「欠片の軌跡」①〜不感症の魔術兵

ねぎ(塩ダレ)

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第一章「外壁警備編」

黄金といぶし銀

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痛い。

ぼんやりする意識の中で、一番始めに感じたのが痛みだった。
痛すぎたそれは熱を持っていてじんじんした。

痛いよ。
痛いのは嫌だよ。

泣き言のようにそんな事を思う体がフッと持ち上げられ、何かを口に突っ込まれた。
……苦い。
咄嗟に顔を背けるが、無理矢理また口に突っ込まれる。

「飲んで。お願いです。飲んでください。」

必死に頼み込むような声は細く、少し震えていた。
何だろう?聞いたことのない声だ。
飲めってこの苦いやつ?
ツーンと意識が引っ張られ、ぼやけた視界に何か映る。

金色だった。

金色?
銀色は?

何で金だの銀だのが頭に浮かぶんだろう?
開いていられなくて目を閉じる。
喉に流し込まれた苦いのを飲み込むと、深い深い無意識の海に落ちていった。







パチリと目が覚める。
え?何?夢??

「……えっ?!ここ、どこ?!」

おかしな感覚で目を覚ますと、知らないベッドに寝かされていた。

「!!サークさん!!サークさ~ん!!」

そしてぎょっとする。
何故かリグがいて、目が覚めた俺を見て半泣きで抱きついてきた。

「リグ?!」

「サークさん~!良かった~!死んじゃったかと思った~!!」

「は?え?!何?」

「サークさ~ん!!」

半泣きだったリグは大泣きしはじめて、何がなんだかわからない。
何なんだ?
何でこいつが泣いてるんだ?
ヤバい姉ちゃんに手を出して、ガラの悪い連中に殺されかけてもヘラヘラしてたのに。

「よくわからないが、落ち着け、リグ!」

「うわ~ん!!」

「子供か!!」

何を言っても泣き止みそうになかったので、そのまま泣かしておくことにする。
背中をとんとんとさすってやりながら辺りを見渡す。
どうやら診療所の一部屋のようだ。
微かな消毒の匂い。

「あれ?お前、怪我してる?!」

抱きついてきているリグの腕には包帯が巻かれ、頭にも巻かれている。
驚いてリグを引き離し確かめる。

「俺の怪我なんてどうでもいいんです~。」

「いや、良くないだろ?!」

「うわ~ん!!」

「うわっ!!お前!鼻水っ!!」

穴という穴から色々垂れ流し、あまりに汚い顔をしていたので抱きつこうとするのを咄嗟に枕でガードした。

「酷いよ~!うわ~ん!!」

そうは言いながら、枕を抱えて抱きつくのは断念してくれた。
助かった。
それにしても、一体、何なんだ?
そうこうしているうちに看護師がやって来て目覚めた俺に気がつき、医者の診察を受けることになった。

あれだけ泣いていたリグも看護師に優しくされたとたん、ころりと表情を変え泣き真似をして慰めてもらっている。
多分あの看護師さん、今日お持ち帰りされるだろう。
本当に恐ろしい男だ。

診察を終えると、医者はどこかに報告に行くといって出ていった。
ちなみにリグは既に看護師さんと姿を消していた。
ポツンと残され、依然、状況は謎のまま。
一体全体、何があったんだ?
俺は訳がわからず首をひねる。

「お~、目が覚めたな。」

「班長!!」

そう言って、部屋の扉を開けて入ってきたのは班長だった。
俺はホッとして頬を緩める。
やっとまともに話が聞けそうだ。
だが何故か班長も松葉杖をついていて、俺は目を白黒させるしかなかった。

「リグは?」

「あ~、いつもの病気です。」

「医者?」

「いや、看護師さん。」

「どのみちムカつくな。」

班長はいつものムスッとした顔で、さっきまでリグが座っていた椅子に腰かけた。

「調子はどうだ?」

「班長こそ。」

「俺はいいんだよ。大したことない。」

「……何があったんです?」

「覚えてないのか?!」

「全く。リグはいきなり大泣きして話にならないし、何がなんだか……。」

「……そうかよ。呑気だな。お前。」

なんだよそれはと言い返そうとしたが、はぁ、と深いため息をついていてうつむいた班長を見て、何だか何も言えなかった。
よくわからないが、よほどの事があった後の様だ。

「……お前さ、サーク。死にかけたんだよ……。」

「はい?!」

その言葉に俺は心底ギョッとする。
顔を上げた班長はそんな俺に苦笑いして、あの日の事をゆっくりと話し始めた。

第三王子が視察に来たこと。
外壁で襲撃を受けたこと。
その襲撃自体が陽動で、別部隊に外壁が破られたこと。
王子を狙い侵入したアサシンに、俺が立ち向かったこと。

俺は聞いているうちにだんだん思いだし、血の気が引いた。

「な?!何で生きてるんですか?!俺!?」

「それは……。」

班長が続きを話し始めようとしたとき、部屋のドアがガラリと開いた。
医者がガチガチに緊張した顔で突っ立っている。
そして言った。

「殿下がお見えです。」

そう声がかかると、班長は慌てて松葉杖で立ち上がって部屋の隅に移動した。
俺はといえば意味がわからずぽかんとする。

何だって??
殿下ってどういうこと?!

ポカーンとしている俺の前に、呼吸困難になりそうなほどきらびやかな第三王子が現れた。
いや本当、ポカーンだよ。
何が起きているのか頭が追いつかない。

「……目覚められて良かった。」

近づいてきた王子は当然の様に椅子に腰掛けると、キラッキラのプリンススマイルを浮かべ、俺にそう言った。
やべぇ、まともに見たら魂抜かれる。
俺は砂の像と化した。
この眩い輝きに当てられ、日陰の生き物は既に死にそうです。
カスッカスのカラカラだ。
何か吐きたくても何も出やしない。

「まだ気分が悪いのですか?」

「……あ、いえ……恐れ多くて緊張しているだけです……。」

挙動不審にかすれた声でぷるぷるする俺を見て、誰かがクスリと笑った。
王子の背後に目が向く。

「!!」

王子の執事なのか、畏まった様にその人はそこに立っていた。

銀色の。

銀色の、ロマンスグレーの落ち着いた紳士だった。
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