「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第四章「独身寮編」

作戦会議

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「シルク~。」

「何です?主?」

何故かリリとムクと一緒になって料理をしているシルクに、俺は声をかけた。

「お前はさ~、今後、どうしたい?」

俺の突然の質問に料理の手を止め、シルクは振り返った。
そりゃそうだ。
ついてこいと言われてついていくのに、どうしたいと聞かれても困るだろう。

「シルク、後はムク達やるよ?」

「シルクはサークとお話しするの、大事なお話し。」

リリとムクが、そうシルクに声をかけた。
もう!うちの子最高!!
いい子過ぎる!!

「ではお願いします。リリちゃんムクちゃん。」

シルクはそう言って、俺の隣に座った。

「……主。」

「なんだ、シルク。」

「天使がいます。」

「わかってくれるか?」

「可愛い過ぎます。」

ちなみにこの会話は、シルクが森の町に来てから毎日やっている。
仕方ない。
リリとムクが可愛いから仕方ない。
俺たちはしばらく、天使達の姿を見守るという幸せな時間を過ごした。

「はっ!そうじゃなかった!!シルク!」

「はい。どうしたいか、ね?」

「聞かれても困るのはわかっているんだけど、一応、聞いとかないとさ。」

「例えばどんなことを言えばいいんです?」

「う~ん。例えば、商売を始めて、将来的には店を構えて生涯を過ごしたいとか。」

「主がやれと言えばやるよ?商売。ただ、生涯をどう過ごしたいと言うのなら、一生、主に仕えて暮らしたい。」

「それはありがたいけどさ、仕えるのと人生設計は違うだろ?」

「例えば?」

「例えば警護部隊に所属して王に仕えていても、家族を持って生活していたり、商売をしていたりする感じかな?」

「俺は主が全てなんだ。仕事としても、生涯としても、全部主に仕えるよ。」

う~ん。
そろそろ、シルクの治療も終わる。
そうしたら、シルクを王国に連れて行く事になる。
こういうのは、はじめが肝心だ。
シルクをどう紹介するかで、今後の動きが変わってくる。

「なら……とりあえず、俺専属の従者って事でいい?」

「うん。」

「そうか~そうなると、俺にシルクを従えるだけの理由がいるって事だな~。」

「理由がないと駄目なのか?」

「そりゃ勝手に仕えるだけなら出来るけど、俺はシルクにやって欲しい事もあるし。だからお互い、ちゃんと俺がシルクの主と言う立場があって、シルクが俺の従者として側にいられる立場でいて欲しいんだ。」

「……………。」

「何で急に黙る?立場とか言われるの嫌いか?」

「好きか嫌いかで言えば嫌い。でも今、黙ったのは、ちょっと嬉しかったからだから気にしないで。」

「嬉しい?」

「主が俺に側にいて欲しいって。」

「あ、まぁ、うん。いや、立場の話な!?」

「そういうことにしとく。」

シルクは上機嫌になって笑った。
こういう時、シルクは下手に美人だからどうしていいのかわからなくなる。
俺はそれを誤魔化すように話を変えた。

「後さ、カイナの民って事は……。」

「言わないで。」

「わかってる。俺もそこは隠したい。今の立場の弱い俺達には危険すぎるからね。ただ、演舞が踊れる事は全面に出したい。シルクの立場を作るのにも必要だし、俺にシルクが教えているって事も、秘密にするつもりはないから。」

「わかった。でもどうするの?」

「ちょっと貰った簡易証明見せて?」

俺はシルクから、あの時作ってもらった簡易証明を見せてもらった。
簡易証明には出身が遊牧民族となっており、その為詳しい出生情報がないとされていた。

「うん。いいね。遊牧民族出身になってる。シルクは遊牧民族で、かつて逃げてきたカイナの民と暮らした事があって、その時に習った事にしよう。」

「うまくいくの?」

「多分ね。この国は砂漠の王国の事あまり知らないし、遊牧民族出身ってだけで、砂漠の王国だって出生の情報は追えないと思うよ。」

「なるほど。」

「だから逆に、遊牧民族出身って情報を強化したい。」

「強化??」

「そう、この情報で王国で身分を作る。まずは入国時に簡易証明から移民として平民の資格をとる。そうすれば遊牧民族出身の正式記録が残る。簡易証明よりも強いものになる。」

「何か詳しいね、そういうの。」

「通ってきた道なんでね。」

俺は苦笑いした。
かつて、この王国に立場を捨てにやって来たあの頃の俺は、今の俺を見てどう思うのだろう?

「まぁ、こんなとこかな?ありがとう。もういいよ。」

「なら、リリちゃん達と料理する。」

「何で急に料理とか始めたんだ?」

「だって、ここではリリちゃんとムクちゃんがやってくれるけど、王国では違うだろ?ずっと側で主に仕えるんだもん。一応、村ではやってたけどさ~。こっちでの料理の作法とか料理とかのレパートリーとか増やしたいじゃん。」

「あ、うん。ありがとう……。」

シルクはニッと笑ってリリ達の方に戻る。
何かシルクはシルクで、色々考えてるんだな。
仕えるとか言われても、友達として一緒にいる感覚だった俺とは違い、シルクは本当に主従として仕えるつもりなのだと実感した。

と、なると?
俺ははたと気がついた。

……まずい、忘れてた。

シルクって、どこに住まわせたらいいんだ!?
俺の家??
無理だ、狭すぎる。
かといって別々の場所とか言ったら、何かキレられそうだ。

「……あ、独身寮は!?」

俺がはじめに別宮に配属された時、敷地内だしと入寮を進められたが研究があるので断った。
一人で独身寮に入れたら怒るだろうが、俺も一緒に入れば怒るまい。

なら早速、連絡しておこう。

他の手紙も書きたかった俺は、それらを書きに部屋に向かった。
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