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第三章「砂漠の国編」
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夜になり、軽く食事をとった俺達はステージ横の目立たない席に待機していた。
踊り子が立つと聞いてか、店内は軍人ばかりが犇めいている。
俺はそんな様子を観察しながら、ある男に注目していた。
壁側の椅子に1人座る、初老の男。
他の者達がワイワイ騒ぐ中、1人静かに酒を舐めている。
恐らく、ここの軍の班長か何かだろう。
他の軍人達も、彼には敬意を払っていた。
若いのが羽目を外しすぎないよう、そこにいるという感じだった。
「……なぁ、シルク。」
「何?オーナー?」
「お前、今夜の相手は誰でも良いのか?」
「どういう事?」
「思いっきり見るなよ?怪しまれるから。奥の壁に、渋目の男がいるだろ?」
シルクはあまり気にしないと言った風に、そちらを確認する。
「いるね。」
「彼はどうだ?」
それを聞いたシルクは、少し悪そうな笑みを浮かべた。
「ふ~ん。オーナーって、そう言うことも出来るんだ?意外。」
俺が言わんとしている事が解ってか、シルクはにんまりと俺を見た。
正直、良心が痛まないわけではない。
「嫌ならいいんだぞ?」
俺が顔をしかめて言うと、シルクはけらけら笑った。
「あの人、上手いよ?」
「は?」
「オーナーが言わなくても、俺、あの人狙ったと思う。ああいう寡黙な人って、簡単には抱かないけど、いざとなると凄い上手いんだ。見るからに凄く美味しそう…。」
「美味しそうって……。」
悪い笑みを浮かべたシルクは、はっきり言って少し怖かった。
何がデジャビュを感じた理由に思い当たる。
リグだ。
リグのヤバい顔とそっくりなんだ。
考えてみれば、シルクは少しリグに似ている。
無節操な感じなんかはかなりそっくりだ。
ただ、リグはタチの気が強かったが、シルクはネコの気が強い感じだろう。
「で?オーナーは何を聞き出したいの?」
「聞き出す……と言うか、情報が欲しいと思って。これから欠片探しをするにしても、俺はこの国の現状がわからない。」
「なるほど。」
「無理に何か聞き出そうとしなくていい。明日はいなくなる人間になら、こぼす愚痴もあるだろうって感じだ。」
「了解。」
「……本当に良いのか?」
「オーナーが気にする事ないよ。むしろ金星を見つけて教えてくれてありがとうって感じ~。は~!オーナーはいくら誘ってもしてくれないし!薬で押さえてるとはいえ発情期だし!ここのところ誰とも寝てないし!!……本当の事言うと、ちょっと真面目にヤバかったんだよね~。今日、オーナーと同じ部屋に寝るとか、絶対、我慢出来なくて襲うって思ってた~。」
その言葉に、俺は固まった。
シルクはなんて事ないと言いたげににこにこ笑っている。
「……よもや自分の身にそんな危険が迫っていたとは……気づかなかった……。」
「だから今日は邪魔しないでよ!じゃないと襲うからね!!」
鼻息荒くシルクはそう言った。
シルクさん……爛々とした目が怖いです……。
俺は少しだけ、シルクの性欲にビビっていた。
楽器の演奏者が到着し準備を始めたところで、俺はシルクに首輪を着けた。
「何か変な感じ~。」
当たり前だか、首輪を着け慣れていないシルクはしきりに首を気にしていた。
「ま!頑張れよ!」
「任せて!絶対、金星を落とすから!!」
「シルクさん、目がマジすぎて怖いです……。」
まさに肉食って顔してる……。
本気で怖い……。
それからシルクはステージに立った。
音楽に合わせて、シルクの指が流れるように動く。
シルクが踊り出すと、辺りは段々静まり返ってくる。
誰も言葉が出ずに、シルクを見つめている。
そしてそんな中、シルクがワイシャツのボタンを外し始めると、徐々に黄色い歓声が上がり始めた。
躍りと音楽と歓声に合わせて、シルクは勢いをつけてワイシャツを脱ぐ。
ベスト一枚になり、肌か露となったことで、歓声とどよめきが起きた。
もう、フィーバー状態だ。
だが、シルクの動きは少しおかしい。
躍りのせいだけではなく、息が上がりはじめて、火照りが見てとれる。
少し潜められた眉と、熱い息を吐き出す口元。
恥じらうように、時より動きが鈍る。
盛り上がりながらも、店内のあちこちから深い吐息が漏れはじめる。
赤らんだ目元は、本人の意思とは関係なく、蠱惑的だ。
熱いとばかりにシルクはベストのボタンに手をかけた。
囃し立てる歓声が、絶叫に変わり、絶好調を迎える。
そしてシルクは、かなり色っぽい仕草でベストを脱いでしまった。
店内は熱狂に包まれた。
俺は自分のプロデュースに満足した。
そして最終防衛ライン、いい仕事をした。
これがなかったら、下手をしたらステージに乱入されていたのではないかという熱気で踊りは終わった。
俺はすぐ様ガウンを持って、急いでシルクの元に駆け付ける。
俺より一歩遅れて軍人達もシルクに詰め寄ってきたが近寄らせなかった。
「はい!すみませ~ん!!踊り子には手を出さないで下さ~い!!」
俺はそう言って彼らを押し退け、ひとまずシルクを座らせる。
水と抑制剤を渡しながら、首輪を外す。
シルクは無言のままそれを受け取り、潤んだ目でキッと俺を睨んだ。
とにかく、軍人達の熱気と圧が凄い。
このままだと、抑えが聞かなくなりそうだ。
俺は急いで脱いだ服を拾うと、彼らを押し退けて、宿にシルクを連れていく事にした。
去り際、ガウンを被ったシルクは、ちらりと視線をやった。
その先には、例の男がいた。
「こんばんは、ここの夜は危ないですよ。」
シルクが夜ふけにこっそりと宿の外に出ると、建物の影からそう声をかけられた。
「……そんな風には見えないけど?」
シルクは笑って、その声に振り向いた。
釣れた魚にとても誇らしい気分になった。
そんなシルクにその者は言う。
「物陰からあなたを狙うものがいますから。」
「そんな物好き、あなたくらいですよ。」
「あなたは、ご自分の魅力がまだおわかりではないんですね?」
そう言うと男は、俊敏な動きでシルクを捕らえ、物陰に引きずり込んだ。
闇の中、すれすれの間近でお互いの目を覗き込む。
「……思ったより、強引なんですね?」
「欲しいと思ったものは、逃がさないと決めていますから。……強引な男は嫌いですか?」
「場合によります。」
「では、今夜は?」
「……嫌ではない、とだけ。」
クスリと笑ったシルクを、男はじっと見つめた。
そしてそっと手を取り、指先に口付ける。
「この歳になって、よもや自分にまだこのような欲があった事に驚いています。あなたはそれほど美しかった。」
「ありがとうございます。」
「どうか今宵、私の為にだけ踊って欲しい……。」
「……オーナーに怒られてしまいます。」
「ならば、拐っても?」
「……強引ですね。」
男とシルクはしばらくただ見つめあった。
シルクが折れたようにため息をつく
「誰にも……オーナーにも、あなたの部下にも見つからない場所はありますか?」
「……ご案内致します。」
そう言って二人は、夜の中に消えていった。
踊り子が立つと聞いてか、店内は軍人ばかりが犇めいている。
俺はそんな様子を観察しながら、ある男に注目していた。
壁側の椅子に1人座る、初老の男。
他の者達がワイワイ騒ぐ中、1人静かに酒を舐めている。
恐らく、ここの軍の班長か何かだろう。
他の軍人達も、彼には敬意を払っていた。
若いのが羽目を外しすぎないよう、そこにいるという感じだった。
「……なぁ、シルク。」
「何?オーナー?」
「お前、今夜の相手は誰でも良いのか?」
「どういう事?」
「思いっきり見るなよ?怪しまれるから。奥の壁に、渋目の男がいるだろ?」
シルクはあまり気にしないと言った風に、そちらを確認する。
「いるね。」
「彼はどうだ?」
それを聞いたシルクは、少し悪そうな笑みを浮かべた。
「ふ~ん。オーナーって、そう言うことも出来るんだ?意外。」
俺が言わんとしている事が解ってか、シルクはにんまりと俺を見た。
正直、良心が痛まないわけではない。
「嫌ならいいんだぞ?」
俺が顔をしかめて言うと、シルクはけらけら笑った。
「あの人、上手いよ?」
「は?」
「オーナーが言わなくても、俺、あの人狙ったと思う。ああいう寡黙な人って、簡単には抱かないけど、いざとなると凄い上手いんだ。見るからに凄く美味しそう…。」
「美味しそうって……。」
悪い笑みを浮かべたシルクは、はっきり言って少し怖かった。
何がデジャビュを感じた理由に思い当たる。
リグだ。
リグのヤバい顔とそっくりなんだ。
考えてみれば、シルクは少しリグに似ている。
無節操な感じなんかはかなりそっくりだ。
ただ、リグはタチの気が強かったが、シルクはネコの気が強い感じだろう。
「で?オーナーは何を聞き出したいの?」
「聞き出す……と言うか、情報が欲しいと思って。これから欠片探しをするにしても、俺はこの国の現状がわからない。」
「なるほど。」
「無理に何か聞き出そうとしなくていい。明日はいなくなる人間になら、こぼす愚痴もあるだろうって感じだ。」
「了解。」
「……本当に良いのか?」
「オーナーが気にする事ないよ。むしろ金星を見つけて教えてくれてありがとうって感じ~。は~!オーナーはいくら誘ってもしてくれないし!薬で押さえてるとはいえ発情期だし!ここのところ誰とも寝てないし!!……本当の事言うと、ちょっと真面目にヤバかったんだよね~。今日、オーナーと同じ部屋に寝るとか、絶対、我慢出来なくて襲うって思ってた~。」
その言葉に、俺は固まった。
シルクはなんて事ないと言いたげににこにこ笑っている。
「……よもや自分の身にそんな危険が迫っていたとは……気づかなかった……。」
「だから今日は邪魔しないでよ!じゃないと襲うからね!!」
鼻息荒くシルクはそう言った。
シルクさん……爛々とした目が怖いです……。
俺は少しだけ、シルクの性欲にビビっていた。
楽器の演奏者が到着し準備を始めたところで、俺はシルクに首輪を着けた。
「何か変な感じ~。」
当たり前だか、首輪を着け慣れていないシルクはしきりに首を気にしていた。
「ま!頑張れよ!」
「任せて!絶対、金星を落とすから!!」
「シルクさん、目がマジすぎて怖いです……。」
まさに肉食って顔してる……。
本気で怖い……。
それからシルクはステージに立った。
音楽に合わせて、シルクの指が流れるように動く。
シルクが踊り出すと、辺りは段々静まり返ってくる。
誰も言葉が出ずに、シルクを見つめている。
そしてそんな中、シルクがワイシャツのボタンを外し始めると、徐々に黄色い歓声が上がり始めた。
躍りと音楽と歓声に合わせて、シルクは勢いをつけてワイシャツを脱ぐ。
ベスト一枚になり、肌か露となったことで、歓声とどよめきが起きた。
もう、フィーバー状態だ。
だが、シルクの動きは少しおかしい。
躍りのせいだけではなく、息が上がりはじめて、火照りが見てとれる。
少し潜められた眉と、熱い息を吐き出す口元。
恥じらうように、時より動きが鈍る。
盛り上がりながらも、店内のあちこちから深い吐息が漏れはじめる。
赤らんだ目元は、本人の意思とは関係なく、蠱惑的だ。
熱いとばかりにシルクはベストのボタンに手をかけた。
囃し立てる歓声が、絶叫に変わり、絶好調を迎える。
そしてシルクは、かなり色っぽい仕草でベストを脱いでしまった。
店内は熱狂に包まれた。
俺は自分のプロデュースに満足した。
そして最終防衛ライン、いい仕事をした。
これがなかったら、下手をしたらステージに乱入されていたのではないかという熱気で踊りは終わった。
俺はすぐ様ガウンを持って、急いでシルクの元に駆け付ける。
俺より一歩遅れて軍人達もシルクに詰め寄ってきたが近寄らせなかった。
「はい!すみませ~ん!!踊り子には手を出さないで下さ~い!!」
俺はそう言って彼らを押し退け、ひとまずシルクを座らせる。
水と抑制剤を渡しながら、首輪を外す。
シルクは無言のままそれを受け取り、潤んだ目でキッと俺を睨んだ。
とにかく、軍人達の熱気と圧が凄い。
このままだと、抑えが聞かなくなりそうだ。
俺は急いで脱いだ服を拾うと、彼らを押し退けて、宿にシルクを連れていく事にした。
去り際、ガウンを被ったシルクは、ちらりと視線をやった。
その先には、例の男がいた。
「こんばんは、ここの夜は危ないですよ。」
シルクが夜ふけにこっそりと宿の外に出ると、建物の影からそう声をかけられた。
「……そんな風には見えないけど?」
シルクは笑って、その声に振り向いた。
釣れた魚にとても誇らしい気分になった。
そんなシルクにその者は言う。
「物陰からあなたを狙うものがいますから。」
「そんな物好き、あなたくらいですよ。」
「あなたは、ご自分の魅力がまだおわかりではないんですね?」
そう言うと男は、俊敏な動きでシルクを捕らえ、物陰に引きずり込んだ。
闇の中、すれすれの間近でお互いの目を覗き込む。
「……思ったより、強引なんですね?」
「欲しいと思ったものは、逃がさないと決めていますから。……強引な男は嫌いですか?」
「場合によります。」
「では、今夜は?」
「……嫌ではない、とだけ。」
クスリと笑ったシルクを、男はじっと見つめた。
そしてそっと手を取り、指先に口付ける。
「この歳になって、よもや自分にまだこのような欲があった事に驚いています。あなたはそれほど美しかった。」
「ありがとうございます。」
「どうか今宵、私の為にだけ踊って欲しい……。」
「……オーナーに怒られてしまいます。」
「ならば、拐っても?」
「……強引ですね。」
男とシルクはしばらくただ見つめあった。
シルクが折れたようにため息をつく
「誰にも……オーナーにも、あなたの部下にも見つからない場所はありますか?」
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