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第二章「別宮編」

青天の霹靂

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目の前の男を、俺は淡々とした目で見ていた。
腕を組み、あからさまに馬鹿にしたように俺を見ている。

ライルさんも副隊長もいい人だったので、忘れていたが、ここは蛇の巣。
数多の虫もいるだろう。

「サーク…。」

「大丈夫ですよ?ライル先輩。」

俺はそう言って、膝をついた。






副隊長の手伝いをしていたら昼時になった。
副隊長は午後から同行警備との事で、そこで別れる。

「サークは昼飯持ってきてるのか?」

「いや、持ってきてないですよ。持ってきた方がいいんでしょうか?」

「大丈夫だ!食堂があるから!これから一緒に行かないか?」

「もちろん喜んで。」

ついた食堂は時間も時間なので混み合っていた。
ライルさんはキョロキョロと辺りを見渡す。

「座れそうな所がないな~。」

「ここで食べないとまずいんですか?」

「いや、部屋とかに持っていく人もいるし、ここじゃなくても大丈夫だぞ。」

「なら、外で食べませんか?」

「そうだな!中庭に行ってみようか!」

食堂の利用方法を説明してもらい、俺とライルさんはそれぞれ食べたいものを購入した。
外で食べるので袋に包んでもらう。

「じゃ、行こうぜ!」

ライルさんが歩き出したその時、テーブルに座る男が足を出した。
俺はとっさにライルさんを自分の方に引き寄せた。

「わっ!?何だよ!?」

「すみません、躓いて引っ張ってしまいました。」

「何だよ、気を付けろよ。」

ライルさんは男に気がつかないままだった。
まぁ、関わらないにこしたことはない。
そのまま中庭に行こうとする。

「おい。」

背後で男が立ち上がる音がした。
面倒だな、と思う。

「おい!お前!!」

無視して行こうと思ったが肩を掴まれる。
俺の顔をじろじろ見て鼻で笑った。

「……何か?」

「お前か?新しく入ってきた平民ってのは?」

「おい!ガスパー!!言葉が過ぎるぞ!!」

ライルさんが俺を庇おうと前に出ようとした。
俺はそれを腕で止める。

「そうですが、何か?」

「だったらきちんと挨拶したらどうだ?平民の癖に、礼儀がなってないんじゃないか?」

ライルさんの顔が強張った。
だが俺は気に求めずに頭を下げてみせる。

「それは大変失礼しました。本日より配属になりました、サーク・ハクマです。お見知りおき下さい。」

「はぁ?なってねぇな!」

「……どういう事でしょう?」

「ここには平民なんてお前だけなんだよ。後は皆……わかるだろ?」

「……つまり?」

「平民が同じ高さで挨拶するなんざ、許されると思ってんのかよ!?」

なるほどなるほど?
そうきたか。
俺は冷めた目でその男を見据えた。
まぁ、起こりうることだと想定はしていた。

「サーク…。」

「大丈夫ですよ、ライル先輩。」

仲裁に入ろうとライルさんが声を出す。
けれど俺は、顔だけ振り返りライルさんに微笑んだ。

「これ、持っていてもらえますか?」

「サーク、やめろ。そんなことをする必要ない!」

本気で止めようとしてくれるライルさんに、俺はウインクして昼飯の袋を渡す。
そして男に向き直った。

まぁ、十中八九、仕掛けて来るだろうな。

俺はそう思いながらゆっくりと膝を折る。
膝が床についた瞬間、男が足を振り上げた。

バンッという大きな音。
そしてぶっ飛んだ。

もちろん俺ではなく、男の方が。

「貴様?!何しやがった!!」

彼と同じテーブルにいた仲間らしき連中が、そう叫んで立ち上がった。
そして俺を見る。
俺は膝をついたまま、少しも動いていない。
ただ、横にシールドを張っただけだ。

シールドを解除して立ち上がる。

仲間の連中も、傍観していた連中も、そんな俺を見て言葉を失っていた。

「何って、見ての通りシールドを張っただけですよ。」

「し、シールドで吹き飛ぶわけがないだろ!」

「私は何もしていませんよ?ただこのシールド、ちょっと公式を変えましてね、受けた力をこのまま相手に返すものですから、何らかの力が加わったんでしょうね?」

「……何でシールドが張れるんだよ……。」

辺りがざわざわと騒いでいる。
俺は膝の埃を払い、ライルさんの方を向いた。
そして行きましょうと促した。


「……魔術師が、杖がなければ魔術を使えないと思ったら大間違いですよ。」


一度だけ軽く振り返る。
呆然と立ち尽くす柄の悪い連中にそう言い捨て、俺は歩き出した。








「サークって凄いんだな!!」

「そうですか?」

俺はモゴモゴとサンドイッチを食べながら、答えた。
中庭の木の下、木漏れ日が気持ちいい。

「俺、杖なしで魔術使う魔術師、初めて見たよ!!」

「……ブッ!!」

興奮ぎみにライルさんにそう言われ、俺は食べていたサンドイッチを思い切り吹いた。

「うわっ!?大丈夫かよ!?」

げほげほと噎せる俺の背中をさすってくれる。
買ってきたレモン水で、俺は口の中に残っていたものを流し込んだ。

「……え?見たことないですか?」

「うん、ないよ。」

ニコニコとそう言われ、俺は頭を抱えた。

マジか!!
これって普通、出来ないのか!?

これはまずい。
あれだけ大々的にやったんだ、もう、誤魔化しようがない。

「そう言えば、魔術を同時に2つ使ったって噂も本当なのか!?」

「……っ。……や、やだな~、そんなこと出来るわけないじゃないですか~。」

「そうだよな~。俺は魔術師じゃないけど、聞いたことないもん。流石にそんなことは出来ないよな~!!」

こっちは多少の自覚はある。
これ以上、妙な注目を集めるのは得策じゃない。
ひとまずこれで誤魔化せるだろうか……?

ライルさんの純真な笑顔が、胃に痛かった。
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