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コトノハ
しおりを挟む「…………え?」
僕は言葉が出なかった。
だって、君の事は好きでも何でもなかった。
良い人だなと、自分の中の蟠りを捨てて仲良くできたらと思う反面、どこかで苦手意識も持っていた。
それが君に対しての感情なのか、それとも過去からくるものなのか、自分でもわかりかねていた。
だからその言葉を聞いた時、固まった。
え?何で?何で僕に?
そもそも本当に僕に?
訳がわからなかった。
それは密やかで掴みどころのない告白。
どう捉えていいのかすらわからない曖昧さがそこにはあった。
え?僕?
大して親しくしていた覚えはない。
僕が心の柵に雁字搦めになって、踏み込めずにいたからだ。
だって怖いじゃないか。
人間というのは得てして同じ様に見えて価値観が違う。
そして自分の価値観が「常識」だと思いこんでいる。
「皆、そうだ」となんの根拠もない「常識」。
誰かが統計をとった訳でもない「常識」。
自分の「当たり前」であり「価値観」が「常識」だと、誰もが思いこんでいる。
それは僕もそうだから、それこそ「当たり前」の事なのだ。
けれどその「常識」が、実はそうではない事や、人にはそれぞれ違った「価値観」がある事や、「当たり前」ではない事を受け入れられずに攻撃する人がいる。
「そんなのは常識だ」といい、それから外れるモノを平然と蔑む。
自分と違う「常識」を、「一部の非常識で愚かな恥ずかしい連中」がやっている事だと見下し嘲笑う。
だがその人についてよくよく見れば、その人が「一部の非常識で愚かな恥ずかしい連中」と称する事とあまり変わらない「常識」を平然と行っていたりする。
つまりその人だって別の方面の方から言わせれば、「一部の非常識で愚かな恥ずかしい連中」の一人に過ぎないのだ。
なのに自分の「常識」を「世界的な常識」として、それからはみ出す者に対して攻撃する。
自分は「世界的な常識」を持っていると言う「正義」。
それを振りかざして、土足で人の領域に踏み込んでくる。
頼んでもいないのに勝手にそこに突っ込んできて、「正義」の名の元に人を見下し、蔑み踏み躙り、さんざん大暴れして自分だけ満足して去っていくのだ。
僕はその当事者になった事がある。
だから怖いのだ。
同じ様に見えて、突然「正義」の名の元に豹変する「すぐ側にいる隣人」が。
それまで普通に挨拶していたのに。
他愛のない言葉を交わしていたのに。
突然ゴミでも見るような目で見下ろし、「正義」と言う「個人の価値観」で執拗にこちらを切り刻んでくる「誰か」が怖いのだ。
だから僕はいつでも躊躇していた。
君がいることは知っていた。
君が気軽に声掛けをしてくれる事がありがたかった。
なんの気なしに飴玉をくれたりと、皆にするように僕にも労いやエールを送ってくれる事が嬉しかった。
でも僕は怖かったんだ。
だから躊躇した。
踏み込まなければ、傷つかずに済むことをよく知っていたから。
だから僕は、君にお礼をするのもいつもそっと行った。
大抵は見つかって「これ、お前だろ?サンキューな!」と、屈託なく言われた。
当たり前のようにバレるのに、それでも僕は踏み込めずにいたんだ。
君の存在を有難く思っていた。
けれどそれと同時に、僕は動けずにいた。
君が嫌いだった訳じゃない。
でも気持ちの奥の方に恐怖があるから戸惑っていた。
どうしてだか妙に警戒していたんだ。
漠然とした不安。
それが君に対するものなのか、過去からくるものなのか、僕にはわからなかった。
同じ頃、僕を悩ます事があった。
妙に攻撃的で、なのに執拗に上から目線で絡んでくる人がいたのだ。
多分、この人の存在が僕の恐怖心を増長させていたのだと思う。
僕は別に攻撃されたからと言ってやり返す気はなかった。
皆それぞれ違う考えの元、違う価値観で生きているのだから、その人の常識に自分が当てはまらないのも仕方のない事だと思っていたからだ。
だから僕はその人とは距離を置いて当たり障りなく関わろうと思っていた。
けれど何故かその人は絡んできた。
絡んできては小言のような事を言って去っていく。
気に入らないのなら絡まなければ良いと僕は思うのだが、その人は人そうではなかった。
かと言って仲良くしたいからと言う雰囲気も感じられなかった。
一度こちらから声をかけてみたら、案の定というかこれ幸いと意気揚々とダメ出しをされた。
その人が何がしたいのかさっぱりわからなかった。
そして思い出すのだ。
ゴミでも見るように見下し、個人の価値観で執拗に切り刻んでくる「誰か」の事を。
この時点でその人と僕の価値観はズレていた。
そして僕は過去に雁字搦めになっていった。
ただ怖かったのを覚えている。
僕は考えた。
できる限り誰にも迷惑をかけずに、できる限り誰にも嫌な思いをさせずに、できる限り誰の価値観も否定せずにこの恐怖から逃げるにはどうしたらいいのかと。
そして僕はそれをした。
その時だった。
君がそれを言ったのは。
僕は言葉の意味を考えあぐねた。
どうとでも取れるその言葉の意味を考えた。
多分、僕は傷ついていたのだと思う。
だから縋りたかったんだ。
君のその「なんの意味もない」言葉に……。
僕は言葉が出なかった。
だって、君の事は好きでも何でもなかった。
良い人だなと、自分の中の蟠りを捨てて仲良くできたらと思う反面、どこかで苦手意識も持っていた。
それが君に対しての感情なのか、それとも過去からくるものなのか、自分でもわかりかねていた。
だからその言葉を聞いた時、固まった。
え?何で?何で僕に?
そもそも本当に僕に?
訳がわからなかった。
それは密やかで掴みどころのない告白。
どう捉えていいのかすらわからない曖昧さがそこにはあった。
え?僕?
大して親しくしていた覚えはない。
僕が心の柵に雁字搦めになって、踏み込めずにいたからだ。
だって怖いじゃないか。
人間というのは得てして同じ様に見えて価値観が違う。
そして自分の価値観が「常識」だと思いこんでいる。
「皆、そうだ」となんの根拠もない「常識」。
誰かが統計をとった訳でもない「常識」。
自分の「当たり前」であり「価値観」が「常識」だと、誰もが思いこんでいる。
それは僕もそうだから、それこそ「当たり前」の事なのだ。
けれどその「常識」が、実はそうではない事や、人にはそれぞれ違った「価値観」がある事や、「当たり前」ではない事を受け入れられずに攻撃する人がいる。
「そんなのは常識だ」といい、それから外れるモノを平然と蔑む。
自分と違う「常識」を、「一部の非常識で愚かな恥ずかしい連中」がやっている事だと見下し嘲笑う。
だがその人についてよくよく見れば、その人が「一部の非常識で愚かな恥ずかしい連中」と称する事とあまり変わらない「常識」を平然と行っていたりする。
つまりその人だって別の方面の方から言わせれば、「一部の非常識で愚かな恥ずかしい連中」の一人に過ぎないのだ。
なのに自分の「常識」を「世界的な常識」として、それからはみ出す者に対して攻撃する。
自分は「世界的な常識」を持っていると言う「正義」。
それを振りかざして、土足で人の領域に踏み込んでくる。
頼んでもいないのに勝手にそこに突っ込んできて、「正義」の名の元に人を見下し、蔑み踏み躙り、さんざん大暴れして自分だけ満足して去っていくのだ。
僕はその当事者になった事がある。
だから怖いのだ。
同じ様に見えて、突然「正義」の名の元に豹変する「すぐ側にいる隣人」が。
それまで普通に挨拶していたのに。
他愛のない言葉を交わしていたのに。
突然ゴミでも見るような目で見下ろし、「正義」と言う「個人の価値観」で執拗にこちらを切り刻んでくる「誰か」が怖いのだ。
だから僕はいつでも躊躇していた。
君がいることは知っていた。
君が気軽に声掛けをしてくれる事がありがたかった。
なんの気なしに飴玉をくれたりと、皆にするように僕にも労いやエールを送ってくれる事が嬉しかった。
でも僕は怖かったんだ。
だから躊躇した。
踏み込まなければ、傷つかずに済むことをよく知っていたから。
だから僕は、君にお礼をするのもいつもそっと行った。
大抵は見つかって「これ、お前だろ?サンキューな!」と、屈託なく言われた。
当たり前のようにバレるのに、それでも僕は踏み込めずにいたんだ。
君の存在を有難く思っていた。
けれどそれと同時に、僕は動けずにいた。
君が嫌いだった訳じゃない。
でも気持ちの奥の方に恐怖があるから戸惑っていた。
どうしてだか妙に警戒していたんだ。
漠然とした不安。
それが君に対するものなのか、過去からくるものなのか、僕にはわからなかった。
同じ頃、僕を悩ます事があった。
妙に攻撃的で、なのに執拗に上から目線で絡んでくる人がいたのだ。
多分、この人の存在が僕の恐怖心を増長させていたのだと思う。
僕は別に攻撃されたからと言ってやり返す気はなかった。
皆それぞれ違う考えの元、違う価値観で生きているのだから、その人の常識に自分が当てはまらないのも仕方のない事だと思っていたからだ。
だから僕はその人とは距離を置いて当たり障りなく関わろうと思っていた。
けれど何故かその人は絡んできた。
絡んできては小言のような事を言って去っていく。
気に入らないのなら絡まなければ良いと僕は思うのだが、その人は人そうではなかった。
かと言って仲良くしたいからと言う雰囲気も感じられなかった。
一度こちらから声をかけてみたら、案の定というかこれ幸いと意気揚々とダメ出しをされた。
その人が何がしたいのかさっぱりわからなかった。
そして思い出すのだ。
ゴミでも見るように見下し、個人の価値観で執拗に切り刻んでくる「誰か」の事を。
この時点でその人と僕の価値観はズレていた。
そして僕は過去に雁字搦めになっていった。
ただ怖かったのを覚えている。
僕は考えた。
できる限り誰にも迷惑をかけずに、できる限り誰にも嫌な思いをさせずに、できる限り誰の価値観も否定せずにこの恐怖から逃げるにはどうしたらいいのかと。
そして僕はそれをした。
その時だった。
君がそれを言ったのは。
僕は言葉の意味を考えあぐねた。
どうとでも取れるその言葉の意味を考えた。
多分、僕は傷ついていたのだと思う。
だから縋りたかったんだ。
君のその「なんの意味もない」言葉に……。
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