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第三章「砂漠の国編」

糾合と否糾合

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「!!」

シルクは冷や汗をかいて飛び起きた。
体が震え、今、自分がどこにいるのか判断出来なかった。

浅く荒い息が音のない夜に無駄に響く。
頭を押さえて、混乱をどこかにやろうとした。

手に、何かが触る。

ビクッとしてそれを見やると、サークがくるまって寝ている布の端だった。

「あ……。」

オーナーだ、と、シルクは思った。
急に呼吸が楽になり、シルクは大きく深呼吸をした。

物凄い久しぶりにあの頃の夢を見た。
もう忘れたと思っていたそれを。

シルクは上を向いた。

そうだ、ここはあそこではない。
オーナーと野宿している自由な夜空の下だ。

「オーナー、起きて。」

「シルク?」

「起きて、お願い。」

サークはシルクの顔を見た。
何も言わなかった。

そのままシルクの片手を強く握った。

シルクはサークの目の中に、昔自分の中によく見た揺らぎを見ていた。
そのまま、サークの手を握り横になる。
体温を感じるその距離で、じっと目を閉じる。

言葉がないことが、かえって真意を伝え、そこにある深い情念が感じ取れた。

愛情とか怒りとか悲しみとか苦しみとか、言い表す言葉は、そこには簡単には存在しない。

シルクはサークを見た。
目を開き、上向きに空を睨む空虚さが、自分の代わりにそうさせているのだと思った。

「ありがと、オーナー。」

「気にすんな、バーカ。」







数日、野宿をしてついた町は、中堅都市と言った感じでとても栄えていた。
街道は常に人が行き交い、喧騒に溢れている。

「でかい町だな~。」

「まぁね。」

シルクはため息混じりにそう言った。
いい思い出のないだろうこの町は、シルクにとってあまり心中穏やかとはいかないのだろう。

とりあえず、暫く拠点とできる宿を探さねばならない。
俺の出す条件に見合った宿は、なかなか見つからなかった。

「部屋の中に、鍵つきのドアのある部屋ですか?う~ん、そう言った部屋はうちにはちょっと……。」

「なら、人が入れるくらい大きな鍵つきのクローゼットのある部屋は?」

恥を忍んでそう訪ねる。
瞬間、受付の顔が引きつる。

「ええと……それでしたらございます……。」

受付はなんとも言えない顔で、ちらりとシルクを見た。
俺は内心、頭を抱えて叫びたかった。

違うから!!
そういうのじゃないから!!

シルクの方は何も考えていないのか、頭から蝶を飛ばすくらいぽかんとしていた。

こうして何度目かの羞恥プレイの結果、やっと宿を取ることができた。




「ではこちらに~。」

案内してくれたホテルマンはそそくさと立ち去る。
笑顔ではあるが、その顔からは何が言いたいのかは明白だった。

「良かったね!オーナー!部屋見つかって!!」 

「頼むから黙っててくれ……。」

ホテル従業員の目が痛い……。
俺は多分、妙な注文をつける「そういう客」だと噂されているだろう。

「うわ~!!俺!絶対にヤバい趣味の人だと思われた~っ!!」

案内が済み、部屋に入るなり俺は叫んだ。
ずっと平気な顔をしていたが、耐えられなかった。
違うんだ、そうじゃないんだ……。
頭を抱える俺に、シルクは不思議そうに言った。

「オーナー、元々、ヤバい趣味の人じゃん。何で今更、そんなに気にするの??」

「はぁ!?俺のどこが!?」

「性欲研究者とか、普通、名乗らないよ?」

「研究に勤しんで何が悪い?」

「その辺から既に感覚おかしいから、今更、変態扱いされたくらいで気にすんなよ!オーナー!」

「ええええぇ~!?」

「でも仕方ないじゃん。俺みたいな綺麗な躍り手連れて、人が入れる鍵つきのクローゼットの部屋とか指定したんだから。そりゃその手のプレイが好きなんだと思われるよ。」

「そんなプレイは断じてしない!!」

「せっかく疑われたんだから、一回やってみる!?」

「やらない~っ!!」

俺は頭を抱えた。
一人なら何か安全の為にとか、何か重要な荷物があるとか思われるだけで済んだが、シルクを連れているせいで誤解が生じた。

え!?何!?やっぱり俺、お仕置き監禁プレイが趣味の人だと思われてる!?

そんな趣味無いから!!
むしろシルクは喜んでそれをやりそうで怖いから!!
シルクの性欲!馬並みに凄いから!!

そんな俺をよそに、シルクは部屋の中を探検して無邪気にはしゃいでいる。
そしてベッドにダイブしてゴロゴロしだす。

「わ~!!数日ぶりのベッド~!!しかも高級~!!」

俺の葛藤などどうでも良さげなその様子に、俺ははぁとため息をついた。

考えても無駄だ。
考えるのはやめよう。

物質的に考えよう。
どう思われようと、俺は今、目的に必要な条件を満たした部屋にいる。

人が入れる大きさの鍵つきのクローゼットがある。

俺は立ち上がってクローゼットを調べた。
古いものがだとても頑丈で、中に入ってもびくともしなそうだ。

扉も確認したが、明け閉めも問題ない。
鍵もちゃんとかかるし鍵穴もしっかりしている。

ならばやることは1つ。

「……シルク。」

「ん~?」

ベッドに寝転んでいたシルクは、気のない返事をして俺を見た。
俺は気にせず、クローゼットに臨時出口の魔術をかける。

「俺ちょっと家に帰って、お前にかけられた魔術の事、調べてくる。夕飯までには戻るから、お前も好きにしてていいぞ?」

「へ?帰るって?何!?」

「クローゼットのドアは閉めておけよ?じゃないと帰りに面倒な作業をしないとならなくなるから。」

俺は首にかけておいた鍵を取り出す。
そしてクローゼットの鍵穴に刺して、ガチャリと回した。
クローゼットに半ば入りかけ、シルクに振り返る。

「じゃ、行ってくる。」

「行ってらっしゃい??」

俺は扉を開けて、中に入っていく。

「リリ~ムク~。戻ったよ~いい子にしてたか~!?」

そのままドアを閉めた。




オーナーが変な事を言いながら、クローゼットに入ってしまった。

シルクはそう思った。

多分、からかったから腹いせに冗談でやってるんだと思い、放置することにした。

が、いくらたっても出てこない。

シルクはイラッとして、クローゼットのドアを開けた。

「ちょっとオーナー!何ふざけてんの!?」

勢いよく開けてみたが、中は空だった。

「えっ!?」

何度も開け閉めしてみるが、ただの空のクローゼットだ。
クローゼットのみならず部屋中探したが、サークの姿はどこにもない。

「………どうなってんだ??」

理解できない。
シルクはぽかんとクローゼットを見つめて、長い時間を過ごした。




「ただいま~!!リリとムクが夕飯持たせてくれたから、食べようぜ!!」

日が傾いた頃、クローゼットのドアがバンッと開き、サークが出てきた。
シルクはビックリして、クローゼットを調べる。

「何してんだ?シルク?」

サークはリリとムクが持たせてくれたクッキーを一枚噛りながら、シルクに尋ねた。
中が何の変哲もないクローゼットである事を再度確認し、シルクはわなわなとサークを見つめた。

「な………。」

「な?」

「何なんだっ!?あんたは~っ!!」

思わず発狂する。
魔術師とは聞いていたが、訳のわからない事が目の前で起き、シルクの頭は混乱していた。
しかし当のサークはきょとん顔だ。

「え!?何!?どうした!?シルク!?」

「何!?何なのこれ!?」

「家に帰ってくるって言ったじゃん!?」

「はぁ!?魔術師って皆こうなの!?」

「いや、できる人は限られてるよ?」

襟首を掴んでガタガタいわせても、サークは何をシルクが発狂しているのかわかっていないようだった。
その顔を見て、シルクはすんっと冷めて、溜息をつく。

「………あのさ、改めて聞くけど、オーナーって何者なの!?」

「ただの元魔術兵。」

「絶対!!違うだろ~っ!!」

「いいから飯にしようぜ。せっかく作ってくれたのに、冷めちゃうから。」

「誰か俺が納得のいく説明してよ~!!」

シルクの混乱を意に介さず、マイペースなサーク。
そんな意気揚々と食事の準備を始めるサークとは裏腹に、シルクは混乱のあまり叫んでいた。
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