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第四章「独身寮編」
激流
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休憩になったので俺は資料館を尋ねた。
あの手紙は館長のロイさんと研究所長のブラハムさんからだった。
呪いの事で至急話がしたい。
そうとだけ書かれていた。
シルクの呪いは解けたはずだ。
瓶を調べて何かあったのか胸騒ぎがしていた。
「やあ、サーク。」
「ご無沙汰しています。ロイさん、ブラハムさん。」
「早速だが、本題に入ってもいいかい?」
「はい。」
ロイさんがそう言うと、ブラハムさんがシルクの欠片が入っていた小瓶を俺の前に置いた。
空になったが念のために持ち帰り、ロイさんに渡していたものだ。
少し顔が強張る。
「……シルクの呪いはまだ解けてないんですか?」
「いや、シルクの呪いは大丈夫だよ、サーク。」
「問題はこの小瓶の方だ。」
「この小瓶がどうかしたんですか?」
「この小瓶はね、呪いを入れて置くために、いくつかの加工がされていて、その一つとして呪いを吸い寄せる加工がされていたんだ。」
そう言われて見れば、シルクが口から出たものを瓶が吸い込んだと言っていた。
「サークがシルクの中に戻す時、瓶に魔力で圧をかけたから、その加工は壊れているんだけどね。ちょっと気がかりな痕跡が残っていたんだよ。」
「痕跡ですか?」
ふたりは一度言葉をきり、顔を見合わせた。
そして言った。
「どうやらどこかで、最近、竜の血の呪いが起こったようなんだ。」
「竜の血の呪い?」
突拍子のないその言葉に、俺はいまいちピンとこない。
竜ってアレだよな?絵本とかに出てくる??
大昔は本当にいたらしいけれど、今は魔物化してしまった海竜を除いて存在が確認されているものはいない。
いると言われている海竜でさえも実際に見た記録はかなり昔だ。
きょとんとする俺をよそに、ブラハムさんとロイさんは難しい顔で話を続ける。
「サークは、呪いが命の苦痛から造られる事は知っているね?」
「はい。本で読んだ程度の知識しかありませんけど……。」
「呪い自体、禁忌の魔術に近い。この国では禁じられているし、人道的に考えて秘密裏でも行っている国は少ない。」
「故に、王国では研究も殆ど進んでいない。だから勤勉なサークでも詳しく知らなくて当然じゃ。」
「でも、使われる命が多ければ多いほど、強い呪いになる事は知っているだろう?」
そこまで言われて俺はだんだん、事の大きさがわかってきた。
それと同時に血の気が引いてくる。
「まさか……っ?竜を使って誰かが呪いを作ったんですか?!と言うか、竜って本当にいるんですか!?」
そう、それが本当なら一大事だ。
けれどそもそも「竜」という存在がいるのかわからず、俺はどうにも話の座りがつかない。
「……いるんだよ、サーク。」
けれど、ロイさんの言葉は重かった。
そこには有無を言わさず信じざる負えない重さがあった。
ふむ、と一息置くと、ブラハムさんが話し始めた。
「彼らはいる。でもどこにいるのかは誰も知らない。大昔、純粋な彼らは私利私欲から醜い争いを続ける人間に嫌気が差して、誰も知らないところに隠れてしまったんだよ。」
「誰も知らないところ?」
「多分、ここと同じように隠された場所にいるんだと言われているよ。」
「え?なら竜が今でもいたとしても、普通に俺達が暮らしている場所にはいないんですよね?何でいない筈の竜を捕まえて呪いに出来たんですか?」
俺は率直な疑問を口にした。
それにロイさんとブラハムさんは顔を見合わせる。
「……そこは解らない。」
「だがこの小瓶は禍々しい巨大な呪いを引き寄せる。その時は中にシルクの欠片が入っていたから、何か害が出るほど吸い寄せる事は出来なかったのだろう。けれど痕跡は残った。この瓶を持っていた者は竜の血の呪いが起こった時、その近くにいた。痕跡はまだ新しかった……。」
「………………。」
俺は無言になる。
ちゃんとは聞いていないが、シルクはあの時、ログルを殺している。
竜がどこからか連れてこられたのか、何故、呪いにされたのか、わからない点が多くとも死んだ人間から聞き出すのは無理だろう。
王国の制服。
国境の兵士の不満。
そして竜の血の呪い。
砂漠の国では何が起きているのだろう?
漠然と俺を捕らえていた不安が、ちらりと姿を見せたようで吐き気がした。
「……その呪いはどれぐらい不味いものですか?」
言い得ぬ不安。
竜はおとぎ話の中でしか知らない。
だが元々は精霊の長たる存在の子どもが実態を持ち、繁殖可能となったものだと言う事はなんとなく知ってる。
そしてその存在が、精霊としてかなり高位の力を持つ事も……。
それが呪いになったのだとしたら、相当ヤバいはずだ。
固唾を飲む俺に、ブラハムさんは困ったように首を傾げ、ロイさんは重いため息をついた。
「それも不思議なんだ。竜の血の呪いが起こったら、国一つなど簡単に滅びる。現時点で相当な厄災に見舞われていておかしくない。……なのにそう言った話も聞かないんだよ……。」
「だが確実に言える。竜の血の呪いが起こった。ここにその痕跡がある……。後はまだ解らない。とても恐ろしい事じゃ……。」
俺は黙ってしまった。
ただでさえ手に負えない現実が、さらに重くなったように感じる。
魔術本部の大物二人が恐れ、そして手を拱いている。
そんな恐ろしい事がどこかで起きている。
なのにそれは物音一つ立てずに沈黙しているのだ。
「……どうしてその話を俺に?」
思わず口からこぼれた。
そうだ。
俺の手に負える話じゃない。
国家だって手に負えるか解らないほどの話だ。
それを何故、俺に話すのだろう?
するとふたりは顔を見合わせて笑った。
「……何でじゃろな?」
「仕方ないさ、そう思ったのだから。」
そしておかしそうに笑い出す。
今の今まで重苦しい空気に包まれていたのに、急にいつもの森の街ののほほん具合に戻ってしまった。
俺は狼狽えてあわあわしてしまう。
「え?!どういう事です?!」
慌てる俺を見て、二人はさらに笑った。
いや待って?!
天才と何とかは紙一重って言うけど!ここの人たち!マジで頭良すぎて何考えてんのか訳がわからない時があるんだよ!
「何で笑うんですか~!」
「あはは、ごめんごめん。でも、ねぇ~。」
「そうそう、理由なんて儂らにもわからんて。これに気づいた時、わしらは何の疑いもなくサークに早く伝えなければと思ったんだよ。」
「だから私たちはその直感に従っただけだよ。」
そう言って微笑む。
いや……直感って……。
だがここにいるのは、世界屈指の魔術師。
その彼らが感じた直感は、冗談で流すには些か重みが違う。
「もちろん、こちらとしても対応はしていく。」
「でもきっと、君はこの事を知っていなければならなかったんだよ、サーク。ただそれだけさ。」
ただそれだけ……。
そう言ってあっけらかんと笑うロイさんとブラハムさん。
森の町の人達もリリとムクのように謎めいた事を言う。
若輩者の俺にはよくわからない。
だが、そうなのだろうという確信めいた何かがそこにはあった。
「……わかりました。頭に入れておきます。俺の方でも何かわかったらお伝えします。今のところ俺が知っている関係ありそうな事は……。」
俺は今知っている部分をふたりに話した。
時の流れが速い。
この流れは俺をどこに流してしまうんだろう?
早すぎる流れに翻弄され、俺はただもがく。
言い得ぬ不安があっても、その流れは怒涛のように俺を連れ去って行く。
最後には穏やかな場所に行き着く事ができるのだろうか……。
そんな事を思った。
次の日、俺は帰る前に師匠とまた話をしていた。
「血の魔術についてって言われてもな~、何かできたとしか言いようがなくて~。」
俺は頭を掻いた。
昨日話が中断してできなかった血の魔術についてだ。
とはいえ、あれは本当、物心ついた時にはなんでだか使っていたので聞かれても俺にはわからない。
「だから、何でできるの?」
「知らないっす。」
さっきからこの堂々巡りだ。
俺は困る事しかできなくて、師匠は頭を抱えている。
「あ~!せめてサークちゃんの出生がわかれば!何か手がかりになるのに!!」
「え~それは俺も知らないですよ~。遠征に駆り出されてた傭兵のおっちゃん達が、森に捨てられてたのを魔物に食われたら可哀想だって拾って、教会に預けたんだから。おっちゃんたちも適当でどこで拾ったか覚えてないし。」
「なら、いつから出来たの!?」
「子供の時からですよ。血が出たんでグリグリそれをいじって絵を描いたら、ぽんって。」
「ぽんって……。」
滅茶苦茶、師匠が頭を悩ませているが、こればっかりは俺にも全くわからない。
「何かきっかけはあったの?!」
「ないですね。」
ガクッと肩を落す師匠。
申し訳ないけどなぁ~、だって俺もわかんないんだもん。
答えようがない。
「そう……。なら話を変えるわ。今、使う時って、公式は使うの?」
「公式を覚えてからは混ぜたりしますけど、基本は想像ですね。」
「……想像?」
俺の言葉に師匠が怪訝そうに眉を寄せる。
怖い怖い。
師匠、顔怖い……。
そう思いながら俺は苦笑いで答えていく。
「俺は血の魔術ではよく動物を作るんですけど、例えば穴を掘りたかったら穴を掘る動物を思い浮かべるんです。そうするとその動物ができて、やってくれるっていうのかな?これがしたいって言うのを具体的に思い浮かべるんです。壁とかの破壊はそのままバーンって壊すイメージですけど。」
師匠の顔が凄く複雑そうに歪む。
怖い怖い。
「何か……、こっちは理屈も何もないわね?」
「多分ですけど、血の魔術は強く願う事で使えるんですよ。魔術だの魔法だの呪いだの、そもそもの根本を考えれば強い願いじゃないですか。」
「そうだけど……そうなんだけどね!!」
バーンとばかりに師匠が机を叩いて身を乗り出す。
ひ~!興奮しないでください!師匠!!
鼻息荒いし、めっちゃ怖い!!
ぴよぴよと怯える俺に気づいた師匠。
失礼、とか繕って椅子に座り直す。
だから、そのがっしりした体型で乙女座り、やめてください……。
でもそんな事は口が避けても言えず、俺は気持ちを切り替えて話を続けた。
「それに血の魔術は制御が難しいです。強く願った分、血と魔力と生命力を勝手に使っちゃうんで……。師匠も知っての通り、血の魔術は強い事はできますが、その分すぐぶっ倒れます。」
「そこも問題よね?自分で制御できないなんて……。そう言えば魔力の鍛練は上手くいってる?」
「はい。やっと自分の中の魔力を集める方法がわかって、今、意識的に自在に動かせるよう鍛練しています。」
俺がそう答えると、ロナンド師匠は優しく微笑んだ。
そしてため息をつくと、ちょっと拗ねたみたいに口を尖らせた。
「何か……。サークちゃんは、どんどん先に進んでっちゃうわよね~。師匠としては寂しいわ~。」
「いえ、まだまだ師匠の足元にも及びませんし、これからもご指導よろしくお願いいたします。」
師匠にそんな風に思われていたなんて意外だった。
それが何となく嬉しくて、俺は笑って頭を下げた。
あの手紙は館長のロイさんと研究所長のブラハムさんからだった。
呪いの事で至急話がしたい。
そうとだけ書かれていた。
シルクの呪いは解けたはずだ。
瓶を調べて何かあったのか胸騒ぎがしていた。
「やあ、サーク。」
「ご無沙汰しています。ロイさん、ブラハムさん。」
「早速だが、本題に入ってもいいかい?」
「はい。」
ロイさんがそう言うと、ブラハムさんがシルクの欠片が入っていた小瓶を俺の前に置いた。
空になったが念のために持ち帰り、ロイさんに渡していたものだ。
少し顔が強張る。
「……シルクの呪いはまだ解けてないんですか?」
「いや、シルクの呪いは大丈夫だよ、サーク。」
「問題はこの小瓶の方だ。」
「この小瓶がどうかしたんですか?」
「この小瓶はね、呪いを入れて置くために、いくつかの加工がされていて、その一つとして呪いを吸い寄せる加工がされていたんだ。」
そう言われて見れば、シルクが口から出たものを瓶が吸い込んだと言っていた。
「サークがシルクの中に戻す時、瓶に魔力で圧をかけたから、その加工は壊れているんだけどね。ちょっと気がかりな痕跡が残っていたんだよ。」
「痕跡ですか?」
ふたりは一度言葉をきり、顔を見合わせた。
そして言った。
「どうやらどこかで、最近、竜の血の呪いが起こったようなんだ。」
「竜の血の呪い?」
突拍子のないその言葉に、俺はいまいちピンとこない。
竜ってアレだよな?絵本とかに出てくる??
大昔は本当にいたらしいけれど、今は魔物化してしまった海竜を除いて存在が確認されているものはいない。
いると言われている海竜でさえも実際に見た記録はかなり昔だ。
きょとんとする俺をよそに、ブラハムさんとロイさんは難しい顔で話を続ける。
「サークは、呪いが命の苦痛から造られる事は知っているね?」
「はい。本で読んだ程度の知識しかありませんけど……。」
「呪い自体、禁忌の魔術に近い。この国では禁じられているし、人道的に考えて秘密裏でも行っている国は少ない。」
「故に、王国では研究も殆ど進んでいない。だから勤勉なサークでも詳しく知らなくて当然じゃ。」
「でも、使われる命が多ければ多いほど、強い呪いになる事は知っているだろう?」
そこまで言われて俺はだんだん、事の大きさがわかってきた。
それと同時に血の気が引いてくる。
「まさか……っ?竜を使って誰かが呪いを作ったんですか?!と言うか、竜って本当にいるんですか!?」
そう、それが本当なら一大事だ。
けれどそもそも「竜」という存在がいるのかわからず、俺はどうにも話の座りがつかない。
「……いるんだよ、サーク。」
けれど、ロイさんの言葉は重かった。
そこには有無を言わさず信じざる負えない重さがあった。
ふむ、と一息置くと、ブラハムさんが話し始めた。
「彼らはいる。でもどこにいるのかは誰も知らない。大昔、純粋な彼らは私利私欲から醜い争いを続ける人間に嫌気が差して、誰も知らないところに隠れてしまったんだよ。」
「誰も知らないところ?」
「多分、ここと同じように隠された場所にいるんだと言われているよ。」
「え?なら竜が今でもいたとしても、普通に俺達が暮らしている場所にはいないんですよね?何でいない筈の竜を捕まえて呪いに出来たんですか?」
俺は率直な疑問を口にした。
それにロイさんとブラハムさんは顔を見合わせる。
「……そこは解らない。」
「だがこの小瓶は禍々しい巨大な呪いを引き寄せる。その時は中にシルクの欠片が入っていたから、何か害が出るほど吸い寄せる事は出来なかったのだろう。けれど痕跡は残った。この瓶を持っていた者は竜の血の呪いが起こった時、その近くにいた。痕跡はまだ新しかった……。」
「………………。」
俺は無言になる。
ちゃんとは聞いていないが、シルクはあの時、ログルを殺している。
竜がどこからか連れてこられたのか、何故、呪いにされたのか、わからない点が多くとも死んだ人間から聞き出すのは無理だろう。
王国の制服。
国境の兵士の不満。
そして竜の血の呪い。
砂漠の国では何が起きているのだろう?
漠然と俺を捕らえていた不安が、ちらりと姿を見せたようで吐き気がした。
「……その呪いはどれぐらい不味いものですか?」
言い得ぬ不安。
竜はおとぎ話の中でしか知らない。
だが元々は精霊の長たる存在の子どもが実態を持ち、繁殖可能となったものだと言う事はなんとなく知ってる。
そしてその存在が、精霊としてかなり高位の力を持つ事も……。
それが呪いになったのだとしたら、相当ヤバいはずだ。
固唾を飲む俺に、ブラハムさんは困ったように首を傾げ、ロイさんは重いため息をついた。
「それも不思議なんだ。竜の血の呪いが起こったら、国一つなど簡単に滅びる。現時点で相当な厄災に見舞われていておかしくない。……なのにそう言った話も聞かないんだよ……。」
「だが確実に言える。竜の血の呪いが起こった。ここにその痕跡がある……。後はまだ解らない。とても恐ろしい事じゃ……。」
俺は黙ってしまった。
ただでさえ手に負えない現実が、さらに重くなったように感じる。
魔術本部の大物二人が恐れ、そして手を拱いている。
そんな恐ろしい事がどこかで起きている。
なのにそれは物音一つ立てずに沈黙しているのだ。
「……どうしてその話を俺に?」
思わず口からこぼれた。
そうだ。
俺の手に負える話じゃない。
国家だって手に負えるか解らないほどの話だ。
それを何故、俺に話すのだろう?
するとふたりは顔を見合わせて笑った。
「……何でじゃろな?」
「仕方ないさ、そう思ったのだから。」
そしておかしそうに笑い出す。
今の今まで重苦しい空気に包まれていたのに、急にいつもの森の街ののほほん具合に戻ってしまった。
俺は狼狽えてあわあわしてしまう。
「え?!どういう事です?!」
慌てる俺を見て、二人はさらに笑った。
いや待って?!
天才と何とかは紙一重って言うけど!ここの人たち!マジで頭良すぎて何考えてんのか訳がわからない時があるんだよ!
「何で笑うんですか~!」
「あはは、ごめんごめん。でも、ねぇ~。」
「そうそう、理由なんて儂らにもわからんて。これに気づいた時、わしらは何の疑いもなくサークに早く伝えなければと思ったんだよ。」
「だから私たちはその直感に従っただけだよ。」
そう言って微笑む。
いや……直感って……。
だがここにいるのは、世界屈指の魔術師。
その彼らが感じた直感は、冗談で流すには些か重みが違う。
「もちろん、こちらとしても対応はしていく。」
「でもきっと、君はこの事を知っていなければならなかったんだよ、サーク。ただそれだけさ。」
ただそれだけ……。
そう言ってあっけらかんと笑うロイさんとブラハムさん。
森の町の人達もリリとムクのように謎めいた事を言う。
若輩者の俺にはよくわからない。
だが、そうなのだろうという確信めいた何かがそこにはあった。
「……わかりました。頭に入れておきます。俺の方でも何かわかったらお伝えします。今のところ俺が知っている関係ありそうな事は……。」
俺は今知っている部分をふたりに話した。
時の流れが速い。
この流れは俺をどこに流してしまうんだろう?
早すぎる流れに翻弄され、俺はただもがく。
言い得ぬ不安があっても、その流れは怒涛のように俺を連れ去って行く。
最後には穏やかな場所に行き着く事ができるのだろうか……。
そんな事を思った。
次の日、俺は帰る前に師匠とまた話をしていた。
「血の魔術についてって言われてもな~、何かできたとしか言いようがなくて~。」
俺は頭を掻いた。
昨日話が中断してできなかった血の魔術についてだ。
とはいえ、あれは本当、物心ついた時にはなんでだか使っていたので聞かれても俺にはわからない。
「だから、何でできるの?」
「知らないっす。」
さっきからこの堂々巡りだ。
俺は困る事しかできなくて、師匠は頭を抱えている。
「あ~!せめてサークちゃんの出生がわかれば!何か手がかりになるのに!!」
「え~それは俺も知らないですよ~。遠征に駆り出されてた傭兵のおっちゃん達が、森に捨てられてたのを魔物に食われたら可哀想だって拾って、教会に預けたんだから。おっちゃんたちも適当でどこで拾ったか覚えてないし。」
「なら、いつから出来たの!?」
「子供の時からですよ。血が出たんでグリグリそれをいじって絵を描いたら、ぽんって。」
「ぽんって……。」
滅茶苦茶、師匠が頭を悩ませているが、こればっかりは俺にも全くわからない。
「何かきっかけはあったの?!」
「ないですね。」
ガクッと肩を落す師匠。
申し訳ないけどなぁ~、だって俺もわかんないんだもん。
答えようがない。
「そう……。なら話を変えるわ。今、使う時って、公式は使うの?」
「公式を覚えてからは混ぜたりしますけど、基本は想像ですね。」
「……想像?」
俺の言葉に師匠が怪訝そうに眉を寄せる。
怖い怖い。
師匠、顔怖い……。
そう思いながら俺は苦笑いで答えていく。
「俺は血の魔術ではよく動物を作るんですけど、例えば穴を掘りたかったら穴を掘る動物を思い浮かべるんです。そうするとその動物ができて、やってくれるっていうのかな?これがしたいって言うのを具体的に思い浮かべるんです。壁とかの破壊はそのままバーンって壊すイメージですけど。」
師匠の顔が凄く複雑そうに歪む。
怖い怖い。
「何か……、こっちは理屈も何もないわね?」
「多分ですけど、血の魔術は強く願う事で使えるんですよ。魔術だの魔法だの呪いだの、そもそもの根本を考えれば強い願いじゃないですか。」
「そうだけど……そうなんだけどね!!」
バーンとばかりに師匠が机を叩いて身を乗り出す。
ひ~!興奮しないでください!師匠!!
鼻息荒いし、めっちゃ怖い!!
ぴよぴよと怯える俺に気づいた師匠。
失礼、とか繕って椅子に座り直す。
だから、そのがっしりした体型で乙女座り、やめてください……。
でもそんな事は口が避けても言えず、俺は気持ちを切り替えて話を続けた。
「それに血の魔術は制御が難しいです。強く願った分、血と魔力と生命力を勝手に使っちゃうんで……。師匠も知っての通り、血の魔術は強い事はできますが、その分すぐぶっ倒れます。」
「そこも問題よね?自分で制御できないなんて……。そう言えば魔力の鍛練は上手くいってる?」
「はい。やっと自分の中の魔力を集める方法がわかって、今、意識的に自在に動かせるよう鍛練しています。」
俺がそう答えると、ロナンド師匠は優しく微笑んだ。
そしてため息をつくと、ちょっと拗ねたみたいに口を尖らせた。
「何か……。サークちゃんは、どんどん先に進んでっちゃうわよね~。師匠としては寂しいわ~。」
「いえ、まだまだ師匠の足元にも及びませんし、これからもご指導よろしくお願いいたします。」
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