3 / 10
その辺の石ころ
しおりを挟む
長い長い沈黙の中、やがて理不尽さを感じた。
僕は顔を上げた。
何で僕はこんなにも世界に譲歩して自分を蔑んでいるんだろうと。
確かに一番悪いのは勘違いした僕だ。
「世の中の常識」からズレている僕だ。
だが、当時、僕が扱っていた案件名を出されたら、僕の事だと勘違いして悪いのか?その案件名をはっきり君が言ったから、僕は動揺したんだ。その頃、その案件を使っている人は僕だけだったのだから。君の言葉に内容に耳を疑っていたけど、それを聞いて僕は「僕の事」なのだろうと思いこんでしまったのだ。
僕はしばらく、自分の愚かさや浅はかさに酷く落ち込む事と、理不尽さにフラストレーションを覚える事を繰り返した。
どうして……?
「それ」を言われたら僕だと思うじゃないか?
だってそれは、ちょっと今扱うにはズレた案件だったから。季節柄、その名称を使う事はほぼない案件名だったから。
なんで君はそんな言葉を使った?
何かの比喩だった?
なんの?
その言葉じゃなきゃならなかった理由は何なんだ?
しかもそんな会話の重心がある場所に?
確かにそれは必ずしも僕を指すものじゃない。
身の程をわきまえず、勘違いした僕が一番悪いのはわかってる。勝手に浮かれて勝手に撃沈したんだ。
君から見ればとばっちりも良いところだ。
ストーカーでもされたのかと、恐ろしく気持ちが悪かった事だろう。
その部分については土下座して謝る。
勝手に勘違いして怖い思いをさせて申し訳なかった。
二度と君に近づく事も関わる事もしないと誓う。
本当に申し訳なかった。
だが何故あのタイミングで、あの案件名をあんな会話の中に使ったのか……。言い訳になるが、あの案件名を出されたら僕なのかと疑心暗鬼になるのは仕方がないじゃないかと思う。
自分の事を棚上げして何言ってんだって事なのはよくわかっている。
でも、流石に案件名を出されたら、勘違いした事は大目に見てくれると有り難い。
その上であえて言わせて欲しい。
何故、勘違いしさせる言葉で、あのタイミングで、あんな話をしてたんだ?
正直、ぎょっとしたし、戸惑ったし、疑心暗鬼になったし、でもあの案件名を上げるから気持ちの逃しようがどこにもなくて。
向き合うべきなのかと自分を奮い立たせたのに、僕の勝手な思い違いでしたって……。いや、君は勝手に勘違いされて怖くて気持ち悪い目にあったんだと思う。それは申し訳なかった。心底、申し訳なかった。
だから自分勝手ついでに最後に言わせて欲しい。
最後だから言わせて欲しい。
あの案件名を出してあんな話をされたのに、それを確かめようとした事に対する答えが沈黙なのはさすがにそれなりに傷ついたよ。
違うなら違うと言う答えが欲しかったんだ。
別に僕は君と恋愛がしたかったんじゃないんだし。
ただ、その好意が嬉しかった。
そして少し面白かった。
だから何らかのラリーができたら楽しいだろうなぁと、ワクワクしてたんだ。
喧嘩上等。
売られた楽しい喧嘩は買う。
受けた恩は、倍返しにして叩きつけるのが僕の流儀だから。
だからワクワクしてたんだ。
でも本当にそれが僕に売られた喧嘩なのか確信が持てなかった。僕は喧嘩を売られたと思っていても、もしも僕に売っていた訳じゃないのに、僕がいきなり殴り返したら犯罪者だからね。
だから軽くメッセージを出した。
でも君はそれになんのアクションも取らなかった。
僕は自分が恥ずかしかった。
自分の立場はわかっていたはずなのに、身の程知らずな事をしたと落ち込んだよ。
凄く凹んだし、うん、多分、傷ついたよ。
君からしたら勝手な話だろうけどね。
あれは僕に向けられた言葉でない事はもう十分僕は理解して、何度も反芻して、やっとなんとか消化しきったけど、君の「見守る」と言う言葉。
信じるには美しいけれど、絵空事なのだとしたら虚しい言葉だね。事実、僕はとても虚しかった。
キャッチボールがしたくて球を投げても返ってくる事はなかった。
嘘は、つくなら騙し続けなきゃだめだよ。
嘘だと知っていても、人はそれごと愛するものだから。
君の場合は僕についた嘘ではなかったのだから、僕がこんな事を言うのはお門違いというものだけど。
その「嘘」を、嘘とわかりながらも大切にしていた僕は、届かないボトルメールをガチャガチャ波間に浮かべて、楽しげに皆と笑い合う君を見ていたんだ。
「嘘」だと知ってたのにね。
そしてその中に僕の呪縛を強めた相手がいるのを見て、全てを捨てるべきだと思ったんだ。
一時期は僕にとってかけがえのなかった言葉の欠片を。
嘘であっても大切だったその言葉を。
馬鹿だろ?
元々、僕に向けられたものでもなかったのに、大切に大切にポケットにしまって。
楽しい喧嘩を売られたとワクワクして、ラリーが始まるのを今か今かと待ってたなんて。
どこの大型犬だよって。
現実はいつだって冷静で事実のみを映すんだ。
ふわふわ夢見てたら、あっという間に浮世離れしてしまう。
僕はできればその中で生きていたかった。
たとえそれが「嘘」でも、「勘違い」でも、思い込みでも、ふわふわな夢現の中にいたかった。
でも、それは難しい。
僕はポケットの中の言葉の欠片を取り出した。
そっと大事に大事にしまった時はあんなに温かくキラキラ輝いていたそれは、ちゃんと見てみればなんの変哲もないその辺の石ころだった。
手からこぼれ落としてしまえば、もう、地面の石たちと見分けがつかない。
こうして僕の一人勘違い大会は終わった。
僕は顔を上げた。
何で僕はこんなにも世界に譲歩して自分を蔑んでいるんだろうと。
確かに一番悪いのは勘違いした僕だ。
「世の中の常識」からズレている僕だ。
だが、当時、僕が扱っていた案件名を出されたら、僕の事だと勘違いして悪いのか?その案件名をはっきり君が言ったから、僕は動揺したんだ。その頃、その案件を使っている人は僕だけだったのだから。君の言葉に内容に耳を疑っていたけど、それを聞いて僕は「僕の事」なのだろうと思いこんでしまったのだ。
僕はしばらく、自分の愚かさや浅はかさに酷く落ち込む事と、理不尽さにフラストレーションを覚える事を繰り返した。
どうして……?
「それ」を言われたら僕だと思うじゃないか?
だってそれは、ちょっと今扱うにはズレた案件だったから。季節柄、その名称を使う事はほぼない案件名だったから。
なんで君はそんな言葉を使った?
何かの比喩だった?
なんの?
その言葉じゃなきゃならなかった理由は何なんだ?
しかもそんな会話の重心がある場所に?
確かにそれは必ずしも僕を指すものじゃない。
身の程をわきまえず、勘違いした僕が一番悪いのはわかってる。勝手に浮かれて勝手に撃沈したんだ。
君から見ればとばっちりも良いところだ。
ストーカーでもされたのかと、恐ろしく気持ちが悪かった事だろう。
その部分については土下座して謝る。
勝手に勘違いして怖い思いをさせて申し訳なかった。
二度と君に近づく事も関わる事もしないと誓う。
本当に申し訳なかった。
だが何故あのタイミングで、あの案件名をあんな会話の中に使ったのか……。言い訳になるが、あの案件名を出されたら僕なのかと疑心暗鬼になるのは仕方がないじゃないかと思う。
自分の事を棚上げして何言ってんだって事なのはよくわかっている。
でも、流石に案件名を出されたら、勘違いした事は大目に見てくれると有り難い。
その上であえて言わせて欲しい。
何故、勘違いしさせる言葉で、あのタイミングで、あんな話をしてたんだ?
正直、ぎょっとしたし、戸惑ったし、疑心暗鬼になったし、でもあの案件名を上げるから気持ちの逃しようがどこにもなくて。
向き合うべきなのかと自分を奮い立たせたのに、僕の勝手な思い違いでしたって……。いや、君は勝手に勘違いされて怖くて気持ち悪い目にあったんだと思う。それは申し訳なかった。心底、申し訳なかった。
だから自分勝手ついでに最後に言わせて欲しい。
最後だから言わせて欲しい。
あの案件名を出してあんな話をされたのに、それを確かめようとした事に対する答えが沈黙なのはさすがにそれなりに傷ついたよ。
違うなら違うと言う答えが欲しかったんだ。
別に僕は君と恋愛がしたかったんじゃないんだし。
ただ、その好意が嬉しかった。
そして少し面白かった。
だから何らかのラリーができたら楽しいだろうなぁと、ワクワクしてたんだ。
喧嘩上等。
売られた楽しい喧嘩は買う。
受けた恩は、倍返しにして叩きつけるのが僕の流儀だから。
だからワクワクしてたんだ。
でも本当にそれが僕に売られた喧嘩なのか確信が持てなかった。僕は喧嘩を売られたと思っていても、もしも僕に売っていた訳じゃないのに、僕がいきなり殴り返したら犯罪者だからね。
だから軽くメッセージを出した。
でも君はそれになんのアクションも取らなかった。
僕は自分が恥ずかしかった。
自分の立場はわかっていたはずなのに、身の程知らずな事をしたと落ち込んだよ。
凄く凹んだし、うん、多分、傷ついたよ。
君からしたら勝手な話だろうけどね。
あれは僕に向けられた言葉でない事はもう十分僕は理解して、何度も反芻して、やっとなんとか消化しきったけど、君の「見守る」と言う言葉。
信じるには美しいけれど、絵空事なのだとしたら虚しい言葉だね。事実、僕はとても虚しかった。
キャッチボールがしたくて球を投げても返ってくる事はなかった。
嘘は、つくなら騙し続けなきゃだめだよ。
嘘だと知っていても、人はそれごと愛するものだから。
君の場合は僕についた嘘ではなかったのだから、僕がこんな事を言うのはお門違いというものだけど。
その「嘘」を、嘘とわかりながらも大切にしていた僕は、届かないボトルメールをガチャガチャ波間に浮かべて、楽しげに皆と笑い合う君を見ていたんだ。
「嘘」だと知ってたのにね。
そしてその中に僕の呪縛を強めた相手がいるのを見て、全てを捨てるべきだと思ったんだ。
一時期は僕にとってかけがえのなかった言葉の欠片を。
嘘であっても大切だったその言葉を。
馬鹿だろ?
元々、僕に向けられたものでもなかったのに、大切に大切にポケットにしまって。
楽しい喧嘩を売られたとワクワクして、ラリーが始まるのを今か今かと待ってたなんて。
どこの大型犬だよって。
現実はいつだって冷静で事実のみを映すんだ。
ふわふわ夢見てたら、あっという間に浮世離れしてしまう。
僕はできればその中で生きていたかった。
たとえそれが「嘘」でも、「勘違い」でも、思い込みでも、ふわふわな夢現の中にいたかった。
でも、それは難しい。
僕はポケットの中の言葉の欠片を取り出した。
そっと大事に大事にしまった時はあんなに温かくキラキラ輝いていたそれは、ちゃんと見てみればなんの変哲もないその辺の石ころだった。
手からこぼれ落としてしまえば、もう、地面の石たちと見分けがつかない。
こうして僕の一人勘違い大会は終わった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる