「欠片の軌跡」②〜砂漠の踊り子

ねぎ(塩ダレ)

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第三章「砂漠の国編」

砂漠の踊り子

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がつがつ食うな~。
もっと落ち着いて食えばいいのに……。

俺は目の前で落ち着きなく食べ物を口に押し込む男に呆れていた。

まぁいいや。
ここまでの付き合いだ。

気にするのはやめて自分も食事に専念する。
俺は薄く焼いた小麦粉のシートに、たっぷりと肉と青パパイヤの千切りを巻いて頬張った。

……旨いな、これ。
今度、ウィルにお土産で持って帰ろう。

俺がモゴモゴしていると、ようやく落ち着いてきたのか男がちらりと俺を見た。
面倒になる前に話をつけよう。

「俺の事は気にしなくていい。それから食事代も気にしなくていい。食い終わったなら、どこへでも好きな所に行ってくれ。俺が面倒見てやるのはそこまでだ。これ以上関わる気はない。」

俺はそう言いまた食事を再開した。
そいつはがぶりと肉を食いちぎると、咀嚼して飲み込んだ。
酒を飲むみたいにコップの水を一気に煽り、言った。

「俺にタダ飯食わして、終わり?」

「終わり。」

「何か企んでんのか?」

「関わりたくないって言ってんだろ?お前、面倒な匂いがする。」

「何々?俺の匂いに興奮した!?」

「しない。」

「またまた!いいぜ、飯のお礼に好きにしてくれて!」

「だから……食い終わったなら、頼むからどっか行ってくれ。」

はぁ、だから嫌なんだよ。
面倒くさいな。

「え?いいじゃん、ずっぽり。」

そいつは笑顔で手で和を作り、そこに指を突っ込んで見せた。
露骨だな?!おい。
こういうのは絡まれたら本当に面倒なんだよ。
次見かけたら、友達同然に声かけてきてタカられる。
だからここでスパッとはっきりさせた方がいい。

「すいませ~ん!この肉巻いて食べるやつ!美味しいね!もう1つ下さ~い!!」

「無視すんなよっ!!」

俺はもう相手にせずモグモグと食べ始めた。
皿を運んできてくれたおじさんが苦笑いしてテーブル置き、空いた皿を片付けてくれた。

「ありがとう、おじさん。」

「旨そうに食うね、お客さん。旅人かい?」

「ええ。」

「なら、あんまりこいつに関わらん方がいいよ。こいつはここらじゃ知らない奴はいない娼夫だ。」

「娼夫じゃねぇ!踊り手だ!!」

娼夫と言われ、男は苛立ったように言った。
踊り手、つまり踊り子って事か。
おじさんも、関わるなとは言ったが、男を毛嫌いしている感じではない。
店の中も、こいつに対して多少の蔑みはあるようだが、嫌悪の念はあまりない。

珍しいな??
この体でそういう暮らしをしてるのに。
そういう扱いを受けるという事は、何かしらで一目置くものがあるからだ。

ふ~ん。
試してみよう。

「お前、踊り子なのか?」

「まぁな。正しくは躍り手だけど。」

「ならこうしよう。俺は踊りの代金として飯を奢った。それでチャラだ。それ以上は俺に関わるな。お前も踊り手を名乗るプロなら、仕事をきっちりこなして家に帰れ。悪くない話だろ?お前もおひねりぐらいはもらえるだろうし、今夜の相手も見つかるかもしれない。」

「乗った!!」

「じゃ交渉成立って事で。」

意気揚々と立ち上がった男に、俺は片手を上げて見せた。
男は屈託なく笑ってパチンとその手を叩く。

何か自然にやってしまった。
俺は上げた手をマジマジと見つめる。

なるほど……。

よくわからないけれど、彼には嫌味なく相手の懐に入り込む何かがあるようだ。
それもあって、何だかんだギリギリ今まで生きてこれたのだろう。

「おじさん!場所借りる!!」

「お、シルク、踊るのか!?」

「いいぞ~!!暇潰しに踊って見せろ~!!」

男が空いたステージに近づくと、馴染みの客が囃し立てた。

あいつ、シルクって言うんだ。
似合わないな。

砂漠の太陽に焼けた褐色の肌。
髪は確かに白いが、栄養状態のせいかとても絹には見えない。

店の音楽を奏でていた演奏者たちがシルクを一瞥し、曲調を変える。

……へぇ、悪くはないな。

躍り始めたシルクを見て、俺は思った。
動きはかなり滑らかだし、躍りも上手いと思う。

だが、どこか雑だし、性的な誘いがあからさまだ。
体も痩せこけてて魅力に欠ける。
しかもあの躍りかたは女性のものだ。
男が男を誘うなら、もっとこう……!!
俺は見ていてだんだん苛々し始めた。

……あの野郎……性欲ナメてんのか!?

元が悪くないだけに、そのなっていない性的アプローチに性欲研究者としての魂に火がついた。
長年、研究に研究を重ね、欲情がなんたるかを見てきた俺には、粗悪なシルクの躍り方が物凄く気に入らなかった。

違うだろ!!
てめぇの魅力を使って魅了するなら!!
もっとこう!あるだろうがっ!!

シルクは躍り終わったようだが、やはり誰のちんこもそこまで刺激できなかったようで、慰め程度のおひねりをもらって終わった。

俺は我慢できず立ち上がった。

関わりを断つならそうすべきでないのはわかってる。
でも我慢ならなかった。
そしてステージでへこたれてるシルクの前に仁王立ちした。

「あれ?あんた、俺に興味出た!?」

何かもらえると思ってヘラヘラ笑うシルクの頭に、俺は思い切りザクス班長直伝のげんこつをお見舞いしてやった。

「いって~!!てめぇ!何すんだ!!」

突然殴られたシルクは驚きながらも当然キレる。
だが俺はそれを上回る圧をかけた。
がしりとシルクの服を掴むと立ち上がらせ、ずいっと顔を寄せメンチを切った。

「てめぇ……性欲、なめてんのか!?」

「は?え!?何っ?!」

「あんなんで!男のちんこを勃てられるとでも!?」

「え?え?何であんた怒ってんの!?」

「俺は長年、性欲について研究に研究を重ねてきた!!だからそのプロである娼婦さんや娼夫さんたちには敬意を払っている!!なのになんだ?!お前!?踊り子を名乗ってその程度か!?元は悪くない!よくわからないが人を惹き付けるものも持ってる!躍りも雑だか悪くない!!……なのになんだ!?今のお前は?!エロス馬鹿にしてんのか?!性欲を掻き立てるってのはだなぁ~っ!!」

「ちょっと!ちょっと!落ち着けよ!?」

俺の剣幕に、シルクは混乱していた。
だが俺の怒りは収まらない。

そして興奮のあまり、俺は言った。

「……よし、決めた!!」

「は?!何を!?」

「俺がお前をプロデュースする!!」

「はいぃ!?」

「お前を!町中の男のちんこをギンギンにさせる躍り手に!俺が育てるっ!!」

しん……とした静寂が落ちる。

だが次の瞬間、俺の宣言を聞いた店内はやんややんやと大盛り上がりに変わったのだった。
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