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第四章「独身寮編」
追憶
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俺はシルクを部屋に残しある場所に向かった。
今日、俺がこっちに戻ることは連絡してある。
だから恐らくこっちにいるはずだ。
ドアの前に立ち、深呼吸をする。
「失礼します。サークです。」
ノックをして声をかける。
返事は直ぐに帰ってきた。
「……入ってくれ。」
俺はドアを開けて中に入った。
あの時と変わらない隊長執務室。
「ただいま戻りました。」
「ああ……。」
隊長の言い様のない視線が俺に向けられる。
だが彼は直ぐに隊長としての顔に戻り、俺に対応した。
「報告は聞いている。お前の従者を武術指導者としてここに置きたいんだったな?」
「はい。」
「経歴は?」
「ありません。」
「……それで俺に判断しろと言うのは、いささか無謀ではないか?サーク。」
「見ていただければわかると思います。ひとまず、1日だけやらせて下さい。それを見ての決定でしたら従います。」
「……なぜ、武術指導がいると?」
「それは隊長もお気付きだと思いますが……。」
「お前の意見を聞いている。」
「俺は外壁警備の魔術兵の出です。兵士として泥を噛んで警備をしてきました。だから思うんです。皆の戦い方は綺麗過ぎます。本当に戦闘になった時、対応しきれないのではないかと。なので、もっと根本的な身体の動き、つまり武術を取り入れるべきだと考えました。」
俺の話をじっと聞いていた隊長。
そして言い切った俺の目を見据えた後、ゆっくりと瞬きした。
「……よくわかった。確かにそれは俺も思っていた。型通りの剣技だけでは戦では何の役にも立たないからな……。」
「恐れ入ります。」
「わかった。今日の午後、手の空いている者全てを鍛練場に集める。後はお前の好きにしてみろ。」
「ありがとうございます。」
俺は一礼する。
その俺に、一瞬だけ隊長としてでない視線が混ざったが、顔を上げた時にはそれは引っ込んでいた。
「……下がっていいぞ。」
「では失礼します。」
俺はもう一度頭を下げ、部屋を出ようとドアの前に立った。
けれど……。
「……………サーク!」
彼の、隊長としてではない声が俺を呼び止める。
振り向かずにいると隊長は音もなく俺の背後に立った。
後ろに全神経が引っ張られ、チリチリする。
彼との距離は微妙な距離だった。
しばしの沈黙。
そこに言い淀んだ迷いある言葉が溢れる。
「もう……大丈夫なのか……?」
その言葉に俺は苛ついた。
毛羽立った感情のまま言葉が出る。
「……大丈夫か聞くぐらいなら、こんな隅にいる俺の背後に立つなよ。」
「すまん……。」
隊長は一歩、後ろに下がった。
それが俺達の微妙な距離を示していた。
俺は冷静さを保とうと大きく息を吐く。
「……大丈夫か大丈夫じゃないかなんて、わからない。いきなり崩れる時もあれば、全く平気な事もある。ただ、逃げていても先には進めないんだ。たとえ思い込みでも「いける」と思った時に進んでおかないと進めなくなる。たまたま今は進めるって思っただけだ。駄目そうならまた考える。」
「……そうか。」
呟くような小さな声。
その言葉の色に痛みを感じるのは同情だろうか?
お互いの間ではもう、同情はしてはならないのだけれども。
「あんたさ~。」
だが俺は顔だけ振り向いた。
どうして放っておけないのかわからない。
複雑な目で隊長が俺を見つめている。
「殿下に告白するなり、ちゃんと恋人作るなりした方がいいよ。一人で抱えてても苦しいだけだぞ?」
振り向いたという事は、彼に対して何らかの思いがあるのだろう。
でも俺は彼の痛みを分かち合ってはやれない。
彼は彼で先に進むべきなのだ。
痛みと引き換えに、想いをいつまでも抱えられていたって俺には応えられない。
「俺は、今、恋人がいるよ?」
残忍かもしれない。
だがとどめを刺すのも優しさだと知っていた。
彼は、はっとした顔をした後、静かに目を閉じた。
「……そうか。」
「うん。訳あって秘密にしてるけど。」
仕方がないんだ。
これが今の俺達の距離であり、保つべき距離だ。
俺はドアを開けて出ていこうとした。
「……聞いていたのにな。」
隊長が呟いた。
哀愁を含んだその言葉に、何かとても引っかかった。
ん?
んん?
聞いていた??
何を?!
「ちょっと待てっ!!」
俺は凄い勢いで振り向いた。
まさかとは思うが冗談じゃない。
「シルクじゃないからなっ!?勘違いすんなよっ!?」
本気で焦った。
まさか隊長にまで馬鹿な噂が伝わっているとは……。
そんな俺を見て、隊長は無表情なりにきょとんとしていた。
「……違うのか?」
「やめてくれ!あいつとはそんな関係じゃないっ!どこの馬鹿だ!そんなデマ流してるのはっ!!張ったおすっ!!」
マジで待ってくれ。
何でそんな話になってるんだ?!
怒りの形相で怒鳴り散らす俺を見て張っていた糸が切れたのか、隊長は少し笑った。
「そうか、違うのか。」
「違~う!!俺の恋人をあんな無節操なのと一緒にしないでくれ!!信じられんっ!!」
「……ずいぶん、大事な相手なんだな?」
隊長が残念そうに笑った。
俺は少し恥ずかしくなって頭を掻く。
「うん……。大事だよ……。」
「そうか……。」
隊長はそれ以上、何も言わなかった。
俺は何か安心して今度こそ部屋を出ようとした。
だがもう一度振り返る。
「あ、恋人作れって言ったけどさ?シルクはやめとけよ?あいつは縛られるのを嫌う。無節操と言うか、自由奔放と言うか、自由でいたいヤツなんだ。あんたみたいに一人をぎちぎちに束縛したいタイプには向かないぞ?」
「……覚えておこう。」
「シルクは恋人じゃないけど俺の大事な相棒だ。あいつを泣かす奴は、俺、死ぬより痛い目見せてやるつもりだから。」
俺はそう言って、今度こそ本当に部屋を出ていった。
今日、俺がこっちに戻ることは連絡してある。
だから恐らくこっちにいるはずだ。
ドアの前に立ち、深呼吸をする。
「失礼します。サークです。」
ノックをして声をかける。
返事は直ぐに帰ってきた。
「……入ってくれ。」
俺はドアを開けて中に入った。
あの時と変わらない隊長執務室。
「ただいま戻りました。」
「ああ……。」
隊長の言い様のない視線が俺に向けられる。
だが彼は直ぐに隊長としての顔に戻り、俺に対応した。
「報告は聞いている。お前の従者を武術指導者としてここに置きたいんだったな?」
「はい。」
「経歴は?」
「ありません。」
「……それで俺に判断しろと言うのは、いささか無謀ではないか?サーク。」
「見ていただければわかると思います。ひとまず、1日だけやらせて下さい。それを見ての決定でしたら従います。」
「……なぜ、武術指導がいると?」
「それは隊長もお気付きだと思いますが……。」
「お前の意見を聞いている。」
「俺は外壁警備の魔術兵の出です。兵士として泥を噛んで警備をしてきました。だから思うんです。皆の戦い方は綺麗過ぎます。本当に戦闘になった時、対応しきれないのではないかと。なので、もっと根本的な身体の動き、つまり武術を取り入れるべきだと考えました。」
俺の話をじっと聞いていた隊長。
そして言い切った俺の目を見据えた後、ゆっくりと瞬きした。
「……よくわかった。確かにそれは俺も思っていた。型通りの剣技だけでは戦では何の役にも立たないからな……。」
「恐れ入ります。」
「わかった。今日の午後、手の空いている者全てを鍛練場に集める。後はお前の好きにしてみろ。」
「ありがとうございます。」
俺は一礼する。
その俺に、一瞬だけ隊長としてでない視線が混ざったが、顔を上げた時にはそれは引っ込んでいた。
「……下がっていいぞ。」
「では失礼します。」
俺はもう一度頭を下げ、部屋を出ようとドアの前に立った。
けれど……。
「……………サーク!」
彼の、隊長としてではない声が俺を呼び止める。
振り向かずにいると隊長は音もなく俺の背後に立った。
後ろに全神経が引っ張られ、チリチリする。
彼との距離は微妙な距離だった。
しばしの沈黙。
そこに言い淀んだ迷いある言葉が溢れる。
「もう……大丈夫なのか……?」
その言葉に俺は苛ついた。
毛羽立った感情のまま言葉が出る。
「……大丈夫か聞くぐらいなら、こんな隅にいる俺の背後に立つなよ。」
「すまん……。」
隊長は一歩、後ろに下がった。
それが俺達の微妙な距離を示していた。
俺は冷静さを保とうと大きく息を吐く。
「……大丈夫か大丈夫じゃないかなんて、わからない。いきなり崩れる時もあれば、全く平気な事もある。ただ、逃げていても先には進めないんだ。たとえ思い込みでも「いける」と思った時に進んでおかないと進めなくなる。たまたま今は進めるって思っただけだ。駄目そうならまた考える。」
「……そうか。」
呟くような小さな声。
その言葉の色に痛みを感じるのは同情だろうか?
お互いの間ではもう、同情はしてはならないのだけれども。
「あんたさ~。」
だが俺は顔だけ振り向いた。
どうして放っておけないのかわからない。
複雑な目で隊長が俺を見つめている。
「殿下に告白するなり、ちゃんと恋人作るなりした方がいいよ。一人で抱えてても苦しいだけだぞ?」
振り向いたという事は、彼に対して何らかの思いがあるのだろう。
でも俺は彼の痛みを分かち合ってはやれない。
彼は彼で先に進むべきなのだ。
痛みと引き換えに、想いをいつまでも抱えられていたって俺には応えられない。
「俺は、今、恋人がいるよ?」
残忍かもしれない。
だがとどめを刺すのも優しさだと知っていた。
彼は、はっとした顔をした後、静かに目を閉じた。
「……そうか。」
「うん。訳あって秘密にしてるけど。」
仕方がないんだ。
これが今の俺達の距離であり、保つべき距離だ。
俺はドアを開けて出ていこうとした。
「……聞いていたのにな。」
隊長が呟いた。
哀愁を含んだその言葉に、何かとても引っかかった。
ん?
んん?
聞いていた??
何を?!
「ちょっと待てっ!!」
俺は凄い勢いで振り向いた。
まさかとは思うが冗談じゃない。
「シルクじゃないからなっ!?勘違いすんなよっ!?」
本気で焦った。
まさか隊長にまで馬鹿な噂が伝わっているとは……。
そんな俺を見て、隊長は無表情なりにきょとんとしていた。
「……違うのか?」
「やめてくれ!あいつとはそんな関係じゃないっ!どこの馬鹿だ!そんなデマ流してるのはっ!!張ったおすっ!!」
マジで待ってくれ。
何でそんな話になってるんだ?!
怒りの形相で怒鳴り散らす俺を見て張っていた糸が切れたのか、隊長は少し笑った。
「そうか、違うのか。」
「違~う!!俺の恋人をあんな無節操なのと一緒にしないでくれ!!信じられんっ!!」
「……ずいぶん、大事な相手なんだな?」
隊長が残念そうに笑った。
俺は少し恥ずかしくなって頭を掻く。
「うん……。大事だよ……。」
「そうか……。」
隊長はそれ以上、何も言わなかった。
俺は何か安心して今度こそ部屋を出ようとした。
だがもう一度振り返る。
「あ、恋人作れって言ったけどさ?シルクはやめとけよ?あいつは縛られるのを嫌う。無節操と言うか、自由奔放と言うか、自由でいたいヤツなんだ。あんたみたいに一人をぎちぎちに束縛したいタイプには向かないぞ?」
「……覚えておこう。」
「シルクは恋人じゃないけど俺の大事な相棒だ。あいつを泣かす奴は、俺、死ぬより痛い目見せてやるつもりだから。」
俺はそう言って、今度こそ本当に部屋を出ていった。
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