!」

ガスパーはそう言うと、俺を突き飛ばして走り去って行った。
何なんだよ、全く……。

「……痛た。と言うか!聞き出したら金輪際関わらないって約束なのに!何が覚えてろだよ!!」

俺は理不尽な扱いを受け憤慨した。
全くやれって言うからやったってのに、何でこんな扱いを受けなきゃならないんだよ!!

とはいえ、どうしたものだろう?
ここに失神してるとはいえ、尋問を受ける囚人がいて、ドアは開けっ放し。
鍵は俺は持っていない。
ガスパーかその連れが持ったままどこかに行ってしまった。
そして残っているのは俺1人。

……え??
これって誰か来るまで、ここにいないとダメなパターン??

「……嘘だろ~!?」

はぁ、配属初日から何て日だ。
俺は疲れきって、そのまま床で胡座をかいた。




どれくらいしただろう?
パタパタと誰かが走って来る音がする。

やっと誰か来たよ~。
俺はホッと一息ついた。
これでやっとこの暗くて寒い地下牢から離れられる。
そう思っていた俺のいるこの牢に、誰かが駆け込んでした。



「サーク!無事ですか!?」

「え?」



え?

ええええぇ!?

俺はその人物を見て固まった。

金色の髪。
こんな汚い囚人部屋で見るはずのない…。



「リオ!!何をしているんだ!お前は!!」



あり得ない状況に俺が固まっていると、新たなも人物登場した。
状況を飲み込めない俺は瞬きを何度も繰り返す。
新たに現れた人物は、リオと呼んだ金色の腕をつかむ。

「…………。」

しかし、俺の存在に気づき手を離した。
唐突に距離をとり控える。
それを確認すると、金色はキラキラ光を飛ばしながら俺に振り返った。

「サーク!」

「……はっ!」

名前を呼ばれ、はっとした。
いかんいかん、訳がわからなすぎて思考が止まっていた。
すぐさまその場で姿勢を整える。


「失礼致しました!我が君主、ライオネル殿下。」


飛び付かれんばかりの勢いがあってビビったが、俺が礼を尽くした事でそれは免れた。
しかし跪いている俺と視線を合わそうと屈もうとするので、俺は焦って顔を上げ、手でそれを止めた。

「ライオネル殿下!お立ちください!このようなところでいかがされたのですか?!」

「大丈夫なのですか?!私の騎士よ?!」

「失礼ながらどういう事でしょうか??」

「あなたが他の者達に牢へ連れて行かれたと聞いて……。」

「尋問の手伝いを頼まれましただけでございます。」

「尋問?あなたがですか?」

そう言われ、はじめて牢の状況を王子は確認した。
白い頬にさっと赤みが入る。

あ~。
まぁ……わかるよね……。
雰囲気とか、臭いとか、臭いとか!!

ヤバい。
配属初日で処刑宣告された…。
短い人生だったな……。

俺ははははと乾いた笑いを浮かべた。

「…………。」

しかし、頬を赤らめた王子がちらりと俺を見る。

んん??

今、股間確認したよね!?
しゃがんでいるとはいえ、ジャケットを着ていないから、もろに確認できたよね!?

王子は少し考えた後、ニコリと俺に微笑んだ。

「…………。無事なら良いのです。私の騎士。」

「お心遣い頂き、恐悦です。」

「今後も隊のために尽力してください。」

「承知いたしました。ありがとうございます。」

嵐のようにやって来た王子は、また風のように去っていく。
よくわからないが、気が済んだようだ。

とはいえ……。

え?何?
これ、どういう状況??
王子は何しにここに来た訳??

王族の住まう場所。
別宮とは不思議な所だ。
王子の事も貴族の事も、俺にはさっぱり意味がわからない。
大きく息を吐き捨てて硬直していた俺が顔を上げると、王子をリオと呼んでいた誰かが何故かまだそこにいた。
入り口の縁に腕を組んで寄りかかり、ぎろりと俺を睨んでいる。

ギョッとした俺はまたそのまま硬直する。
だってなんだからわからないが、ヤバイと直感したのだ。

なんか……殺気を感じるんですけど……。

言うなれば黒い悪魔。
いや、魔王と言ってもおかしくない。

あまりの圧に俺は何も言えなかった。

その男は釘をさすかのようにしばらく俺を睨むと、スッと王子を追って去っていった。

ええと……何なの、いったい……。
初日だけで、もう、お腹いっぱいだよ……。

俺はがっくりと肩を落とす。

誰か……、頼むから俺を平和な外壁警備に戻してくれ……。
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