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特殊メイクの美人
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目が覚めて混乱した。
見た事のない天井たった。
「?!」
何が起きたのかわからずガバッと体を起こす。
そしてその体が何も身につけていない事に声にならない悲鳴を上げた。
恐る恐る掛け布団を捲り上げる。
パンツは……
は い て た ……。
安心のあまり両手で顔を覆い、そのままバタンとベッドに倒れ込む。
そして必死に何が起きていたのか思い出そうとした。
「……安心してください、はいてますよ。」
「?!」
おかしそうにくすくすと誰かが言った。
心地よいバリトンボイス。
僕はぎょっとして跳ね起きるとそちらに顔を向けた。
「だ……誰……?!」
「酷いな、一夜を同じベッドで過ごした仲なのに……。」
「?!?!」
驚きで声も出ない。
これは……やはり、そういう事なのだろうか……。
ずっと思い悩んで生きてきたのに、記憶を飛ばして知らないうちに卒業してしまったのだろうか……。
挙動不審になりながら彼をチラ見する。
歳はとても若そうだった。
20代前半ぐらいだろうか?
でも普通のサラリーマンの様な雰囲気はない。
年下……。
あからさまに年下の人と……。
思わず頭を抱えた。
最悪、犯罪ボーダーラインの未成年でない事を祈るしかない。
「安心して下さい。手は出してませんから。」
「あ……ありがとうございます……。」
面白そうに言われた言葉にホッと息を吐く。
そうか……僕が手を出される側なのか……。
変な事に納得した。
そして何がありがとうなのかよくわからないままお礼を言う。
と言うか、そういう事をした訳でもないのに彼は僕を泊めてくれたということだろうか?
ぱっと見、そこがホテルなどではなく、個人の生活空間なのだとわかる。
年上の社会人なのに情けない。
僕は色々な自己嫌悪に陥り始めていた。
「それよりお兄さん、今日、仕事?」
「あ!今何時?!ここはどこ?!」
「7時42分、場所はバーの建物の3階。」
「ありがとう!!このお礼は後日に!!」
「ついでに言うと今日は土曜だよ。土曜出勤ある職場?」
「…………あ、今週は……ない……。今週はない!休みだ!!」
久々の土曜休みに思わず声が出る。
そう、土曜休みだからと残業後にバーに立ち寄ったのだ。
喜ぶというより安堵で放心する僕を彼が面白そうに見ていた。
「ならゆっくりしていきなよ。俺もバイト午後からだし。」
「ええと……今更なのですが……君は……??」
「あ~、化粧してないからわかんないか。」
そう言うと彼は風呂場と思われる方に引っ込み、そして戻ってきた。
「これでわかる?」
「……え?!妃乃ちゃん?!」
「そ、バーのバイト従業員の『妃乃でぇす~♡』って事。」
妃乃ちゃん……いや妃乃くんは名乗る時だけ裏声を出し、可愛らしくポーズした。
金髪の巻き毛カツラを被った姿を見て、僕はやっと誰かわかった。
それぐらい今の彼とバーの「妃乃ちゃん」の印象は違ったのだ。
「嘘?!え?えぇ?!本当に妃乃ちゃん?!」
「ギャップ凄いらしいね、俺。大抵、スッピンだと誰だかわからないし、ビビられるもん。」
ぽかんと口を開け彼を見つめる。
いや本当に全く「妃乃ちゃん」の妃の字も感じさせない若者がそこにいた。
「……ど、どどどどうやって?!」
「あ~、俺、映画関連の学校行ってて、特殊メイクとか専門。」
「うへぇ……。何と言うか……。」
「凄いっしょ?!俺の技術?!」
「うん。凄すぎる……。」
カツラを被った彼を見ても、正直、半信半疑なくらいだ。
僕のそんな反応に彼は満足そうに笑う。
「そんなに驚いてもらえると自信つくなぁ~。面接の時、妃乃のメイクで行って技術売り込むつもりなんだよ、俺。」
「それは……替え玉面接を疑われないか気をつけてね……。」
思わず脱力して笑った。
彼もおかしそうに笑っている。
ちょうどその時、ピリリっと彼の部屋の電話が鳴った。
変なコール音だったので気になったのだが、どうやらそれは内線だったらしい。
「あ、ママ?……うん、シュンさん起きたよ?……うん……うん、今日、休みだって……うん……わかった。なら下行くね。」
受話器を置くと、彼は僕に向き直った。
「ママが朝ごはんにしようって。俺、先行って手伝ってくるから、シャワー浴びるなら浴びて店に降りてきてよ。鍵、これね?」
「あ……ありがとう……。」
「休みなら洗濯すっから、洗うもの洗濯機に突っ込んどいて。着替えは……とりあえずジャージとTシャツでいい?ボクサーのMしか新品ないんだけど、履けるよね??」
「え?!いいよ?!そこまで?!」
「気になるなら今度店に来る時、新しいの買ってきてくれればいいから。」
妃乃くんはそう言うと、特に何も気にせず部屋を出て行った。
何と言うか……。
とてもありがたいのだが、自由人だ。
なんか今まで近くにいた事のないタイプ。
「……妃乃ちゃんとは何度も話してたのになぁ……。妃乃くんになるとこんな感じなんだなぁ。」
何となく、妃乃くんは僕やママとは違う人種だと直感できた。
けれどママのバーでアルバイトをしているだけあって、僕やママを色眼鏡で見ていたりはしない気がした。
物凄く自然に、ごく当たり前の事として、スルッとそこにいてくれる感じ。
妃乃くんには、常に人に対して感じる裏表が見えなかった。
見た事のない天井たった。
「?!」
何が起きたのかわからずガバッと体を起こす。
そしてその体が何も身につけていない事に声にならない悲鳴を上げた。
恐る恐る掛け布団を捲り上げる。
パンツは……
は い て た ……。
安心のあまり両手で顔を覆い、そのままバタンとベッドに倒れ込む。
そして必死に何が起きていたのか思い出そうとした。
「……安心してください、はいてますよ。」
「?!」
おかしそうにくすくすと誰かが言った。
心地よいバリトンボイス。
僕はぎょっとして跳ね起きるとそちらに顔を向けた。
「だ……誰……?!」
「酷いな、一夜を同じベッドで過ごした仲なのに……。」
「?!?!」
驚きで声も出ない。
これは……やはり、そういう事なのだろうか……。
ずっと思い悩んで生きてきたのに、記憶を飛ばして知らないうちに卒業してしまったのだろうか……。
挙動不審になりながら彼をチラ見する。
歳はとても若そうだった。
20代前半ぐらいだろうか?
でも普通のサラリーマンの様な雰囲気はない。
年下……。
あからさまに年下の人と……。
思わず頭を抱えた。
最悪、犯罪ボーダーラインの未成年でない事を祈るしかない。
「安心して下さい。手は出してませんから。」
「あ……ありがとうございます……。」
面白そうに言われた言葉にホッと息を吐く。
そうか……僕が手を出される側なのか……。
変な事に納得した。
そして何がありがとうなのかよくわからないままお礼を言う。
と言うか、そういう事をした訳でもないのに彼は僕を泊めてくれたということだろうか?
ぱっと見、そこがホテルなどではなく、個人の生活空間なのだとわかる。
年上の社会人なのに情けない。
僕は色々な自己嫌悪に陥り始めていた。
「それよりお兄さん、今日、仕事?」
「あ!今何時?!ここはどこ?!」
「7時42分、場所はバーの建物の3階。」
「ありがとう!!このお礼は後日に!!」
「ついでに言うと今日は土曜だよ。土曜出勤ある職場?」
「…………あ、今週は……ない……。今週はない!休みだ!!」
久々の土曜休みに思わず声が出る。
そう、土曜休みだからと残業後にバーに立ち寄ったのだ。
喜ぶというより安堵で放心する僕を彼が面白そうに見ていた。
「ならゆっくりしていきなよ。俺もバイト午後からだし。」
「ええと……今更なのですが……君は……??」
「あ~、化粧してないからわかんないか。」
そう言うと彼は風呂場と思われる方に引っ込み、そして戻ってきた。
「これでわかる?」
「……え?!妃乃ちゃん?!」
「そ、バーのバイト従業員の『妃乃でぇす~♡』って事。」
妃乃ちゃん……いや妃乃くんは名乗る時だけ裏声を出し、可愛らしくポーズした。
金髪の巻き毛カツラを被った姿を見て、僕はやっと誰かわかった。
それぐらい今の彼とバーの「妃乃ちゃん」の印象は違ったのだ。
「嘘?!え?えぇ?!本当に妃乃ちゃん?!」
「ギャップ凄いらしいね、俺。大抵、スッピンだと誰だかわからないし、ビビられるもん。」
ぽかんと口を開け彼を見つめる。
いや本当に全く「妃乃ちゃん」の妃の字も感じさせない若者がそこにいた。
「……ど、どどどどうやって?!」
「あ~、俺、映画関連の学校行ってて、特殊メイクとか専門。」
「うへぇ……。何と言うか……。」
「凄いっしょ?!俺の技術?!」
「うん。凄すぎる……。」
カツラを被った彼を見ても、正直、半信半疑なくらいだ。
僕のそんな反応に彼は満足そうに笑う。
「そんなに驚いてもらえると自信つくなぁ~。面接の時、妃乃のメイクで行って技術売り込むつもりなんだよ、俺。」
「それは……替え玉面接を疑われないか気をつけてね……。」
思わず脱力して笑った。
彼もおかしそうに笑っている。
ちょうどその時、ピリリっと彼の部屋の電話が鳴った。
変なコール音だったので気になったのだが、どうやらそれは内線だったらしい。
「あ、ママ?……うん、シュンさん起きたよ?……うん……うん、今日、休みだって……うん……わかった。なら下行くね。」
受話器を置くと、彼は僕に向き直った。
「ママが朝ごはんにしようって。俺、先行って手伝ってくるから、シャワー浴びるなら浴びて店に降りてきてよ。鍵、これね?」
「あ……ありがとう……。」
「休みなら洗濯すっから、洗うもの洗濯機に突っ込んどいて。着替えは……とりあえずジャージとTシャツでいい?ボクサーのMしか新品ないんだけど、履けるよね??」
「え?!いいよ?!そこまで?!」
「気になるなら今度店に来る時、新しいの買ってきてくれればいいから。」
妃乃くんはそう言うと、特に何も気にせず部屋を出て行った。
何と言うか……。
とてもありがたいのだが、自由人だ。
なんか今まで近くにいた事のないタイプ。
「……妃乃ちゃんとは何度も話してたのになぁ……。妃乃くんになるとこんな感じなんだなぁ。」
何となく、妃乃くんは僕やママとは違う人種だと直感できた。
けれどママのバーでアルバイトをしているだけあって、僕やママを色眼鏡で見ていたりはしない気がした。
物凄く自然に、ごく当たり前の事として、スルッとそこにいてくれる感じ。
妃乃くんには、常に人に対して感じる裏表が見えなかった。
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