14 / 57
第三章「砂漠の国編」
セノーテ
しおりを挟む
シルクは遺跡ならぬ村の跡をどんどん進んで行った。
やがて瓦礫もなくなり、大きな岩の崖に指し当たった。
シルクはそこを崖伝いに歩き始める。
そして暫く進んで、下の方に空いた穴に潜り込んで行った。
腹這いになってやっと通れるような穴だ。
……来いって言われたんだから、俺も行くしかないんだろうな?
特に何も言われてないが、これはついてこいということだろう。
俺は少し躊躇してから覚悟を決め、中に入った。
暫く匍匐前進で進むと段々広くなってきて、やがて立っても天井が高い空間に出た。
「!!」
俺は言葉に詰まった。
見ているものが信じられなかった。
神秘的な光景。
(セノーテだ……。)
その空間の2/3程は、大きな湖になっていた。
天井の何ヵ所かには、亀裂があり、外の光が入り込み、水面を静かに輝かせる。
厳かな雰囲気のそこは、天然の神殿の様だった。
シルクは池の前に何も言わずに立っている。
その幻想的な光景を、ただじっと見つめていた。
けれど振り返って俺が来たことを確認すると、いきなり服を脱ぎだした。
下着1枚になると、ドブンと池の中に入った行ってしまう。
「……え?」
俺はびっくりしてしまう。
けれどシルクは、肩まで水に浸かって何かを祈っている。
そしてドブンと水に潜っていく。
池の水は光の加減か、蒼白い光を漂わせているように見える。
パシャンとシルクが顔を出す。
そしてまた祈り、水の中に消える。
俺はシルクがそれを繰り返すのを黙って見ていた。
ふと、壁に何か書いてある事に気づく。
暗がりに目が慣れててきたから見えてきたのだろう。
とはいえ読むには流石に暗すぎて、俺は公式から魔法陣を展開し、淡い光を灯した。
「?!これって……っ!!」
壁の文字には、見覚えがあった。
それは俺がこの西の砂漠に来た理由。
探していたものの、大きな手ががりとなるもの。
全てを読むことは出来ないが、読める部分だけ見ても間違いはなかった。
だとすると、あの遺跡のような場所は……。
ザバッと言う音がした。
振り替えると、シルクが池から上がってきたところだった。
「……え?!シルク!?」
俺は思わず声を上げた。
水から上がってきたシルク。
その全身には、蒼白く淡い光が入れ墨のように走っていた。
「見て、オーナー……。これが俺の秘密だよ?」
シルクは濡れた髪をかき上げ、笑った。
俺は言葉が出なかった。
シルクの体の光は明らかに壁の文字と同じ。
それは俺が探していたものを指していた。
「……シルク、お前……。カイナの民なのか……?」
「やっぱり知ってるんだ。カイナを……。」
「俺がこの地に来た理由はそれだ。」
「演舞を探してる?」
「ああ、そうだ。シルク、お前……。」
「うん、継承してるよ。これはその証。」
シルクはそう言って、笑った。
そして懐かしげに自分の纏っている光を見つめた。
「ここの水で身を清めて祈らないと出てこないんだ、この刺青。オーナーは運がいいね、継承をちゃんと証拠まで見れる人はそうそういないよ。」
シルクの光る刺青は、ゆっくりと輝きを失っていく。
俺は全身の力が抜け、クタッとその場に座り込む。
そして、はぁ……と大きなため息をついた。
「なんだよ、も~!!……マジか!?」
「ふふっ。驚いた?」
「驚くどころか、腰が抜けたわ~!!」
あ~と変な声を上げる俺を、シルクが服を着ながら笑って見ている。
そう。
俺が探していたのは、かつて西の国に存在していた幻の武術、演舞だった。
その継承者達の村はある時、その時代の王に滅ぼされたとなっていた。
そしてその武術は途絶えたと。
だが、生き残りや口伝等が残ってるんじゃないかと思って探しに来たのだ。
滅ぼされるというのは、歴史の記録から抹消されるという事。
だから、手がかりすらあやふやだった。
ただあっただろう場所は、遊牧民たちのいる砂漠地帯の近くだと言うことは予測出来ていた。
だからその近くまで来て調べれば何かわかると思って、俺は砂漠の国の中、観光地でもないここに来たのだ。
まぁ、来たら来たらで、行き倒れは拾うわ、踊り子をプロデュースするわ、金持ちに追われるわ、全然、演舞の痕跡探しはできていなかったのだけれども……。
「……なぁシルク、青い鳥って話、知ってるか?」
「変な話だったのは覚えてるけど??」
「……ある兄妹が、幸せの青い鳥を探して方々を旅するんだ。でも結構、その青い鳥は家で飼っていたカナリアだがだったって話だよ。」
「そんなんだったね?て??」
「いや……。幸せや幸運は……、気づかないだけで、いつだってそばにあるんだなぁと思って……。」
着替え終わったシルクは俺の隣に座る。
そしてニカッと笑った。
「なら、俺がオーナーの青い鳥なんだね。」
「……そう言うことだな~。」
そう言われてしまえばそれまでだ。
まさか探していたものを、すでに拾っていたとは思わなかった。
えへへと得意げに笑うシルクに、俺は苦笑いを返す。
「俺、オーナーに会えて良かったよ。」
「それは俺のセリフだろ?」
「……だって、俺も青い鳥に会えたから……。」
そう言ってニコッと微笑まれる。
俺はウッと言葉に詰まった。
いや……わかってたけど、シルクって美人だ。
健康状態が良くなってきて、体の肉付きも良くなってきたから、それがだんだんはっきりしてきた。
こんな神秘的な光に満ちた空間で、まだ髪から水滴を垂らしながら微笑まれると、ちょっとドギマギする……。
シルクの方は、言ってから恥ずかしくなったのか、プイッと顔を背けた。
変な無言が続いた。
落ち着かなくて顔を見合わせると、お互い吹き出してしまった。
「あはは!なんか変なの~。」
「だな。」
「……本当はさ~、オーナーが俺に演舞の事聞いたとき、焦ったんだ。この人は危険かも知れないって。」
「まぁ、カイナの歴史を考えれば、当然の反応じゃないか?」
演舞継承者達含むカイナの民は、元々反王族的な立場で、それで隠れて暮らしていた。
だがその力を恐れた当時の王に場所が暴かれ、滅ぼされてしまった。
それはそんなに昔の事じゃない。
だから政治的な圧力のあまりかからない魔術本部の図書館には、情報が残っていたのだ。
そして生き残って捕まった彼らの末路も、多少なりとわかっていた。
生き残りの多くの者は、奴隷兵士として争いに使われたり、見世物の殺人ショーに使われたらしい。
また、捕まらずに逃げ延びた者はもごく僅かにいたようだか、追手との攻防で散り散りとなり、今やいたとしてもどこに存在するのかすらわからない。
だからまさか、その生き残りに会えるなんて思わなかった。
しかもそれが継承者だなんて、思いもしなかった。
あの時、俺があそこを通らなければ、シルクがあそこで行き倒れていなければ、俺達は出会わなかった。
そう思うととても不思議な気がした。
「……なぁシルク?」
「何?」
「……俺に、演舞を教えてくれないか?」
俺がそう言うと、シルクは複雑な表情をした。
そして俯いてしまった。
「……ごめん、出来ない。」
「う~ん。やっぱ、一族でないと駄目か~。」
「違う。違うんだ、オーナー……。」
断られるのは予想していた。
こういう武術って、その一族とかその村のものとかでないと教えない決まりとかあるから。
でも、シルクの顔を見ると、どうもそう言う事ではないらしい。
「……どういう事だ?」
「うん……。」
シルクはそこまで来て、言い淀んだ。
凄く難しい顔をしている。
そして困ったように俺を見つめた。
「あのね?俺、オーナーに教えるだけの力がないんだ……。」
そう言ってシルクは胸の辺りをぎゅっと掴む。
俺はそれを見て、シルクをはじめて見つけた時の事を思い出した。
「……それって、欠けてるからか?」
「え?!」
「いや、お前が行き倒れてた時、死んでるのかと思って魔力で体を調べたんだ。その時、なんて言うんだろう?魂?いやコア?核と言うのかな?それが欠けてたんだよ。お前。」
「……………。」
「そんなのはじめて見たし、はじめはただ黒い部分があるのかと思ったんだ。けど違うんだよ。穴が空いてんの。ぽっかり。ないんだよ、あるはずのものがそこに。何で欠けてるんだろうって思ったけど、その後のお前を見てる限り、別に生活に支障がなかったみたいだからあんまり気にしてなかったんだけど、そのせいなのか?」
シルクは俺の話を聞いて俯いた。
そして困ったように、くしゃりと自分の髪を掴んだ。
「何でもお見通しなんだな~。オーナーは。」
「いや、偶然、見たから知ってただけで……。それで、何で欠けてるんだ?」
「奪われた。」
「は!?奪われた?!魂みたいなものだぞ!?どうやって!?」
「よくわかんない。多分、魔術だと思う。」
「……そんな魔術、あったかな??」
俺はシルクに言われ、色々な魔術について考えてみた。
西の国は魔法や魔術も少し独自の使い方をするから、何か独自の応用方法なのかもしれない。
その辺は俺ではすぐにはわからない。
森の街に帰って調べてみるしかないだろう。
「それを取られたから、俺……弱くなった……。だから……抵抗できなかった……。」
「シルク……。」
「それを取られたから……、今、オーナーに教える事も出来ない……。」
シルクは淋しそうに笑った。
その言葉で、シルクは捕虜になった方のカイナの民なのだと知った。
そして捕らえられたシルクがどうなったか、俺にはわかってしまった。
「……ごめん。」
「何でオーナーが謝るの?」
「触れたらいけない部分だったと思って。」
「昔の事だよ……。」
そう言って、遠くを見つめるシルク。
そんなシルクの表情に、俺の傷が共鳴してズキンと音をたてた。
シルクの目の奥にあった揺らぎは、俺がたまに鏡で見るものと同じだった。
ああ、痛いよな。
俺よりずっと、痛いよな。
俺とは違って、どんなに時間がたったって痛いよな……。
俺は何も言えなくなって俯いた。
それを静かにシルクは見ていた。
「そっか……、オーナーにも痛い場所があるんだ……。」
俺たちは互いに、それ以上その事は話さなかった。
やがて瓦礫もなくなり、大きな岩の崖に指し当たった。
シルクはそこを崖伝いに歩き始める。
そして暫く進んで、下の方に空いた穴に潜り込んで行った。
腹這いになってやっと通れるような穴だ。
……来いって言われたんだから、俺も行くしかないんだろうな?
特に何も言われてないが、これはついてこいということだろう。
俺は少し躊躇してから覚悟を決め、中に入った。
暫く匍匐前進で進むと段々広くなってきて、やがて立っても天井が高い空間に出た。
「!!」
俺は言葉に詰まった。
見ているものが信じられなかった。
神秘的な光景。
(セノーテだ……。)
その空間の2/3程は、大きな湖になっていた。
天井の何ヵ所かには、亀裂があり、外の光が入り込み、水面を静かに輝かせる。
厳かな雰囲気のそこは、天然の神殿の様だった。
シルクは池の前に何も言わずに立っている。
その幻想的な光景を、ただじっと見つめていた。
けれど振り返って俺が来たことを確認すると、いきなり服を脱ぎだした。
下着1枚になると、ドブンと池の中に入った行ってしまう。
「……え?」
俺はびっくりしてしまう。
けれどシルクは、肩まで水に浸かって何かを祈っている。
そしてドブンと水に潜っていく。
池の水は光の加減か、蒼白い光を漂わせているように見える。
パシャンとシルクが顔を出す。
そしてまた祈り、水の中に消える。
俺はシルクがそれを繰り返すのを黙って見ていた。
ふと、壁に何か書いてある事に気づく。
暗がりに目が慣れててきたから見えてきたのだろう。
とはいえ読むには流石に暗すぎて、俺は公式から魔法陣を展開し、淡い光を灯した。
「?!これって……っ!!」
壁の文字には、見覚えがあった。
それは俺がこの西の砂漠に来た理由。
探していたものの、大きな手ががりとなるもの。
全てを読むことは出来ないが、読める部分だけ見ても間違いはなかった。
だとすると、あの遺跡のような場所は……。
ザバッと言う音がした。
振り替えると、シルクが池から上がってきたところだった。
「……え?!シルク!?」
俺は思わず声を上げた。
水から上がってきたシルク。
その全身には、蒼白く淡い光が入れ墨のように走っていた。
「見て、オーナー……。これが俺の秘密だよ?」
シルクは濡れた髪をかき上げ、笑った。
俺は言葉が出なかった。
シルクの体の光は明らかに壁の文字と同じ。
それは俺が探していたものを指していた。
「……シルク、お前……。カイナの民なのか……?」
「やっぱり知ってるんだ。カイナを……。」
「俺がこの地に来た理由はそれだ。」
「演舞を探してる?」
「ああ、そうだ。シルク、お前……。」
「うん、継承してるよ。これはその証。」
シルクはそう言って、笑った。
そして懐かしげに自分の纏っている光を見つめた。
「ここの水で身を清めて祈らないと出てこないんだ、この刺青。オーナーは運がいいね、継承をちゃんと証拠まで見れる人はそうそういないよ。」
シルクの光る刺青は、ゆっくりと輝きを失っていく。
俺は全身の力が抜け、クタッとその場に座り込む。
そして、はぁ……と大きなため息をついた。
「なんだよ、も~!!……マジか!?」
「ふふっ。驚いた?」
「驚くどころか、腰が抜けたわ~!!」
あ~と変な声を上げる俺を、シルクが服を着ながら笑って見ている。
そう。
俺が探していたのは、かつて西の国に存在していた幻の武術、演舞だった。
その継承者達の村はある時、その時代の王に滅ぼされたとなっていた。
そしてその武術は途絶えたと。
だが、生き残りや口伝等が残ってるんじゃないかと思って探しに来たのだ。
滅ぼされるというのは、歴史の記録から抹消されるという事。
だから、手がかりすらあやふやだった。
ただあっただろう場所は、遊牧民たちのいる砂漠地帯の近くだと言うことは予測出来ていた。
だからその近くまで来て調べれば何かわかると思って、俺は砂漠の国の中、観光地でもないここに来たのだ。
まぁ、来たら来たらで、行き倒れは拾うわ、踊り子をプロデュースするわ、金持ちに追われるわ、全然、演舞の痕跡探しはできていなかったのだけれども……。
「……なぁシルク、青い鳥って話、知ってるか?」
「変な話だったのは覚えてるけど??」
「……ある兄妹が、幸せの青い鳥を探して方々を旅するんだ。でも結構、その青い鳥は家で飼っていたカナリアだがだったって話だよ。」
「そんなんだったね?て??」
「いや……。幸せや幸運は……、気づかないだけで、いつだってそばにあるんだなぁと思って……。」
着替え終わったシルクは俺の隣に座る。
そしてニカッと笑った。
「なら、俺がオーナーの青い鳥なんだね。」
「……そう言うことだな~。」
そう言われてしまえばそれまでだ。
まさか探していたものを、すでに拾っていたとは思わなかった。
えへへと得意げに笑うシルクに、俺は苦笑いを返す。
「俺、オーナーに会えて良かったよ。」
「それは俺のセリフだろ?」
「……だって、俺も青い鳥に会えたから……。」
そう言ってニコッと微笑まれる。
俺はウッと言葉に詰まった。
いや……わかってたけど、シルクって美人だ。
健康状態が良くなってきて、体の肉付きも良くなってきたから、それがだんだんはっきりしてきた。
こんな神秘的な光に満ちた空間で、まだ髪から水滴を垂らしながら微笑まれると、ちょっとドギマギする……。
シルクの方は、言ってから恥ずかしくなったのか、プイッと顔を背けた。
変な無言が続いた。
落ち着かなくて顔を見合わせると、お互い吹き出してしまった。
「あはは!なんか変なの~。」
「だな。」
「……本当はさ~、オーナーが俺に演舞の事聞いたとき、焦ったんだ。この人は危険かも知れないって。」
「まぁ、カイナの歴史を考えれば、当然の反応じゃないか?」
演舞継承者達含むカイナの民は、元々反王族的な立場で、それで隠れて暮らしていた。
だがその力を恐れた当時の王に場所が暴かれ、滅ぼされてしまった。
それはそんなに昔の事じゃない。
だから政治的な圧力のあまりかからない魔術本部の図書館には、情報が残っていたのだ。
そして生き残って捕まった彼らの末路も、多少なりとわかっていた。
生き残りの多くの者は、奴隷兵士として争いに使われたり、見世物の殺人ショーに使われたらしい。
また、捕まらずに逃げ延びた者はもごく僅かにいたようだか、追手との攻防で散り散りとなり、今やいたとしてもどこに存在するのかすらわからない。
だからまさか、その生き残りに会えるなんて思わなかった。
しかもそれが継承者だなんて、思いもしなかった。
あの時、俺があそこを通らなければ、シルクがあそこで行き倒れていなければ、俺達は出会わなかった。
そう思うととても不思議な気がした。
「……なぁシルク?」
「何?」
「……俺に、演舞を教えてくれないか?」
俺がそう言うと、シルクは複雑な表情をした。
そして俯いてしまった。
「……ごめん、出来ない。」
「う~ん。やっぱ、一族でないと駄目か~。」
「違う。違うんだ、オーナー……。」
断られるのは予想していた。
こういう武術って、その一族とかその村のものとかでないと教えない決まりとかあるから。
でも、シルクの顔を見ると、どうもそう言う事ではないらしい。
「……どういう事だ?」
「うん……。」
シルクはそこまで来て、言い淀んだ。
凄く難しい顔をしている。
そして困ったように俺を見つめた。
「あのね?俺、オーナーに教えるだけの力がないんだ……。」
そう言ってシルクは胸の辺りをぎゅっと掴む。
俺はそれを見て、シルクをはじめて見つけた時の事を思い出した。
「……それって、欠けてるからか?」
「え?!」
「いや、お前が行き倒れてた時、死んでるのかと思って魔力で体を調べたんだ。その時、なんて言うんだろう?魂?いやコア?核と言うのかな?それが欠けてたんだよ。お前。」
「……………。」
「そんなのはじめて見たし、はじめはただ黒い部分があるのかと思ったんだ。けど違うんだよ。穴が空いてんの。ぽっかり。ないんだよ、あるはずのものがそこに。何で欠けてるんだろうって思ったけど、その後のお前を見てる限り、別に生活に支障がなかったみたいだからあんまり気にしてなかったんだけど、そのせいなのか?」
シルクは俺の話を聞いて俯いた。
そして困ったように、くしゃりと自分の髪を掴んだ。
「何でもお見通しなんだな~。オーナーは。」
「いや、偶然、見たから知ってただけで……。それで、何で欠けてるんだ?」
「奪われた。」
「は!?奪われた?!魂みたいなものだぞ!?どうやって!?」
「よくわかんない。多分、魔術だと思う。」
「……そんな魔術、あったかな??」
俺はシルクに言われ、色々な魔術について考えてみた。
西の国は魔法や魔術も少し独自の使い方をするから、何か独自の応用方法なのかもしれない。
その辺は俺ではすぐにはわからない。
森の街に帰って調べてみるしかないだろう。
「それを取られたから、俺……弱くなった……。だから……抵抗できなかった……。」
「シルク……。」
「それを取られたから……、今、オーナーに教える事も出来ない……。」
シルクは淋しそうに笑った。
その言葉で、シルクは捕虜になった方のカイナの民なのだと知った。
そして捕らえられたシルクがどうなったか、俺にはわかってしまった。
「……ごめん。」
「何でオーナーが謝るの?」
「触れたらいけない部分だったと思って。」
「昔の事だよ……。」
そう言って、遠くを見つめるシルク。
そんなシルクの表情に、俺の傷が共鳴してズキンと音をたてた。
シルクの目の奥にあった揺らぎは、俺がたまに鏡で見るものと同じだった。
ああ、痛いよな。
俺よりずっと、痛いよな。
俺とは違って、どんなに時間がたったって痛いよな……。
俺は何も言えなくなって俯いた。
それを静かにシルクは見ていた。
「そっか……、オーナーにも痛い場所があるんだ……。」
俺たちは互いに、それ以上その事は話さなかった。
40
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる