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第四章「独身寮編」
少しだけ眠りたい
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「初めまして!あなたがシルクね!!私は副隊長のサマンサ・マニ・ウォーレン。よろしくね!!」
握手だと思って握った手を引かれ、シルクは副隊長から熱い抱擁を受けた。
何か懐かしい。
俺もアレをやられて死ぬほど慌てたなぁと思う。
しかし驚いたことに、シルクは何でもないことのように副隊長に腕を回して、抱きしめ返した。
「主の従者で武術指導をする事になりました、シルクです。よろしくお願いいたします。」
するっと自然に抱擁を交わすシルク。
しかも副隊長はそんなシルクを気に入ったようで可愛い可愛いと抱きしめる。
う~ん。
どうしよう。
俺の横でライルさんから感じたことのない殺気が見えるんだけど……。
シルクもいい加減察して、副隊長の腕の中から離れろ。
副隊長もシルクを可愛がってないで、離れて下さい。
俺は鬼と化すライルさんは見たくないですっ!!
「……シルク、いい加減に副隊長から離れなさい。」
「ええ~いいじゃない~。こんな綺麗な子とハグ出来ることなんてもうないかも知れないんだし~。ね~?」
副隊長は猫の子を可愛がるようにシルクを撫でている。
シルク!頼むから察してくれ!!
ライルさんが噛みつく前の猛犬みたいになってるから!!
「シルク!」
「え~だって副隊長さん、おっぱい大きくて、抱っこしてもらうと気持ち良いんだもん~。」
その脳天気な言葉で、場に戦慄が走った。
赤面して固まる副隊長。
ごろにゃんと懐くシルク。
無言のライルさん。
ヤバい!
俺はシルクを止めようと手を伸ばしたその時、シャッという高めの金属音が聞こえた。
ライルさんがレイピアを抜いて、シルクに突き出したのだ。
しかし流石というか、シルクは反射的にさっと猫のようにそれを避ける。
それにより距離ができた事で、ライルさんが素早く副隊長の前に庇うように立ちふさがった。
それは驚くほど早かった。
え?ライルさんて、シルクの速度についていけるの??
俺は呆気にとられたが、その後、恐怖で身が縮んだ。
ライルさんが、見たことない顔してる……。
怖い。
いつも温厚で、包容力の高いライルさんじゃない……。
こんなライルさん見たくないよ~!!
ライルさんがにっこり笑って、低く呟いた。
「シルク……。悪いけど、このおっぱいは俺の……俺だけのものなんだ……。他をあたってくれるかい?」
シルクは黙ってこくこくと頷く。
それぐらいライルさんは怖かった……。
シルク、謝れ。
とりあえず謝るんだ、シルク!!
俺は心の中で叫んだ。
「!!~~~~っ!!」
だが、助けの手は意外なところから伸びてきた。
ライルさんの男らしい一面に感極まった副隊長が、ライルさんの顔を強引に自分の方に向け、熱烈な口付けをお見舞いしていた。
「サムっ落ち着いて……んっ!!」
ライルさんも不意を突かれたのか慌てている。
モデルのように背が高い副隊長は少しライルさんより背が高い。
後ろから羽交い締めにされるように、ライルさんは副隊長に熱烈なキッスを受けている。
……うん。
これはしばらく放っておいた方がよさそうだ。
「シルク、行くぞ。」
「あ、うん。」
濃厚な愛を確かめ合う恋人たちを残し、俺たちは静かに部屋を出た。
そしてボソリと一言。
「……主、ライルさん強いんだね……。」
「俺もあそこまでとは知らなかった……。」
「怖かったね。」
「ああ、もう二度とライルさんは怒らさないようにしような?」
「うん。」
俺達は思わぬ強兵に暫く言葉を無くしていた。
「なら、行ってくるわ。」
副隊長への挨拶も済んだ。
俺は歩きながらシルクにそう伝えた。
「鍵で行くの?」
「ああ。」
「部屋に鍵付きのクローゼットないよ?」
「前の家をまだ借りてるんだ。研究室でもあるから。そこから行く。」
「ふ~ん。」
シルクはついて来れないので少し不機嫌だ。
だが、どこに行くにも常にべったりと一緒と言うわけにはいかない。
離れて別々に動けるようになってもらわないと困る。
「そう言えばシルク、お前何か香水とかつけてるのか?」
ふと、隊長に言われたことを思い出す。
特に何も感じないんだけどな、俺は。
「何で?つけてないよ?」
「だよな~。隊長がお前が香をつけてるって言うんだよ。」
ストーカー気質だから微かな匂いも感じ取ってるんだろうか?
だとしたらマジで怖いわ。
「え?それ逆だよ、主。たいちょーさん、いつも何かつけてる。俺、たいちょーさんが来るとすぐわかるもん。」
ところがシルクまで妙な事を言い出した。
隊長が何かつけてる??
匂いは特に感じた事はないな?
「は?隊長も何もつけてないと思うぞ?」
「そうなのかな~。何かわかんないけど。」
確かに変態臭はいつもするけどな。
それにしても何なんだ?二人して??
俺はどちらにも匂いを感じたことはないけどな?
そんな事を言っているうちに、出口に来てしまった。
ここからシルクは鍛練場に、俺は家に向かう。
シルクが少し不安げだ。
「ま、たった3日だし、頑張れよ!」
「平気だし。主なんかいなくても。」
ツンとしてシルクは言った。
強がっているのがわかる拗ねた顔は、懐いた猫みたいでちょっと可愛い。
俺は笑って頭をぽんぽんした。
「……リリとムクに、シルクが頑張ってるって伝えとくよ。」
「うん……。」
「じゃ、3日後にな!」
俺はそう言って、元住んでいた家に向かった。
元の家についたとき、俺は何だか一気に気が抜けた。
いろんな事が起こりすぎてる。
カイナの民であるシルクの事、自分の魔術の事。
それだけじゃない。
何かが差し迫っていてすごく不安だ。
それはとても大きい。
自分の手になんか負えない。
一人で抱え込むには大きすぎる。
でもそれが何かわからない。
皆が好きだ。
皆が大事だ。
誰も傷つけたくないし、皆が幸せになって欲しい。
シルクにやっと出来た居場所を守ってやりたい。
これから何が起こるかわからない。
疑心暗鬼になっているだけだろうか?
天地無用を心配しているだけだろうか?
いいえぬ焦りと不安があって、でもそれが何か分からなくて、さらに不安になる。
心が不安で、独りぼっちになった気がする。
こんな想いをするくらいなら、誰とも関わらずに生きていたかった。
この家で、この部屋で、必要最低限の人と関わって、静かにひっそりと生きていたかった。
おとなしく一生を終えたかった。
何でこんな変わってしまったんだろう?
何でこの流れは、俺をどんどん流れの速い方に連れて行くんだろう?
そして、どこに俺を連れて行く気なんだろう?
何だか動く気にもなれなくて、俺はベッドに倒れ込んだ。
遅くなると師匠が怒るけど、今はこうしていたかった。
「……ウィルに会いたいな……。」
たった一人だけ、今、ここにいて欲しい人。
今度はいつ会えるのか考えながら、俺は目を閉じた。
握手だと思って握った手を引かれ、シルクは副隊長から熱い抱擁を受けた。
何か懐かしい。
俺もアレをやられて死ぬほど慌てたなぁと思う。
しかし驚いたことに、シルクは何でもないことのように副隊長に腕を回して、抱きしめ返した。
「主の従者で武術指導をする事になりました、シルクです。よろしくお願いいたします。」
するっと自然に抱擁を交わすシルク。
しかも副隊長はそんなシルクを気に入ったようで可愛い可愛いと抱きしめる。
う~ん。
どうしよう。
俺の横でライルさんから感じたことのない殺気が見えるんだけど……。
シルクもいい加減察して、副隊長の腕の中から離れろ。
副隊長もシルクを可愛がってないで、離れて下さい。
俺は鬼と化すライルさんは見たくないですっ!!
「……シルク、いい加減に副隊長から離れなさい。」
「ええ~いいじゃない~。こんな綺麗な子とハグ出来ることなんてもうないかも知れないんだし~。ね~?」
副隊長は猫の子を可愛がるようにシルクを撫でている。
シルク!頼むから察してくれ!!
ライルさんが噛みつく前の猛犬みたいになってるから!!
「シルク!」
「え~だって副隊長さん、おっぱい大きくて、抱っこしてもらうと気持ち良いんだもん~。」
その脳天気な言葉で、場に戦慄が走った。
赤面して固まる副隊長。
ごろにゃんと懐くシルク。
無言のライルさん。
ヤバい!
俺はシルクを止めようと手を伸ばしたその時、シャッという高めの金属音が聞こえた。
ライルさんがレイピアを抜いて、シルクに突き出したのだ。
しかし流石というか、シルクは反射的にさっと猫のようにそれを避ける。
それにより距離ができた事で、ライルさんが素早く副隊長の前に庇うように立ちふさがった。
それは驚くほど早かった。
え?ライルさんて、シルクの速度についていけるの??
俺は呆気にとられたが、その後、恐怖で身が縮んだ。
ライルさんが、見たことない顔してる……。
怖い。
いつも温厚で、包容力の高いライルさんじゃない……。
こんなライルさん見たくないよ~!!
ライルさんがにっこり笑って、低く呟いた。
「シルク……。悪いけど、このおっぱいは俺の……俺だけのものなんだ……。他をあたってくれるかい?」
シルクは黙ってこくこくと頷く。
それぐらいライルさんは怖かった……。
シルク、謝れ。
とりあえず謝るんだ、シルク!!
俺は心の中で叫んだ。
「!!~~~~っ!!」
だが、助けの手は意外なところから伸びてきた。
ライルさんの男らしい一面に感極まった副隊長が、ライルさんの顔を強引に自分の方に向け、熱烈な口付けをお見舞いしていた。
「サムっ落ち着いて……んっ!!」
ライルさんも不意を突かれたのか慌てている。
モデルのように背が高い副隊長は少しライルさんより背が高い。
後ろから羽交い締めにされるように、ライルさんは副隊長に熱烈なキッスを受けている。
……うん。
これはしばらく放っておいた方がよさそうだ。
「シルク、行くぞ。」
「あ、うん。」
濃厚な愛を確かめ合う恋人たちを残し、俺たちは静かに部屋を出た。
そしてボソリと一言。
「……主、ライルさん強いんだね……。」
「俺もあそこまでとは知らなかった……。」
「怖かったね。」
「ああ、もう二度とライルさんは怒らさないようにしような?」
「うん。」
俺達は思わぬ強兵に暫く言葉を無くしていた。
「なら、行ってくるわ。」
副隊長への挨拶も済んだ。
俺は歩きながらシルクにそう伝えた。
「鍵で行くの?」
「ああ。」
「部屋に鍵付きのクローゼットないよ?」
「前の家をまだ借りてるんだ。研究室でもあるから。そこから行く。」
「ふ~ん。」
シルクはついて来れないので少し不機嫌だ。
だが、どこに行くにも常にべったりと一緒と言うわけにはいかない。
離れて別々に動けるようになってもらわないと困る。
「そう言えばシルク、お前何か香水とかつけてるのか?」
ふと、隊長に言われたことを思い出す。
特に何も感じないんだけどな、俺は。
「何で?つけてないよ?」
「だよな~。隊長がお前が香をつけてるって言うんだよ。」
ストーカー気質だから微かな匂いも感じ取ってるんだろうか?
だとしたらマジで怖いわ。
「え?それ逆だよ、主。たいちょーさん、いつも何かつけてる。俺、たいちょーさんが来るとすぐわかるもん。」
ところがシルクまで妙な事を言い出した。
隊長が何かつけてる??
匂いは特に感じた事はないな?
「は?隊長も何もつけてないと思うぞ?」
「そうなのかな~。何かわかんないけど。」
確かに変態臭はいつもするけどな。
それにしても何なんだ?二人して??
俺はどちらにも匂いを感じたことはないけどな?
そんな事を言っているうちに、出口に来てしまった。
ここからシルクは鍛練場に、俺は家に向かう。
シルクが少し不安げだ。
「ま、たった3日だし、頑張れよ!」
「平気だし。主なんかいなくても。」
ツンとしてシルクは言った。
強がっているのがわかる拗ねた顔は、懐いた猫みたいでちょっと可愛い。
俺は笑って頭をぽんぽんした。
「……リリとムクに、シルクが頑張ってるって伝えとくよ。」
「うん……。」
「じゃ、3日後にな!」
俺はそう言って、元住んでいた家に向かった。
元の家についたとき、俺は何だか一気に気が抜けた。
いろんな事が起こりすぎてる。
カイナの民であるシルクの事、自分の魔術の事。
それだけじゃない。
何かが差し迫っていてすごく不安だ。
それはとても大きい。
自分の手になんか負えない。
一人で抱え込むには大きすぎる。
でもそれが何かわからない。
皆が好きだ。
皆が大事だ。
誰も傷つけたくないし、皆が幸せになって欲しい。
シルクにやっと出来た居場所を守ってやりたい。
これから何が起こるかわからない。
疑心暗鬼になっているだけだろうか?
天地無用を心配しているだけだろうか?
いいえぬ焦りと不安があって、でもそれが何か分からなくて、さらに不安になる。
心が不安で、独りぼっちになった気がする。
こんな想いをするくらいなら、誰とも関わらずに生きていたかった。
この家で、この部屋で、必要最低限の人と関わって、静かにひっそりと生きていたかった。
おとなしく一生を終えたかった。
何でこんな変わってしまったんだろう?
何でこの流れは、俺をどんどん流れの速い方に連れて行くんだろう?
そして、どこに俺を連れて行く気なんだろう?
何だか動く気にもなれなくて、俺はベッドに倒れ込んだ。
遅くなると師匠が怒るけど、今はこうしていたかった。
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