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第三章「砂漠の国編」
乾きの大地
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何だろう?これは?
死んでるのか?
風砂が吹き荒れる道の真ん中。
痩せ細った男が倒れている。
少し魔力を使って様子を視ると生きているようだ。
でもな、倒れたふりして襲う盗賊もいるしな。
俺はしゃがんで棒切れでつついてみた。
しゃがんでも襲って来ないところを見ると、本当に行き倒れのようだ。
どこか悪いのかと、さらに魔力を使って詳しく視る。
ん?
何だろう?これは?
欠けてる?
俺は少し考えてから、そいつを背負い上げた。
「旅に出る~!?何言ってるの!?サークちゃん!?」
俺の言葉に師匠は目ん玉見開いてる。
それに俺は淡々と答える。
「旅です。師匠。」
魔術本部、図書館兼資料保管庫。
俺は借りていた資料倉庫の本の山を戻しながら師匠に言った。
「ですから、色々調べたところ西の砂漠の国に興味の引かれるものがありまして。」
「まぁ~?確かにあの国の魔術の使い方は少し独特よね~。杖より指輪とかが主流だし~?」
「いや、魔術が見たい訳じゃないです。」
「は??じゃあ何!?」
「ん~?あるかどうかわからないものなんですよ~。」
のらりくらりと話す俺に、師匠が詰め寄る。
こ、怖いです……師匠……。
「ちょっと!サークちゃん!?やっとこっちに来て、役一週間。落ち着いてきたし!!これからサークちゃんの術について色々聞こうと思ってたのに!」
鼻息の荒い師匠に引きながら後ずさる。
そこに願ってもない人が通りかかった。
「あ!ナーバル議長~。俺ちょっと旅に出ようと思うんですよ~。」
俺は師匠を無視して、ちょうど通りかかったナーバル議長に嬉々として声をかけた。
ナーバル議長は杖をつきながらゆっくり歩いていた足を止めると、俺の方を向いた。
「……何だって?」
何ともお約束だ。
ナーバル議長は耳が遠い。
だから俺は近くまで寄って、少し大きめな声でもう一度言った。
「俺ね~!旅に出ようと!思ってるんです~!」
ちょっと声が大きすぎたのか、近くの本棚にいた人達が顔を覗かせ、集まってきた。
皆、のんびりとしたおじさんおばあさんなのだが、ナーバル議長同様、実は偉い人達である。
「なんだい、サーク。旅に出るのかい?」
「あらいいわね?旅なんて久しく行ってないわ~。」
「どこに行くんだい?」
「西の砂漠の国に行こうかと。」
「あら素敵~。」
「いいね~!砂漠の夜の踊り子さんがまた、色っぽいんだよ~。また見てみたいな~。」
わいわいと旅話で盛り上がる。
そこに師匠が割り込んでくる。
心の性別はともかく、師匠は体格がいいからかなりの威圧感だ。
そして俺を含む皆に噛みついた。
「待って下さい!サークちゃんは魔術の修行と研究の為にここに来たんです!やっと落ち着いて本部で生活し始めたのに!いきなり旅だなんて!!」
師匠の剣幕に一同ポカンとしたが、次の瞬間にはどっと笑った。
「落ち着きなさいよ、ロナンド~。」
「そうそう。魔術なんて、じじいになってからでも研究できるて。」
「動かんでも済む分、足が悪くてもできる。」
「旅は若いうちにしなくちゃ!」
「そう!若いうちにたくさん様々な冒険をしないと!!」
たくさんの味方を得て、俺はニヤリと師匠を見た。
そしてとどめをさす。
「そういう訳で~!旅に行ってきても!いいですか~!ナーバル議長~!!」
「おお、ええよ。」
ナーバルおじいちゃ……議長は、ニコニコとそう言うと、孫を可愛がるように俺の頭を撫でた。
「……もうっ!!勝手にしなさいっ!!」
師匠が諦めて大きなため息をついた。
それを皆がどっと笑う。
魔術本部、もとい森の町は今日も平和だ。
サークが去った後も、ロナンドはぶつぶつ腹を立てていた。
「議長達は!あの子に甘すぎます!!」
「そうは言ってもな~可愛い孫には旅をさせよとも言うし~。」
「サークは孫じゃないでしょ!?」
「あら、孫も同じよ?ここに住む事が許された者は、皆、家族同然。もちろん、あなたもね、ロナンド。」
「うわ~ん!フレデリカ様~!」
「旅は道連れ、世は情け。」
「思わぬ拾い物をするやもしれん。」
「人はいつでも時の旅人。」
「うちらが多少の魔術を使えたって、大いなる時の魔法の前では赤子同然。」
「そう。全ては流れ行く時の川の砂粒に過ぎん。」
「さて、我々の可愛いあの子は、何に導かれたのやら。」
「私達に出来るのは、ただ静かに見守るだけよ。」
森の町との行き来はいくつかの方法がある。
一番簡単なのは、自分の家の鍵を持つこと。
鍵があれば、どこからでも鍵のついた扉から、自分の家の玄関と繋がる。
これはここに住む事が許され、ハウスパートナーを持っている者に限られた方法だ。
そして家の鍵はハウスパートナーとの絆であるため、自分以外は通れない。
また、出る時は少し面倒くさい。
あらかじめ出口の扉を決め、そこに出口の魔術をかけておかなければならない。
それに適当な場所に出口を作ったら大騒ぎになるので、場所も重要だ。
俺は向こうの家の階段上のドアにこの魔術をかけている。
偶然だけど、あそこに部屋ドアがあって良かった。
そしてその出口なのだが、固定の扉は3つまで作れるらしいが、まだ俺のハウスパートナーであるリリとムクは力が弱いので、この1つしか保てない。
今回、旅に行くことを決めたのは、リリとムクの力が上がって、臨時の扉と言うのが作れるようになったからだ。
臨時の扉は一時的に家とをつなぐ扉だ。
固定の扉と違って、定期的に出口の魔術をかけていないと消滅してしまうが、旅行等を考えたらもってこいな機能だった。
ただし、固定でも臨時でも、魔術をかけてから出口にできる訳で。
はじめはそこまで足を運ばなくてはならない訳だ。
「思ったより!酷い!!」
森の街にある共用の出口扉を使い西の国国境付近に出、そこから砂漠の国の奥にある小さな町を目指して歩いていたが、途中から風が吹き出し、砂嵐になった。
魔術を使って砂よけをしているので砂に困らされる事はないのだが、こうも視界全部が砂で覆われると歩くことも出来ない。
砂が入り込まなければ歩けるだろうと思っていたが、甘かった。
濃霧とも違う砂嵐は、とにかく歩けなくなる。
やはり何事も経験してみないとわからないものだなぁと思う。
仕方がないのでおさまるのを待つことにして、休めそうな場所を探していた時だった。
ふと、道の先に何か大きなものが落ちている。
俺は慎重に近づき、棒で突いた。
そしてため息をつく。
どうしようか迷ったが、放っておけば砂に埋まってしまいそうなそれを仕方なく背負いあげた。
「……端から面倒そうなものを拾ってしまった。」
それはまだ若い、痩せ細った異国の青年だった。
死んでるのか?
風砂が吹き荒れる道の真ん中。
痩せ細った男が倒れている。
少し魔力を使って様子を視ると生きているようだ。
でもな、倒れたふりして襲う盗賊もいるしな。
俺はしゃがんで棒切れでつついてみた。
しゃがんでも襲って来ないところを見ると、本当に行き倒れのようだ。
どこか悪いのかと、さらに魔力を使って詳しく視る。
ん?
何だろう?これは?
欠けてる?
俺は少し考えてから、そいつを背負い上げた。
「旅に出る~!?何言ってるの!?サークちゃん!?」
俺の言葉に師匠は目ん玉見開いてる。
それに俺は淡々と答える。
「旅です。師匠。」
魔術本部、図書館兼資料保管庫。
俺は借りていた資料倉庫の本の山を戻しながら師匠に言った。
「ですから、色々調べたところ西の砂漠の国に興味の引かれるものがありまして。」
「まぁ~?確かにあの国の魔術の使い方は少し独特よね~。杖より指輪とかが主流だし~?」
「いや、魔術が見たい訳じゃないです。」
「は??じゃあ何!?」
「ん~?あるかどうかわからないものなんですよ~。」
のらりくらりと話す俺に、師匠が詰め寄る。
こ、怖いです……師匠……。
「ちょっと!サークちゃん!?やっとこっちに来て、役一週間。落ち着いてきたし!!これからサークちゃんの術について色々聞こうと思ってたのに!」
鼻息の荒い師匠に引きながら後ずさる。
そこに願ってもない人が通りかかった。
「あ!ナーバル議長~。俺ちょっと旅に出ようと思うんですよ~。」
俺は師匠を無視して、ちょうど通りかかったナーバル議長に嬉々として声をかけた。
ナーバル議長は杖をつきながらゆっくり歩いていた足を止めると、俺の方を向いた。
「……何だって?」
何ともお約束だ。
ナーバル議長は耳が遠い。
だから俺は近くまで寄って、少し大きめな声でもう一度言った。
「俺ね~!旅に出ようと!思ってるんです~!」
ちょっと声が大きすぎたのか、近くの本棚にいた人達が顔を覗かせ、集まってきた。
皆、のんびりとしたおじさんおばあさんなのだが、ナーバル議長同様、実は偉い人達である。
「なんだい、サーク。旅に出るのかい?」
「あらいいわね?旅なんて久しく行ってないわ~。」
「どこに行くんだい?」
「西の砂漠の国に行こうかと。」
「あら素敵~。」
「いいね~!砂漠の夜の踊り子さんがまた、色っぽいんだよ~。また見てみたいな~。」
わいわいと旅話で盛り上がる。
そこに師匠が割り込んでくる。
心の性別はともかく、師匠は体格がいいからかなりの威圧感だ。
そして俺を含む皆に噛みついた。
「待って下さい!サークちゃんは魔術の修行と研究の為にここに来たんです!やっと落ち着いて本部で生活し始めたのに!いきなり旅だなんて!!」
師匠の剣幕に一同ポカンとしたが、次の瞬間にはどっと笑った。
「落ち着きなさいよ、ロナンド~。」
「そうそう。魔術なんて、じじいになってからでも研究できるて。」
「動かんでも済む分、足が悪くてもできる。」
「旅は若いうちにしなくちゃ!」
「そう!若いうちにたくさん様々な冒険をしないと!!」
たくさんの味方を得て、俺はニヤリと師匠を見た。
そしてとどめをさす。
「そういう訳で~!旅に行ってきても!いいですか~!ナーバル議長~!!」
「おお、ええよ。」
ナーバルおじいちゃ……議長は、ニコニコとそう言うと、孫を可愛がるように俺の頭を撫でた。
「……もうっ!!勝手にしなさいっ!!」
師匠が諦めて大きなため息をついた。
それを皆がどっと笑う。
魔術本部、もとい森の町は今日も平和だ。
サークが去った後も、ロナンドはぶつぶつ腹を立てていた。
「議長達は!あの子に甘すぎます!!」
「そうは言ってもな~可愛い孫には旅をさせよとも言うし~。」
「サークは孫じゃないでしょ!?」
「あら、孫も同じよ?ここに住む事が許された者は、皆、家族同然。もちろん、あなたもね、ロナンド。」
「うわ~ん!フレデリカ様~!」
「旅は道連れ、世は情け。」
「思わぬ拾い物をするやもしれん。」
「人はいつでも時の旅人。」
「うちらが多少の魔術を使えたって、大いなる時の魔法の前では赤子同然。」
「そう。全ては流れ行く時の川の砂粒に過ぎん。」
「さて、我々の可愛いあの子は、何に導かれたのやら。」
「私達に出来るのは、ただ静かに見守るだけよ。」
森の町との行き来はいくつかの方法がある。
一番簡単なのは、自分の家の鍵を持つこと。
鍵があれば、どこからでも鍵のついた扉から、自分の家の玄関と繋がる。
これはここに住む事が許され、ハウスパートナーを持っている者に限られた方法だ。
そして家の鍵はハウスパートナーとの絆であるため、自分以外は通れない。
また、出る時は少し面倒くさい。
あらかじめ出口の扉を決め、そこに出口の魔術をかけておかなければならない。
それに適当な場所に出口を作ったら大騒ぎになるので、場所も重要だ。
俺は向こうの家の階段上のドアにこの魔術をかけている。
偶然だけど、あそこに部屋ドアがあって良かった。
そしてその出口なのだが、固定の扉は3つまで作れるらしいが、まだ俺のハウスパートナーであるリリとムクは力が弱いので、この1つしか保てない。
今回、旅に行くことを決めたのは、リリとムクの力が上がって、臨時の扉と言うのが作れるようになったからだ。
臨時の扉は一時的に家とをつなぐ扉だ。
固定の扉と違って、定期的に出口の魔術をかけていないと消滅してしまうが、旅行等を考えたらもってこいな機能だった。
ただし、固定でも臨時でも、魔術をかけてから出口にできる訳で。
はじめはそこまで足を運ばなくてはならない訳だ。
「思ったより!酷い!!」
森の街にある共用の出口扉を使い西の国国境付近に出、そこから砂漠の国の奥にある小さな町を目指して歩いていたが、途中から風が吹き出し、砂嵐になった。
魔術を使って砂よけをしているので砂に困らされる事はないのだが、こうも視界全部が砂で覆われると歩くことも出来ない。
砂が入り込まなければ歩けるだろうと思っていたが、甘かった。
濃霧とも違う砂嵐は、とにかく歩けなくなる。
やはり何事も経験してみないとわからないものだなぁと思う。
仕方がないのでおさまるのを待つことにして、休めそうな場所を探していた時だった。
ふと、道の先に何か大きなものが落ちている。
俺は慎重に近づき、棒で突いた。
そしてため息をつく。
どうしようか迷ったが、放っておけば砂に埋まってしまいそうなそれを仕方なく背負いあげた。
「……端から面倒そうなものを拾ってしまった。」
それはまだ若い、痩せ細った異国の青年だった。
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