欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

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第八章①「疑惑と逃亡編」

手紙

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サークはゴロンとベッドに横になり、ぼんやりと手紙を眺めていた。
そしてゆっくり息を吐き、手紙を胸の上に置く。

マダムのギルド兼酒場の一室。
今のサークにとって、一番安全で安心できる場所だ。
そんな場所にいるので、体内の魔力がずいぶん弱っている事もあり数日休養を取ることにしたのだ。

シルクは今日も他のパーティーの助っ人に行っている。
朝食を食べていたら声を掛けられ、二つ返事で了承していた。

どうやら自分の力を遠慮なく発揮できるのが楽しいらしい。
考えてみれば核を取り戻したシルクにとって、今までの生活は力を抑えるだけのものであって存分に発揮できる場所はなかった。
そんな相手もいないし機会もない。
あったのは唯一、南の軍との交戦ぐらいだろう。

その点、冒険者は戦闘が生活の糧だ。
演舞は使うなとは言ってあるが、それでも武術を遠慮なく使えるのは楽しいのだろう。
妙な話だが、この逃走劇がシルクにとっていい息抜きになってるのはありがたかった。

サークは手紙の上から自分の胸に手を当て、目を閉じた。


自分の中の魔力が不自然に途切れ途切れになっている。
それを胸の中に集めて労るように練り直し、また全身に巡らせる。
日に何度か繰り返し、回復と流れを改善していく。

身体の方はボーンが治してくれたので問題はない。
本来なら魔力もだいたい回復させられるらしいのだが、ボーン曰くサークの魔力は特殊な為、きちんと回復させる事は難しかったらしい。

そんな事はちっとも知らなかったと思う。

ボーンが言うには、魔力はそれぞれ波動と言うか光線の波と言うかがあるらしく、サークのそれは初めて見るパターンだったので流石のボーンでもどうにもできなかったそうだ。

それでも、生命活動を最小限にして回復させなければならない状態は脱するところまで回復させたのだ。
流石は世界トップの大魔法師(ビショップ)、寡黙なるエアーデだ。

サークはボーンとの出会いを思い出して、クスリと笑った。

一目見た時、本当に驚いたのだ。
のそりと面倒くさそうにドワーフのボーンが現れた時、探していたのがこの人だとすぐにわかった。

何でかなどわからない。
直感したのだ。

そして何でもない事のように、封紙からゴーレムを召喚したのが決定的だった。
一見、最終段階でサーニャが魔力を流したので、ボーンは何もしていないように見えるが、あれはボーンが封じられていたゴーレムを奇跡で復活させたのだ。

ただ自分の力を隠すため、奇跡を施した後にそれに必要な魔力はサーニャに流し込ませて使うと言う方法をとったのだ。
だから誰もボーンの力になど気づかない。

だが逆に、そんな奇跡の使い方が可能な人物は限られている。

だからサークはボーンが探している魔法師だと確信できたのだ。
体力や技術の秀でたドワーフが、魔法や魔術を使えないと言うのは偏見だと知っていたが、まさかトップクラスの魔法師(ビショップ)がいるとはサークにとっても盲点だった。

ボーンから言わせれば、人間がそうであるようにドワーフだって戦士から魔術使い、魔法使いと一通りいるのに、何でドワーフの魔法師は偏見を持たれるのか理解できない事だそうだ。

だがボーンは、ドワーフには魔力は使えない、ましてや魔法師(ビショップ)などいる訳がないと言う世の中の思い込みを逆手にとって、長い間、堂々と世間から隠れていたのだ。

後で知ったが、何でマダムがそれを知らなかったかと言うと、ボーンが知られないよう必死に手を打っていたからなのだそうだ。
マダムに長年知られずにいた事も凄いが、どれだけマダムが怖いんだろうと思うとおかしくてならない。

ボーンには悪いが、バレてしまった今、今後どうなるかと思うと笑ってしまう。
マダムもボーンもはっきりとは言わないが、どうやらかつて冒険者として同じパーティーで活躍していたようだ。
お互いを悪く言っているが、昔馴染みだからこその悪態だと言うのが滲み出ていた。
だから何だかんだ、きっと大丈夫なのだろう。

「……仲間って、そう言うもんだよな。」

サークはまた、胸の上の手紙を手にとって眺めた。

ギルの小綺麗な文字が礼儀正しく並んでいる。
外壁から外に出る際、班長から渡されたギルからの手紙。
何か重要な事でも書いてあるのかと思ったが、本当にただの手紙だった。

「これを読んでいると言うことは……」から始まったその手紙の内容は、シルクに聞いた事とほぼ同じで、話せなかった事、止められなかった事への謝罪、そしてしばらく身を隠していて欲しいと言うものだった。
裁判をひっくり返せる準備が出来たら裁判を起こしてどうにかするから、それまで無事でいて欲しいと言うのが皆の願いだと書いてあった。

「水臭いんだよ、あいつら、全員……。」

自分を思ってしてくれた事。
何で自分なんかの為にそこまでしてくれるのだろう?

自分はあいつらに何もしてやった事なんてないのに、無条件で大事にしてくれる仲間がいる。
申し訳ないと言う強い痛みと、それでいて酷く愛しい思いがした。

ウィルと会って、時間がなくて簡単にしか聞いていないが、大変だった事はわかっている。

自分を逃がした件で誰も糾弾されず、牢に入れられたりもせず、皆が無事だと言うことはひとまず本当に良かった。
だが、やり方が一方的で問題があるものとはいえ、正式に裁判としての書類がある事に反発した為、残念ながら全員に監視がついている。

ガスパーは一族的な将来を考え、これ以上関わらせない為に家に軟禁されたと聞いた。

ギルは一族からの制限は受けていないが、今後の結果によっては勘当となるだろうとウィルが言っていた。

ライルはどうやら、身重のサムが実家に連れ戻されたようだ。
それは結果によっては離縁になる事を意味している。

本当に何てバカなんだろう。
俺にそこまでする必要なんかないだろう。

手紙を胸に置き、手を当てる。
手紙には最後に皆の殴り書いたような一言が添えられてる。

「脳筋は余計な事考えるなよ!」

「今回もお土産よろしく!敬語直せよ!」

「次の旅は僕と冒険に行きましょうね!」

「一緒に行かなくてごめん。待ってるから。」

「俺は一緒に行くよ!」

「↑お前まで書くな。
 諦めるな。俺たちはお前を諦めない。覚悟しておけ。」

本当、こいつらアホすぎて涙が出る。
それぞれかなりの圧の中、それでも皆が俺のために動いてくれているのだ。

ギルは矢面に立って第二王子勢力とやり合い、ライルがその補佐をしている。

ウィルは立場的にできる事は少ないが、今の貴族ではない分規制が弱い事、一度は騎馬隊のエースとして顔を知られている事を利用して、各所の伝達役として動いている。

何だかんだ頭脳派のガスパーは、閉じ込められた事を逆手に取って、宰相一族である家の中で情報を探りながらこっそり指示を出しているらしい。

はじめから狙っていたのか、イヴァンは当日もライオネル殿下の警護に当たっていたので今回逃走には直接関わっていない。
その為一番自由に動ける事を良いことに、警護と称してライオネル殿下と共に情報収集と各所に対抗措置を行っていると聞いた。

「……本当、こいつら馬鹿すぎる。」

サークは腕で目の辺りを覆い隠し、ゆっくり息を吐いた。

受け取ってすぐに読んだ時は、苦しくてまともに読めなかった手紙。
気持ちに余裕が出てきて改めて目を通して、泣きたくなった。

馬鹿で愛すべき仲間がいる。

警護部隊の仲間だけではない。
班長やリグをはじめとした外壁警備の皆。

そして協力を惜しまないでくれている、マダムやギルドの仲間。

師匠やノルだってそうだ。

こんなにも多くの人間に、自分は支えられ、守られ、愛されている。


帰らなきゃと強く思う。


サークは大きく息を吐き出すと、ガバッとその身を起こした。

帰らなければならない。
絶対に、帰らなければならない。

だがただ帰るのでは駄目だ。

やられっぱなしは性に合わない。
やられたからにはギャフンと言わせてやらねばならない。

その為には大きな爆弾がいる。

「……まずは、魔術本部に行ってみないとな。」

あまりにいきなりの出来事で、どこか自分を見失っていた。
だがやっと何かが自分の中に帰ってきた。

サークは冷静に自分のもうひとつのホームである場所の事を思った。

師匠であるロナンドが先に帰っている。
行けば有力な情報が得られるだろう。

自分だけ、じっとしている訳にはいかない。
皆が自分を守りたいと願うように、サークは皆を守りたいと強く願っていた。
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